文学や芸術を失業させたら、人は人工知能(AI)に劣るただの機械になる。 2019/9/6

2019-09-07 | 文化 思索

諏訪哲史の スットン経
 政治が文学を嫌うわけ
   Culture   2019/09/06 Fri  中日新聞 15面

 年々収入が減少し、服さえ買えない作家となりました。
 去年も赤字、今年も赤字ですが、本に線を引きながら読んだり、海外を旅したりすることは作家に必要なのです。
 本全般が売れなくなったことに加え、僕が多作でないこと、作品が風変わりなこと、また僕の書く政治批判が中傷者を増やしていると慮る人もいます。が、曲学阿世の徒にはなりたくありません。
 再就職しようとも思いますが、編集者いわく僕には大勢でなくとも一定数の読者が全国におり、その方々へ不義理になるのはよくないと。そこで、連載コラムを増やしたり、母校の高校で創作を教えたり、この10月からは昔勤務していた名鉄本社の上階にある文化センターで、落剝した身を晒しつつ講座を始めるなど、涙ぐましく凌ぎ、結局は小説を書く暇もありません。
 そもそも、僕がしているような文学や批判が、実利に供さぬものとして、国から不必要と見なされつつあります。
 高校国語のうち、文学鑑賞や評論を選択制へ限定し、契約書類の読みを重視する、味気ない時代が来ます。加えて今般の文化・芸術的催事の不遇。学や美といった心の豊かさへの契機が減らされ、実利や採算ばかり目当てに、子供を仕込むようになりました。
 国語が、詩や「山月記」を遠ざけ、人の心でなく社会の側に有用な法や契約文を強いる。それは国語の命だった想像力や批評、同情や「許す」心、救いを知る瞬間を子供たちから奪う行為です。逆に法や契約の本質は遺漏なく背信者を「許さない」頑なさにあります。想像や思考、批評の力を国民が持つ、皆が個を確立する、それが国家統制者には甚だ不都合らしいのです。
 契約書類は一般に横書きです。審美的にいえば漢字や仮名の形の美は、筆先が縦行に流れる運動から生まれています。ゆえに和文の横書きは縦書きより醜い。その機微も、美意識のない官僚は解せず、ただ国益に適う無批判者を量産したいのです。僕は失業すればいい。でも文学や芸術を失業させたら、人は人工知能(AI)に劣るただの機械になる。皆さん、子供のため、声を上げてください。(作家)

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖) *強調(=太字)は来栖
――――――――――――――――――――――――
国語改革 人間をまるごと扱える学問分野としての文「学」からの批判に文科省はどう応えるのか 2019.9.2
「文学を軽視」懸念の声 高校・国語の新学習指導要領 2019/8/25
「人間」は定義できない。 「文学」で描くしかないのである。  2019/7/1
* 阿刀田高の苦言 高校国語改革「違和感を覚えるのは私だけでしょうか」 『文藝春秋』2019年1月号
..............


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。