逮捕業者からの「疑惑の献金」が連続して発覚する野田首相政治団体の根源的問題
現代ビジネス「ニュースの深層」2012年02月02日(木)伊藤 博敏
またも! というべきだろう。
暴力団関係者に車の名義を貸して逮捕された千葉県の冠婚葬祭業者が、2005年以降、野田佳彦首相の政治団体に152万円を献金していたことが発覚した。
野田首相の事務所は、1月31日、献金額を明らかにしたうえで、「報道以上のことは知らない」といいつつ、「逮捕という事実を受け止めて全額返金した」という。
最近、このパターンが続いている。
07年、「野田よしひこ後援会」が政治資金パーティーを開催、その際、元暴力団員の男がオーナーを務めるメディアトゥエンティワン(M21)グループが、80万円分のパーティー券を購入していた。M21グループは、05年5月、東京地検特捜部に2億3600万円を脱税していたとして摘発を受け、オーナーは逮捕されていた。
また同じ脱税容疑で、11年6月、ソフト開発大手のソフトウェア興業社長が、1億1300万円の法人税法違反で逮捕されたが、社長らは首相が代表を務める「民主党千葉県第4区総支部」に、2年で計50万円を政治献金していた。
さらに、11年に品川美容外科グループの医師が、脂肪吸引手術を受けた女性を死亡させたとして逮捕起訴され、さらに同グループに就職していた警視庁OBに、現役の捜査一課刑事が捜査資料を渡すという"オマケ"までついて話題になったが、首相の資金管理団体「未来クラブ」には、同グループ創業者が、08年から10年までの3年間で300万円を献金していた。
「疑惑の献金」の額は少ない。
自民党政権下の政治資金規正法違反事件といえば、数千万円単位、時には「億」を超えていた。そんなスケールから考えると小さく、細かい。
無理もない。
亀井静香、小沢一郎、中川秀直といった与党を経験のベテラン政治家には、人脈、金脈がすでに確立されており、広範なネットワークによって、数億円が集まるシステムになっている。
ところが野田首相は、松下政経塾を出たという経歴しか持たないプロ政治家で、野党暮らしが長かったので利権を確立していない。それは政治資金収支報告書でも明らかだ。
首相には、千葉県選挙管理委員会届け出の「未来クラブ」、「民主党千葉県第4区総支部」「野田よしひこ後援会」の三つの政治団体がある。このうち「野田よしひこ後援会」は、パーティーの時以外に政治資金の受け皿にはなっておらず、直近の2010年は、「未来クラブ」で1159万円を、「民主党千葉県第4区総支部」で1858万円を集めた。
さらに詳細を眺めると、そのうち民主党本部からの政党助成金が1000万円で、民主党千葉県総支部連合会から110万円。つまり、それを除く「自力の政治献金」は、約1900万円である。
「つましい」という印象で、政治資金収支報告書には1万円、2万円といった小額の個人寄付が並び、「政治にカネをかけていない」という意味では好ましい。
だが、そこに陥穽があるのではないか。大口献金は、遠慮なく受け入れており、政治家にカネを払って近づく人間には、それなりの"思惑"があることを顧慮していない。
「疑惑の献金」はそれなりの重みを持つ。
例えば直近の10年では、「民主党千葉県第4区総支部」の法人献金は450万円で、そのうち30万円が、今回、社長の林芳樹容疑者が逮捕された冠婚葬祭のセレモ(本社・千葉県船橋市)だ。
また、10年の「未来クラブ」は1156万円のすべてが個人献金で、1万円がズラリと並ぶなかに、品川美容外科創業者の100万円の寄付は際立つ。
野田首相は、「疑惑の献金」が報じられ、国会で「新爆弾男」の西田昌司・自民党参院議員がM21グループオーナーの元暴力団関係者との関係を質すと、「名前と顔が一致しない」とはぐらかした。品川美容外科やソフトウェア興業の時は、「献金の事実を知らなかった」といい、今回の献金も「報道以外に知らない」と逃げた。
だが、前述のように、野田首相は資金力豊かな政治家ではない。大口献金についての報告は受けているハズだし、もし知らなかったとしたら、「疑惑の発覚時」を想定、あえて知らなかったことにしているのではないか。
しかし、それは通らない。
冠婚葬祭業のセレモグループは、売上高200億円近い船橋市の有力企業で、船橋市を地盤にする県議出身の野田首相が知らないわけはない。
そして、船橋といわず千葉県の政財界では次のようなことが周知の事実なのである。
「セレモを創業した林泉会長といえば、清濁併せのむ大物経済人。自民党とも民主党とも付き合うし、暴力団との関係も厭わない。地元の広域暴力団の事業には、グループ企業を通じて関与。今回の事件は、車の名義貸しという"微罪"で息子の勇樹社長を逮捕したが、狙いはセレモと反社会的勢力との関係解明にある。だから、千葉県警暴力団担当の捜査4課が摘発した」(千葉県警関係者)
折しも、暴力団排除条例は、暴力団との関係遮断を狙うもので、今回の逮捕によって、林父子は「密接交際者」と認定される可能性もある。
そうした実態を知りつつ、野田首相と野田事務所は、献金を受け続けてきた。そこに、「来るものは拒まず」という感覚があるのなら、暴排条例を通じて、交際相手の選別をすべての国民に押し付ける「政府の責任者」としての自覚がなさ過ぎる。
大きな利権の人ではないが、「政治とカネ」の問題は、この首相にもつきまとっている。
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◆ 【政治家の金銭感覚】 田中良紹の「国会探検」
田中良紹の「国会探検」
政治家の金銭感覚
強制起訴された小沢一郎氏の裁判でヤマ場とされた被告人質問が終った。法廷でのやり取りを報道で知る限り、検察官役の指定弁護士は何を聞き出したいのかが分からないほど同じ質問を繰り返し、検察が作り上げたストーリーを証明する事は出来なかった。
検察が起訴できないと判断したものを、新たな事実もないのに強制起訴したのだから当たり前と言えば当たり前である。もし検察が起訴していれば検察は捜査能力のなさを裁判で露呈する結果になったと私は思う。従って検察審査会の強制起訴は、検察にとって自らが打撃を受ける事なく小沢一郎氏を被告にし、政治的打撃を与える方法であった。
ところがこの裁判で証人となった取調べ検事は、証拠を改竄していた事を認めたため、強制起訴そのものの正当性が問われる事になった。語るに落ちるとはこの事である。いずれにせよこの事件を画策した側は「見込み」が外れた事によって収拾の仕方を考えざるを得なくなった。もはや有罪か無罪かではない。小沢氏の道義的?責任を追及するしかなくなった。
そう思って見ていると、権力の操り人形が思った通りの報道を始めた。小沢氏が法廷で「記憶にない」を繰り返した事を強調し、犯罪者がシラを切り通したという印象を国民に与える一方、有識者に「市民とかけ離れた異様な金銭感覚」などと言わせて小沢氏の「金権ぶり」を批判した。
しかし「記憶にない」ものは「記憶にない」と言うしかない。繰り返したのは検察官役の指定弁護士が同じ質問を何度も繰り返したからである。そして私は政治家の金銭感覚を問題にする「市民感覚」とやらに辟易とした。政治家に対して「庶民と同じ金銭感覚を持て」と要求する国民が世界中にいるだろうか。オバマやプーチンや胡錦濤は国民から庶民的金銭感覚を期待されているのか?
政治家の仕事は、国民が納めた税金を無駄にしないよう官僚を監督指導し、国民生活を上向かせる政策を考え、謀略渦巻く国際社会から国民を守る備えをする事である。そのため政治家は独自の情報網を構築し、絶えず情報を収集分析して対応策を講じなければならない。一人では出来ない。そのためには人と金が要る。金のない政治家は官僚の情報に頼るしかなく情報で官僚にコントロールされる。官僚主導の政治が続く原因の一つは、「政治とカネ」の批判を恐れて集金を自粛する政治家がいる事である。
今月から始まったアメリカ大統領選挙は集金能力の戦いである。多くの金を集めた者が大統領の座を射止める。オバマはヒラリーより金を集めたから大統領になれた。そう言うと「清貧」好きな日本のメディアは「オバマの金は個人献金だ」と大嘘を言う。オバマが集めたのは圧倒的に企業献金で、中でも金融機関からの献金で大統領になれた。オバマは150億円を越す巨額の資金を選挙に投入したが、目的は自分を多くの国民に知ってもらうためである。そうやって国民の心を一つにして未来に向かう。これがアメリカ大統領選挙でありアメリカ民主主義である。政治が市民の金銭感覚とかけ離れて一体何が悪いのか。
スケールは小さいが日本の政治家も20名程度の従業員を抱える企業経営者と同程度の金を動かす必要はある。グループを束ねる実力者ともなれば10億や20億の金を持っていてもおかしくない。それが国民の代表として行政権力や外国の勢力と戦う力になる。その力を削ごうとするのは国民が自分で自分の首を絞める行為だと私は思う。
日本の選挙制度はアメリカと同じで個人を売り込む選挙だから金がかかる。それを悪いと言うから官僚主義が民主主義に優先する。それでも金のかからない選挙が良ければイギリス型の選挙制度を導入すれば良い。本物のマニフェスト選挙をやれば個人を売り込む必要はなく、ポスターも選挙事務所も街宣車も不要になる。「候補者は豚でも良い」と言われる選挙が実現する。いずれそちらに移行するにせよ今の日本はアメリカ型の選挙なのだから金がかかるのをおかしいと言う方がおかしい。
ところで陸山会事件を見ていると1992年の東京佐川急便事件を思い出す。金丸自民党副総裁が東京佐川急便から5億円の裏献金を貰ったとして検察が捜査に乗り出した。捜査の結果、献金は「金丸個人」ではなく「政治団体」へのもので参議院選挙用の陣中見舞いである事が分かった。しかも既に時効になっていた。要するに検察が描いたストーリーは間違っていた。
ところが検察はメディアを使って「金丸悪玉」イメージを流した後で振り上げた拳を下ろせなかった。しかし金丸氏を起訴して裁判になれば大恥をかくのは検察である。検察は窮地に立たされた。そこで検察は取引を要求した。略式起訴の罰金刑を条件に、検察のストーリー通りに献金の宛先を「金丸個人」にし、献金の時期も時効にならないよう変更しろと迫った。「拒否すれば派閥の政治家事務所を次々家宅捜索する」と言って脅した。その時、小沢一郎氏は「裁判で検察と徹底抗戦すべし」と進言した。法務大臣を務めた梶山静六氏は検察との手打ちを薦めた。この対立が自民党分裂のきっかけとなる。
金丸氏が取引に応じた事で検察は救われた。そして金丸氏は略式起訴の罰金刑になった。しかし何も知らない国民はメディアの「金丸悪玉説」を信じ、余りにも軽い処罰に怒った。怒りは金丸氏よりも検察に向かい、建物にペンキが投げつけられ、検察の威信は地に堕ちた。検察は存亡の危機に立たされ、どうしても金丸氏を逮捕せざるを得なくなった。
総力を挙げた捜査の結果、翌年に検察は脱税で金丸氏を逮捕した。この脱税容疑にも謎はあるが金丸氏が死亡したため解明されずに終った。世間は検察が「政界のドン」を追い詰め、摘発したように思っているが、当時の検察首脳は「もし小沢一郎氏の主張を取り入れて金丸氏が検察と争う事になっていたら検察は打撃を受けた」と語った。産経新聞のベテラン司法記者宮本雅史氏の著書「歪んだ正義」(情報センター出版局)にはそう書かれてある。
小沢一郎氏は金丸氏に進言したように自らも裁判で検察と徹底抗戦する道を選んだ。検察は土地取引を巡って小沢氏が用立てた4億円の原資に水谷建設から受け取った違法な裏金が含まれているというストーリーを描き、それを隠すために小沢氏が秘書と共謀して政治資金収支報告書に嘘の記載をしたとしている。それを証明する証拠はこれまでのところ石川知裕元秘書の供述調書しかないが、本人は検事に誘導された供述だとしている。
その供述調書が証拠採用されるかどうかは2月に決まる。その決定は裁判所が行政権力の側か国民主権の側かのリトマス試験紙になる。そして小沢氏に対する道義的?責任追及も民主主義の側か官主主義の側かを教えてくれるリトマス試験紙になる。
投稿者:田中良紹 日時:2012年1月12日 23:53
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◆ 小沢一郎氏裁判 13回公判《前》/4、5億円の現金を手元に置くのは以前からそうしていた/(12)~(16)