「衆愚の時代」予算の議論をしない予算委員会/参院の存在意義

2010-10-29 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア

予算委員会の不思議
「内憂外患」2010年10月27日 09時00分 田中良紹
 
 予算委員会は予算の審議をするところである。ところが国民は予算委員会で予算の議論を見た事がない。テレビ中継がある時は何を質問しても良い事になっているため、予算委員会では専ら「政治とカネ」の追及が行なわれてきた。何故予算委員会で「政治とカネ」が追及されるのか、誰も不思議に思わないからこの国は不思議である。
 「政治とカネ」を追及する分だけ予算の議論を行う時間は削られる。国民から預った税金を何にどう使うかを議論する筈の予算委員会が、スキャンダル追及を優先しているから税金の使い道が分からなくなる。国民は口を開けば「政治には景気対策をしっかりやって欲しい」、「福祉に力を入れて欲しい」、「老後の安心を作って欲しい」と言うが、スキャンダル追及を優先して税金の使い道を議論しない国会をおかしいとは言わない。
 国民は一方で「疑惑をかけられた政治家は国会で説明すべきだ」と訳の分からぬ事を言うから、このやり方がまかり通ってきたのかもしれない。しかし国会の貴重な時間を「疑惑の説明」などに使ってもらっては困るのである。刑事訴追されれば「疑惑の追及」は司法の場で行えば良い。国会でやるにしても予算委員会でないところでやるべきだ。ところがこの国では昔から「予算は人質」となり、予算委員会で必ずスキャンダル追及が行われてきた。
 それが何故かをこの臨時国会と絡めて説明する。今度の臨時国会は何のために開かれたか。世界経済の危機的状況を受けて日本経済を立て直すための施策を議論するために開かれた筈である。ところが10月1日に招集された臨時国会に補正予算案はまだ提出されていない。従ってこの1ヶ月、予算委員会では予算と全く関係ない「政治とカネ」と「尖閣問題」が議論されてきた。
 予算案が提出されていないのに予算委員会を開くというのも不思議な話だが、この国には予算の中身を国会で議論して最上の予算を作るという考えがない。与党は予算を官僚に丸投げする。野党はひたすら「予算を人質」に取って成立させないよう頑張る。現在は「ねじれ」があるので成立させない事は容易に可能である。「ねじれ」がなかった時代には、野党がマスコミと国民を味方に付けなければ頑張れないから、「政治とカネ」を予算委員会で追及し、マスコミを騒がせ、国民を怒らせるようにしてきた。
 「人質」に取られた予算を成立させるには、政府与党が予算の中身の正当性を主張しても始まらない。「人質」を取り戻すための取引材料が必要になる。そして野党は予算を絶対に成立させないのではない。予算を成立させないと国民から非難を浴びるから最後は成立させる。要は予算をエサになにがしかの利益を得たいのである。だから取引の程度によって早期成立になったり、時間がかかったりするのである。
 従って昔の自民党は野党が要求する国会の証人喚問に応じたり、裏で労働組合のスト処分に手心を加えたり、官房機密費から野党に裏金を渡したり、色々と取引に応じてきた。野党は「予算を人質」にして色々と旨味を味わってきた。
 リクルート事件の時など予算は5月になっても成立せず竹下総理の首が差し出された。総理の急な退陣で後継者の準備もなく、総理になる筈のない総理が次々に誕生する事になって日本は漂流を始めたが、しかしその時も誰も予算の中身など問題にしていない。予算はいつも官僚が作ったままの形で成立してきた。
 その結果、わが国の政府は莫大な借金を抱えるようになった。政府に金を貸しているのは国民だから、政府の借金は国民にとっては資産である。しかもきちんと金利を払って貰える優良資産である。ところが政府はこの赤字を国民の借金であるかのように喧伝し、孫子の代にまでツケを残すと国民を脅して税金を上げようとしている。
 全ては予算委員会で真面目に予算の議論をせず、チェックしないで来た事のツケである。予算委員会でチェックしてこなかったから、今頃になって「事業仕分け」が必要になった。政権交代をしたら予算委員会ぐらいまともになるかと思ったらとんでもない。昔ながらの予算委員会が今なお続いている。
 この臨時国会が召集されてから1ヶ月後に菅内閣は予算案を提出し、1,2週間程度の短い審議時間で衆議院を通過させようとしている。「熟議」の国会と言うが、中身の議論など真面目にやろうとしていない。衆議院通過の時に与党から野党に「お土産」を渡し、次に与野党逆転の参議院ではより大きな「お土産」を渡して切り抜けるつもりのようだ。その土産を作るために予算委員会で「政治とカネ」と「尖閣問題」の議論をやってきたのである。
 「衝突のビデオテープ」や「小沢氏の国会招致」を取引材料にするつもりだろうが、しかしいつまでこんな馬鹿馬鹿しい国会を続ける気でいるのだろうか。野党の自民党はかつての野党の馬鹿馬鹿しさを良く知っている筈だが、今では全く同じ馬鹿になろうとしている。それでは政権に復帰してもろくな政権になれる筈がない。国民が勘違いして再び自民党政権が出来ても「ねじれ」は変わらないから、安倍、福田、麻生政権と同じように所詮は短命の政権が出来るだけの話である。
 小沢元幹事長の証人喚問が取引材料として取り沙汰されているが、これまで予算委員会で行われてきた証人喚問がどれほど不毛なものであったかを議員を含めて国会関係者は今一度思い起こして貰いたい。これまでの証人はみな「刑事訴追されているので答弁は差し控える」と繰り返してきた。国会で疑惑解明など出来る筈がない事は何度も証明済みである。繰り返すが疑惑があれば司法の場で行えば良い話なのである。
 かつてリクルート事件で証人喚問を要求された中曽根元総理は頑として証人喚問に応じなかった。困った竹下総理が議院証言法を改正して映像の撮影を禁止し、中曽根氏に喚問に応ずるよう説得した事がある。そのため一時期「静止画像」という奇妙な形の証人喚問が行われた。私は世界に対して恥ずかしいと思った。
 何が恥ずかしいかと言えば、本人の意思と関係なく喚問を公開する日本の感覚である。中曽根氏の場合、本人は嫌がったが「静止画」と音声が公開された。しかしアメリカ議会で公開か非公開かを決めるのは証人である。証人が非公開を望めばメディアの取材も禁止される。目的が疑惑解明ならそれで十分の筈だ、それが民主主義の根本の思想である。
 所がこの国の国会はおよそ民主主義とは縁遠い政治パフォーマンスにうつつを抜かしてきた。証人喚問も本人の意思とは無関係に強制的に公開になる。それを馬鹿なメディアが「国民の知る権利」などとトンチンカンな事を言う。そのくせ国会が最重要の課題としなければならない国民生活に関わる議論をしなくとも誰も批判しない。民主主義の根本が狂っているのである。
 北海道5区の補欠選挙は「政治とカネ」が最大のテーマと言われた。そのため予算委員会の議論も「政治とカネ」に力が入り、最高裁は「政治とカネ」で有罪になった鈴木宗男氏の上告を退け、小沢氏は検察審査会で強制起訴になり、あらゆる状況が自民党候補者に有利に働くように作られた。その結果、自民党候補者が勝利したが、本当に「政治とカネ」で勝利したのだろうか。
 「政治とカネ」が争点と言われた事に嫌気がさしたのか、投票率は史上最低になり、去年の衆議院選挙を23%も下回った。勝利した自民党の町村候補は、去年獲得した票を3万票も減らした。北海道新聞の調査では「選挙で何を重視するか」と問われた有権者の58%が「社会保障」と答え、「政治とカネ」と答えたのは14%しかいなかった。にもかかわらず政治家とメディアは選挙結果を「政治とカネで自民党が大勝した」と言う。「政治とカネ」のキャンペーンで生み出されたのは自民党に対する支持ではない。政治に対する嫌気である。その事に気付かないと再び政治は痛撃を受ける。
筆者プロフィール
田中良紹 ジャーナリスト
 1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同年(株)東京放送(TBS)入社。 ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。 1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。
==================================================
こんな参院ならいらない
ゲスト:村上 正邦氏(元参議院議員)
マル激トーク・オン・ディマンド 第329回(2007年07月13日)

 「良識の府」と呼ばれる参議院は、衆議院や内閣の行動をチェックする機関として存在意義を示してきた。しかし、21年間参議院議員を務め、参院自民党のトップとして君臨した村上正邦氏は、「小泉政権によって、参議院は2度死んだ」と語り、現在の参議院は、衆議院の暴走に対して、まったく無力な状態に陥っていると嘆く。
 05年8月、僅差で衆院を通過した郵政改革法案は、自民党議員の造反もあり参院では否決された。あくまでも法案成立を目指す小泉純一郎首相は、憲法の規定に基づいた両院協議会に諮ることなく、また衆院に差し戻すこともなく、衆議院を解散した。この結果、郵政改革法案に反対した参議院の意思は踏みにじられ、権威は地に落ち、「参議院は死んだ」と村上氏は言う。
 さらに、郵政選挙後、郵政改革法案が与党の賛成多数で衆院を通過すると、自民党議員の多くは抵抗もせずに賛成にまわった。「ここで、もう一度、参議院は死んだ」と村上氏は語る。
 衆議院が小選挙区制になって以降、衆議院議員は、公認はずしを恐れて、党本部に服従するようになったが、参議院議員も立場は変わらない。選挙運動のためには、衆議院議員の後援会の支持が必要になるためだ。また、郵政選挙で、党が政治資金を握り、造反議員に対しては“刺客”を送り込むという非情な方針を打ち出したため、多くの参院議員は萎縮して、党議拘束に抗ってまで筋を通す気力を失っていると村上氏は残念がる。
 また、参議院自民党のトップに君臨する青木幹雄議員会長の罪も大きいと、村上氏は指摘する。かつて参議院議員は、党よりは院への帰属意識が強く、自らの良識に従って審議をしているという自負があった。村上氏自身も議員会長時代は、「参議院をないがしろにするな」とたびたび自民党執行部とぶつかり合ったと語る。しかし、現在参院自民党は青木議員会長の下で一応の結束は保っているが、党を超えた参院らしい自由闊達な意見は交わされにくくなっているという。
 村上氏は、参院が存在意義を取り戻すためには、「党首選に参加しない」「閣僚にならない」「3年ごとの半数の改選はやめて、任期6年を一括して選ぶ」「決算は参議院が議決権を持つ」「議員定数を100人にする」といった具体的な提案を示している。いずれも、参院が政局や世論に左右されない長期的な政策を議論することを可能にするためだ。村上氏は、日本の参院も米国上院を倣い、外交や防衛、教育といった重要案件だけを審議する場を目指せと熱く語る。
 そして、その実現のためには、「今回の選挙で、自民党が負けた方がいい」とまで村上氏は言い切る。参議院で野党が過半数を占めれば衆院との間にいい緊張関係ができる。衆院で可決した法案が参院で否決される事例が相次げば、参議院の存在意義を国民に知らしめ、参議院改革を行えという世論を盛り上がるのではないかと、村上氏は言う。
 参院選を目前に控え、あえて今参院が抱える問題について、「村上天皇」呼ばれた自民党参院のドン・村上正邦氏をゲストに招いて語り合った。
ゲスト プロフィール
村上 正邦むらかみ まさくに
(元参議院議員)1932年福岡県生まれ。56年拓殖大学政経学部卒業。玉置和郎議員の秘書を勤めた後、80年参院初当選。労働大臣、参院国会対策委員長や参院議員会長などを歴任。4期21年参院議員を務める。
 2000年10月、KSDの不正経理疑惑発生(KSD事件)。翌2001年1月、村上の側近だった自民党参議院議員小山孝雄(村上の元政策担当公設秘書、生長の家出身)が逮捕され、村上の周囲にも疑惑が広がる中、自民党参議院議員会長を辞任。同年2月、KSD事件で賄賂を受け取ったと報道される。2月28日に証人喚問された際、訴追の恐れを理由にいくつかの質問に対して証言拒否をした。世間の混乱を招いたとして、自民党を離党し、議員辞職した。3月1日に受託収賄の容疑で逮捕された。
 2003年5月20日、東京地裁で懲役2年2ヶ月、追徴金約7288万円の実刑判決を受ける。2005年12月19日、東京高裁でも一審判決と同じく懲役2年2ヶ月、追徴金約7280万円の実刑判決を受ける。2008年3月27日、上告が棄却され、実刑が確定。その後、異議申し立ても4月14日に却下され、5月15日、東京高等検察庁により東京拘置所に収監された。6月10日に栃木県にある「喜連川社会復帰促進センター」に移され、2009年10月28日に仮釈放され、2010年5月5日に刑期満了となった。
 *強調(太字)は、来栖
--------------------------------------------------
菅・仙谷「殺小沢」の汚い手口 / 衆院補選=不況に苦しむ北海道民が何もしない菅内閣にノーを突きつけた
小沢氏、国会招致で岡田幹事長との会談応じず 
衆愚の時代/検察審査会の市民感覚は、死んでる民の『死民感覚』/メディアの言いなりで「小沢叩き」に乗る


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。