風雲TPP(下)海外に活路探る経団連/韓国は米国とのFTAで農業分野の大幅譲歩を余儀なくされ

2011-10-31 | 政治

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風雲TPP:/下 海外に活路探る経団連
 ◇「推進の世論」お膳立て
 「国を開くことをやめて繁栄した国はない」。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の推進派団体「TPP交渉への早期参加を求める国民会議」が26日、東京都内で開いたシンポジウム。代表世話人の伊藤元重東大教授ら学識者、農業法人の経営者、労働組合の幹部など約400人が参加し、口々にTPPの必要性を訴えた。
 推進の世論を盛り上げるためにお膳立てしたのは経団連。だが、米倉弘昌会長は姿を見せず、出席した幹部も目立った発言を控えた。野田佳彦首相がTPP交渉参加に前向きな姿勢を示す一方、農業団体の反対運動が活発化する中、「推進の先頭に立ってきた経団連が最終段階で前面に出ると余計な反発を買いかねない」との思惑があった。
 経済界がTPP交渉参加を求めるのは、自動車などで日本と海外シェアを競う韓国が米国や欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)で先行したためだ。歴史的な円高に見舞われる中、米欧での韓国車の関税引き下げは、日本の自動車業界に痛手だ。
 韓国とEUのFTAは7月に発効し、EUでの韓国車の関税は従来の10%から7%に引き下げられた。ウォン安も追い風に9月の欧州市場での韓国メーカーの新車販売台数は現代自動車が前年同月比18%増、起亜自動車が27%増と好調。一方、トヨタ自動車は9%減、ホンダは14%減と苦戦を強いられた。日本自動車工業会の志賀俊之会長は「欧州のディーラーの関心は勢いのある韓国車」と嘆く。
 日本車メーカーは現地生産化を進めてきたが、昨年の輸出台数は483万台と国内生産の半分を占める。韓国車の関税は、EUで5年以内にゼロとなり、米国でも年明けと見込まれるFTA発効から5年後に現行の2・5%が撤廃される。経団連は「TPPに参加しなければ、生産拠点をTPP参加国に移転せざるを得なくなる恐れがある」と国内の雇用喪失など産業空洞化に警鐘を鳴らしてきた。
 経済界の懸念は関税だけでない。TPPの電気通信分野では、電子書籍やスマートグリッド(ITで電力需給を制御する次世代送電網)などの成長分野で国際的に公平な競争を確保するためのルールが議論されている。経団連幹部は「ルールづくりに加わらなければ、日本はTPP参加国の市場で不利な立場に追いやられかねない」と指摘する。
 日本医師会が企業の病院経営参入を警戒する医療分野では日本企業が海外進出に動く。三井物産は5月、約900億円を投じてマレーシアの病院グループの株式の30%を取得した。投資先はインドなどに展開し、中国進出も目指す。三井物産は「医療需要拡大が見込まれるアジアは有力市場」と説明。海外では病院経営で企業参入を認める国が多く、日本の経済界には「厳しい規制が残ったままでは閉鎖性を批判されかねない」との声もある。
 日本はデフレや人口減で市場規模が縮小し、企業は海外に活路を探る。首相がTPP参加に前向きなのも「高いレベルの経済連携が成長に不可欠」との認識からだ。だが韓国は米国とのFTAで農業分野の大幅譲歩を余儀なくされ、関税撤廃の例外にできたのはコメぐらい。TPPはさらに厳しい「関税の原則撤廃」を掲げ、首相は「農業再生との両立」をうたうが、道筋は描けていない。11月12、13日のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を目前に控えても、賛否は割れ、首相の指導力が問われている。
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 この連載は、小山由宇、福岡静哉、野口武則、青木純、川口雅浩、野原大輔、久田宏、米川直己、和田憲二が担当しました。
毎日新聞 2011年10月27日 東京朝刊

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記者の目:TPP交渉参加は本当に必要か=位川一郎
 ◇輸出依存戦略もう見直す時だ
 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉参加問題が大詰めを迎えた。政府は、「アジア太平洋の成長を取り込む」として参加を決めたいようだ。しかし、これ以上海外に依存した成長を目指す戦略は間違っていると私は考える。国民の大多数にとって、TPPのリスクは大きく、メリットはわずかだろう。野田佳彦首相が参加を思いとどまってくれることを願う。
 ◇農業、医療などリスクが大きい
 TPPについて、慎重派は多くのリスク、問題点を挙げている。関税撤廃で打撃を受ける農業のほか、▽「混合診療」の全面解禁や株式会社の参入で公的医療保険が縮小する▽遺伝子組み換え作物の表示、残留農薬などの食品の基準が緩められる▽公共事業の発注ルールや日本郵政の簡易保険への影響--などだ。
 農業以外の懸念に対し、政府は「交渉対象になっていない」などと説明するが、楽観的すぎる。9カ国のこれまでの交渉で議論されなかったテーマも、日本が加われば取り上げられる可能性があるだろう。慎重派が指摘する項目の多くは、過去に米国が「年次改革要望書」などで日本に要求したものだからだ。また、理不尽な要求は拒否するといっても、国際交渉で主張がすべて通るはずがない。TPPへの不安は、実体のない「TPPおばけ」(前原誠司民主党政調会長)ではないのだ。
 影響を受けるのは日本だけではない。TPP加盟国は、ビジネスの「障壁」を除くために国内規制の緩和を求められる。他国でも、医療や食品安全に関する日本の規制のように国民生活に不可欠なものが、緩和対象に含まれるかもしれない。推進論者は「アジア太平洋のルールづくりに日本がかかわるべきだ」と声をそろえるが、誰のためのルールなのかと問いたい。
 そもそも、輸出や海外進出に依存した経済成長はもはや国民を幸福にしないのではないか。輸出主導で景気が回復した03~07年度の間に、企業の経常利益は48%増え、株主への配当金は94%増えた(財務省の法人企業統計)。しかし、同じ期間に労働者の賃金は0・3%下がった(厚生労働省の毎月勤労統計)。輸出企業が、新興国などの安い製品と競争するために人件費をカットしたからだ。
 経済連携を広げ輸出と対外投資を増やしても、利益を得るのは輸出企業とその株主だけで、賃金と雇用は増えない構造と言える。松原隆一郎東大教授は、輸出企業が「国内を牽引(けんいん)するのでなく、切り捨てた」と指摘している(農文協「TPPと日本の論点」)。
 ◇内需を重視し地域自立型に
 むしろ、中長期的な政策の方向としては、国内の需要に注目することの方が重要だろう。供給過剰(需要不足)の日本経済だが、環境、自然エネルギー、福祉、食などのように、供給が足りない分野はまだ多い。むやみに海外へ販路を求める前に、国内で必要な製品・サービスが十分に提供され、雇用も確保される経済が望ましい。同時に、税などを通じた所得再配分で格差を是正すれば、中間層の厚みが戻り、個人消費が増え、景気回復の力にもなる。
 特に、グローバル化の対極にある「地域」の役割はもっと評価されていい。原発やショッピングセンターに象徴される外部からの大規模投資は、あちこちで地域の自立を損ない、コミュニティーを破壊し、人と人の絆など国内総生産(GDP)の数字に表れない便益が失われた。もう一度、地場の企業や自治体などが主役になって、身近なニーズに応える自立経済を築いてほしい。その際、経済評論家の内橋克人氏が提唱する「FEC自給圏」、つまり、食料(Food)、エネルギー(Energy)、福祉(Care)の自給という考え方が指針になるだろう。
 貿易には資源を浪費し地球環境に悪影響を与えるというマイナス面があることも、忘れてはならない。食品の遠距離輸送が大量の化石燃料を消費することを示す「フードマイレージ」という言葉が知られているが、同じ問題はあらゆる物品に存在する。また、消費者は生産地が遠いほど、そこで起きる資源・環境問題を実感しにくい。例えば、日本などに向けた穀物の生産で米国中部の地下水層が細っていることを、日本の消費者はあまり知らない。安く輸入すればそれでハッピーなのか、改めて考えるべきだ。
 「鎖国」の勧めを述べているのではない。日本の関税率は一部を除いて低く、海外からの投資も原則自由。経常収支は約17兆円もの黒字(10年)だ。既に国は開かれ、海外からの果実も十分得ている。言いたいのは、もっと自国の足元を見つめようということだ。                    (東京地方部)
毎日新聞 2011年10月27日 0時18分(最終更新 10月27日 8時43分)

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