首相と外相の名前すら覚えていない米国務次官補――情報操作するキャンベル氏の正体
「週刊金曜日」2011年10月24 日3:51PM
日米首脳会談でオバマ大統領の発言を捏造した疑いがあるキャンベル米国務次官補(九月三〇日号本欄参照)は、日本の首相と外相の名前すら覚えていない。〈キャンベル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は日本訪問に出発する前、ワシントン郊外のダレス国際空港で「野田首相の年内訪米の招待状を持って行く」と発言。実際に招請するのは玄葉光一郎外相だったが、言い間違えてしまった。六日午後に成田空港に到着したキャンベル氏は、到着早々記者団に「私が間違えて話してしまった。ごめんなさい」と頭を下げた〉(一〇月七日付『毎日新聞』)
キャンベル氏はどういった人物か。『同盟漂流』(船橋洋一著、岩波書店)などによると、一九五七年生まれ。カリフォルニア大学からオックスフォード大学に進んで国際関係論を専攻、南アフリカをテーマに博士号を取得した。財務長官の特別補佐官(国際問題担当)での仕事を認められ、あとはトントン拍子。国家安全保障会議をへて国防総省に移り、ジョセフ・ナイ国防次官補のもとで、九五年五月、三七歳の若さで国防次官補代理(アジア太平洋問題担当)に就任する。〈キャンベルのことを攻撃的すぎると警戒する向きもあった。/国務省にも、ホワイトハウスにも、軍部にも、肝心の国防総省にも、そうした警戒感はあった〉(前出書二一ページ)。現在の立場を日本風に表現すれば、外務省アジア大洋州局長にあたる。
キャンベル氏はかつてこう語っている。〈同盟国である日本に対して米国はどのような問題であれ、あからさまに圧力をかけているような印象を与えてはならないということです。私はそういうことに非常に神経を使っています〉(『論座』二〇〇六年九月号)
笑止千万ではないか。米国のオバマ大統領が野田佳彦首相に対し、普天間問題について述べたとされる「結果を出す時期に近づいている」との発言が、実際は存在しなかったことが明らかになったが、そのブリーフ(説明)をしたのがキャンベル氏だからだ。
ある防衛省関係者は「二〇〇九年七月、『核の傘をめぐり、日米が定期協議を開始』との新聞記事に驚いた。調べるとキャンベル氏が情報源。議論すら出ていないのに、持論を合意事項のように話すから混乱する」と打ち明ける。
元外務省国際情報局長の孫崎享氏はこう分析する。
「橋本龍太郎首相・クリントン大統領(当時)の合意は、沖縄の基地負担軽減だ。だから辺野古移設が無理でも、本来、米側には基地負担軽減の義務がある。だが、日本側が辺野古移設を主張している限り、基地負担が軽減できないのは日本側の努力不足が原因だという物語を米側は作ることができる。米側の責任を回避できるので、辺野古移設を言い続けるのだろう。
沖縄の民意をみれば、辺野古移設が無理だとオバマ大統領はわかっている。だから不可能なこと、つまり“嘘”を言う日本の首相と一緒になにかを達成しようとする気にならないのは当然だ。オバマ大統領が最重要視しているのは、中国との関係とアフガニスタン戦争。普天間移設問題の優先度は低いため、キャンベル氏などタカ派に好きなようにやらせている」
一方、民主党上層部の関係者はこう話す。「キャンベル氏は昨年二月、小沢一郎幹事長(当時)と会談。『中国は俺が野党の時も会いに来たが、米国は与党になってからか』と小沢さんに言われ、びびっていた。その場しのぎで汲々となるタイプ。たかが局長クラスなのに官邸が大切にしすぎた」
一方、キャンベル氏のブリーフについて玄葉光一郎外相は九月三〇日の会見で「ブリーフの内容を読みましたけれども、そんなに大きく違っているように、私(大臣)にはあまり見えません」と答えた。が、翌日の『琉球新報』は社説で〈自国の国民の目から真実を遠ざけようとすることといい、日米の交渉当事者たちの言動は目に余ります〉と強烈に批判した。地方紙の論説と、地方政界・財界・人々の意識が大きくずれることは一般的にはない。日米は辺野古移設以外の基地負担軽減策を検討すべきだ。
(伊田浩之・編集部、10月14日号)
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◆日米関係の時限爆弾/普天間問題をめぐる認識の差異「われわれは結果を求める時期に近づいている・・・」2011-09-29 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉
日米関係の時限爆弾となる野田首相の国会答弁
2011年09月29日08時35分 佐藤優の眼光紙背:第118回
筆者が本コラム(9月25日付眼光紙背「日米首脳会談で、普天間問題をめぐる深刻な認識の差異が明らかになった」)で、ニューヨークで9月21日(日本時間22日)に行われた日米首脳会談で、オバマ大統領が野田佳彦首相に対し、「結果を求める時期が近づいている」と述べたとされる件について、26日の衆議院予算委員会で野田首相がきわめて重要な答弁をした。毎日新聞の報道を引用しておく。
野田首相:普天間の辺野古移設、米大統領「結果求める時期」発言否定--衆院予算委
野田佳彦首相は26日の衆院予算委員会で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の沖縄県名護市辺野古への移設時期について「いつまでにと明示するのは困難だ」と強調し、「誠心誠意、説明しながら、(沖縄県側の)理解をなるべく早い段階で得られるようにしたい」と述べた。
ニューヨークでの日米首脳会談後、米側はオバマ大統領から「結果を求める時期が近い」と早期実現を求めたことを発表したが、首相は「(記者に)ブリーフした方の個人的な思いが出たのではないか。大統領は『その進展に期待する』という言い方だった」と否定した。石原伸晃氏(自民)への答弁。(9月27日毎日新聞電子版)
本件について、以下の琉球新報の報道を読むと事態の深刻度がよくわかる。
首相「結果求める」否定 米大統領発言、衆院予算委で答弁
【東京】日米首脳会談で米軍普天間飛行場移設問題について、オバマ米大統領が野田佳彦首相に対し「結果を求める時期に近づいている」と発言したとされる件で、野田首相が26日の衆院予算委員会で発言の事実を否定した。野田首相は「大統領本人というよりも、ブリーフ(説明)をした方の個人的な思いの中で出たのではないか」と述べた。石原伸晃議員(自民)に答えた。
オバマ大統領の「結果を求める時期」については、米国務省のキャンベル次官補が記者団に説明していた。
キャンベル次官補は「日米双方とも結果を求める時期に近づいていることを理解している。その点は大統領も非常に明確にしていた」と言及。それを受け、日本側メディアが大統領発言として報道し「米の強硬姿勢が鮮明」などと解釈を付けていたが、野田首相の認識と大きく食い違っていることが浮き彫りになった。
野田首相は26日の衆院予算委員会で、首脳会談での普天間に関する議論の中身について「(危険性を)固定化することなく、負担軽減を図っていくという説明をして、沖縄の皆さんのご理解をいただくという基本姿勢を述べた」と説明。大統領の発言については「『その進展に期待する』という言い方だった」と述べ、報道された発言内容を否定した。「結果を求める時期」との発言については「ブリーフをした方の個人的な思いの中から出たのではないか」と指摘した。(9月27日琉球新報電子版)
国会質問における首相の答弁について、質問者は事前に質問を政府に通告する。石原伸晃自民党幹事長は、「日米首脳会談ではオバマ大統領から、期限を触れて約束の履行を守るよう求められた。このような状態の中で、普天間の移設について、いつまでに結論を出すのか、具体的に」と質した。この趣旨の質問がなされた場合、外務省が答弁案を作成する。その場合、日米首脳会談の記録をチェックする。首脳会談の記録は、外交の世界の業界用語で言う「バーベイタム(verbatim、逐語的な)」で作成される。オバマ大統領、野田首相の発言が正確に再現されるのである。通訳の表現がわかりにくかったり、意訳である場合は、オバマ大統領が英語でどう言ったかも記録される。この記録に照らし合わせたうえで、26日の衆議院予算委員会における野田首相の、「時期が云々というのは、大統領本人というよりも、ブリーフをした方の個人的な思いの中で出たんではないかと思う。オバマ大統領のお話しはその進展に期待をするという言い方であった。」という答弁がなされている。従って、少なくとも日本側の会談記録には、「結果を求める時期に近づいている」というオバマ大統領の発言は記録されていないと考えるのが妥当だ。
それでは、米国側はどう説明したのか。キャンベル国務次官補のブリーフ記録では、「私が思うに、双方がわれわれは結果を求める時期に近づいていることを理解しており、そして、そのことは大統領によって非常に明確にされた(I think both sides understand that we're approaching a period where we need to see results, and that was made very clear by the President.)。」となっている。
ブリーファー(説明者)の仕事は、首脳会談の内容に関する正確な情報をマスメディアに提供することだ。そもそも、大統領の発言のごとく装って、「個人的な思い」を伝えることは、外交官の職業的良心に反する行為だ。特に米国は、官僚が大統領の発言の取扱に関しては、とても厳格だ。その意味で、客観的に見て、このブリーフを行ったキャンベル氏は危機的状況に置かれている。もっとも日本のマスメディアがこの事実を大きく扱わないので、この危機的状況が等身大で認識されていない。日本の外務官僚は、この危機が露見しないように、キャンベル国務次官補の「個人的な思い」ということにすれば、何とか逃げることができると考えているのだろう。具体的には、「私は~と思う(I think~)」と言っているので、これは「個人的な思い」で、それを大統領の発言と勘違いした日本人記者の水準の問題だという、マスメディアを侮蔑した論理を展開している。しかし、キャンベル氏は「このことは大統領によって非常に明確にされた」と述べている。オバマ大統領から時期に関する要請が野田首相になされたと理解するのが合理的だ。
筆者のところに入ってくる情報だと、外務官僚は「キャンベルさんの説明は(米国の)議会対策の国内向けなので、問題視すべきでない。事態を穏便に済ませるべきだ」という働きかけを民主党の有力政治家に対して行っている。しかし、このアプローチは間違いだ。沖縄の世論は、オバマ大統領の言葉を「騙って」、米国の官僚が「結果を求める時期に近づいている」と米海兵隊普天間飛行場の辺野古移設の強行に向けた圧力をかけてきたと見ている(そう見て当然である筆者も思う)。これに対して、国会の場で、野田首相が「時期が云々というのは、大統領本人というよりも、ブリーフをした方の個人的な思いの中で出たんではないかと思う。オバマ大統領のお話しはその進展に期待をするという言い方であった。」とキャンベル氏のブリーフ内容を否定したにもかかわらず、その事実を日本の外務官僚がひたすら隠蔽しているように沖縄のマスメディア、政治エリートには映る(そう映って当然と筆者も考える)。野田首相の国会答弁が、日米関係に時限爆弾を仕掛けることになったと筆者は見ている。
この問題については、日本政府が外交ルート(すなわち日本外務省)を通じて、事実関係を確認し、「オバマ大統領は『結果を求める時期に近づいている」と発言しなかった」という事実関係を明らかにするとともに、「キャンベル国務次官補は、『双方がわれわれは結果を求める時期に近づいていることを理解しており』とおっしゃられたが、少なくとも日本側、すなわち野田首相は、そう認識していない。普天間飛行場の移設は沖縄の人々の理解を得ずに進めることはできないので、時間が必要だというのが日本側の認識だ」という実状を明らかにすべきだ。
沖縄の外務官僚、防衛官僚に対する不信は極点に達している。政治主導でその不信から信頼に向けた道筋を整えなくては、普天間問題の解決は不可能だ。キャンベル氏の「個人的な思い」によるフライングが、ただでさえ複雑な沖縄の人々の感情を一層複雑にしていることを東京の政治エリート(国会議員、官僚)は、冷徹に認識することだ。真実を明らかにし、「結果を求める時期に近づいている」という時限性の圧力を取り払うことが、日米同盟を危機から救うことになる。私が思うに(I think)、現在の外務官僚の姑息な手法では、日本の友人であるキャンベル氏にかえって迷惑をかけることになる。(2011年9月29日脱稿)
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◆普天間問題をめぐる認識の差異「I can do business with him」2011-09-26 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉
【佐藤優の眼光紙背】2011年09月25日10時00分
両首脳の会談は、わずか35分で終わった。
日米首脳会談は、大成功であったという印象を焼き付けるべく、野田首相周辺や外務省は腐心しているようだ。以下の趣旨の記事を多く目にする。
米大統領:「彼となら仕事できる」…「実務的」首相に好感
【ニューヨーク高塚保】オバマ米大統領が野田佳彦首相との初の首脳会談後、「I can do business with him.(野田首相となら仕事ができる)」と語っていたことが、大統領周辺から日本側に伝わった。首相の同行筋が22日、記者団に明らかにした。
大統領は「実務的」(外務省幹部)と言われ、同様に実務的な首相に対して好感を抱いたようだ。ただ、会談では米軍普天間飛行場の移設問題で、大統領が「結果を求める時期が近い」と迫るなど、早速難問が突きつけられた。首相に具体的な成果を求める米側の圧力が今後強まりそうだ。(9月23日毎日新聞電子版)
首相同行筋というのは、業界用語で、首相官邸の政治家や内閣官房のスタッフだけでなく、今回の訪米に同行した外務官僚を指す。同行筋は、大統領周辺が<I can do business with him.>と伝えてきたという情報を流し、「野田首相となら仕事ができる」とオバマ大統領が野田首相に好感を抱いているという「物語」をつくろうとしている。ほんとうにそうなのだろうか? 筆者は懐疑的だ。まず、I can do business with him.のdo business withは、成句で「…と取り引きする」(『ジーニアス英和辞典』大修館、『新英和中辞典』研究社など参照)と訳すのが通例だ。オバマ大統領の発言を素直に訳せば、「野田首相とは取り引きができる」となる。高校英語レベルの成句なので、外務省に合格する英語力のある者が間違えるはずがない。businessという単語があるから、あえて「仕事」と訳して、「野田首相となら仕事ができる」という日本語にし、「オバマ大統領の野田首相に対する好感」という「成果」をつくり出そうとする外務官僚の姑息なやり方と筆者は見ている。一般論として好感を抱いていない相手とでも取り引きは可能だ。「取り引き」は帝国主義外交の基本である。米国が日本と「取り引き外交」を行おうとしている現実を冷徹に認識する必要がある。
さらに日米首脳会談のサブスタンス(実質的内容)をめぐるより深刻な事実認識の差異が露呈した。9月24日「琉球新報」はこう報じた。
「普天間移設」大統領発言、疑義が浮上 首をかしげる首相
【東京】日米首脳会談で米軍普天間飛行場移設問題について、オバマ米大統領が野田佳彦首相に対し「結果を求める時期に近づいている」と発言したとされる件で、発言の事実に疑いが浮上している。野田首相は首脳会談後の記者団との懇談で発言について問われ、首をかしげて「進展を『期待する』という話はあった」と説明した。オバマ大統領の「結果を求める時期」については、米国務省のキャンベル次官補が記者団に説明していた。野田首相の認識と食い違っていることが明らかになった。
21日(日本時間22日)、首脳会談には野田、オバマ両首脳の他、玄葉光一郎外相、クリントン国務長官が参加。外務省や国務省職員ら両国事務方も同席した。会談終了後、キャンベル次官補が報道陣に、会談内容について「われわれは結果を求める時期に近づいている。それは大統領からも明確にあった」と解説した。
それを受け、日本メディアは「(オバマ大統領は)具体的な進展が得られるよう日本側の努力を強く要求した」と報道。この「結果要求」の背景としては、「普天間移設とセットである在沖米海兵隊のグアム移転の実現性にも(米議会から)厳しい視線が注がれ、現行計画が空中分解しかねない現状への米側のいら立ちを映し出した」とした。
関係者によると、野田首相は記者団に「オバマ大統領との会談で結果を求められたのか」と問われ、首をかしげた。首相は普天間問題のやりとりについて「こちらから沖縄の負担軽減を図りながら、誠心誠意説明していくという話をした。(大統領から)進展を期待しているという話はあった」と述べたという。(http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-182019-storytopic-3.html)
日米首脳会談において、オバマ大統領が野田首相に対して、「われわれは結果を求める時期に近づいている」と述べたことが事実ならば、極めて重要な問題である。それを野田首相は正確に認識せず、「進展を『期待する』という話はあった」と受け止めていたということになる。普天間問題について、米国外交の最高責任者であるオバマ大統領が、「時期に近づいている」という時限性、「成果を求める」という内容についての履行を米国が求めているか、それともただ「進展に期待する」という希望を表明しただけであるかでは、今後の外交交渉の組み立て方が本質的に異なってくる。真相を明らかにする責任が、首相官邸、外務省にある。
筆者のところに入ってきた情報では、野田首相による説明は、9月22日、ニューヨークのホテルで行われた内政懇のときのものだ。内政懇(内政懇談)という業界用語は、外国訪問中の首相、外相などの要人が同行記者団を相手に国内政治について懇談することである。オンレコードの扱いになる。従って、この場での野田首相の発言は、記者会見のときと同様に報道に反映する。
このとき同行記者と野田首相との間で次のやりとりがあったということだ。
まず、記者が「普天間飛行場の移設問題で、キャンベル米国務次官補によると、大統領は結果を出すよう求めた」と質したのに対し、野田首相は首をかしげた。そして、「やりとりとしてこちらの立場を申し上げた。日米合意にのっとってやっていくということで、沖縄の負担軽減を図りながら、少なくとも普天間に固定化しないようにしないといけないということで、誠心誠意、沖縄に説明するという話をして、(オバマ大統領からは)『その進展を期待している』という答えはあった。」と答えた。「結果を出すように求めた」という発言がオバマ大統領からあったという事実を野田首相は確認していないのである。そこで記者がさらにこう確認した。
「結果を求められるような時期が近いという趣旨の発言がアメリカ側のブリーフで出ている。」
これに対し、野田首相は、「『進展を期待している』という答えだったと思う」と答えた。
今回の日米首脳会談における重要なポイントであるオバマ大統領が野田首相に対して、「われわれは結果を求める時期に近づいている。」という発言があったか、なかったかという事実関係が宙に浮いた状態になっているのだ。
通訳ミスを除けば、理論的に考えられる可能性は2つに絞られる。
第1は、米国側が不正確なブリーフをしたことだ。<キャンベル次官補が報道陣に、会談内容について「われわれは結果を求める時期に近づいている。それは大統領からも明確にあった」と解説した>ということであるから、その場合、キャンベル氏は大きな責任を負わなくてはならなくなる。
第2は、野田首相が、オバマ大統領の発言を理解できなかったという可能性だ。前にも述べたように、「時期に近づいている」という時限性、「成果を求める」という内容についての履行を米国が求めているか、それともただ「進展に期待する」という希望を表明しただけであるかでは、今後の外交交渉の組み立て方が本質的に異なってくる。まさにこれは今回の日米首脳会談の最重要事項だ。このような最重要事項を理解できないような人には、外交的資質がないということになる。しかし、いくら外交の経験を積んでいないといっても、野田氏はこれまでに幾多の政争を経験し、首相にのぼりつめた政治家だ。オバマ大統領の発言の重要事項を理解できないということは考えられない。
外務省は、外交の専門家集団としての職業的良心に従い、真相を明らかにすべきだ。しかし、外務省はなぜ報道で指摘されるよりも前にきちんと手を打たないのか。外務省は野田首相の内政懇の記録をもっているはずだ。記録を読めば、問題の所在に気づかないはずがない。
I can do business with him.の意訳、内政懇問題の無視は、いずれも日米首脳会談の成果を誇大に宣伝し、深刻な問題を隠蔽しようとする外務官僚の自己保身から生じたものと筆者は見ている。外務官僚には、野田政権を本気で支える気持ちがあるのだろうか? 日米首脳会談に対する誠意を欠く外務官僚の対応は、国民を愚弄するものである。(2011年9月24日脱稿)
・佐藤優(さとう まさる)
1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「予兆とインテリジェンス」(扶桑社)がある。
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◆外交/儀礼的な会話の踏襲では、外国の首脳に日本がまともに相手にされることはないだろう2011-08-30 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉