冒頭画像;自宅ガレージを改造した院内で、持ち込まれた猫を診察する高橋葵院長(左)=昨年12月、岐阜市則武西の「にじのはしスペイクリニック」で
野良猫にも人にも安心を 岐阜、安価で不妊手術できる専門動物病院開業
2021年2月4日 中日新聞 夕刊
野良猫によるふん尿の悪臭や鳴き声による騒音で、住民トラブルが各地で起きる中、繁殖を抑えるための不妊・去勢手術を専門にする動物病院がある。昨春、東海三県で初めて岐阜市に開院した「にじのはしスペイクリニック」の高橋葵院長(39)は「野外で生まれ、過酷な生活を送る猫を減らしたい。手術が身近になれば、問題解決につながる」と話す。 (岩井里恵、写真も)
「縫合の針をください」。昨年十二月末、愛知県一宮市で、出張手術を行った高橋さん。ワゴン車内の手術スペースで、麻酔した雌猫に不妊処置を施し、素早く傷口を縫った。一匹十五分ほどの手術の合間に、次の猫に麻酔を打つ。この日は十三匹に処置を施した。
一般的な動物病院では他の診療もあり、多数の不妊手術への対応は難しく、費用も一匹二万〜三万円ほど。高橋さんは経費を抑えるため自宅のガレージを手術兼診察室とし、常勤の看護師も雇っていない。一匹六、七千円台と格安で、多い日は一日十五匹に手術。動物病院が少ない地域など県内外に出張し、手術した猫は既に千匹を超えた。
手術を頼むのは、ほとんど飼い主ではない。野良猫を捕まえ、手術を施して元の場所に戻す「TNR活動」や「地域猫活動」に取り組むボランティアや、「餌を与えていたら、数が増えすぎて困っている」という人たちが訪れる。
高橋さんが不妊手術に取り組もうと考えたきっかけは、長野県内の保健所で11年間、公務員の獣医師として働いた経験だ。猫は繁殖力が強く、雄、雌が一匹づついれば理論上、1年で三十匹以上に増える。
勤務先の保健所では、住民から野良猫に関する苦情があっても、引き取りや餌やりをする人たちに排せつ物の処理や手術を受けるように促すことしかできなかった。引き取った猫に新しい飼い主が見つからないときは、安楽死させるつらい役目も担ってきた。全国では2019年度、約2万7千匹の猫が殺処分されている。
一方、過剰に繁殖すれば猫同士の争いが増え、感染症が広がるなどして、猫たちの生活は厳しくなる。殺処分せず、数を減らすには不妊手術しかないが、費用を捻出できない人や、病院が遠くて連れて行けない人たちも大勢見てきた。高橋さんは「手ごろな価格で、誰もが手術を受けられる環境が必要だ」と自ら専門病院を開くことを決めた。
命を失った猫たちを思い、病院名は動物が天国に行く前、そこを通れば幸せになれるという「虹の橋」からとった。「不妊手術をもっと身近にして、人も猫も穏やかに過ごせる社会になれば」と願う。
■スペイクリニック
猫や犬の過剰な繁殖を予防する目的で、避妊・去勢手術を専門で行う動物病院。猫の不妊手術促進を呼び掛けている公益財団法人「どうぶつ基金」(兵庫県)が把握する病院数は、分院も含めて全国で36ヵ所。地方には少なく、東京以外では、手術を希望する猫の数に対して病院が不足しているという。「スペイ」は英語で「卵巣を摘出する」の意味。
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)