<秤の重み 裁判員制度10年> ④遺族 簡潔な審理に違和感 2019/5/19

2019-05-20 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

<秤の重み 裁判員制度10年> ④遺族 簡潔な審理に違和感 

2019/5/19 朝刊

 公判で被告は最後まで遺族の方を向いて頭を下げることはなかった。判決は無期懲役。裁判員らが下した結論に、被告側、検察側双方は控訴せず、確定した。あれから六年。謝罪の手紙もない。

 幼稚園教諭だった妹の洋子さん=当時(40)=を強盗殺人で亡くした松井克幸さん(54)=岐阜県瑞浪市=は、今も違和感をぬぐえないでいる。「被害者・遺族はもとより、被告も軽視され、反省する材料を得られなかったのでは」

 2013年1月に始まった審理は、進行計画が休憩を含めて分単位で決められ、罪状認否から被告人質問、論告と、粛々と進んだ。被告は強盗目的と殺意を否認し、無期懲役が求刑された。

 強盗殺人罪の法定刑は無期懲役か死刑のみ。松井さんは死刑を望んだが、裁判は初めから無期懲役という「答えありき」で進められた気がしてならない。

 一般市民が参加する裁判員裁判では、裁判員に負担がかからないよう、分かりやすい審理を集中して行う必要がある。そのため法曹三者による公判前整理手続きが開かれ、初公判までに審理日程や争点、採用する証拠を決める。そこでは、有罪無罪や量刑を決めるのに必要がないと判断された証拠は採用されない。

 手続きに被害者・遺族は参加できないとされている。松井さんは代理人の弁護士を通じて中身を知ろうとしたが、詳細は分からなかった。

 法廷で自ら意見陳述もした。持ち時間は検察官の尋問と併せて30分。事前に検察官から「証拠にない質問はしないで」と注意された。本当は殺意があったのではないか、などと自らの言葉で確かめたかったが、言いたいことは全く言えなかった。犯行の残虐さを知ってもらうため、遺体の写真を証拠として取り上げてもらいたかったが、採用されなかった。「裁判員への配慮」だったと判決後に聞いた。

 「あまりにも裁判員が主役になっているのでは。証拠とならないものであっても、全ての事実が明らかにならないと、遺族の後悔はなくならない」。松井さんはそう考えている。

 同じような思いは、以前の刑事裁判を経験した遺族も抱いている。少年3人らが男性4人を殺害した「木曽川・長良川連続リンチ殺人事件」の遺族の一人、江崎恭平さん(74)=愛知県一宮市。被害者支援の一環として裁判員裁判をいくつか傍聴する中で、被害者にとって裁判が「薄っぺらい」ものになってしまったと感じている。

 リンチ殺人の裁判は1審で6年、最高裁で3人の死刑が確定するまで事件から17年かかった。江崎さんは150回近い公判を傍聴し、必死でメモを取った。殺害された息子の正史さん=当時(19)=が「自分はいいから他の人は逃がして」と語ったことを傍聴席で聞いた。つらかったが、息子の最期の言葉を聞けてよかった。しかし、裁判員裁判では、被害者のそうした言葉は犯罪事実の認定に関係ないと判断され、公判前に「整理」されかねない。

 「長かったけど、知りたいことは全部聞けた。詳細を知って受け入れることは被害者が回復する大きな鍵になるんです。自分は裁判官に裁いてもらってよかった」

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)

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木曽川・長良川連続リンチ殺人事件 2011/3/10最高裁判決 〈2011/3/30判決訂正申立て棄却〉

木曽川長良川リンチ殺人事件 

木曽川・長良川連続リンチ殺人事件 2011/3/10最高裁判決 〈2011/3/30判決訂正申立て棄却〉


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