手記 元少年Aに書き続けてほしい。何よりも、再び罪を犯さないために。 【精神科女医のつぶやき】片田珠美

2015-07-06 | 神戸 連続児童殺傷事件 酒鬼薔薇聖斗

 産経WEST2015.6.27 15:00更新
【精神科女医のつぶやき】片田珠美(144)元少年A、なぜ彼は書いたのか
 平成9年に神戸市で起きた連続児童殺傷事件の犯人である元少年A(32)の手記『絶歌』(太田出版)が出版され、物議を醸している。もちろん、彼が心から罪を悔い反省しているのか、そして匿名で、しかも被害者遺族の承諾も得ずに本を出すことが許されるのか、という批判があるのは当然だ。
 ただ、私は本書を読んで、「書きたい。書かずにはいられない」という情熱のようなものを行間から感じずにはいられなかった。
 これは、精神鑑定で「性的サディズム」と診断されたように、Aが性倒錯者だからかもしれない。彼は、亡き祖母の部屋で経験した精通の快楽に取りつかれて〝冒涜の儀式〟を繰り返し、やがて性的な衝動に突き動かされて猫を殺すようになった。だが、猫殺しによる快楽では満足できず、人を殺害するに至っている。典型的な性倒錯者である。
 性倒錯の殺人犯として思い起こされるのは、1981(昭和56)年に起きたパリ人肉事件の佐川一政氏である。Aが事件を起こした頃、私はパリに留学中で、この事件はフランスでも大々的に報道された。興味津々でいろいろ尋ねてくる同僚たちは、最後に必ず、「日本に帰ったと聞いたけど、どうなったの?」と佐川氏の消息についての質問を付け加えた。彼は事件後、一時パリの病院に入院していたこともあって、とくに精神科医の興味をかき立てたようだ。佐川氏もそうだが、サディズムの元祖として名高いサド侯爵も、多くの著作を残している。
 こうした性倒錯者が書かずにはいられないのは、自己顕示欲や承認欲求だけでなく、活発な幻想の影響もあるように思われる。「性的殺人の動機の根底に潜んでいるのは、幻想である」とプロファイリングの創始者、ロバート・レスラーが述べているように、こういう殺人は、性幻想に駆り立てられていることが多い。
 あふれ出る特異な性幻想を実際の行為に移さずに処理しようとすれば、言葉で表現するしかなく、書くことによって行為化を防いでいるようなところもあるのではないか。
 殺害された被害者の方は二度と生き返らない。遺族の方々の悲しみや苦悩も察するにあまりある。今回の手記の出版が、ご遺族をさらに苦しめていることは言うまでもないだろう。当然、印税の一部をご遺族への賠償金支払いに充てるべきだが、私としてはAに書き続けてほしい。
 何よりも、再び罪を犯さないために。
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