尖閣、偽りの「一時退避」

2013-01-29 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

【くにのあとさき】東京特派員・湯浅博 尖閣、偽りの「一時退避」
産経新聞2013.1.29 03:17
 いったい、あちら中国はわが尖閣諸島を日本からどうもぎ取ろうとしているのだろうか。すり替え社説の週刊紙「南方週末」にならって、しばし“すり替え中国官吏”として対日戦術を俯瞰(ふかん)してみる。
 孫子の兵法に、敵に退路を残しておけという策略がある。そうでないと、敵は死に物狂いで戦うから圧力一辺倒は得策とはいえない。ヘタをするとこちらが傷つくから交渉のドアを少しだけ開けておく。
 尖閣諸島に海と空から圧力をかけても、予想外に日本がはね返してくる。これまでなら、親中派や市民派の議員が「中国への配慮」を主張して日本政府に譲歩を迫ったものだ。それが、巡視船体当たり事件の船長を釈放した菅直人元首相ら民主党諸兄は勢いを失って声もない。安倍晋三首相は「日本固有の領土は譲らず」と毅然(きぜん)としているし、日米中のフォーラムで内閣官房参与の谷内正太郎氏からは「1971年まで領有権を主張していなかったのに、現在は武力を用いて主張する」なんて本当のことを言われてしまった。
 悪いことに、クリントン米国務長官が尖閣諸島で「日本の施政権を害そうとするいかなる一方的な行為にも反対する」と、当方の施政権崩しの狙いを見透かされてしまった。昨年9月に、楊潔篪外相の「尖閣を盗んだ歴史的事実は変えられない」という詐術で、欧米メディアの洗脳が功を奏したばかりだ。やり過ぎて、米軍の介入を招いては元も子もない。国務長官の交代を待つつもりだ。
 歴史カードによる日米分断がうまくいかないなら、次は日本の国論分断を狙う。ここは孫子の兵法にもどって、少しばかり交渉のドアを開けることにした。こんな時に、使い勝手がよいのは日本の「古い友人」だ。彼らは中国通としてコネを失うのを恐れるから、手招きするだけで飛んでくる。
 「古い友人」戦術の成功例は山ほどある。米中正常化交渉の決着をつける75年秋、キッシンジャー米国務長官を相手にささやき作戦をやった。彼はすでに対ソ戦略の“チャイナ・カード使い”として国際的な名声を高めていた。そこで、フォード大統領の訪中がうまくいかなくなるかもしれないと脅してやった。焦ったキッシンジャー氏は、中国通の名折れになるから妥協を重ねたというわけだ。
 今回はまず、巨大市場にすり寄る日本の経済界代表を招き、友愛外交の鳩山由紀夫元首相に誘い水をかけた。もっとも、鳩山氏は「国賊」なんて言われてしまうほどの不人気で、まったく役に立たない。
 公明党の山口那津男代表は「尖閣主権棚上げ派」のようでもあり、与党の一員だ。定石通り、帰り間際まで習近平総書記に会えるかどうかで揺さぶった。会談の暁には、習氏から創価学会名誉会長の池田大作氏の名前をだして喜ばせた。この先、山口代表が交渉を進めるよう安倍首相を説得してくれるだろう。
 清朝の官吏が得意の外交術は「圧力」と「譲歩」を交互に繰り返す方法だ。今後も村山富市元首相や加藤紘一元自民党幹事長ら“チャイナ・ハンド”を使うつもりだ。
 帝国主義の常道としては、尖閣周辺に引き続き艦船を送り込むとして、ここは一時退避のふりをする。有利に交渉が運ばなければ、また強力な海洋警察力と海軍力を見せつけてやる。飽きっぽい日本人の疲弊を待つつもりだ。 *強調(太字・着色)、リンクは来栖
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国賊か!?「しんぶん赤旗」で“日本叩き”に加勢した自民党元重鎮 加藤紘一氏 2013-01-27 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉 
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公明党・山口那津男代表の「尖閣 棚上げ論」は国益に反する 2013-01-23 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉 
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「尖閣問題は、国際法と国連に期待せず、棚上げせず、強い姿勢で臨むことが中国に有効」ペマ・ギャルポ氏 2013-01-23 | 国際/中国/アジア 
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クリントン米国務長官「日本脅かす、いかなる行為にも反対」/日米首脳会談、2月17日の週に 2013-01-19 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉 
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◆ 中国の奥の手は「敵国条項」 その瞬間、「尖閣は中国のもの」となる 2013-01-11 | 読書

        

p42~
【2】「敵国条項」という最終兵器
 アメリカ上院は11月29日、尖閣諸島に関して「日米安保条約第5条に基づく責任を再確認する」ことを国防権限法案に追加修正する案を全会一致で確認した。これは日本として大変、心強い動きである。
 とりわけ、アメリカの認識においても尖閣諸島が単に日米同盟の重視と言うに留まらず、アジア太平洋における戦略的要衝であることをこの決議は示している。
 仮に中国が尖閣を制圧し、同島に対艦ミサイルを配備すれば、日米は与那国島から石垣・宮古島の線にはもはや近寄ることができなくなる。
 となれば、東・南シナ海の結節点である台湾も落ちたも同然となり、アジアの戦略状況は一変する。また、南シナ海での米中の戦略バランスも一気に中国優勢に傾くとともに、日中対立の最前線として、尖閣だけでなく沖縄、南西諸島自体にまで一気に火が付きかねない。
 中国の狙いは、必ずしも領土や東シナ海の海底資源ばかりではない。中国にはどうしても沖縄全体を政治的に支配しなければならない理由がある。
 沖縄本島と宮古島の間の宮古水道は200キロほどの幅があるが、戦術ミサイルの発達した今日、このような狭いところを通らなければ太平洋に出られないという現状は、中国の海洋戦略にとっては決定的に不利な状況と言える。しかも、本島には強大な米空軍が基地を置いている。まさに沖縄、南西諸島周辺が中国の世界戦略にとって決定的な要地なのである。
p43~
 そのことを考えれば、中国の長期的な展望として、尖閣を陥し、沖縄を政治的に支配して駐留米軍を揺さぶり、自国の海洋戦略の拡大を目論んでいることは間違いない。
 アメリカ上院もこの中国の狙いを理解しているからこそ、この時期に尖閣について先のような決議を行ったのだろう。こうした壮大な構図に全く気が付いていないのは、「尖閣問題で事を荒立てるな」「経済を重視せよ」と叫ぶ日本の経済界のリーダーをはじめとする単なる「平和ボケ」以上に罪深い、国益よりも「経済優先」の日本人である。
■「三戦」ははじまっている
 しかも、中国はいきなり軍艦やミサイルで一気に事を荒立てるのではなく、いわゆる「三戦」、つまり心理戦、世論戦、法律戦を使う「超限戦」をすでに開始している。すでに述べたように、海洋戦略の障害である沖縄基地の米軍を撤退させるべく、日本のマスコミを使って盛んに行っているのは、まさに「対日心理戦」であり「世論戦」であろう。普天間問題に加えて、例の「オスプレイ配備反対」などもこれに当たる。
 また、日本の経済人をいま以上に骨がらみにするため、「依然として中国市場は魅力的である」と思い込ませる「心理戦」がはじまっており、「法外な”手切れ金”を払うのが中国のルールである」と突きつけるのは「法律戦」と言っていい。そして、これが一番恐ろしいことを知るべきだ。
 戦場で軍事兵器を使うだけが戦争ではない。「超限戦」や「三戦」と中国自ら称している。”戦火を交えない戦争”は、すでにはじまっているのである。
 対する日本は、こういった工作にめっぽう弱い。大正時代から、日本は中国による反日デモや暴動、国際連盟での対日宣伝活動、日本国内に手を突っ込んでの与党や世論の切り崩し工作など、軍事によらない、そして遥かに効果的な「対日攻撃」に悩まされ続けた。
 中国は相手の論理を逆用し、巧みに正面衝突を避けながら相手の動きをも利用して自国の優位をもぎ取る「水平思考」に長けており、これは当然、現在も変わらない。
 尖閣問題でも、この「水平思考」は発揮されている。たしかに、アメリカが尖閣で日米安保を発動することは疑いがない。それは、アメリカ自身の国益にとっても決定的に重要であるからだ。
p44~
 にもかかわらず、日本のメディアや識者のなかには、元外務省国際情報局長孫崎享氏のように、端的に「アメリカは尖閣問題で日本を助けることはない」という論者がいるが、こうした主張は大きな認識違いなのだ。
 だが、中国の超限戦的発想においては警戒すべき点が一つだけある。
 日本がそれを見過ごせば、日米安保を一撃で仕留める”必殺兵器”を中国に与えてしまうことになる。中国の「三戦」には、それほどの威力を秘めた「奥の手」がある。
 それは何か。
■中国が巡らせた「伏線」
 手がかりは、9月27日に楊潔篪外相が行った国連総会での一般討論演説である。楊外相は演説で、「日本は尖閣を盗んだと発言し、日本中を驚かせた。
 中国がこのような発言をしたときに注意すべきなのは、この発言に注目を集めておいて、他方で後々、重要となる伏線を用意していることが多いことだ。それゆえ、虚心に全体を見て本質的に何を意図しているのかに常に留意しなければならないのである。
 この演説も、一部をみれば「中国が自らの振る舞いも省みず、勝手なことを言っている」と呆れるだけの演説だが、全体を見れば実にポイントを押さえた恐ろしいほどの戦略的布石を打っているのである。
 楊外相演説のポイントは、次の3点だ。
 1、日本による尖閣国有化は、日本が再び中国の主権を侵害せんとする侵略行為である。
 2、日本のこのような行動は、第2次世界大戦後に生まれた国際秩序を破壊する行為である。
 3、日本の行為は、国連憲章の原則と精神に違反する挑戦である。
 もう、おわかりだろう。中国は国連憲章第53条、107条の「敵国条項」を使おうとしているのである。このことに気づいた時、「しまった」と私は思った。と同時に、つくづくこの国の「危うさ」を痛感した。
 過去十数年にわたって、私は敵国条項でけは一刻も早く撤廃すべき、と各種メディアで繰り返し訴えてきたが、その敵国条項がいまこの瞬間、いわば最悪の時に最悪の形で中国に利用されようとしていることが分かったからである。
p45~
 実際、中国の伏線は周到に敷かれている。その後、11月6日にもラオス・ビエンチャンで開催されたアジア欧州首脳会議(ASEM)の場に集まった世界50か国の首脳を前にして、楊外相は再びこう述べている。
「尖閣問題に関する中国政府の立場は私が国連総会で明確にした通りであるが、重ねて次の点を強調しておきたい。(尖閣国有化によって)日本は中国への侵略を行っている」
「日本は反ファシズム戦争の結果を否定してはならない」
「日本の行動は、戦後の国際秩序と原則への重大な挑戦だ」
 中国が敵国条項を使い、日本を追い込もうとする方針を固めたとみていいだろう。
■抵抗許さぬ敵国条項
 すでに周知の人もあろうが、国連憲章の該当の2条にはこう書かれている。
〈第53条
 1、安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。
 もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。
 2、本条1で用いる敵国という語は、第2次世界大戦中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される〉
〈第107条
 この憲章のいかなる規定も、第2次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は排除するものではない〉
 要するに、第2次世界大戦中、国連加盟国(中国は原加盟国、つまり創設メンバーとされる)の敵国であった日本とドイツに対して、この「敵国条項」が適用される(イタリアなどは大戦末期に連合国に寝返っているので、適用については論争がある)。
p46~
 この2国が「再び侵略戦争の動きを見せた時」、あるいは「第2次世界大戦で出来上がった国際秩序に対して、それを棄損する行為に出た時」には、国連加盟国は安保理の決議や承認がなくても、自国の独自の判断によって日本やドイツに対しては軍事的制裁を行うことができる、とされているのである。
 そして安保理やアメリカを含むいかなる加盟国も、それに対抗したり阻止したりすることはできない、とわざわざ念が押されているのである。
■照準は「日米同盟」瓦解
 この「敵国条項」を以て、中国のいう「超限戦」が貫徹されるシナリオはすでに早くから出来上がっていると見るべきだろう(日本とソ連=ロシアとの間では、91年4月の日ソ首脳会談の共同声明で「敵国条項」を適用しないことを合意しているが、中国との間にはその合意はない)。
 おそらく、中国の描く有力なシナリオはこうだ。中国が尖閣に漁民を装った特殊部隊を上陸させる。取締りのために日本が海保の巡視船を出すが、衝突が起こり、中国海軍の軍艦が沖合に姿を現す。
 これにより、後方から監視していた海上自衛隊も動き、実質、軍事衝突一歩手前までの事態になる。しかし、戦争を意味する「防衛出動」の発令は難しいから、北の工作船を追いかけた時の「海上警備行動」止まりであろう。
 アメリカの存在を頼みにしながら、日本政府が海上自衛隊に「海上警備行動」を発令し、動き出した瞬間、中国当局が次のような声明を発表する。
「中国は、国連憲章の定めを破り、再び侵略行動を開始した日本を制裁するため、国連憲章の『敵国条項』に則って軍事行動に入る」
 これにアメリカはどう反応するだろうか。上院で「尖閣諸島には日米安保が適用されるべき」と決議されたとはいえ、アメリカといえども国連憲章を無視することはできず、憲章に拘束されて、少なくとも初動が鈍るか、もしくは動きを封じられるだろう。こうなると、日本中はパニックに陥るだろう。
 そうでなくても、アメリカは尖閣で日中が揉めることを望んでいない。当然のことだが、他国の領土のためにアメリカ兵士の血が流れることも、アメリカ国民には受け入れがたい。ましてや、敵国条項を突きつけられれば、国際法を重んじるアメリカ世論の風向きは一気に「尖閣に介入すべきでない」との方向に傾く可能性が強い。
p47~
 しかしそうなれば、日本人の日米安保への信頼は根底から揺らぐかもしれない。そして、これこそがまさに中国の真の狙い、つまり日米分断が一挙に達成される瞬間である。
 それは大げさに言えば、「戦後日本が終わる時」と言えよう。いずれにせよ、中国によって敵国条項を持ち出された時点で、日本国内も総崩れになりかねない。そしてその瞬間、「尖閣は中国のもの」となる。
 ここで分かるのは、中国が尖閣を歴史問題化しようとしていたのは、必ずしも韓国の竹島問題やロシアの北方領土問題と足並みを揃えるためだけではなかった、ということだ。日本の尖閣への実効支配の強化を「再侵略」と位置づけ、アメリカを国際法的に抑止し、日本を決定的に孤立させる中国の秘密兵器それが敵国条項なのである。
■何と愚かな日本外交か
 それにしても、なぜいまだに、第2次世界大戦当時の敵国条項が存在しているのか。
 実は1995年、国連創立50周年の年に日本とドイツが共同提案国となり、この条項を憲章から削除すべしという決議案を国連総会に提出している。そして、総会では賛成多数で採択されたが、批准書を寄託した国は定数に達しなかった。
 ここに国際社会の本音と建前を見る思いがするが、いずれにしても、この敵国条項は時代遅れ(obsolete)であり、削除に向けて作業を開始すると謳われていても、総会の決議だけでは何の効力も有しない。つまり、17年が経過した現在でも、この条項はいまだに効力を保っているのである。(略)
 当時、私は「常任理事国入りなど中国が賛成するわけがないから、動くだけ無駄である。その余力を、一刻も早い敵国条項の撤廃に向けるべきだ。そうしないと、この条項の放置は日本の安全保障にとって大きな脅威となるから」と多くの論文に書き、いくつかの論壇誌でも発表したのだが、外務省関係者は「中西さん、知らないんですか。この敵国条項はもう完全に死文化しているんですよ」と安易至極な態度であった。
p48~
 こうした姿勢は、戦後の外務省の体質に深く根ざしている。外務省出身で国連大使にまでなった小和田恆(ひさし)氏が「ハンディキャップ国家論」を説いたが、そのよって立つ思想は憲法前文、9条であるとともに、敵国条項の放置もこの思想と共鳴し合うものだったのである。なぜなら、「諸国民の公正と信義に信頼して」日本の安全保障を委ねるのだから、あの侵略戦争をした日本は敵国条項の非を訴えるべきではない、というわけである。
 この思想の流れが、現在も日本の外務省に通底しているのではないか。「常任理事国入り」にはあれほど熱心に取り組みながら、敵国条項の問題は外務省内ではいまだに「タブー」扱いされているからである。しかし、この条項を放置しての「国連中心主義」の外交など、もともと成り立ちえないものだったのである。何と愚かな日本外交であったことか。
■外交の機先を制すべし
「中国が敵国条項を使って日本を危機に陥れようとしている」---実は、このことを活字にすることにはこの数か月、大いに悩んだ。
 第一に、中国に逆利用されはしないか、と危惧したためである。
 第二に、中国だけでなく、かねてより「尖閣は日本固有の領土ではない」「アメリカは尖閣問題では決して動かない」と言い続けてきた前出の孫崎享氏ら、親中派に論拠の補強材料を与えることにもなりかねないからだ。
 だが11月以降、ここまであからさまに中国が動いてきた以上、もはや一刻の猶予もない。(略)
 外交は機先を制さなければならない。外務省、政府、そして官邸が一体となって、早急に敵国条項の実質的空文化を再確認する決議を国連の場で強力に推進し、あわせてアメリカ政府や国際社会に対し、「敵国条項を中国が持ち出す可能性がある。総会で、撤廃に向けたより強い失効決議に賛成してもらいたい」と働き掛け、「このままでは中国に国連憲章を悪用されることになり、アジアの平和は瓦解する」と広く、そして大きな声で国際世論に訴えるべきだ。多くの欧米紙に一面広告を出してもいい。
p49~
■「国連主義」の虚妄
 事態は一刻を争う。経団連会長のように、経済活動の停滞だけを心配して中国のご機嫌伺いをしている場合ではさらさらないのである。急がなければ、戦後日本が「平和の理想」と崇め奉ってきた国連憲章によって、日本が武力による攻撃を受け、しかも同盟国のアメリカも手が出せないという絶体絶命の危機に追い込まれかねないのである。
 「国連」の名のもとで中国の「軍事制裁」を受け、多くの日本人が血を流し、領土も奪われる事態を迎えることになれば、日本にとってそれは何という悲劇であろうか。「戦後日本」という虚妄を、これほど劇的に示す例はないだろう。
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『世界の変化を知らない日本人』/人間の“卑小さ”を見せつけた民主党政権/最後の対米自主派、小沢一郎 2013-01-03 | 政治

          

第5章 民主党は日米関係の歴史を壊した
p134~
 私のいるワシントンのハドソン研究所には、アメリカの情報機関で分析官をやっていた人物がいる。彼の話によると、アメリカ政府は小沢一郎はじめ民主党首脳の対中国政策と動きを綿密に監視してきた。
 「中国からの情報もあれば、アメリカ情報調査局や国家安全保障局(NSA)などからの情報もある。あらゆる情報が担当者の手許に集まっている。日本の民主党と小沢元代表が中国に接近していく動きは手にとるように明らかだった
 民主党の小沢元代表は、中国を取り込んで日中の協力体制を作り、アメリカを牽制して外交的にアメリカに対する強い立場を作ろうとした。こういった小沢元代表はじめ民主党首脳の動きは、私ですら耳にしていたのだから、多くの人々が知っていたに違いない。
 小沢元代表が「沖縄の海兵隊はいらない」と言ってみたり、日米安保条約に反対したりしているのをアメリカが苦々しく思ったのは、単に反米的な姿勢だからというだけでなく、中国と手を組んでアメリカに対抗しようとしたからである。
p135~
 小沢元代表の師ともいえる田中角栄元首相も、アメリカに対抗するために石油資源を獲得しようとしてアメリカに敗れた。田中元首相は結局、アメリカの石油メジャーと激突してしまい、ニクソン大統領とアメリカのCIAに打ち負かされてしまった。
 小沢元代表と民主党のアメリカに対する反乱は、そういった過去の出来事と比べるとあまりにも矮小である。まず小沢元代表の態度は中国と対等に手を結ぶというよりは、明らかに中国におもねっていた。民主党政権が発足した当時、長年の同盟国であるアメリカのワシントンではなく、まず北京に挨拶に行くべきだと示唆した態度などに、中国に対するあからさまな媚がよく表れている。
p142~
第2部 民主党の指導者には国家意識がない
 民主党の前原前外相は、在日韓国人から政治献金を受け、責任を追及されるや辞任して姿を消してしまった。日本ではこの問題についてあまり厳しい追及が行われていないが、国際常識から見ると、前原前外相は日本を代表する一員として決してやってはならないことをしてしまった。
 国の外交は、国の利益をまず考えて行われなければならない。外交の先には戦争があると言われるほど、時には国家の命運がかかる。ところが前原前外相は、民主党には外交を理解している者が誰もいないことを暴露してしまった。
 前原前外相は、外国籍の人から献金を受けるというタブーを犯しただけでなく、民間企業のセールスマンをやって、アメリカの人々をあきれさせたJR東海の代表者と共にフロリダ州マイアミを訪れた折、フロリダ州当局に対して、JR東海の新幹線システムを受け入れてフロリダに新幹線を作るよう働きかけたのだ。
p146~
 外務大臣クラスの政治家が、日本のビジネスや、ビジネスプログラムを外国に売るために努力することは、日本経済のためという意味では当たり前である。
 かつてフランスのドゴール大統領に「トランジスタラジオのセールスマン」と揶揄された総理大臣がいた。国民所得倍増計画を標榜した池田勇人である。彼はトランジスタラジオをおみやげに持っていっただけだが、もし売り込もうとしたとすれば、日本のビジネスそのものだったろう。1つの特定商品ではない。
 ところが前原前外相は1企業であるJR東海の新幹線の売り込みに出かけた。この行為は間違っているだけでなく、モラルの点からも許されない。前原前外相はこうしたことをあたかも当然のごとく行い、反省もしていない。
 こうした姿勢は、彼が政治家として国家の代表であることを完全に忘れ去ってしまっていることをよく示している。
p146~
 前原前外相は若くして民主党政権の代表的な立場についたが、その立場にふさわしい経験がない。とくに外務大臣という仕事にふさわしい教育を受けていない。
 一般的にアメリカでは、政治家がしかるべきポストに就くためにはその立場にふさわしい教育や経験が必要とされる。財務長官や商務長官に任命された人々を見ると、自分で会社を興して成功した人も多い。
「事業に成功した人は、自分の会社を大きくするために全力を挙げるが、同時にほかの会社を思うことも大事であることを知っている」
 全米商工会議所のスタッフの一人がこう言っているが、前原前外相は、政治家としてある程度の訓練を経てきたのであろうが、ビジネスマンとしての教育や経験はない。前原前外相の趣味は鉄道だが、だからといって大臣という立場を利用して、1つの会社を助けることは間違っている。
 これまで自民党の陣笠クラスの政治家が企業を助けたことはままあるが、プライベートな会社を、自民党やその代表が助けたという例はほとんどない。これは、政治家は国家を代表する職務であり、企業は私的なものであるという区別があるのを理解しているからだ。
 こうしたことがわからない前原前外相は結局、国家とは何であるかという認識を持っていない、つまり国家意識が欠如していると言わざるをえない。
p147~
 国家意識のない政治家は、国際社会では存続することが許されない。世界は国家と国家の関係によって成り立っている。総理大臣といえども、あるいは末端の官僚といえども、あくまでも形の上では国家を代表する一員であり、すべての行動は国家意識に基づいたものでなければならない。
 前原前外相だけではなく、民主党の政治家たちはこういった国際常識に欠けている上、民間企業の責任者としても行動したことがないため、国家との関わりがきわめて薄い。
 アメリカで1企業のために働く人々は、国家公務員や議員ではなく、コンサルタントやロビイストである。私は、ワシントンで大勢のコンサルタントやロビイストと知り合いになったが、軍隊に加わり戦争に参加したことのある人が驚くほど多い。
「国の安全のために働いてきた」そうした愛国的な気持がビジネス活動につながっている。彼等は1企業のビジネス活動を援助して、外国政府と交渉することも多いが、あくまでも民間人として活動している。
 ところが前原前外相は、ひたすら政治活動だけをつづけ、まわりあわせで外務大臣というポストに就いた。彼は国家全体の利益を考えることなく、1企業のセールスマンになってしまったのである。
 前原前外相の行為に象徴される民主党政権のこうした体質を、アメリカ政府の関係者もよく心得ている。
p148~
 民主党の政治家たちが世界から受け入れられない大きな理由の1つが、彼らの国家意識のなさなのである。
p150~
 いずれにしても国民の命運を定める重大な仕事をする政権は、その責任の重さゆえに、簡単には手にすることができない。ところが日本の民主党政権は、ある意味では何の努力もしないまま政権を手にした。自民党政権が自壊してしまったからだ。
 自民党政権はあまりにも長い間権力の座にあったためにすっかり腐敗して、国民の信頼を失ってしまった。
p151~
 自民党の崩壊は突然に起きた。まるでマスコミに煽られるように国民の大多数が自民党政権を見放し、民主党を選んだ。つまり、このどうしようもなく無責任な民主党政権を作ったのは、まぎれもなく日本国民なのである。
 これは日本の民主主義が他者から与えられたもので、自分たちの手で勝ち取ったものではないからである。日本の人々はいまだに民主主義に慣れていない。そのため政治に対する責任感がない。自分の持っている一票の重みが分かっていない。
 民主党政権が生まれたのは劇場型政治の結果であると言った人が大勢いた。国民が劇場の観客や芝居のファンのような気持ちで政府を選んだという意味だが、これは日本人の民主化が間違ったプロセスで行われたからである。
 日本の民主主義は、第2次大戦に日本が負けた後、占領軍であるマッカーサー司令部が日本国民を統治するために便宜的に与えたシステムである。政治家を選ぶ投票権を簡単に手にした日本の人々は本来、投票権というものが、骨身を削る苦労の末に手に入れるものだということをまったく知らない。
p152~
 アメリカの政治を見ていると、民主主義による選挙とは、それぞれの人のモノの考え方と利益のせめぎあいである。つまり自らの利益を、政治的に確定するために投票を行う。
 アメリカという国は実にさまざまな人々で成り立っている。すでに地位を確立した途方もなく豊かな人々、自分の家を持つというアメリカン・ドリームを実現した人々、アメリカで生まれながら十分な教育も受けられず、その結果、何代にもわたって貧しいままの黒人、外国からやって来て、懸命に働いてようやく帰化が認められ選挙権を得た人々。
 こういった人々が自分の利益を守るために投票し、政府を作るのである。人々の投票によって政治は大きく変わり、オバマ大統領のようにアメリカ生まれかどうか分からないと疑われている政治家が大統領になることもある。
 アメリカ国民は、劇場の観客や俳優のファンではない。選挙というのは、人気投票では決してない。このため、選ばれる政治家は真剣に国のことを考える人々であり、国のために仕事を行う人でなければならない。
p153~
 民主党の政治家が口にすることが無責任で、前に言ったことを平気で打ち消したり、嘘を言ったりするのは、投票した人々と同様、民主主義を理解していないからだろう。だから罪の意識がないのである。
 こういったやり方が現在の日本の政治で許されているのは、劇場型政治などという言葉を軽々と使う日本のマスコミの無責任さにも罪がある。日本のマスコミは、いまや芸能紙やスポーツ紙のようなつもりで政治を伝えている。
 外国の人々は簡単に前言を翻す民主党の政治家を軽蔑するだけでなく受け入れようとしていない。
 世界で共通しているのは、政治家の言葉はいったん出したら引っ込めることはできないということである。
p160~
 くり返すが、民主党の政治家たちには国家意識もない。だから外国人に選挙権を与えようと考え、外国人から選挙資金を受け取っている。全米商工会議所のトム・ドナヒュー会長がこう言ったことがある。(略)
「外国人に選挙権を与えれば、日本が外国の利益に動かされる危険がある。民主党の政治家にはそれが分かっていないのか。おかしなことだ」
 このドナヒュー会長の言葉は世界の常識である。外国人から政治献金を受け取ることができないのは、国を守るための当然のしくみなのである。菅首相が外国人から献金を受けながら、返金してそのまま総理大臣の地位にとどまれること自体、世界の常識に反している。
 ちなみにアメリカでは、アメリカに帰化しただけではアメリカの大統領になることはできない。アメリカで生まれたアメリカ人でなければ、大統領に選ばれる資格はないのである。
 キッシンジャー博士もシュワルツネッガー前カリフォルニア州知事もアメリカ人以上にアメリカ的であり、アメリカのために働いている。だが大統領になることは出来ない。この原則は、国家が国家として存続するための最低限の原則である。理由のいかんを問わず外国人は国を動かしてはならないのである。
 民主党が政権をにぎっている現在、我々はこの問題について、じっくり考えてみる必要があるのではないか。この問題は単に外国人排斥とか、在日外国人に対する偏見といった面から考えてはならない。日本が国家として存続するための最低限の条件について考えなければならない。 *強調(太字・着色)は来栖
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『アメリカに潰された政治家たち』孫崎亨著(小学館刊)2012年9月29日初版第1刷発行

       

p93
第2章 最後の対米自主派、小沢一郎
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『日本の悲劇 怨念の政治家小沢一郎論』 中西輝政著
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文藝春秋2010年2月号【独裁者の肖像 小沢一郎「天皇観」の異様】 中西輝政 
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