知事も町長もどっぷり 玄海原発を巡る黒いカネ 川内原発 利権の構造 原発マネーは誰を潤しているのか 

2011-08-27 | 政治

知事も町長もどっぷり、玄海原発を巡る黒いカネ 原発マネーは誰を潤しているのか(前篇) 
 中願寺 純隆
JBpress2011.08.25(木)

 原発の是非について判断を下すのは誰か。答えはもちろん、この国の主権者たる「国民」のはずだ。しかし、現実には原発立地自治体の市町村長や知事にその権限が限定されているのが現状である。そこに法的根拠は、ない。
 東京電力福島第一原子力発電所の事故は、放射能被害が、想定された範囲を大きく超えることを証明しているが、これまで立地自治体以外の住民の声は原子力行政に生かされることがなかった。
 国内の原発は54基。営業運転を続けているのは15基である(本稿掲載時には調整運転中だった北海道泊原発3号機が営業運転を開始する見込みで、そうなれば16基となる)。定期点検のために運転休止中の多くの原発については、ストレステスト後に再稼働の判断が求められることになる。
 判断を下すのは、これまで通り立地自治体の首長らだが、原発を取り巻く地域ごとの事情を探っていくと、原発マネーで地域ごと買収するという「国策」の実相や、歪んだ地方政治の実態が見えてくる。
 電源三法交付金の恩恵を独占する首長一族、選挙における票や公約実現への協力で政治家を支える電力会社、そして電力会社の仕事で飯を食う企業による原発推進運動・・・。
 九州電力は、玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)と川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)の2つを擁しているが、背景を追って取材を重ねるほどに、報じられることのなかった原発立地自治体の姿が鮮明となった。
 福島第一原発の事故を経験したこの国で、原発の是非を「原発マネー」で潤ってきた地域の判断だけに委ねるのは間違いではないか。その疑問に答える一連の取材結果を2回にわたって掲載する。前半では玄海原子力発電所、後半では川内原子力発電所に焦点を当てる。
*「佐賀県一の貧乏地域」を変えた電源三法交付金
 佐賀県東松浦郡玄海町は人口約6500人。西側は玄界灘に臨み、北東側が唐津市に接する風光明媚な町である。町制に移行したのは1956(昭和31)年で、旧値賀村・旧有浦村の合併によって現在の町が形成された。
 この町が大きく変貌を遂げるのは、1960年代後半(昭和40年代初頭)に原子力発電所の建設計画が現実のものとなってからで、74年には九州電力玄海原子力発電所の1号機が、97年には4号機が営業運転を開始。2009年からは3号機でMOX燃料を使用した「プルサーマル」が実施されている。
 「佐賀県一の貧乏地域」(玄海町・60代男性)を変えたのは、電源三法交付金である。
 原発立地自治体は、国や電力会社にとって特別な存在で、優遇措置によって様々な恩恵を受けてきた。玄海町も同様で、電源三法(「電源開発促進税法」「特別会計法〔旧・電源開発促進対策特別会計法〕」「発電用施設周辺地域整備法」)による交付金(迷惑料とも言われる)で、上・下水道整備をはじめ「玄海町産業会館」「玄海町総合運動場」「玄海町町民会館」「玄海海上温泉パレア」など、人口6500人程度の町としては考えられない公共事業が次々と実現したほか、原発関連の雇用がもたらされた。
 その玄海町の町政トップは岸本英雄町長である。県議3期目に町長に転身し、現在2期目。全国で最初に原発再稼働に同意を与えた首長だが、同意表明後、ストレステストの実施が決まったことに加え、九電「やらせメール」が発覚。玄海原発に集まった再稼働に関する注目度は一時より低くなっている。それでも、玄海原発の今後に最も発言権を有していることに変わりはない。
 筆者が主宰する調査報道サイト「HUNTER」では、岸本町長に関する選挙違反まがいの町議への現金供与や、不動産にからむ疑惑を報じてきたが、カネにまつわるさらに醜い実態が明らかとなっている。
*岸本町長のファミリー企業「岸本組」
 玄海町が発注する公共工事は、電源三法による交付金の恩恵を受け、同規模の自治体とは比べものにならない件数となる。この同町の発注工事を半ば独占的に受注しているのが地場ゼネコン「岸本組」(佐賀県唐津市)である。
 岸本組は、岸本町長の曽祖父が1911(明治44)年に玄海町で創業。佐賀県、唐津市、玄海町といった自治体発注の公共工事を受注する一方、九電やその子会社の西日本プラント工業を得意先としている。西日本プラント工業は九電の子会社で、火力発電所・原子力発電所の設備設計や製作、関連工事を行うプラント企業だ。
 岸本組のホームページには「主な取引先」として国土交通省や自治体が並ぶが、民間企業は九電と西日本プラント工業だけ。玄海原発の事業者である九電と密接な関係にあることがうかがえる。事実、岸本組が受注した玄海原発関連の工事は少なくない。
 岸本組の社長は、岸本町長の実弟。町長自身も同社の大株主であることが分かっている。
<2009年度>
 町発注工事128件 → 岸本組受注件数19件(計5億6576万円)
<2010年度>
 町発注工事 99件 → 岸本組受注件数15件(計5億5493万7239円)
<2011年度>
 町発注工事 17件 → 岸本組受注件数3件(計6055万円)
 玄海町発注公共工事の15%を、岸本町長のファミリー企業である「岸本組」が受注しているという異常な状況なのだ。
*岸本町長に原発マネーが流れ込むカラクリ
 岸本町長が公約として掲げた「薬草研究所」の関連工事に至っては、岸本組独占の状況がさらに顕著だ。落札状況は次のとおりである。
 〈表、略=来栖〉
 岸本町長の公約の目玉とも言える「薬草園」関連工事では、町長の実弟が社長を務める「岸本組」が合計4億9320万円もの工事を受注している。その他、中山昭和・町議会原子力対策特別委員長の次男が経営する「中山組」が計7800万円の工事を落札していた。
 同事業は電源立地地域対策交付金(いわゆる原発交付金)や佐賀県核燃料サイクル補助金といった、いわゆる原発マネーで賄われているが、2社の受注金額合計は5億7120万円。同事業に費消された原発マネー7億6000万円(事業費の中の交付金充当額)の、実に75%を岸本組と中山組の2社で独占していたことになる。
 これが玄海町の実態である。
 一方、岸本町長は2009年、2010年の2年間で、保有していた岸本組株の一部を岸本組本体に引き取らせていた。売却益は800万円を超える。
 「原発交付金 → 玄海町 → 岸本組 → 岸本町長」といった原発利権の図式が出来上がる。玄海町の中で、最も原発マネーの恩恵を受けているのは他ならぬ町長の一族だったということだ。岸本町長が原発や九電を窮地に追い込むはずがない。
*古川知事の「最先端がん治療施設」構想を支える九電
 佐賀県の古川康知事についても同様の構図が見てとれる。
 九電は2010年4月、「佐賀国際重粒子線がん治療財団への寄附について」とする発表を行ったが、そこには<佐賀国際重粒子線がん治療財団並びに佐賀県のご要請に基づき、佐賀県が中心となって開設を進めている九州国際重粒子線がん治療センターの運営主体である、佐賀国際重粒子線がん治療財団へ下記のとおり寄附を申し込みました。>とある。
 寄附金額は、複数年度での分割で「39億7000万円」という巨額なものだった
 古川知事は、2期目を目指した2007年の知事選で、「がん治療の先端的施設の誘致」をマニフェストに掲げ、翌2008年には「九州国際重粒子線がん治療センター事業推進委員会」(委員長・古川知事)を立ち上げていた。事業推進委員には、当時九電会長の松尾新吾氏の名前も入っている。
 重粒子線治療は、がん治療の切り札として注目される治療法の1つで、がん組織を重粒子線を使ってピンポイントで破壊するため、これまで治療が難しかった頭頚部や体の深い部分にも有効である上、外科手術と違い痛みがないことや副作用が少ないなどの利点がある(ただし、すべてのがんに有効というわけではない)。
 「SAGA HIMAT」(サガ ハイマット)は、2007年から古川康佐賀県知事がマニフェストに明記した最先端がん治療施設(Heavy Ion Medical Accelerator in Tosu)の建設構想を具現化したものだ。
 2011年4月の知事選で古川知事が作成したマニフェストでは「7つの約束」を公表したが、冒頭で原発推進への強い姿勢を示すとともに、最先端がん治療施設「HIMAT」の整備を明記している。
 2月には九州国際重粒子線がん治療センターの建設工事がすでに始まっており、今回の知事選で争点になる事案ではなかったのだが、わざわざマニフェストの1項目に入れたところに知事の計画への執念を感じる。
 知事にとって「九州国際重粒子線がん治療センター「SAGA HIMAT」は、政治生命がかかる最重点施策なのだ。
 そして、その構想を支えるのが「九電」ということになる。
*九電から巨額の寄付金をもらって原発の是非を論じられるのか
 「SAGA HIMAT」計画の初期投資額は約150億円で、佐賀県が20億円の補助金を出すほか、民間からの寄附88億5000万円と出資金などの計41億5000万円で賄う計画だ。
 「佐賀国際重粒子線がん治療財団」のホームページには「寄附者一覧」として財団へ寄付をした企業や個人が掲載されている。九電の社名は見当たらないが、その代わりに九電産業株式会社、ニシム電子工業株式会社 株式会社九電オフィスパートナー、西日本技術開発株式会社、九電不動産株式会社、九州通信ネットワーク株式会社、株式会社電気ビルなど、九電の関連企業の社名がズラリと並ぶ(このうち数社は九電「やらせメール」事件でも登場している)。
 つまり、九電からの寄附「39億7000万円」と、同社の関連企業からの寄附は、必要とされる寄附金額の半分近くを占めることになり、同社抜きでは古川知事の最重点施策は成り立たないという仕組みだ。
 同財団が佐賀県鳥栖市に建設する「九州国際重粒子線がん治療センター」は、県と県医師会が設立した「佐賀国際重粒子線がん治療財団」が運営することになっているが、建物の建設・管理は、なんと九電が中心となって設立された「九州重粒子線施設管理株式会社」(そのほか九電工、久光製薬、佐賀銀行などが出資)が受け持つ。ここでも主役は九電である。
 知事の父親が九電の社員だったことや、九電役員からの献金、さらには「やらせメール」に代表される玄海原発再稼働をめぐる知事と九電のやり取りからも、両者の密接な関係は明らかだ。
 古川知事に、原発の是非を論じる資格があるのか──。答えは、もちろん否である。

鹿児島・川内原発が生み出す利権の構造 原発マネーは誰を潤しているのか(後篇)
 中願寺 純隆
JBpress2011.08.26(金)
 前回(「知事も町長もどっぷり、玄海原発を巡る黒いカネ」)は、玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)を巡る原発マネーの流れを追った。
 九州電力が有するもう1つの原発は、鹿児島県薩摩川内(さつませんだい)市に立地している川内原子力発電所だ。こちらは1号機の再稼働と3号機増設という2つの課題を抱えている。3号機増設を巡っては2010年、薩摩川内市議会、鹿児島県議会が3号機増設への「賛成陳情」を採択。市長や知事の増設への同意を支える形となった。
 ただし問題は、賛成陳情を提出した団体である。薩摩川内市議会へ賛成陳情を提出した35団体と、鹿児島県議会へ提出した48団体を以下に列挙してみる。
◎薩摩川内市議会へ「賛成陳情」を提出した35団体
・川内原子力発電所3号機建設促進期成会
 ・川内商工会議所
 ・鹿児島県料飲業生活衛生同業組合川薩支部
 ・薩摩川内市ホテル旅館組合
 ・太平橋通り商店街振興組合
 ・薩摩川内市電設協会
 ・川薩電気工事工業協同組合
 ・薩摩川内建築建友会
 ・鉄構工業会西薩支部
 ・鹿児島県印刷工業組合川薩支部
 ・鹿児島県建設業協会川内支部
 ・薩摩川内市の未来・展望を語る会
 ・鹿児島県タクシー協会川内支部
 ・(社)川内青年会議所
 ・Woman創ing
 ・川内川宮里グラウンドゴルフ同好会
 ・(社)鹿児島県環境保全協会川薩支部
 ・鹿児島県建設業協会甑島支部
 ・薩摩川内市危険物安全協会
 ・北薩造園業協会
 ・川内造園技術協会
 ・食を観る会
 ・川内商工会議所女性会
 ・薩摩川内市特産品協会
 ・薩摩川内地区安全運転管理協議会
 ・川内間税会
 ・(社)川薩法人会
 ・薩摩川内観光協
 ・川内ガス販売協同組合
 ・(社)鹿児島県産業廃棄物協会薩摩支部
 ・西薩クレーン協会
 ・薩摩川内市管工事業協同組合
 ・薩摩川内市商工会
 ・(社)川薩法人会女性部会
 ・入来建友会
◎鹿児島県議会へ「賛成陳情」を提出した48団体
・川内原子力発電所3号機建設促進期成会
 ・川内商工会議所
 ・薩摩川内市の未来・展望を語る会
 ・薩摩川内市ホテル旅館組合
 ・鹿児島県タクシー協会川内支部
 ・鹿児島県建設業協会川内支部
 ・太平橋通り商店街振興組合
 ・川薩電気工事工業協同組合
 ・鹿児島県印刷工業組合川薩支部
 ・薩摩川内建築建友会
 ・鹿児島県料飲業生活衛生同業組合川薩支部
 ・薩摩川内市電設協会
 ・(社)川内青年会議所
 ・薩摩川内市商工会
 ・Woman創ing
 ・薩摩川内地区安全運転管理協議会
 ・川内間税会
 ・(社)鹿児島県環境保全協会川薩支部
 ・入来建友会
 ・鹿児島県建設業協会甑島支部
 ・薩摩川内市危険物安全協会
 ・北薩造園業協会
 ・川内造園技術協会
 ・川内川宮里グラウンドゴルフ同好会
 ・食を観る会
 ・川内商工会議所女性会
 ・(社)川薩法人会
 ・(社)川薩法人会女性部会
 ・薩摩川内市特産品協会
 ・川内ガス販売協同組合
 ・(社)鹿児島県産業廃棄物協会薩摩支部
 ・西薩クレーン協会
 ・薩摩川内市管工事業協同組合
 ・薩摩川内観光協会
 ・川内食肉事業協同組合
 ・阿久根市観光協会
 ・阿久根市旅館組合
 ・阿久根建友会
 ・鹿児島県タクシー協会西薩支部
 ・出水電気工事工業協同組合
 ・鹿児島県料飲業生活衛生同業者組合
 ・阿久根市飲食店組合
 ・串木野市電設協会
 ・川薩電気工事工業協同組合
 ・串木野建築協会
 ・串木野緑地建設組合
 ・鹿児島県建設業協会日置支部
 ・いちき串木野市管工事組合
 薩摩川内市以外の団体を除くと、ほぼ同じ顔ぶれである。主力は建設や観光関連の業界団体となっている。
 陳情活動の中核となった「川内原子力発電所3号機建設促進期成会」の代表者は、鹿児島市に本社を置く「川北電工」の田中憲夫会長である。
 川北電工が鹿児島県に提出した工事経歴書によれば、2010年2月から2011年2月までの1年間で68件、約21億5000万円もの工事を九電から受注している。それ以前の数字を見ても、九電の仕事は川北電工が独占している状態だ。
 例えば、九電の「内外線配電委託工事」は川北電工が毎年受注しているが、2009年が約13億8400万円、2010年が約13億3600万円の契約金額となっている。まさに九電の子会社と言っても過言ではない。
 九電のカネに支えられた企業が、九電本体のために「3号機増設」の旗を振っているという構図は、どう見ても公平・公正とは思えない。
 陳情書提出団体を構成する企業の多くが、原発交付金や九電からの仕事によって恩恵を受けている。そうした意味では一部に利益が集中している佐賀県とは状況が異なるが、原発の安全性は二の次にして3号機増設を推進してきたことに変わりはない。
*原発マネーが絡む鹿児島県知事への疑惑の寄付金
 川内原発再稼働や3号機増設の鍵を握る伊藤祐一郎・鹿児島県知事も、原発マネーと無縁ではなかった。
 伊藤知事は、2期目を目指した2008年の知事選の際に、鹿児島県が特定公益増進法人の認定を出し、補助金を支給する財団法人「メディポリス医学研究財団」の理事長を務める永田良一・新日本科学社長から、寄附金として100万円を受け取っていたことが明らかとなった。
 調査報道サイト「HUNTER」が、鹿児島県選挙管理委員会で同選挙における伊藤知事の「選挙運動費用収支報告書」を閲覧して確認したもので、公職選挙法上の疑義が生じることに加え、贈収賄の疑いを持たれてもおかしくない事態だ。
 しかし、最大の問題は、県がメディポリス医学研究財団に支給した補助金が、原発立地県に交付される「放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金」を利用したもので、いわゆる原発マネーの1つだったことである。
 メディポリス医学研究財団は、2006年、新日本科学が中心となって設立され、鹿児島県指宿市で、鹿児島県などと「メディポリス構想」と呼ばれる総合的医療健康都市を推進する組織だ。
 同財団が運営する中核施設「がん粒子線(陽子線)治療研究センター」の108億円に及ぶ事業資金には、鹿児島県からの計24億円あまりの補助金や、粒子線がん治療研究施設等整備資金による約20億円の貸付などが充てられている。
 鹿児島県が財団に補助金として支給した計24億円は、文部科学省予算のうちの「エネルギー対策特別会計(電源開発促進勘定)」による「放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金」を原資としている。つまり、原発マネーということになる。
 県が財団に与えた利益と知事選への資金提供との関係に持たれる疑念。その裏には原発マネーという原資があったのである。
*建設・土木業界に浸透している原発交付金
 県議、市長にも原発マネーの影が忍び寄っている。
 「賛成陳情」を採択した鹿児島県議会の外薗勝蔵(ほかぞの・かつぞう)議員については、2011年4月に行われた県議選で、県の出先である北薩地域振興局から公共工事を受注している建設業者から無償で車両を借り上げ、「選挙運動費用収支報告書」に建設会社側からの「寄附」として記載していたことが判明した。
 地方自治体からの請負契約の当事者に、当該自治体の議員選挙に関する寄附を禁じている公職選挙法に抵触する疑いが生じている。
 寄附を行った形となっているのは、外薗県議のファミリー企業「外薗建設工業」だ。同社の外薗達蔵社長は、前述の3号機増設への賛成陳情を提出した「西薩クレーン協会」の代表者でもある。
 同じく外薗県議のファミリー企業「外薗運輸機工」の外薗輝蔵社長は「(社)鹿児島県産業廃棄物協会薩摩支部」の支部長で、この団体も賛成陳情を提出していた。
 外薗建設工業と外薗運輸機工が、電源立地地域対策交付金を使った公共事業を受注していたことも分かっている。
 外薗建設工業は2007年度に458万円、2008年度に310万2000円を、外薗運輸機工が2008年度に1255万5000円と676万2000円の公共工事を薩摩川内市から受注していた。いずれも原発交付金を原資とするものだ。
 さらに、外薗運輸機工は、九電やその子会社の西日本プラント工業からも受注実績があるほか、鹿児島県知事に理事長が100万円の選挙資金を提供していた「メディポリス」関連工事も受注している。
 薩摩川内市の岩切秀雄(いわきり・ひでお)市長についても、2008年10月に行われた薩摩川内市長選挙の直前に、毎年同市の公共工事を受注している建設会社「宇都組」の社長から、「いわきり秀雄後援会」が献金を受けていたことが明るみに出た。
 「宇都組」は、薩摩川内市発注工事を請け負ってきたほか、2009年度に鹿児島県から、電源立地地域対策交付金を原資とする公園整備工事(契約金額179万2000円)を受注している。
 原発交付金は様々な業界に広く浸透し、原発の是非を判断する政治家たちに還流しているのである。
*問われるメディアの不作為
 立地自治体の政治家に原発の是非を論じる資格があるとは思えないが、報道するメディア側も五十歩百歩だ。
 原発の背景を調べ歩くたびに感じるのは、大手メディアの不作為とも言える現状である。例えば、「HUNTER」は、玄海町長や佐賀県、さらには鹿児島県の政治家たちの政治資金収支報告書や選挙運動費用収支報告書から様々な疑惑を見つけ出してきたが、行く先々の役所で異口同音に発せられるのは、「これまで(こうした書類を)見に来た記者はいなかった」というもの。
 つまり、大半の大手メディアは、原発に絡む政治家の一挙手一投足を追うばかりで、肝心の「背景」については満足に検証すらしていなかったということだ。
 「やらせメール」事件に絡み、九電幹部らとの会談で語った内容を記したメモが暴露された古川康・佐賀県知事だが、「ニュアンスが違う」などとして完全に開き直ってしまった。
 知事の周辺取材に多くの記者たちが送り込まれているが、ここに滑稽な事実が存在する。
 お盆休み直前、知事らの「選挙運動費用収支報告書」を閲覧するために佐賀県庁の選挙管理委員会(選管)に出向いた。すると、選管の職員が「県庁記者会」(いわゆる記者クラブ)と話をつけた方がいいと言い出した。
 佐賀では長年、選管が選挙の要旨を作成して、記者へのレクチャーが終わった後に取材が行われている。要旨が作成されてレクチャーが終わるまでの数カ月間はどの社の記者も報告書の閲覧を行わないのだという。現実に、記者会に所属する記者は、8月12日の時点までは1人として知事の選挙運動費用収支報告書を閲覧していなかったようだ。
 これだけ佐賀県知事の動向や九電との関係が注目される中、「県庁記者会」の方々は、知事のカネの動きさえ調べようとしていなかったことになる。
*原発の是非を判断するのは「国民」である
 念のため、記者会の幹事社(この時は読売新聞)に、県による要旨公表まで閲覧等を見合わせる「申し合わせ」でもあったのかどうか確認したが、それはないと言う。
 それにもかかわらず幹事社の記者が「前もって見られるわけではない」「公表されるまでは見られないんじゃないですか」と言うので、筆者はそれが明らかな間違いであることを指摘した。
 公職選挙法は、選挙運動費用収支報告書を当該選管が受理した日から「報告書の閲覧を請求することができる」と規定しており、県選管の公表意思とは関係がない。報告書の提出期限である選挙の執行日から15日目には報告書の閲覧が可能なのだ。
 選管による要旨の公表以後にしか閲覧できないのは、政治資金規正法による政治団体の「政治資金収支報告書」の方で、この記者氏は2つの報告書を混同しているとしか思えない。そうでなければただの怠慢である。
 ろくに制度も知らない割には「なんで知らないんだ、という言い方されるからカチンときた」と一人前の口上を述べられたが、新聞記者の質が落ちたことを残念に思う一方、改めて記者クラブの弊害を示してくれた出来事だった。
 原発の「安全神話」を作ってきたのは国と電力会社だけではない。大手メディアにもその責任の一端があったことは否定できない事実だ。そして福島第一原発の事故後、各地の原発の背景を描ききれていない現実も存在する。
 メディアに課せられた使命は、原発の立地自治体やその周辺が抱える問題点を明らかにし、原発の是非を判断するのが「国民」であることを周知せしめることだ。メディアの不作為で、この国の進むべき道を誤らせるようなことがあってはならない。
<筆者プロフィール>
中願寺 純隆 Sumitaka Chuganji
 福岡市を拠点にする調査報道サイト「HUNTER」の代表者。政治の世界から報道へ転じ、地元メディア在籍時から独特の切り口の調査報道で報道各社の記者を唸らせ続けてきた。2011年3月10日にスタートした「HUNTER」は原発関連記事でスクープを連発。同サイトの報道を新聞各紙が追う状況が続いている。「報道は権力に対する番犬たれ」がモットー。
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