後見人が親子の面会を禁止 そんな権限ないのに・・・ 成年後見人制度の知られざる闇③ 2017/8/11

2017-08-18 | Life 死と隣合わせ

2017/8/11
いま、後見人が親子の面会を禁止する驚愕のトラブルが続発中  そんな権限ないのに一体なぜ? 
 長谷川 学 ジャーナリスト
  認知症の父母に裁判所がつけた後見人。本来は中立な第三者であるはずの彼ら、弁護士や行政書士が、トラブルを抱えた子どもたちの一方に加担し、揉めている相手の兄弟姉妹が親に会うことを禁止する――。老人ホームなどに入居している高齢者家族から、そんな驚くべき越権行為に憤慨する声が続々とあがっている。
 隠れた社会問題に迫る連続レポート第3回(前回までの内容はこちらから)。

■「あなたには会わせない」と警察を呼ぶ施設
 成年後見制度を巡って起きている、さまざまなトラブル。今回、注目したいのは、「成年後見人が老人ホームに指示をして、子どもを認知症高齢者に会わせないようにしている」ケースだ。
 成年後見制度に詳しい宮内康二氏(一般社団法人「後見の杜」代表)によると、「後見人と施設に阻まれて、親の死に目に会えなかった人もいる」というから、問題は深刻だ。
 いったい、どういうことなのか。私が実際、現場に居合わせた中でも、こんな実例があるのでご紹介しよう。
 東京都内在住の長男が、母親が入居している埼玉県内の老人ホームを訪れ、受付で「母に会いたい」と伝えた。ところが施設側は、
 「補助人(注・認知症の症状が重い順に後見人、保佐人、補助人が家裁によって選任される)の弁護士さんから、『長男が来ても会わせるな』と言われています」
 と面会を拒否。長男が諦めずその場で粘ったところ、施設側が警察を呼び、言葉通り「警察沙汰」の大騒動になってしまったのだ。
■火種は家族の中にあった
 なぜ、こんなことが起きたのか。実は、そもそもの火種は家族の中にあった。
 母親はもともと、都内でマンション経営をしていた資産家だった。それが軽度の認知症になったため、家裁の選任した弁護士が補助人に就いたわけだ。
 一方、子どもは長男と長女の2人兄妹。母親に補助人がつくことになったのは、長女が家裁に申し立てをしたためだった。後見制度の申し立ては、家族全員の同意がなくてもできるのである。
 大手企業に勤務していた長男は、会社を退職してマンション管理をしていたのだが、長男と長女の間では、そのマンション管理を巡る対立があった。
 このように、複数人の子どもの間で、財産問題などの対立がある場合、ある子どもが先手を打って、「自分自身、もしくは親しい弁護士や司法書士を後見人や補助人にしてほしい」と申し立てるケースは、珍しくないのだ。
 後見人という立場を嵩に着て、優位に立とうとするのである。そうした中で、今回のように「自分以外の兄弟姉妹を親と会わせないように手を回す」といった暴挙に出るケースが出てくる。
 こう書くと、「それはただの兄弟げんかのようなもので、成年後見制度の問題ではないのではないか?」と感じるかもしれない。
 だが実際には、成年後見制度に対する誤った認識が、老人ホームのような認知症高齢者を受け入れる施設の業界側に広く蔓延していることが、問題を複雑化させている。今回のケースを、もう少し詳しく見てみよう。
■そんな法律や条例はない
 この母親は、以前は自分名義のマンションの一室に1人で住んでいた。ところが、5年前のある日、長男が知らないうちに、長女夫婦の判断で、埼玉県内の老人ホームに引っ越してしまった。車に乗せられ、連れていかれたのだ。
 老人ホームに入居した際に登録した身元保証人は、長女の夫。そして引っ越しの5ヵ月後、長女の申し立てで弁護士が母親の補助人に就いている。長男と長女の対立構造から見れば、身元保証人、補助人ともに、「長女派」がおさえた形になったわけだ。
 冒頭で紹介した「警察沙汰」に至る前から、長男は母親に面会するため、施設に足を運び続けていた。だが、施設側は「身元保証人の許可がないと面会させられない」とか「補助人が『母親と長男を会わせるな』と話している」といった理由をあげて、本来は中立の第三者であるべきにもかかわらず、実の親子の面会を妨害し続けた。
 長男によると、施設側が作成した母親に対する「支援記録」には、「マンションの話が出たら、すぐに面会を打ち切るようにと補助人様からの指示あり」という記載があるのを、自分の目で確認したともいう。
 あまりの対応に、長男は、当該老人ホームを管轄する埼玉県内の某市役所に「老人ホームに親子の面会を制限する権限はあるのか」と照会した。
 すると、市役所側担当者は「面談条件について定めた法律や条例はない。会わせないのは施設側独自の判断だろう」と言い、「実の子どもと母親を会わせないのは補助人の権限を越えている。施設側とよく話し合ってほしい」と助言したという。
■「会いたくない」はずの母親がにこやかに
 その後、施設側は長男に文書で謝罪したものの、現場での対応は以前とあまり変わらなかった。
 そして昨年8月、長男が再び施設を訪れた。だが施設側は「母親が会いたくないと言っている」などと言って会わせようとしない。粘った長男が「本当に会いたくないと母が言っているのですか? それなら一緒に母に会って確認しましょう」と提案。施設側と話し合いをしていた部屋を出ようとした際に、長男の使用している杖が、たまたま施設側幹部の椅子に触れた。これをもって施設幹部は「暴力だ。警察を呼べ」と部下に指示。ここから冒頭の「警察沙汰」に発展したのである。
 実は私は、たまたま現場に居合わせたので、この日の騒動の一部始終を自分の目で見ることとなった。
 警察官がやってきたあと、母親が居室のある2階から1階に降りてきた。そして長男夫婦に向かって、「よく来たねえ」と言い、にこやかに談笑を始めたのである。「会いたくないと言っている」という施設側の主張は、一瞬にして根拠を失った。警察官たちは白けた様子で引き上げていった。
 前出の宮内氏が言う。
 「施設はむろん、後見人(保佐人、補助人も同様)に、実の子と母親の面会を制限する権限などありません。『本人が会いたくないと言っている』と説明するのもよくあることですが、あるときは『本人は関係ない、後見人の指示だ』などと認知症を理由に本人の意思を軽視無視するにもかかわらず、別のときには『本人が嫌がっている』と本人の意思を引き合いに出すなど、チグハグ感極まりないケースがほとんどです」
■後見人は「絶対的な権力者」ではない
 本来、認知症高齢者本人の生活を安定・充実させることが仕事であるはずの、後見人や高齢者施設。ところが、それが公平中立であるはずの立場を見失い、家族トラブルの一方に加担してしまう。
 「施設としては、直接入居の段取りをした子どもを『顧客』と見なして、その要望に応えざるを得ないのでは」と感じる方もいるかもしれないが、一歩引いて冷静に考えてみれば、それでは「おカネを出して人に頼めば、親子の面会を妨害できる」ということになってしまうのがおわかりいただけるだろう。
 そして何より問題なのは、一般の我々だけでなく、裁判所が選んだ専門家たる弁護士や司法書士、高齢者福祉のプロであるはずの施設運営者の中にも、「後見人の判断」という看板さえあれば、法的な根拠もなく親子の面会さえ制限できると誤解している人が、数多くいるという現実があることだ。
 成年後見制度が、まだ比較的新しい制度であるとはいえ、こうした問題点を関係する業界で共有し、注意を促すおおやけの努力は、まだまだ不足しているように見える。
(つづく)

 ◎上記事は[現代ビジネス]からの転載・引用です
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〈来栖の独白〉
 13年前、母はアルツハイマー病のため、買い物や家の修理等、私が気付いたときには、母の銀行口座に年金が入るや、その日に悪徳業者によって引き出される(自動引き落とし)状況であった。私が家裁へ審判を申し立てたのは、母の年金保護のためであった。「財産管理」どころではなく、生活を守るためであった。当時、調査官の云ったことでは「(ゆうこさんは第3ランクを想定しておられるけれど)お母さんは、重度ですね。多分、第1ランク(後見人)になると思われます」。
 審判は第2ランクの「保佐人」ということで確定したが、保佐人の権限は「同意権」である。我が家の場合、母が買い物・家の修理など契約しても、保佐人の承認がなければ無効となる、というものであった。
 上記事によれば「補助人」ということだが、ランク最下位の補助人に、被後見人の行動を制限・左右する権限があるとは、到底思えない。
 最高裁家庭局の創設した「成年後見制度」なるものが、世間に理解されていない。そのような状況下で、裁判所・弁護士・行政書士一体となった「悪巧み」が進行している。
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