「手話は言葉」との認定は評価できるが、手話の障害程度が軽視されたのは不満

2009-11-26 | 社会
名古屋地裁「手話は言葉」認める 交通事故後遺障害で賠償命令
中日新聞2009年11月26日 朝刊
事故のため手首が返らず小指が曲がりにくくなった左手を使い、ままならない手話で記者会見する大矢貴美江さん=25日午後、名古屋司法記者クラブで
 交通事故で手話が不自由になったのを言語障害に相当すると認めないのは不当として、聴覚障害のある名古屋市の主婦大矢貴美江さんが加害者の男性に約2600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、名古屋地裁であった。徳永幸蔵裁判官は「意思疎通の手段として聴覚障害者の手話は健聴者の言葉に相当する」と訴えの一部を認め、男性に約1200万円の支払いを命じた。
 原告代理人の田原裕之弁護士によると、手話を後遺障害の対象とみるかどうかを争った訴訟は前例がない。賠償額の内訳は後遺障害慰謝料420万円、慰謝料150万円、休業損害375万円、治療費117万円など。
 徳永裁判官は手話の言語障害認定について「意思疎通が可能かどうか、手話能力がどの程度失われたかを個別的に判断するのが相当」との見解を示した。
 大矢さんは事故による骨折の後遺症で左手首が返らず、左手小指も折り曲げにくくなり、さまざまな表現が不自由に。ただ、大矢さん側が「手話能力は従前の6割程度に落ちた」と自賠責保険での後遺障害等級が6級(67%程度の喪失)と主張したのに対し、徳永裁判官は「利き手の左手の指や右肩の関節などの可動域が狭くなり、14%程度が失われたと認められるが、意思疎通はできており著しい障害とまで言えない」と判断した。
 判決によると、大矢さんは2004年7月29日夜、横断歩道を歩いていて、右折してきた男性の乗用車にはねられた。男性側の損保会社は後遺障害について右肩や左手の運動障害のみに限定し、等級を11級と評価。これに対し大矢さん側は運動障害については争わず、言語障害を別途認めるよう求めていたが、損保は「手話への影響は等級で区分できず、言語障害ではない」と退けていた。
 被告側の代理人弁護士は「判決文を精査して対応を検討する」と述べた。損保各社でつくる損害保険料率算出機構(東京)広報グループは「個別の判決についてコメントはしない」と話した。
◆低い評価には不満
 事故後に大矢さんの手話障害を鑑定した原大介・愛知医大教授(手話言語学)の話 言語障害に相当すると認定したのは評価できるが、失われた手話言語能力が低く評価された印象だ。音声言語の機能障害は発音できなくなった子音の数で評価されるのに、判決は(表現力が落ちても)意思疎通ができるかどうかを判断材料に加えており、この点については不当だ。
◆原告女性「喜ばしい」
仲間と抱き合う
 不自由になった手話を、言語障害と同じように扱うのが相当と示した判決。支援者らと感動を分かち合った大矢さんは、思うように動かない両腕で「本当に喜ばしい判決をいただいた」と語りながら、目を潤ませた。
 大矢さんと夫達哉さん(42)が訴訟に踏み切ったのは、手話の後遺障害を認めない損保側のひと言がきっかけだった。「手話は嗜好(しこう)的なものだから」。達哉さんは「手話は聴覚障害者が生きていくのに重要な機能。これだけは譲れなかった」と振り返り、「今まで泣き寝入りしてきた人も多いと思う。今回の判決がいい先例になれば」と満足そうに話した。
 名古屋地裁前では聴覚障害者団体や手話サークルのメンバーら約40人が大矢さんと握手したり抱き合ったり。10年来の友人で同じように聴覚障害がある名古屋市北区の三谷育子さんは手話で「今まで聴覚障害者はこうした事故があっても訴えたことはなかった。(この判決を)全国にアピールしたい」。
 一方、手話の障害程度が主張より軽視された点で不満も。大矢さん側は、腕や指などの関節機能を数値化した検査結果を示して「6割程度の低下」を主張。これに対し判決は、相当する等級を示しながら障害の詳細な数値評価を避けた。原告代理人の田原裕之弁護士は「首をかしげざるを得ない」と残念がった。

1 コメント

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保険会社の名前を公表してほしい (Unknown)
2009-12-17 18:51:28
「手話は嗜好的なものだから」という言葉は本当にひどい言葉だと思います。
(これは、任意保険の話でしょうか? 自賠責保険(任意保険未加入)の話でしょうか?)
自動車保険などは事故が起きたときのために長い期間にわたって加入するものですが、
事故が起きたときにきちんと誠意をもって対応する保険会社かこのようなことをする保険会社か
事故を起こすまでは分かりにくいです。
そして事故を起こしたたときにひどい、また役に立たない保険会社であったことが分かっても遅いです。
例え自分が加害者になったときにさえ、相手(被害者)の人にこのようなことを言う保険会社には
入りたくありません。
(事故の被害者にさらに精神的苦痛などを与えることになりますし、
(保険会社が払わない分を自分で払ったり、) 訴訟が起き被告になることもあります。)
マスコミなどは保険会社の名前をしっかり公表してほしいと思います。
(「損保各社でつくる損害保険料率算出機構」も被告(保険会社側)に賛同(?)しているので、
どこの保険会社でもこうなのでしょうか。)
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