ルノーにもフランス国家にも見捨てられたカルロス・ゴーンが辿る運命 2019/01/18

2019-01-18 | 社会

2019/01/18
地に堕ちた栄光…在仏30年の女性ジャーナリストが見るゴーンの悲劇 国家にも、ルノーにも見捨てられ…  
 山口 昌子
  20年前、日本人として初めてカルロス・ゴーンへの単独インタビューを行った、在仏30年のジャーナリスト・山口昌子氏。「日産の救世主」時代のゴーンの輝かしい功績と栄光を振り返る一方(前回記事「20年前の「日産の救世主」ゴーン、その知られざる〝光〟の素顔」)、金銭面での疑惑が深まり、ルノーにもフランス国家にも見捨てられたゴーンが辿る運命は、暗澹たるものだと語る。
■地に堕ちたカリスマ経営者
 カルロス・ゴーン(64)が東京地裁に勾留理由開示手続きで出廷した時の長期刑務所生活を物語る頬のこけたイラストには、フランス中が強い衝撃を受けている。
 有罪無罪にかかわらず、「地に堕ちたカリスマ経営者」との印象は免れず、これまで「推定無罪」を盾にしてきたルノーも、トップの人選に入るなど、ゴーンの復活は事実上、ありえない状態だ。
 ルノー側はこれまで、解任しない理由として、公判で有罪が確定するまで、「推定無罪」と規定した仏法を盾に、解任を保留してきたほか、「ゴーン氏の罪状の詳細が不明」としてきた。
 しかし、今回の勾留手続き開示により、直接の理由として「海外逃亡の可能性」と「証拠隠滅」のほかに、金商法違反容疑や特別背任容疑などの内容が詳細に明らかにされたことにより、この理由が成立しなくなった。
 さらに、追い打ちをかけるように、東京地裁が特別背任などで追起訴を決めたほか、証券取引などの監視委員会が金商法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で、ゴーンと先に保釈されたグレゴリー・ケリーも刑事告訴したことで、事態は新局面を迎えたとの認識が広まっている。
 しかも、ゴーン個人の所得税及び、日産・ルノーの「アライアンス」としての会社組織の税申告地がオランダ・アムステルダムであることが、左派系日刊紙「リベラシオン」によってすっぱ抜かれたことで、ブルノ・ルメール財務相がルノーに対して、詳細な報告を要請したほか、ルノーの労組が「トップの交代」などに関して、明確は回答を突き付けており、早急に対処が迫られている。
 日程的にも2月14日には、2018年度の業績発表が迫っているほか、6月12日には株主総会も控えている。いずれもゴーンが毎年、主宰してきただけに、早急に後任を決める必要がある。
■「富裕税」逃れの疑惑
 フランスの労組は企業ごとではなく全国単位、職種別単位の労組だが、ルノーの労組はかつては、「泣く子も黙るCGT」と言われた共産党系の「労働総同盟(CGT)」の根城として、最強を誇ってきた。
 共産党の衰退と、最近は「黄色いベスト」に代表されるように、無党派のデモが幅を利かせているものの無視できない存在だ。
 その労組が、これまで何度か、「トップの交代はあるのかないのか」などの質問状を経営陣に突き付けてきたが、「いまだに回答がない」(ルノーCGTファビアン・ガシェ中央代表)と、不満を募らせている。
 ルノーのもう一つの強力労組、社会党系の「労働者の力派(FO)」も「事態を明白にする時がきた」(マリエット・リ代表)と指摘しているほか、管理職組合(CFE-CGC)も「ゴーン氏の功罪とは無関係に、日産とのアライアンスを見直す時期だ」(ブルノ・アジエール代表)と述べるなど、各種労組の声が強くなっている。
 仏当局はゴーン事件発生の当初、ゴーンの脱税問題や金商法違反の調査結果を即、「問題なし」(ブルノ・ルメール経済相)と発表したが、これは所得税の申告地をフランスからオランダ・アムステルダムに変更していたので、所得税関係の書類が存在しなかったからだ。
 10日の電子版で「リベラシオン」がすっぱ抜き、仏各種メディアが続報したところによると、ゴーンが申告地をフランスからアムステルダムに移したのは2012年。しかも2002年には日産・ルノーの「アライアンス」も、会社組織として、同地を税申告地にしていたことも判明した。
 なぜか。
 答えは簡単だ。フランスには、高額所得者に対する富裕税(ISF)が存在するが、オランダには存在しないからだ。
 居住者の資格として、1年のうち183日在住する必要があるが、日産とルノーの社長を兼務して日本とフランスを中心に世界を飛び回っていたゴーンがこの条件をどうやって満たしたのか。ISFは存在しなくても、ゴーンの莫大な所得税による恩恵を受けているオランダ当局は目下のところ黙して語らずだ。
■「フェニキア商人」ゴーン
 こうしたゴーンの金銭面での様々な実態が明らかになるにつれ、フランス人の間では、ひそかに、「さすが、フェニキア商人ゴーンだ」との囁きも聞かれる。
 人種差別はもとより、あらゆる差別を刑法で明確に禁止している「自由、平等、博愛」の国フランスでは、口が裂けても公に発言する人はいないが、ゴーンには、紀元前に地中海全域を制覇し、海上貿易で活躍したフェニキア人の血が流れているとの指摘だ。
 フェニキア商人は事業の感覚に優れていただけではなく、特に、金融関係で抜群の能力を発揮したとされ、「ロスチャイルドやロックフェラー以上」との評判がある。言い換えれば、金銭に関して、かなり貪欲である、ということだ。
 ゴーンは東京地裁での人定尋問で、「カルロス・ゴーン・ビシャラ」と祖父のレバノンの苗字を入れた正式な本名を名乗った。フランス・レバノン・ブラジルの三重国籍を持つからだ。
 両親はレバノン人で、ブラジル生まれ。高校時代からフランスに留学し、理工科系の最優秀校、理工科学校(ポリテクニック)と同校の上位数人が進学を許可される高等鉱山学校(MINE)卒。容易に仏国籍も取得した。東京地裁には、「自国人の保護」という名目で、駐日フランス大使、レバノン大使、ブラジルの外交官が出席した。
 レバノン人のゴーンの祖父は若くしてブラジルに渡り、食品会社などを手広く経営した成功者だ。ゴーンの父親も事業を継いでいる。
 ゴーンが2歳の時、病気になったので、心配したレバノン出身の母親が6歳の時、ゴーンを連れてベイルートに引き上げた。レバノンは旧フランスの植民地なので、富裕階級の伝統に従って、仏系のカトリックの学校にゴーンを入れた。
 ゴーンはフランスに留学した当初は、高等商業専門学校(HEC)を目指していた。「事業で成功した従兄が卒業したから」と以前、インタビューした時、打ち明けた。HECもエリート校だが、理数科系の成績が抜群だったので、教師がポリテクニックを勧めたのだとも、言っていた。
 要するにゴーンにはフェニキア商人の血が脈々と流れているわけだ。
 ただ、フランスの場合、富裕税の存在もあり、高額所得者が外国に居住地を移住している場合が多く、違法ではない。
 ユーロネクストパリ市場(欧州連合=EU全体の株式市場)に上場の仏企業の時価総額上位40社(CAC40)のうち、3分の1近くの企業のトップが税金の申告地を外国に移住させているとの情報もある。
 高額所得者やサッカー選手や人気俳優、歌手らもご多分に漏れないので、ゴーンのオランダ申告が判明した時点で、「フランス人はフランスで税金を納めるべし」と、ルメール経済相が改めて発言したほどだ。
■マクロン大統領との微妙な関係
 目下、ゴーンの救世主は、国民国家フランス共和国の国家元首マクロン大統領の裁量にかかっている。
 国民国家とは、国家と国民は無数の契約で結ばれているという考え方だ。別の言い方をすれば、国家は国民一人一人を保護する義務があるということだ。とりわけ、外国で自国民が窮地に陥った時は、国家が救済するべきだとの考え方だ。
 そのうえ、いったん緩急あれば、「三色旗」と国歌「ラ・マルセイエーズ」のもとに結束する強烈な中央集権国家だ。
 例えば、フランス人ジャーナリストがテロ集団の人質になれば、あらゆる外交ルートを駆使して救済に当たる。人質が解放されれば、現地まで外相が駆け付け、到着の空港には国家元首の大統領が出迎える。
 国民の方も、いざという時は国家が助けてくれると考えている。「黄色いベスト」の参加者が、三色旗を振りながらデモを展開するのも、国家が自分たちを救済するのは当然と考えているからだ。

  

 従って、フランス政府もゴーン事件は、国家的事件と考えている。
 ゴーンが3度目に逮捕された12月22日に会った仏外務省のアジア担当の高官が、真っ先に口にしたのは、「日仏の重要外交日程への懸念」だった。6月の大阪でのG20と8月のフランス南西部ビアリッツでのG7時に、ゴーン事件が影を落とさないかとの懸念だ。
 マクロン大統領はすでに、昨年11月のアルゼンチン・ブエノスアイレスでのG20の際、安部首相との会談でゴーン事件に言及している。「司法の独立」尊重の日本の安部は当然ながら、取り合わなかったし、今後も関与するつもりはないが。
 実はマクロンとゴーンの関係は微妙だ。日産がゴーン逮捕に踏み切ったきっかけの1つとして指摘されているのが、日産・ルノーの合併問題だが、言い出しっぺはマクロンと言われている。ゴーンが当初、合併に反対したので、両者の関係は良好ではないとも伝えられている。
■マクロンに救済の余裕はない
 実は、ゴーンの高額所得を最初に問題にしたのも経済相時代のマクロンだった。
 ゴーンの2015年のルノーの報酬約725万ユーロ(約8億9000万円)――日産の報酬に比較すると、何と少額だったことか――は、役員会では承認されたが、株主総会では54%の株主が、「高すぎる」と反対した。
 株主の意見は単なる勧告で法的拘束力はないが、時の経済相マクロンが、「高すぎる」と、警告したことで、ゴーンの報酬問題は政治問題になった。
 ルノーは元来、国営企業で、90年代半ばにやっと民営化されたが、当時の政府の株式所有は19・7%だった(現在も15%所有)。
 国民議会(下院)でも早速、「ゴーン問題」が取り上げられ、答弁に立ったマクロンは、「もし、役員会でゴーン社長の報酬をこのまま維持するため、法律を制定する」と述べ、株主総会の意見の効力化や役員会での再検討を義務つけると表明した。
 ただ、国家元首となったマクロンの立場は経済相時代とはおのずから異なる。
 個人的関係とは無関係に、ゴーン救済の義務があるわけだが、マクロンにその余裕がないのが現状だ。ますます過激度を増す「黄色いベスト」問題で頭がいっぱいだからだ。
 新年を迎えて支持率が数%上向いたものの、20%台を脱出できず、低支持率にあえいでいる。慣例の各団体との賀状交換会も、軍事関係者以外は中止を決めた。異例の措置だ。
 一方、ルノーはトップの人選に入った。No.2だったティエリ・ボロレを代理社長に任命したが、カリスマ経営者ゴーンに代わる技量はない。このまま留任させるか、あるいは強力なトップを据えるかの判断を迫られている。
 有力候補としてはゴーンの出身会社、タイヤ大手のミシュランの重役を昨年5月に辞任したジャン=ドニミック・スナールやトヨタの現No.2のディディエ・ルロワの名が挙がっている。
■カリスマ経営者の慢心
 国家にもルノーにも見捨てられそうな可哀そうなゴーンの運命はどうなるのか。
 最後にインタビューした2003年7月、日本での加熱ぎみのゴーン・ブームが気がかりだったので、「日本ではアラン・ドロンに次ぐ、有名人ですね」と、ちょっと意地悪な質問を試みたが、ゴーンがあっさり、こう回答したのでショックを受けた。
 「アラン・ドロンは年をとりましたが、私はまだ当分、現役ですから、私の方が一番になる機会は十分にあると思いますよ」と笑いながらだったが、即答したからだ。
 カリスマ経営者としてもて囃され、「自分は何をしても許される」と、いい気になっていたとしたら、あるいは日本のメディアにも責任があるかもしれない、と自戒している。
 ゴーンが05年にルイ・シュバイツアーの後任としてルノーのトップに就任した直後の株主総会の時、檀上のゴーンを見たのが、直接接した最後になったが、この時、ゴーンが珍しく緊張していたのも思い出す。
 用意したテキストを読みながら、「ルノーがフランスの代表的企業」であること、「フランス」が偉大な国であることを強調していた。
 その時、ゴーンはやはり、自分が 「外国人」であること、それも旧植民地出身の「レバノン人」であることに、こだわっているのかもしれないと思った。
 ゴーンの光と影はそのまま、フランス共和国の光と影を映し出しているようにもみえる。(敬称略)
<筆者プロフィール>山口 昌子
 元産経新聞パリ支局長(1990-2011年)。産経新聞では教養部、「夕刊フジ」、特集部、外信部次長。著書に『大国フランスの不思議』『ドゴールのいるフランス』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの闘い』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』などがある。

 ◎上記事は[現代ビジネス]からの転載・引用です
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ルノー、ゴーンCEO解任へ 日産最大の懸念解消
2019.1.17 20:33
 日産自動車と企業連合を組むフランスの自動車大手ルノーが、筆頭株主の仏政府の意向で、最高経営責任者(CEO)を務めるカルロス・ゴーン被告(64)を解任する見通しとなった。ルノーのCEOであり続ければ、ゴーン被告が日産に対する影響力を取り戻す可能性も残り、日産にとって最大の懸念材料となっていた。解任で足並みをそろえた後、日産は「ゴーン以後」の企業連合のあり方についてルノーとの協議を本格化させたい考えで、ルノー新経営陣の顔ぶれが注目される。(高橋寛次)
 日産にとって、ルノーが早期にゴーン被告のCEO職を解かなかったことは“誤算”で、「ぜひ、われわれと認識を共有してほしい」(関係者)と解任を求めてきた経緯がある。
 日産が不正に関する内部調査の結果をルノー側に直接提供する意向を表明したのに対し、ルノーはこれを拒否。だが、保釈観測が高まっていた昨年12月21日に一転、ゴーン被告が特別背任容疑で再逮捕されたことで、風向きは変わった。勾留の長期化により当面、ゴーン被告が経営のかじを取れないことが鮮明になったからだ。
 今月に入り、フランス国内でも解任論が強まった。仏紙が、「ゴーン被告はルノーCEOからも解任されるべきだ」とする社説を掲載。日産の西川(さいかわ)広人社長(65)が別の仏紙のインタビューで「日産の社内調査の情報が共有されれば、ルノーもわれわれと同じ結論に至るだろう」と述べたのも、解任論に勢いを与える狙いがあったとみられる。そして、自国の産業振興を視野に日産に影響力を及ぼすため、絶大な権力を持っていたゴーン被告を頼りにしていた仏政府も、ついに見切りをつけた格好だ。
 もっとも、日産に臨時株主総会の早期開催を求めているルノーとの意見対立が解消されるかは不透明な部分もある。ルノー社内にはまだ、ゴーン被告を支持する勢力も健在とみられる。
 一方、日産はコーポレートガバナンス(企業統治)改革に着手するため、今週末に外部の有識者らでつくる「ガバナンス改善特別委員会」の初会合を開催する方針だ。

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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“ゴーン前会長が約10億円の不正報酬” 日産・三菱自が発表
NHK NEWS WEB 2019年1月18日 15時30分
 日産自動車と三菱自動車工業は、カルロス・ゴーン前会長がオランダにある統括会社から去年、およそ10億円の報酬を不正に受け取っていたとして、今後、損害賠償請求などの対応を行う方針を明らかにしました。
 発表によりますと、日産と三菱自動車が設立したオランダにある統括会社「日産・三菱BV」からゴーン前会長が去年、およそ10億円を報酬として不正に受け取っていたということです。
 この10億円は、取締役会の決議がないままゴーン前会長が統括会社との間で、報酬を定めた雇用契約を結ぶ形で支払われていたということです。
 この統括会社は、ゴーン前会長が経営トップを務め、日産の西川廣人社長と三菱自動車の益子修CEO=最高経営責任者の合わせて3人が取締役を務めています。
 西川社長と益子CEOはゴーン前会長への報酬について知らされておらず、2人は報酬を受け取っていないということです。
 このため両社は、この報酬は不正に支払われたものとして、ゴーン前会長に対して今後、損害賠償請求などの対応を行う方針を明らかにしました。
 三菱自動車の益子CEOは発表のあと、記者団に対し、「関係会社でこのようなことが発生したことを重く受け止め、内部統制の強化に努めていきたい」と述べました。

 ◎上記事は[NHK NEWS WEB]からの転載・引用です
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