中日新聞 2016年11月29日 朝刊
美濃加茂市長、逆転有罪 名高裁判決、贈賄側証言「信用できる」
岐阜県美濃加茂市のプール水浄化設備の導入を巡り受託収賄や事前収賄などの罪に問われた市長、藤井浩人被告(32)の控訴審で、名古屋高裁の村山浩昭裁判長は二十八日、「贈賄側の業者の証言は信用でき、現金授受はあったと認められる」として、一審の無罪判決を破棄し、懲役一年六月、執行猶予三年、追徴金三十万円の逆転有罪判決を言い渡した。弁護側は即日上告した。
藤井市長は現職の全国最年少市長。控訴審では一審に続き「市長に現金を渡した」とする贈賄側業者の中林正善受刑者(46)=贈賄罪などで懲役四年確定=の供述や法廷証言の信用性が最大の争点になった。一審判決は「不自然に変遷しており信用できない」と判断したが、高裁は職権で再尋問を行い、信用性の評価を覆した。
判決理由で村山裁判長は「市長と業者とのメールのやりとり、業者の口座記録など状況証拠から現金授受があったと推認できる」との検察側の主張は退けつつ「業者の供述や法廷証言と状況証拠は整合している。供述の変遷は記憶の減退や記憶喚起の過程として説明できる」と指摘。一審判決は、融資詐欺事件で軽い処分を受けるため業者が捜査機関に迎合した可能性を指摘したが「可能性は否定できないが、そのことから虚偽とは考えられない」と述べた。一方、一審での藤井市長の証言に対しては「現金授受については曖昧、不自然な話に終始し、記憶どおり真摯(しんし)に話しているのか疑問」と指摘した。
その上で「業者の話は具体的かつ詳細で、特に不合理な点は見当たらない。一審判決は不合理で是認できない誤りがある」として「市長から賄賂を要求したのではなく、受け取った金額も多額とはいえないが、要職にある者としてはあまりにも安易な犯行で、公務員に対する国民の信頼を失墜させた」と述べた。
判決によると、藤井市長は市議時代の二〇一三年四月、浄化設備の設置を市に働き掛ける見返りに中林受刑者から美濃加茂市内の飲食店で十万円を、市長就任後も便宜を図るとした見返りに名古屋市内の居酒屋で二十万円を受け取った。
一審名古屋地裁で検察側は懲役一年六月、追徴金三十万円を求刑したが、地裁は昨年三月、市長に無罪を言い渡した。
*同じ証拠、正反対の判決
<解説> 第三者による現金授受の目撃はなく「どんな裁判官でも判断に迷う」(司法関係者)とみられていた事件。「市長に現金を渡した」とする業者(中林受刑者)の証言が唯一の直接証拠とされる中、高裁判決はその信用性を認め、一審判決から大胆に逆転させた。
判断の分かれ目は「業者証言の変遷をどう評価するか」だった。判決は、現金授受の場にいたはずの同席者を当初の業者証言が「いなかった」としていることなど、一審が疑問を挟んだ点について「通常の記憶の減退として十分説明できる」と判断。業者が虚偽供述をする中での移り変わりではないと結論づけた。
「市長に現金を渡したと、業者から聞いた」という知人の証言などについても、後から話を作り出すのは難しい状況証拠として、業者証言を補う価値を認めた。
ただ、こうした証拠は一審でほぼ出そろっており、控訴審で新たに判明した事実が判決を左右した形跡はうかがえない。ほとんど同じ証拠から正反対の判決が出たことに、分かりにくさが残った。再尋問した業者の証言の信用性を認めるなら、主張が対立する市長も証人尋問し、反論の機会を与える手もあっただろう。
有罪の判決自体は主張通りとなったが、検察側の立証方針も的を射ていたとは言い難い。
一審で信用性が否定された業者の証言を離れ、状況証拠だけでも現金授受が認められるとした検察の控訴審での主張は、明確に退けられた。判決は一審無罪を否定する一方で、検察側の立証のあり方にも検証を迫ったと言える。
(杉藤貴浩)
■判決の骨子
▼業者の証言は信用でき、現金授受はあったと認められる。一審判決は不合理で是認できない誤りがある。
▼メールのやりとり、業者の口座記録など状況証拠だけから現金授受があったとは推認できないが、業者の供述や法廷証言と整合している。
▼同席者の有無など業者供述の変遷に対する一審判決の疑義は、記憶の減退や記憶喚起の過程として十分、説明できる。
▼市長は現金授受に関して曖昧、不自然な供述に終始し、記憶通りに話しているのか疑問。
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社説 中日新聞 2016年11月29日
市長逆転有罪 迷走のつけは市民に
現金計三十万円を設備業者から受け取ったとして受託収賄などの罪に問われた現職市長の裁判で、名古屋高裁が一審の無罪判決を破棄し、逆転有罪を言い渡した。迷走の出口となるだろうか。
全国最年少市長として知名度の高かった岐阜県美濃加茂市長の藤井浩人被告(32)の裁判は、異例の展開をたどってきた。
プール水浄化設備の導入をめぐり、設備業者(贈賄罪などで懲役四年確定)が「飲食店で市長に現金を渡した」とする一方、市長は一貫して現金の受け取りを否定。検察側が現金授受の場と主張する業者との会食の事実については争いがなく、控訴審の焦点も、設備業者の証言が信用できるか否かに絞られていた。
一審の名古屋地裁は、巨額融資詐欺で取り調べを受けていた業者が「余罪の追起訴を免れるため虚偽供述をした疑いがある」とまで踏み込み、「現金授受があったと認めるには合理的疑いが残る」と判断。市長を無罪とした。
一方、控訴審の名古屋高裁は裁判所の職権で設備業者の証人尋問を実施。「虚偽だとするとかえって説明困難」などと指摘し、「現金を渡した」とする証言は信用できると結論付けた。
収賄罪は身分犯であり、大臣なら大臣の権限に、国会議員なら国会議員の権限に見合った賄賂の相場があるともいわれる。藤井被告が市長に当選する前の市議時代に受け取ったとされる三十万円が、その立場に見合った賄賂の額ではないとみる議論もあった。
その一方、大臣級の政治家周辺も含め、検察が起訴しない“政治とカネ”の巨額のスキャンダルがしばしば発覚し、政治不信を引き起こしている現実もある。
今回の高裁判決は「被告人から賄賂を要求したものではなく、収受した金額は多額とはいえないものの、要職にある者としてはあまりにも安易に犯行に及んでいる」と指摘した。動いたとされる金額の問題以前に、政治とカネの問題に広く警鐘を鳴らそうとしたとみることもできよう。
密室の中で何があったのか。公権力の不正には厳しく立ち向かわねばならぬが、「疑わしきは被告人の利益に」という裁判の鉄則も忘れてはならない。裁判員裁判の時代を迎えた現在、決定的な証拠がないまま進む裁判は、傍聴席の市民に消化不良をもたらすようにも見える。司法の迷走が市政の停滞をもたらすとすれば、最も不利益を被るのは市民である。
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です *強調(太字)は来栖
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〈来栖の独白〉
私などには、よく分からない判決。ただ、村山裁判長は、自己顕示の強い、ヒラメ裁判官ではないか。一審判決がさほど間違っていたとは思えない。私は一審判決に納得していたので、本判決が、よく分からない。
それでも、判決は判決だ。藤井市長の人生に大きく立ちはだかった。いや、まだ32歳の彼の人生を終わらせた。最高裁が上告棄却するのは間違いない。今、村山裁判官に「否」を突き付けることのできる人間など、いない。司法官僚出世の階段を真っ直ぐに上りつつある。
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