一目お会いしておけばよかった、と悔やまれてならないのは、近現代史研究家の鳥居民さんだ

2013-01-12 | メディア/ジャーナリズム/インターネット

今も続く「親中派」のあしき伝統
産経新聞2013.1.12 03:10 [産経抄]
 年末年始も寒い日が続いたせいか、歌手の岡本敦郎さんや建築家の大谷幸夫さんらが旅立たれ、訃報欄がやけに目立つ。中でも一目お会いしておけばよかった、と悔やまれてならないのは、近現代史研究家の鳥居民さんだ。▼「正論」執筆メンバーとしてもおなじみだが、本名が「池田民」だとは知らなかった。経歴も「昭和4年、東京に生まれ、横浜に育つ」とだけしか公表されておらず、長年の版元に聞いても「ご自分のことは何もおっしゃらなかった」と言う。▼学閥も国からの庇護(ひご)もない文字通り市井の歴史家だったが、著作に込めたメッセージは明快だ。昭和20年を元日から克明に追った『昭和二十年』(草思社)はついに未完に終わったが、読んでいて息苦しくなるほどあの時代が再現されている。▼鳥居さんのもうひとつのライフワークが、中国研究だった。9年前に世に出た『「反日」で生きのびる中国』(同)は、日中衝突を予見したどころか、共産党の一党独裁を守るため江沢民時代の1994年に発布した「愛国主義教育実施綱要」に根源あり、と喝破した。▼綱要は、「反日教育」強化を命じたものだが、小紙以外は無視した。鳥居さんは、綱要を黙殺した当時の河野洋平外相をはじめ外務省幹部、各新聞社の北京特派員らの実名を挙げ、「かれらはなにをしたのであろう」と厳しく問うた。▼「親中派」のあしき伝統は今も続き、商社出身の丹羽宇一郎前駐中国大使は、中国の反日感情の原因を「中国人が日本に対して抱くある種のコンプレックス」(『文芸春秋』2月号)と書いた。中国でカネをもうけたい財界人は、まず鳥居本を読むべし。さもなくば、会社も国も危うくしかねない。
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鳥居民氏が死去 日中の近現代史研究 正論メンバー
産経新聞2013.1.9 22:05
 日本と中国の近現代史研究家で、本紙「正論」執筆メンバーだった鳥居民(とりい・たみ、本名・池田民=いけだ・たみ)氏が4日、心筋梗塞のため死去した。84歳。葬儀は近親者のみで行われた。後日、お別れの会が催される予定。喪主は妻、冬美子(ふゆみこ)さん。
 東京生まれの横浜育ち。市井の研究家として長年にわたり旺盛な執筆活動を続け、「毛沢東五つの戦争-現代中国史論」「『反日』で生きのびる中国-江沢民の戦争」から、「日米開戦の謎」「山本五十六の乾坤一擲(けんこんいってき)」まで、日中の近現代史を描いた著書多数。
 「正論」メンバーには平成17年に加わった。共産党支配体制下の中国の諸問題を厳しい独特の視点で捉え、リズミカルな筆致でえぐる分析には定評があった。
 昨年11月15日の習近平同党総書記就任を受け、翌16日付正論欄に「習氏が継ぐ腐敗の政経一致体制」を寄せ、それが同欄での最後の寄稿記事となった。
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〈来栖の独白2013/01/12Sat.〉
 そうだったのか。鳥居民さんは、亡くなられたのか。力を削がれる感じだ。辛い。鳥居民さんを私が知ったのは、わずかに昨年のことだ。鋭く正しい論説に、教えられた。その方が、いない。この昏迷の時代に、正しい筋道を世に教えてくれる人が、いなくなった。
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【改革開放政策の副産物でもある腐敗の政経一致体制を習総書記は引き継いだ】中国現代史研究家・鳥居民 2012-11-16 | 国際/中国/アジア 
 中国現代史研究家・鳥居民 習氏が継ぐ腐敗の政経一致体制
 産経ニュース2012.11.16 03:10[正論]
 この3カ月、中国にかかわるニュースの中で、私が衝撃を受けたのは、尖閣諸島をめぐる日中間のごたごたでもなければ、15日に党総書記となった習近平氏の在任が2期10年を全うできず1期5年で終わるかもしれないといった予測でもない。温家宝首相一族の膨大な蓄財を暴露した米紙ニューヨーク・タイムズの報道である。
 ≪暴かれた「孤独な改革者」≫
 中国研究者の端くれとして、温夫人がダイヤに執着し、それを大きなビジネスにしていること、温氏の母親が国内最大を誇る保険会社の大株主であること、一人息子の温雲松氏が、昨日まで政治局常務委員だった呉邦国氏の女婿、そして、中央宣伝部長で今回、政治局常務委員入りした劉雲山氏の息子ら「紅二代」と呼ばれる御曹司たちと組んで、株式市場で大儲(もう)けをしていることなどは、新聞や雑誌で読み、承知していた。
 その私も、温家宝首相に必ず付く、「孤独な改革者」という枕詞(まくらことば)には何となく納得していた。
 温首相は昨年7月、温州で起きた高速鉄道の事故の現場に駆けつけ、「背後に腐敗があれば、追及の手を緩めない」と断言した。今年4月には、党理論誌「求是」に腐敗こそが党最大のリスクだといった論文を載せた。重慶市トップだった薄煕来氏の断罪、失脚、党追放を予告する一文である。
 同じ4月、地方中小業者の集まりでは、中国工商銀行を筆頭とする4つの国有銀行を批判し、あまりに儲けすぎて力を持ちすぎている、国有大銀行の独占を打破しなければならない、と説いた。
 温首相は繰り返し、腐敗の根絶を説き、政治改革の必要性を強調してきた。富の分配についても語り、財産が一握りの人たちの手中にあるのは不公平だ、そんな社会は不安定だ、と語ってきた。
 ≪首相の子息に逆らう者なし≫
 その温氏の一族による巨額の蓄財の、しかも、今回の中国共産党大会開幕直前の暴露である。
 3ページに及ぶ特集記事の1ページ目には、ふてぶてしさなど全く感じさせない、いつもの表情の温氏の写真を中央に置き、周りに実母、実弟、長男、長女、妻の弟、そして妻の小さな顔写真を配し、彼らは「温家宝氏が指導的地位にいる間に、驚くほどに豊かになった」と記してあった。別のページでは、温氏を囲む一族の写真を再び載せて「温ファミリー・エンパイア」と題し、彼らの資産は総計27億ドル(約2200億円)に上ると伝えていた。「一族のファミリービジネスで温氏の役割は明らかでない」と留保も付けてあった。
 とはいっても、中国共産党が支配する世界は、他の国には存在しないものだ。かつて中国駐在特派員だったリチャード・マクレガー氏が、米国を例に取り、米国の全閣僚、各州の知事、主要都市の市長、ゼネラル・エレクトリックやウォルマートの経営者、ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルの編集トップ、各テレビ局のトップ、主要大学の学長まで、中国では、すべてを共産党の中央組織が決めると説明したことがある。温首相の子息の一言に逆らう党幹部、役人、経済人は中国にはいないのである。
 ≪これぞ真の「黄金の10年」?≫
 今党大会の前から、中国の報道機関は、胡-温の統治時代を「黄金の10年」と称(たた)えていたが、温氏の一族にとってこそ、本物の「黄金の10年」だったといえる。
 さて、温氏の一族が大層な蓄財をしていたことがさらけ出される前のことである。温首相を口舌の徒だと批判し、「中国一の名優」だとからかう声まであった。が、それは正しくない。温氏の決意なしに薄氏追放はできなかった。それは小さな出来事ではない。薄氏と氏に自らのポストを譲る予定だった周永康氏の2人の「明日の中国」構想を打ち砕いたのだ。
 政治局常務委員の周氏は中央政法委員会を一手に握っていた。裁判所、検察院から公安部、国家安全部までを監督し、地方各レベルの政法委員会は「安定の維持」を至上目標に据え、党・政府機関に抗議し裁判所に訴えようとする市民、農民の行動を阻止し、場合によっては「労働を通じて再教育する」といった名目で、裁判なしに彼らを牢獄(ろうごく)送りにしてきた。
 薄氏を追放し、政法委員会を掌握する政治局常務委員のポストをなくしてしまい、同委員会の力を削(そ)ごうとしたのは、10年任期の最後の年に温氏が断行した、「政治改革」の重大な布石だった。
 そのことを恨んだ保守勢力が、温氏一族の蓄財の事実を米紙の記者に提供し、今回の党大会に出席した代表たちが語り合う絶好の話題にしてやろうとたくらんだという事情が、蓄財報道の裏にはあったとの見方がある。これをどのように批評したらいいのか、私には分からないが、それとは別の事実は語らねばならないだろう。
 汚職と腐敗は少なからぬ国の風土病である。だが、政治と経済が密着した中国共産党の世界では、汚職と腐敗は一つの文化を織り成している。改革開放政策の副産物でもある莫大(ばくだい)な負の遺産を、習総書記は引き継いだのである。(とりい たみ)
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薄煕来氏夫人への判決の直前「尖閣騒動で中共幹部が隠したこと」 中国現代史研究家・鳥居 民 2012-09-04 | 国際/中国 アジア
 中国現代史研究家・鳥居民 尖閣上陸は「裸官」への目眩まし 尖閣騒動で中共幹部が隠したこと
 産経ニュース2012.9.4 03:17[正論]
 中国が尖閣諸島でごたごたを起こした。この騒ぎによって、過去のことになってしまった出来事がある。それは、中国共産党首脳部が自国民に一時(いっとき)でもいいから忘れてもらいたい問題である。
 ≪薄煕来氏夫人への判決の直前≫
 尖閣諸島に香港在住の活動家の一隊が上陸したのは8月15日だった。続いてどのようなことが日本で起き、さらに中国で起きるのかは、2004年3月にその島に上陸した「七勇士」、さらには10年9月に巡視船に体当たりした中国漁船の先例があることから、その時、北戴河に集まっていた中国共産党の最高幹部たちは、はっきり読み取ることができた。
 さて、渤海湾深部のこの避暑地にいた彼らが国民の関心をそらしたかったのは何からであろう。
 実は、尖閣諸島上陸の騒ぎが起きた直後、薄煕来氏の夫人に対する判決公判があった。初公判は8月9日に開かれ、「いかなる判決も受け入れる」と彼女は言って即日、結審し、10日ほど後の8月20日に判決が言い渡される素早さだった。単純な殺人事件として片付けられて、彼女は死刑を宣告された。後で有期刑に減刑されて、7年後には病気治療という名目で出所となるかもしれない。
 今年1月に戻る。広東省の党の公式会議で、「配偶者や子女が海外に居住している党幹部は原則として、党組織のトップ、重要なポストに就任できない」と決めた。
 党、政府の高い地位にいて家族を海外に送っている者を、「裸官」と呼ぶ。中国国内での流行語であり、家族とともに財産を海外に移している権貴階級に対する批判の言葉である。
 ≪年収の数万倍もの在外資産≫
 この秋には、政治局常務委員になると予測されている広東省の汪洋党委書記が「裸官」を許さないと大見えを切ったのは、今にして思えば、汪氏の政敵、重慶の薄煕来党委書記に向けた先制攻撃だったのであろう。そして薄氏が3月に失脚してしまった後の4月になったら、薄夫妻の蓄財や資産の海外移転、米国に留学している息子や前妻の息子たちの行状までが連日のようにネットに載り、民営紙に報じられるようになった。
 薄氏の年間の正規の所得は20万元ほどだった。米ドルに換算すればわずか2万8千ドルにすぎない。ところが、薄夫妻は数十億ドルの資産を海外に持ち、夫人は他の姉妹とともに香港、そして、英領バージン諸島に1億2千万ドルの資産を持つというのだ。夫人はシンガポール国籍を持っていることまでが明らかにされている。
 薄夫妻がしてきたことの暴露が続く同じ4月のこと、今秋には最高指導者になると決まっている習近平氏が党の上級幹部を集めた会議で演説し、子女を海外に移住させ、二重国籍を持たせている「裸官」を批判し、中国は「亡党亡国」の危機にあると警告した。
 党首脳陣の本音はといえば、痛し痒(かゆ)しであったに違いない。実のところは、夫人の殺人事件だけを取り上げたかった。だが、そんなことをしたら、これは政治陰謀だ、党中央は経済格差の問題に真剣に取り組んできた薄党委書記が目障りなのだ、そこで荒唐無稽な殺人事件をでっち上げたのだ、と党首脳たちに対する非難、攻撃が続くのは必定だからだ。
 こうして、薄夫妻が行ってきたことを明らかにしたうえで、汪洋氏や習近平氏は「裸官」批判もしたのである。
 だが、最初に書いた通り、裁判は夫人の殺人事件だけで終わった。当然だった。殺人事件の犯人はともかく、裸官」は薄氏だけではないからだ。汪洋氏の広東省では、「裸官」を重要ポストに就かせないと決めたと前述したが、そんなことは実際にはできるわけがない。
 ≪中央委員9割の親族が海外に≫
 中国共産党の中央委員を見れば分かる。この秋の党大会でメンバーは入れ替わることになろうが、中央委員は現在、204人を数える。国と地方の党・政府機関、国有企業、軍の幹部たちである。彼らは選出されたという形を取っているが、党大会の代表が選んだのではない。政治局常務委員、政治局員が選抜したのだ。
 香港で刊行されている月刊誌、「動向」の5月号が明らかにした政府関係機関の調査によれば、この204人の中央委員のうち実に92%、187人の直系親族、総計629人が米国、カナダ、オーストラリア、欧州に居住し、中にはその国の国籍を取得している者もいるのだという。ニューヨークや米東海岸の諸州、そしてロンドンで高級住宅を扱う不動産業者の最大の顧客はここ数年、圧倒的に中国人であり、現金一括払いの最上得意となっている。党の最高幹部たちが自国民の目を一時でも眩(くら)ましたいのは、こうした事実からである。だからこそ、夫人の判決公判に先立って、尖閣上陸は必要不可欠となったのである。
 ところで、中国の権貴階級の人々がどうして海外に資産を移し、親族を米英両国に移住させるのかは、別に取り上げなければならない問題である。(とりい たみ)
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