被害者参加制度 被害者の参加制度新設に関し慎重審議を求める会長談話

2007-06-02 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

 様々に問題を抱える制度。わけても、「推定無罪」の原則はどうなるのだろう。法廷は、提出された証拠に基づいて裁判官が公正客観的に判断するところだ。HPへ補足upした。http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/kiyotaka/column18higai.htm

 

東京新聞007年6月1日 夕刊

被害者参加制度を可決 刑訴法改正案 3年後見直し検討
 衆院法務委員会は一日午前、犯罪被害者や遺族が刑事裁判に参加し、被告に質問したり量刑に関する意見を述べることができる「被害者参加制度」の導入を柱とする刑事訴訟法など関連法改正案を与党の自民、公明両党による修正の上、可決した。同日午後の本会議に緊急上程され可決、参院に送られ、今国会で成立する見通し。

 被害者参加制度は、犯罪被害者らを刑事裁判の当事者に近い形で法的に位置付ける制度。殺人や業務上過失致死傷、強姦(ごうかん)、逮捕・監禁、誘拐など生命、身体や自由に関する犯罪について、被害者側の申し出を裁判所が許可すれば適用される。

 被害者側は法廷で検察官の横に着席。自らの意見陳述に必要な範囲での被告人質問と、被告の生活態度など情状にからむ証人尋問ができるようになる。検察官の論告求刑と同様の意見陳述も、起訴された法定刑の範囲内で認められる。

 刑事裁判の中で被害者側が被告に損害賠償を請求できるようにし、有罪の場合は同じ裁判官が賠償命令を出す「付帯私訴」制度も創設した。

 このほか、(1)性犯罪などは被害者の名前や住所を明らかにしないで訴訟手続きができる(2)民事裁判でも性犯罪などの被害者が法廷外からモニターを通じて証言できる(3)被害者側に公判記録の閲覧・謄写を原則認める-との規定も盛り込んだ。

 民主党は「法廷が報復の場になる」などとして、被害者が質問を検察官に要請できる制度に改める修正案を提出。与党は、二〇〇九年に始まる裁判員制度で被害者の質問が量刑判断に影響を与えかねないとの慎重論が出ていることを踏まえ、法施行後三年をめどに見直しを検討するなどの条項を政府原案に加えた。

「被告が委縮」根強い反対論
 犯罪被害者参加制度をめぐっては、「被告の防御を困難にする」との反対論が、日本弁護士連合会を中心に今も根強い。

 日本の刑事裁判は、検察官と被告・弁護人の「二当事者」が互いに主張を戦わせ、裁判所が中立的な立場で判定する構造になっている。

 日弁連が五月に公表した意見書は、被害者という「第三の当事者」の登場は、「二当事者の構造をくつがえす」と主張。

 制度の要綱をまとめた法制審議会でも、日弁連を代表した委員が、劣勢の中で反対論を展開。「被告が委縮し、自由に発言できなくなる。被害者からの追及に反発し、重い刑罰が下った時に報復感情の連鎖が生まれる恐れもある」と警告した。

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日弁連会長声明 Subject:2007-03-13

被害者の参加制度新設に関し慎重審議を求める会長談話
 本日、被害者参加制度の新設を含む「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に上程された。被害者参加制度は、裁判員裁判対象事件や業務上過失致死傷等の事件について、裁判所に参加を申し出た被害者やその遺族(以下「犯罪被害者等」という。)に対し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、自ら被告人に対して行う質問、証拠調べ終了後の弁論としての意見陳述(求刑を含む)を認める制度である。

これまで、犯罪被害者等が、経済的補償の面でも、また医療・精神的ケアの面でも、十分な支援を受けられずにいたことについて、われわれは真摯に反省し、当連合会は、犯罪被害者等補償法の制定及び公費による被害者の弁護士選任制度の導入が早急になされるよう強く要請するものである。

しかしながら、刑事裁判への被害者参加制度については、まだまだ十分な国民的議論がなされたとは言えない。また、刑事手続の現場を担う法曹三者の間でも、実質的議論は始まったばかりである。

本年3月7日、「被害者と司法を考える会」が法務省に対して制度の見直しを求める要望書を提出したことが報じられており、犯罪被害者等の中にも、被害者参加制度に賛成しない意見があることも明らかになっている。

このような状況下においては、この制度についてより広範な意見交換が必要であり、当連合会は国会においても十分に時間をかけた慎重な審議がなされるべきであると考える。

被害者参加制度には、以下に述べるような裁判現場での影響を考慮すべき様々な問題点がある。

まず、犯罪被害者等の生の声を被告人に伝えることの重要性は理解できるが、既に被害者等の意見陳述制度が導入されている。さらに被告人に対し、直接法廷で犯罪被害者等の生の声を尋問や求刑という形で対峙させるよりも、検察官や弁護人を介して伝える方が被告人に冷静に受け止められて反省を促すには有効であり、実際そのような努力がなされている。

また、本来刑事手続が予定しているところとは異なり、結果の重大性に圧倒され、検察官の主張に対して言うべきことが言えない被告人は少なくない。特に、正当防衛の成否、被害者の落ち度、過失の存否という重大な争点について、結果が悲惨であればあるほど、これらの点を主張すること自体が心理的に困難な状況に置かれている。法廷で犯罪被害者等から直接質問されるようになれば、被告人は沈黙せざるを得なくなる可能性がある。

そのほか、被害者参加制度が現行の刑事訴訟法の本質的な構造である検察官と被告人・弁護人との二当事者の構造を根底から変容させるおそれがあることや、犯罪被害者等の意見や質問が過度に重視され、証拠に基づく冷静な事実認定や公平な量刑に強い影響を与えることが懸念される。2009年から施行される裁判員制度においては、その制度設計の際に被害者参加制度のことが考慮されておらず、被害者参加制度が及ぼす影響は大きなものがあると予想される。裁判員制度が実施され定着する前に被害者参加制度を導入することによって、裁判員制度の円滑な運用に支障を来すおそれがある。

当連合会は、現時点において直ちに被害者参加制度を導入することは刑事裁判の本質に照らし将来に取り返しのつかない禍根を残すことになると思料する。以上の諸点について、国会において国民が納得のゆくように徹底的に審議を尽くすべきであると考える。

よって、当連合会は、この法案の国会における慎重な審議を求めるものである。

2007(平成19)年3月13日

日本弁護士連合会
会長 平山 正剛


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