新日本原発紀行 宮城・女川 町の歳入は今も、電源交付金や固定資産税など原発関連で5割近くを占める

2011-07-07 | 政治

住民不在 再開へ動き
<新日本 原発 紀行> 宮城・女川
2011年6月23日Thu.中日新聞【特報】
 大震災の津波では、東京電力福島第1原発だけでなく、東北電力の女川原発(宮城県女川町、石巻市)も浸水などの被害を受けた。地元の町や集落も壊滅状態だ。辛うじて深刻な事故を免れ、自動停止した女川原発。福島とは明暗を分けたが、被災住民は目の前の生活再建で頭がいっぱいの中、早くも運転再開の動きが出ている。(小国智宏)

*被災後、運転一時綱渡り
 宮城県の牡鹿半島。その名の通り、時折、野生のシカの姿をみかける自然豊かな景勝地だ。その沿岸に女川原発はある。
 沿岸の集落も津波に根こそぎやられ、数か所の集落は「消滅」していた。高台に残った神社で手を合わせていた公務員の男性(60)は「家はほとんど壊れ、1部残った2階の部屋で生活している。水も電気もまだない」と下を向いた。「この年で、こんな目に遭うとは。原発のことまで考える余裕はないよ」
 あの日、女川原発も巨大な津波に襲われた。福島第1原発のような深刻な事故には至っておらず、東北電力は「安全性確保の仕組みが有効に機能し、安全に停止することができた」とする。だが、それは幸運にすぎないだけだったのかもしれない。
 1号機えは、高圧電源盤の装置が地震の揺れでショートするなどして火災が発生。2台ある非常用ディーゼル発電機のうち、1台が使用できない状態になった。
 2号機は1号機に比べ海岸寄りに立つ。定期検査を終え起動していたが原子炉建屋の熱交換器室が浸水した。そのため、ここでも2台ある非常用ディーゼル発電機のうち1台が動かなかった。
 熱交換器室は建屋付属棟にあり、掘り下げて造られた施設の水の高さが一時、約2・5㍍に達した。水は海につながる配管・ケーブル通路から入ってきた。
 屋外の海岸沿いにあった重油貯蔵用タンクは津波で倒壊。1~3号機の使用済み燃料貯蔵プールの水が地震の揺れによって、あふれた。こうした被害はあったが、送電線からの電気(外部電源)は流れていたため、「事故」にはならなかった。
 女川原発を襲った津波は高さ13㍍。安全審査指針で想定していた津波は最大でも9・1㍍でしかなかった。被害が少なくて済んだのは、主要な施設が標高14・8㍍の高さにあったからとみられる。
 非常用発電機の修理が終わらないうちに、今度は4月7日の大きな余震に見舞われた。外部電源5回線のうち1回線は点検中で、3回線が途絶した。残ったのは1回線と一時は綱渡りの運転を強いられることになった。
 津波の被害は、原発周辺で放射線量を常時測定するモニタリングステーションにも及んだ。敷地外11か所のうち、4か所が破壊され、2か所で測定不能になった。
 原発から約8㌔離れた女川町の中心地近くの緊急時対策拠点「県原子力防災対策センター(オフサイトセンター)」と、隣接の放射線を監視する「県原子力センター」も壊滅した。海岸から約4百㍍離れていたが、津波にのみ込まれ、職員2人が死亡、原子力保安検査官事務所の所長ら3人は行方不明のままだ。
 オフサイトセンターの機能は仙台市に移され、原子力安全・保安院の保安検査官2人が女川原発に常駐している。

*壊滅、生活で手いっぱい
 地元の首長は「安全対策をした上で、国の指導も受け」(安住宣孝女川町長)、「安全を確保した上でなら」(亀山紘石巻市長)と運転再開に前向きな発言をする。宮城県の村井嘉浩知事は「国が新たな安全の基準を提示するまでは容認できない」との立場だ。
 東北電力は震災後、防潮堤を築いたり、大容量の電源装置3台を設置するなどの安全対策を発表した。18日には、海江田万里経済産業相が緊急安全対策は適切に実施されているとして、定期検査中の原発について運転再開を要請した。
 こうした動きに対し、被災住民の反応は鈍い。住民は目の前の生活のことで頭がいっぱいだ。
 女川町で原発建設の話が浮上したのは1965年ごろ。温排水や放射能の影響を心配した漁業関係者らが反対運動を繰り広げた。「潮目が変わったのは、73年のオイルショックのころだった」と、自らも被災し避難所暮らしの町議、高野博さん(68)は振り返る。「船の燃料代が高騰して苦しくなったとき、補助金や融資を餌に、行政側が賛成するよう迫った」
 長い反対運動の末、建設が決定。1号機の着工は79年だった。女川町に原発がもたらしたものは大きかった。関連工事で作業員が宿泊する民宿などは潤った。町の歳入は今も、電源交付金や固定資産税など原発関連で5割近くを占める。
 現在、約650人が避難生活を送っている町総合体育館は交付金で建てられたものだ。病院や運動公園などの建設にも交付金が充てられた。
 震災直後、原発の敷地内にある東北電力の体育館には、近くの集落の被災者が大勢逃げ込んだ。最大時360人。東北電力の社員らが食料や毛布などを選んだ。「電力さんは本当によくしてくれた」と住民は感謝を口にした。勤務先の会社が被災し解雇された男性(57)は「女川は原発でもっていた町。原発が止まったら衰退する」と心配する。総合体育館に身を寄せる女性(79)も「電力さんのおかげで、いい思いもさせてもらってきた。今さら原発は怖いなんて思わないよ」と語った。
 懸念を口にする人もいる。大学生の娘が福島県内に住んでいるという主婦(55)は「福島の事故は対岸の火事とは思えない。女川でも同じような事故が起きるかもしれない」。水産加工会社を解雇された男性(44)は「原発は絶対駄目とは思わないが、運転再開はまだ早いのでは」と話した。
 高野さんは「交付金でハコものを次々と建てたが、今では維持費が重くのしかかる。地元の産業は育たず、人口は減る一方だ」と語る。「福島の事故を見て、住民の考え方も徐々に変わってきていると思うんだが・・・」

*市民団体「まずは検証を」
 宮城県沖では、今後も巨大地震が起きる可能性が指摘されている。
 「まずやるべきは、今回の震災の徹底的な検証だ」と主張するのは、市民団体「原子力発電を考える石巻市民の会」の日下郁郎さん(54)だ。
 女川原発では安全審査指針の想定した揺れを超える加速度(ガル)が一部で観測され、「今後の詳細な解析結果次第では、指針を見直さざるを得なくなる可能性もある」とし、こう訴えた。
 「住民の頭が復興に向いている間に、住民を置き去りにしたまま、早々と運転再開を口にすべきではない。知識を積んで時間をかけてしっかり議論をしてから住民の意見を聞いて決めるべきだ」
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