安保改定の真実(4)暗躍するKGB 「自由主義圏の鎖」避けたいソ連は日本人の核アレルギーに目をつけた

2015-05-06 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

2015.5.6 07:00更新
【安保改定の真実(4)】暗躍するソ連のKGB 誓約引揚者を通じて各界で反米工作 岸内閣を“核”で恫喝 
 昭和35(1960)年より少し前だった。産経新聞社の駆け出しの政治記者だった佐久間芳夫(82)は、東京・麻布狸穴町(現港区麻布台)のソ連大使館の立食パーティーで、3等書記官を名乗る若い男に流暢な日本語で声をかけられた。とりとめもない会話を交わした後、別れ際に「ぜひ今度一緒にのみましょう」と誘われた。
 数日後、男から連絡があり、都内のおでん屋で再会した。男は日米安全保障条約改定や日ソ漁業交渉などの政治案件について執拗に探りを入れた後、声を細めてこう切り出した。
 「内閣記者会(首相官邸記者クラブの正式名称)の名簿をくれませんか?」
 佐久間が「それはできないよ」と断ると、男は「あなたはいくら給料をもらっていますか。家庭があるなら生活が苦しいでしょう」と言い出した。
 佐久間は「失礼な奴だ」と思い、それっきり男とは会っていないが、もし要求に応じていたらどうなっていたか。半世紀以上を経た今も、思い出すと背筋に冷たいものが走る。
    × × ×
 昭和31(1956)年10月19日、第52~54代首相の鳩山一郎が、モスクワでソ連首相のブルガーニンと共同宣言に署名し、日ソの国交が回復した。
 これを機に、ソ連は在日大使館や通商代表部に諜報機関兼秘密警察の国家保安委員会(KGB)要員を続々と送り込み、政財界や官界、メディアへの工作を続けていた。昭和32(1957)年2月に岸信介が第56代首相に就任した後は動きを一層活発化させた。
 警視庁外事課外事1係長だった佐々淳行(84)=初代内閣安全保障室長=は100人超の部下を指揮してKGB要員の行動確認を続けていた。
 当時、警視庁が把握したKGB要員は三十数人。その多くが3等書記官など低い身分を偽っており、驚いたことにトップは大使館付の長身の運転手だった。
 KGBの工作対象は政界や労組、メディアなど多岐にわたったが、佐々はシベリアに抑留され、ソ連への忠誠を誓った「誓約引揚者」との接触を注視した。シベリアで特殊工作員の訓練を積みながらも帰国後は口をつぐみ、社会でしかるべき地位についたところでスパイ活動を再開する「スリーパー」である可能性が大きかったからだ。
 外事課ベテラン捜査員はある夜、KGB要員が都内の神社で日本人の男と接触するのを確認した。男の身元を割り出したところ、シベリアに抑留された陸軍将校だった。男は後に大企業のトップに上り詰め、強い影響力を有するようになった。佐々は当時をこう振り返った。
 「誓約引揚者は社会党や労組などに相当数が浸透していた。安保闘争は『安保改定を阻止したい』というソ連の意向を受けて拡大した面は否定できない」
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 昭和32(1957)年6月の第34代米大統領、ドワイト・アイゼンハワー(アイク)と岸の会談は、日米同盟の絆を内外に印象づけたが、ソ連は危機感を募らせた。鳩山や第55代首相の石橋湛山が対米自主路線を掲げて、ソ連に好意的だっただけになおさらだった。
 もし安保条約が改定され、日本の再軍備が進めば、オホーツク海~日本海~東シナ海を封じ込めるように「自由主義圏の鎖」が完成する。それだけは避けたいソ連は日本人の“核アレルギー”に目をつけた。
 ソ連は昭和33(1958)年5月15日、日本政府に、米国の核兵器が日本国内に存在するか否かを問う口上書を突きつけた。日本がこれを否定してもその後2度同じ口上書で回答を求めた。
 「日本国領域内に核兵器が存在することは、極東における戦争の危険の新たな源泉となる」
 口上書でソ連は、核攻撃をちらつかせつつ「日本国の安全の確保は、中立政策を実施する道にある」として「中立化」を迫った。
 日米間で安保条約改定交渉が始まるとソ連外相のアンドレイ・グロムイコは昭和33年12月2日、駐ソ大使の門脇季光を呼び出し、「新日米軍事条約の締結は極東の情勢をより一層複雑化し、この地域における軍事衝突の危険を更に深めるだけである」とする覚書を手渡した。
 覚書では「中立」という言葉を4回も使い、米国主導の「侵略的軍事ブロック」からの離脱を要求。その上でこう恫喝した。
 「大量殺戮兵器は、比較的小さい領土に密度の大きな人口と資源の集中度の大きい国家にとって特に生死の危険となる」 (敬称略)
 ◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します *強調(太字・着色)は来栖 

「安保改定の真実」(1)~(8 完)産経ニュース 2015/5/4~2015/5/10 連載 
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