明石歩道橋事故 元副署長 榊和晄被告に免訴判決 事実上の無罪/【強制起訴】相次ぐ無罪に揺らぐ存在意義

2013-02-20 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

明石歩道橋事故 元副署長に免訴判決…神戸地裁
  兵庫県明石市で2001年7月、11人が死亡した歩道橋事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴された明石署の元副署長・榊和晄(かずあき)被告(66)の判決が20日、神戸地裁であり、奥田哲也裁判長は「強制起訴の時点で時効が成立していた」として免訴(求刑・禁錮3年6月)を言い渡した。奥田裁判長は「過失は認められない」とも述べ、事実上の無罪といえる。強制起訴事件では1、2審を通じて5回目の判決。検察官役の指定弁護士側は控訴を検討する。
  榊元副署長が強制起訴された2010年4月時点で、当時の公訴時効(5年)は経過していたが、指定弁護士側は「共犯の裁判中は時効が停止する」とした刑事訴訟法の規定に基づき、「榊元副署長と当時公判中だった元地域官は共犯関係にあり、時効は成立していない」と主張した。
  これに対し、奥田裁判長は「単に犯罪が同時に行われたというだけでは『共犯』とはいえない」とし、榊元副署長と元地域官が法律上の共犯に当たるかを検討。 現場にいた元地域官には機動隊の出動を要請するなど事故を未然防止する注意義務があったとしたが、榊元副署長については「事故当日も事前の警備計画の作成段階でも過失はなく、共犯に当たらない」と時効の成立を認定した。
  当日の過失については、現場の状況が無線やモニターなどで伝わっていなかったとし、「危険を具体的に予見できたとは言えず、現場の状況に疑問を抱かなかったことに落ち度があるとは言えない」と判断。
  さらに、事前の警備計画についても、「元署長の権限行使が適正でなかったと言わざるをえない。これを補佐する榊元副署長の権限行使も不十分だった疑いは否定できないが、責任者や担当者でない」として過失を否定した。
  最後に奥田裁判長は「警備に全く問題がなかったわけではなく、誤解をしないように」と説諭した。
  閉廷後、榊元副署長は地裁を出て、報道陣に対して「判決についてのコメントは弁護人に任せている。事故の再発防止についても考えている」と語った。
  事故を巡って、兵庫県警は榊元副署長や当時の署長(07年死亡)を含む計12人を業務上過失致死傷容疑で書類送検。神戸地検は02年12月、現場の責任者だった元地域官(63)ら5人(有罪確定)を起訴したが、元署長らは「現場の状況を把握するのは困難だった」と不起訴(嫌疑不十分)だった。
  遺族が「組織のトップの責任が問われないのはおかしい」と検審に不起訴不当を申し立てた。元地域官らの1審・神戸地裁判決(04年12月)や2審・大阪高裁判決(07年4月)が「被告(元地域官ら)以外にも刑法上の責任を問題にする余地がある」などと元署長らの責任に言及していたが、地検は元署長と榊元副署長については不起訴を繰り返した。
  検審は10年1月、「市民感覚の視点から、公開の裁判で事実関係や責任の所在を明らかにして重大事故の再発防止を望む」として起訴議決した。検察官役の指定弁護士は10年4月、榊元副署長を改正検察審査会法に基づき、全国で初めて強制起訴した。
  免訴 刑事訴訟法337条は〈1〉確定判決が出ている〈2〉犯罪後に刑が廃止された〈3〉大赦とされた〈4〉時効が成立している――の場合には有罪・無罪を判断せず、裁判を打ち切る「免訴」を言い渡さなければならないと定めている。
 (2013年2月20日  読売新聞)
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明石歩道橋事故、日本初の強制起訴へ 「弁護士」が起訴 被害者参加制度と併せた司法制度改革の一環 2010-01-27 | 被害者参加/裁判員裁判 
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明石歩道橋事故:榊和晄被告の初公判/4度にわたって不起訴/弁護側「一事不再理に違反 公訴棄却を」 2012-01-20 被害者参加/裁判員裁判
 明石歩道橋事故:初公判で元副署長「過失はなかった」
 花火大会の見物客11人が死亡した兵庫県明石市の歩道橋事故(01年7月)で、神戸第2検察審査会の起訴議決により全国で初めて強制起訴され、業務上過失致死傷罪に問われた元県警明石署副署長、榊和晄(かずあき)被告(64)の初公判が19日、神戸地裁(奥田哲也裁判長)で始まった。榊被告は「警備本部でできることはやったので過失はなかった」などと述べ、起訴内容を否認した。
 榊被告は検察の捜査では4度にわたって不起訴となったが、09年5月の改正検察審査会法施行で導入された強制起訴制度が初めて適用された。このため、事故発生から10年半を経て初めて法廷で裁かれることになった。
 弁護側は起訴内容の認否で、今回の強制起訴に至る手続きは、同一事件で再度の申し立てはできないとする検審法の「一事不再理」に反しているなどとして公訴棄却を主張。さらに、同署の現場責任者で10年6月に同罪で有罪が確定した元同署地域官との共謀はなく、刑事訴訟法上の時効が成立しているとして免訴されるべきだとした。また「被告は事故を予見できなかった」として無罪を求めた。
 指定弁護士は冒頭陳述で、夏まつりの警備本部副本部長という立場で明石署にいた榊被告が、署内のモニターや無線報告などにより、現場の混雑状況を確認できたと指摘。歩道橋の構造や前年末の花火大会の人出などから、雑踏事故の危険性を予見できた、と主張した。その上で、部下に対し観客の歩道橋への流入規制を指示すれば事故を回避できたと述べた。
 また、指定弁護士は、署長の指示で元地域官の代わりに市や警備会社との会議に出るなど事前計画にかかわるなどしており、「過失の共犯」が成立すると主張した。
 共犯者の公判中は時効が停止するという刑事訴訟法の規定が適用され、被告も同罪に問えると説明するとみられる。
 初公判は午後も続き、弁護側も冒頭陳述を行う予定。結審は秋以降となる見通し。【渡辺暢】
毎日新聞 2012年1月19日 11時10分(最終更新 1月19日 13時34分)

◇明石歩道橋事故
 01年7月21日夜、兵庫県明石市の大蔵海岸で開かれた花火大会の見物客が、会場につながる歩道橋(長さ約103メートル、幅約6メートル)上に滞留。折り重なるように倒れて子ども9人と高齢者2人の男女計11人が死亡、183人が負傷した。県警は明石署、市、警備会社の計12人を書類送検、神戸地検はうち現場責任者5人(署1人、市3人、警備会社1人)を業務上過失致死傷罪で起訴し、全員の有罪が確定した。民事裁判では県警と市、警備会社に総額5億6800万円の賠償を命じた神戸地裁判決が確定している。
毎日新聞 2012年1月19日 東京夕刊
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兵庫・明石の歩道橋事故:「共犯」「一事不再理」争点 元副署長、あす初公判
 花火大会の見物客11人が死亡して183人が負傷した兵庫県明石市の歩道橋事故(01年7月)で、業務上過失致死傷罪で強制起訴された元県警明石署副署長、榊和晄(かずあき)被告(64)の初公判が19日、神戸地裁で開かれる。4度も不起訴となった人物に、09年の法改正で導入された強制起訴制度が初めて適用され、発生から10年を経て被告が法廷に立つ前例のない裁判となる。争点は事故の予見可能性などの他に、公訴時効の法解釈など多岐にわたる。【渡辺暢】
 ■公訴時効
 事故では、同署の現場責任者だった金沢常夫・元地域官(62)が「事故の危険性を予見できたのに回避措置を取らなかった」として同罪に問われ、10年に禁錮刑が確定した。
 争点の一つは、榊被告と金沢元地域官との共犯関係の有無だ。同罪の公訴時効は5年。共犯者の公判中は時効が停止するとの刑事訴訟法の規定が、検察官役の指定弁護士にとっての命綱だ。指定弁護士は少なくとも2人のミスが重なり合って事故につながったと判断し、同法上の共犯にあたると主張。弁護側は共犯関係はなく、時効が成立しているとして「免訴」を求める。
 過失の有無を巡っては▽署内にいた榊被告がビデオや無線などで危険性を認識できたか▽権限を適切に行使したか--などが争われる。今回問われる「過失の共犯」については、専門家の間でもさまざまな解釈があり、司法判断が注目される。
 ■初の強制起訴
 不起訴となった榊被告について、遺族は検審法改正前に2度、改正後に1度、検審に審査を申し立て、地検はその都度不起訴とした。弁護側は今回の起訴を、同法が「同一事件で再度の申し立てはできない」と定めた「一事不再理」に反すると指摘する。強制起訴制度のない旧法時代、申し立てごとに検察が再捜査していたが、ほとんど議論されてこなかった点だ。
 指定弁護士側は「再捜査を経た事件は、元の不起訴処分のものとは別事件」と主張。一方弁護側は、旧法時代の再捜査は検察庁内の通達に基づく慣行に過ぎず、1度目で事件が終結していたと反論する。2度目以降の申し立てを検審が受理したこと自体が違法とし、公訴棄却を求める。
 また、弁護側は「検審の起訴議決で指摘された犯罪事実は、榊被告単独でのもの」と指摘。金沢元地域官との共犯とした今回の起訴は「議決の範囲を超えている」とし、違法性を主張する方針だ。

 ◆明石歩道橋事故を巡る経過表
【01年】
 7月21日 事故発生
【02年】
 5月 9日 兵庫県警が元明石署長や榊被告ら12人を業務上過失致死傷容疑で神戸地検に書類送検
10月30日 遺族が県警と明石市、警備会社の3者に損害賠償を求めて神戸地裁に民事提訴
12月26日 地検が明石署、市、警備会社の現場責任者ら5人を起訴。榊被告は不起訴
【03年】
 3月10日 遺族が元署長と榊被告の不起訴を不服とし、神戸検察審査会(検審)に審査を申し立て
【04年】
 4月23日 同検審が2人の起訴相当議決を公表
 9月28日 地検が2人を不起訴(2度目)
12月17日 地裁が5人に有罪判決。全員が控訴し、うち1人は取り下げ
【05年】
 6月28日 地裁が県警、市、警備会社に総額約5億6800万円の賠償を命じる(確定)
 7月21日 遺族らが2人の2度目の不起訴を不服とし、同検審に審査申し立て
12月22日 同検審が起訴相当議決を公表(2度目)
【06年】
 3月29日 遺族らが2人の起訴を求める要望書を最高検に提出
 6月22日 地検が2人を不起訴(3度目)
【07年】
 4月 6日 大阪高裁が4人の控訴を棄却。元明石署地域官ら2人が上告
 7月 7日 元署長が病死
【09年】
 5月21日 改正検察審査会法施行。遺族が榊被告の不起訴を不服とし、検審に3度目の審査申し立て
 7月15日 神戸第2検審が起訴相当議決(3度目)
 9月30日 地検が榊被告を不起訴(4度目)
【10年】
 1月 8日 同検審が改正検察審査会法に基づき担当検事を聴取
 1月27日 同検審が榊被告について全国初の起訴議決。強制起訴が決まる
 4月15日 検察官役の指定弁護士が榊被告を取り調べ。榊被告は録音・録画を拒否
 4月20日 指定弁護士が強制起訴
 5月31日 最高裁が元地域官ら2人の上告を棄却
 7月29日 公判前整理手続き開始
【11年】
12月 8日 公判前整理手続き終了
【12年】
 1月19日 初公判

毎日新聞 2012年1月18日 大阪夕刊
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詐欺罪で「強制起訴」された投資会社社長に、那覇地裁が無罪 2012-03-22 | 被害者参加/裁判員裁判 
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【強制起訴】相次ぐ無罪に揺らぐ存在意義/裁判なければ首相になっていた小沢氏/本日 安倍晋三氏 首相に 2012-12-26 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア 
 陸山会事件など「強制起訴」も相次ぐ無罪…批判噴出 揺らぐ存在意義
 産経新聞 12月25日(火)15時2分配信
 「司法に国民の声を」と平成21年5月の改正検察審査会法の施行で導入された強制起訴制度で開かれた裁判の判決が今年、初めて言い渡された。だが、沖縄県南城市の会社社長による未公開株投資詐欺事件、続く元民主党代表で日本未来の党の小沢一郎氏(70)の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる政治資金規正法違反(虚偽記載)事件とも結果は無罪に。制度への批判が噴出し、その存在意義が大きく揺れた。
*新証拠なく完敗
 それは司法の壁に“市民感覚”が屈した瞬間だったのかもしれない。
 東京高裁が小沢氏に無罪を言い渡した1週間後の11月19日。「上告する理由が見つからなかった」。検察官役の指定弁護士を務めた大室俊三弁護士は苦渋に満ちた表情で言葉を絞り出し、上告断念を表明した。
 この裁判では、指定弁護士側は5月、無罪を言い渡した1審東京地裁判決について「事実誤認がある」として控訴した。だが、それを覆すだけの「新証拠」は見つからず、9月26日の控訴審初公判では、新たに元秘書2人の供述調書などを証拠請求したが、東京高裁は全てを却下。ほとんど反論できないまま、2審はわずか1時間で結審した。
 この時点で“勝負”はほぼ決していた。
*ダブルスタンダード
 「(強制起訴の)無罪率100%は尋常ではない」
 花火大会の見物客11人が死亡した13年7月の兵庫県明石市の歩道橋事故で、業務上過失致死傷罪で全国で初めて強制起訴された兵庫県警明石署元副署長、榊和晄(かずあき)被告(65)の弁護側は今年11月の最終弁論で、検察審査会(検審)の2度の「起訴議決」で起訴が決まる制度自体に疑問を投げかけ、「違法」とまで言い切った。
 弁護側が問題視したのは、検審が議決書で「市民感覚の視点から、公開の裁判で事実関係および責任の所在を明らかにして、重大事故の再発防止を望む点に基本的立場を置く」と、検察との立場の違いを明示した点だ。
 制度導入前まで起訴権を独占していた検察は有罪の「確信」があるケースだけを起訴してきた。「疑わしい」というレベルでは起訴せず、ましてや再発防止など他の事情を優先することはなかった。
 元東京地裁部総括判事の山室恵弁護士は「検察と検審でダブルスタンダードになっている起訴基準を厳格化すべきだ」と指摘する。
*織り込み済み
 これまでに強制起訴された事件は計7件。来年は歩道橋事故に加え、乗客106人が死亡した兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故のJR西日本歴代3社長、徳島県石井町の町長暴行事件の公判で判決が予定されている。
 法廷に立たされる被告の負担を考慮すれば、全てが無罪となった場合、制度の意義が問われるのは必至だ。
 未公開株詐欺事件で強制起訴され、3月に那覇地裁で無罪判決を受けた会社社長は「(起訴で)社会的に抹殺され、生活が破綻した」と怒りをにじませる。
 ただ、無罪の多発は「織り込み済み」と考える司法関係者も少なくない。仮に今後無罪が相次いでも、検審の起訴権廃止という拙速な議論に反対する立場だ。
 元東京地検公安部長の若狭勝弁護士(56)は「検察が起訴しなかった事件だけに無罪が多いのは当然。強制起訴によって市民の声を反映させている点は評価すべきであり、数年は状況を見守った方が良い」と話している。
 最終更新:12月25日(火)22時44分
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〈来栖の独白 2012/12/26 Wed.
 本日、衆参両院は本会議で、自民党の安倍晋三総裁を第96代の首相に指名した。衆院会議場には小沢一郎氏の姿も見られた。
 検察による2009年の間違った捜査がなければ、また検察審査会による理不尽きわまる強制起訴がなければ、本日のこういった光景は現出していなかったはずだ。
>「(起訴で)社会的に抹殺され、生活が破綻した」と怒りをにじませる。
 人は、当局から嫌疑をかけられただけでも、それまで築いてきた信用を忽ちに失う。まして国民の1票1票によって立っている国会議員、代議士小沢一郎にとって「政治とカネ」と流布された事件・裁判は、根底からその政治生命を奪った。抹殺する目的で、事件はでっち上げられた。当時の政権与党民主党の幹部議員には、その方がよかったのだろう。野党にも、そのほうがよかったのだろう。小沢氏は葬られ、今日、弱小野党の一兵卒の席に甘んじている。
 小沢一郎氏に、本来の名誉を返してやっていただきたい。相応しい席に着かせてやって戴きたい。そして、この国の別の景色を見てみたい。
 遅い。取り返しはつかない。一度刻印されたものは、消し去ることは叶わない。裁判所が「無罪」を宣告しても、メディアによる「小沢クロ」の烙印は消し去ることは叶わない。小沢氏を抹殺し、この国を歪めて甚大な被害を蒙らせた。メディアはこの非を一度として認めない。
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【小沢裁判とは何だったのか】検察官たちの謀略戦 / 裁判がなければ首相になっていた / 政治家の金銭感覚 2012-11-14 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
 特集ワイド:座談会・小沢裁判とは何だったのか 摘まれた首相の芽
 毎日新聞 2012年11月14日 東京夕刊
 資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡り、政治資金規正法違反(虚偽記載)に問われた「国民の生活が第一」代表、小沢一郎氏(70)の控訴審判決で、東京高裁は1審の無罪判決を支持した。「小沢裁判」とは何だったのか。ジャーナリストの鳥越俊太郎、弁護士の小町谷育子、日本BS放送報道局長の鈴木哲夫の3氏に論じてもらった。【構成・瀬尾忠義】
 ◇法律論とモラル混在−−日本BS放送報道局長・鈴木哲夫さん
 ◇「推定有罪報道」検証を−−ジャーナリスト・鳥越俊太郎さん
 ◇1審無罪は控訴制限を−−弁護士・小町谷育子さん
−−「小沢裁判」は1、2審とも無罪となりました。
鳥越 私は、この裁判は一部検察官たちの謀略戦だったと思っている。民主党が政権を取ると見られていた09年の総選挙直前に西松事件があった。東京地検特捜部は、金に絡む問題があるとみて捜査したがうまくいかず、陸山会事件で続けた。検察審査会を使って裁判に持ち込み、有罪にしようと考えたのではないか。しかし謀略は裁判所で木っ端みじんに砕かれた。
小町谷 検察の謀略説はよく聞くが、はたしてどうか。強制起訴になれば裁判所が検察官役の指定弁護士を選任する。つまり、検察が自らのコントロールが及ばないところに事件を投げ出してしまうことになる。検察が「きっと何か出てくるに違いない」と捜査していたのは間違いないが、強制起訴は意外な展開だったのではないか。
鈴木 小沢問題は法律的な問題と政治的なモラルの二つのテーマが常に入り乱れて進んできた。小沢氏は法律論を説明したが、市民感情としてはモラルの話を求めていた、というズレがあった。どちらかに軸足を置いてしっかりと見れば真実がもっと明らかになったはずだ。
−−メディアは「小沢氏は有罪」という印象を与える「推定有罪」のスタンスで報じてきた、と批判されました。
鳥越 推定有罪は、日本のメディアの持っている大きなマイナスポイントだ。一連の報道は読者らに「小沢氏の無罪はおかしい」というイメージを植え付けた。メディアはその責任をどう取るのか。無罪判決が確定したら報道の検証が必要で、場合によっては謝罪すべきだ。
小町谷 残念ながらメディアがきちんと推定無罪で報道した例を今まで見たことがない。唯一の例外が、郵便不正事件で逮捕、起訴されたが無罪となった厚生労働省の村木厚子氏の判決前の報道だ。
鈴木 政治家の裁判では、新聞社は社会部と政治部が取材するが、「小沢嫌い」で一致していることが多い。無罪判決を報じても「政治責任はこれからだ」という記事がセットになる。そうすると小沢氏は永久に悪者なんですよ。
鳥越 土地購入時に提供した4億円の出所について説明責任を果たしていないと批判されたが、私は「父親の遺産相続」で説明は足りていると思う。ただ、庶民感覚では億単位の金を相続できるのは異常で、ここが疑わしいという発生源になっている。
鈴木 小沢氏は「証人喚問でも何でも出る」と言った時がある。強制起訴前の10年6月だ。国会で説明するラストチャンスだったが、菅直人首相(当時)がチャンスをつぶした。4億円と聞くと驚くが、新人を選挙で当選させるには1人1億円と言われる。小沢氏は新人の面倒をみて、09年衆院選の民主党の大勝につなげた。弁護するわけじゃないが政治には金がかかる。小沢氏のお金の使い方に光が当たらないまま、ここまで来てしまった。
小町谷 説明はそれなりにしたと思う。事件のことを話せば公判に影響するかもしれないという危惧は持っていたはずだ。刑罰が待っているかもしれない被告に、どこまで話せと言えるのかは難しい。発言は政治的に利用される可能性があり、そこまで説明責任が求められる必要はないだろう。
鳥越 小沢氏が「検察が調べても起訴できるだけの材料はなかった。これに勝る説明責任はないだろう。でも分かってもらえない」と言っていたのが印象的だった。
−−政治的な影響は?
鈴木 大きい。裁判がなければ、政権交代時の民主党代表だったので多分、首相になっていただろう。「この3年間がなかったらなあ」と漏らしたこともある。一方で小沢バッシングで、地位を高めたり、支持率を高めてきた人たちがいるという構図だ。
鳥越 無罪判決は出たが、勝ったのは検察だ。陸山会事件で、東京地検特捜部の田代政弘検事(当時)が作成した捜査報告書のうそが明るみに出るなど検察も失うものがあった。しかし小沢氏にダメージを与え、首相にさせないという点で成果を上げた。
−−「検察の暴走」が明らかになった裁判でもあった。
小町谷 村木さんの事件で証拠改ざんなどが行われていたので、田代元検事の捜査報告書のうそには驚かなかった。米国は法曹一元なので、裁判官、検察官、弁護士は全て同じ法曹倫理で規律されるが、日本では最近まで検察官に倫理規定がなかったことが問題だ。また、検察審査会が強制起訴した6事件のうち1、2審で3件の無罪判決が出ている。検察が起訴できないとしたものを起訴すると判断した根拠が今後問われる。
鳥越 検察審査会の制度は危ういと感じた。審議は密室だ。地検が起訴できない事件でも、素人に起訴に相当するような材料を見せて起訴を促すように恣意(しい)的に審査会を導いたら、政治生命を奪うことなどは簡単だ。
小町谷 検察内部の審議も密室だ。繰り返すが、検察審査会による強制起訴では、控訴の是非が問われている。これをきっかけに、一般の刑事裁判でも1審で無罪判決が出た時は検察官控訴を制限するような仕組みを検討してもいいのではないか。今回の事件がこの問題を考えるきっかけになればいい。
−−今後の政治行動をどう見ますか。
鈴木 次の総選挙後に第三極の受け皿になろうと考えている。小沢氏は中小政党のトップとサシで会ってきた。政治スケジュールを実は着実にこなしている。
鳥越 小沢氏は自分が表に出てやる時代ではないと感じている。有識者らに呼び掛けて新たな動きを作り、裏方に回る。橋下徹大阪市長、石原慎太郎前東京都知事の連合のようなものではないリベラルな第三極を作り、民主、自民に勝つ戦略を描いているのではないか。
鈴木 その方向で動いているはず。実際に立候補者として財界や有識者の名前が挙がっている。みんなの党の渡辺喜美代表、国民新党を離党した亀井静香衆院議員とも連絡を取り合っているだろう。
小町谷 市民は、政権交代で失望したので政局や権力闘争を冷ややかに見ている。生活を安定させてくれる人は誰なのか、という観点で選挙に臨むと思う。第三極みたいな話が出てきてもおいそれとは乗れないのではないか。
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