
ネット時代 新聞は 『2050年のメディア』著者に聞く
中日新聞 2020/1/11 Sat 朝刊
2000年代に入ってから20年。インターネットの発達で、社会は激変した。最も影響を受けた産業の1つが、新聞業だろう。新聞社とネットメディアの攻防をドラマチックに描いたノンフィクション『2050年のメディア』(文芸春秋)が話題だ。著者の慶応義塾大特別招聘教授・下山進さん(57)は「今、多くの新聞社が、生き残りの分かれ道にいる」と語る。 (中村陽子)
冒頭から、業界の苦境を象徴する言葉にどきっとさせられる。部数トップを誇り、盤石な経営とされてきた読売新聞の渡辺恒雄主筆が一昨年、新年の賀詞交換会で発したというひと言だ。〈読売はこのままではもたんぞ〉
下山さんが、本書を執筆したきっかけは、日本新聞協会のサイトで総部数の変遷を目にしたこと。17年までの10年間で、5200万部から4200万部に。1千万部が消えていた。「複数の社がなくなる規模で、とんでもない変化。人生の一時期をかけて追い掛ける価値がある題材だと感じました。
昨年までは、文芸春秋の編集者として、主にノンフィクション畑で話題書を手がけてきた。一方で、メディアをテーマに自ら取材、執筆したノンフィクションも発表しており、この本は3作目。今回は、経営陣やネット部門の担当者ら、キーパーソンやく80人に取材した。
強力な全国販売網が強みだった読売のほか、有料の電子版へと早めにかじを切って売り上げを維持している日本経済新聞、ニュース配信をてこに巨大ネット企業へと急成長したヤフー・ジャパン。社内外の人間模様を軸に、ネット勃興期からの業界の浮沈を立体的に描き出す。
斬新な切り口 示せ 有料で読ませる工夫を
新聞業界の大きな転換点は、ヤフーのポータルサイトで多くのニュースが無料で見られるようになったこと。本書は〈不吉な一歩にならないか?〉などの小見出しとともに、01年にヤフーと読売が、記事配信の契約に至った内幕を明かす。
10年代以降の新聞は、紙の部数が激減し、ネットの無料広告モデルは、収益が思うように伸びないまま。絶望的な状況にも見えるが「まだやれることはあると思いますよ」。真っ先に挙げるのが、有料の電子版だ。「やらないのは、はっきりと間違い。無料で見られるサイトで競争している限り、読者がお金を出す方向には向かいません。紙とは読者が違うので、食い合いにもならない」
その上で、有料電子版をとってもらう方法として、その社ならではの独自の切り口で、世の中の大きな流れを図解するタイプの報道の強化を提案する。例に挙げるのは、日経新聞が、朝刊の目玉記事を前日の夕方に電子版で先に流す「イブニングニュース」だ。年末には、地方空港の利用者が、近年急増した理由を解きあかしていた。「単に早さを競うだけの特ダネは、価値が下がってしまった。そこに向ける労力があるなら、たくさん本を読み、切り口を考えるほうがいい」
書籍や雑誌づくりの経験が長い下山さんからすると「そもそも新聞社が、全ての地方支局で、行政と警察の記者室に記者を常駐させていることが壮大な無駄」に見えるという。それをなくした時、新聞社が使命としてきたジャーナリズムの役割、権力監視の機能は維持できるのかという異論も想定されるが「米国では、有料版を核にして成功した新聞社から、政権と対峙する調査報道が次々と出ていますよ」。
実は、本書の中で、タイトルにある未来のメディア像については、あえて書かなかった。「業界の構造が変わった時、何ができるのか。変化を見つめることで分かることがある。議論のきっかけにしてほしい」
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)