変貌する世界と日米安保体制=肉薄する中国、急激な軍拡-企画「矛と盾」(1)

2019-08-21 | 国際/中国/アジア

変貌する世界と日米安保体制=肉薄する中国、急激な軍拡-企画「矛と盾」(1)
 時事ドットコムニュース 2019年08月21日07時33分
 冷戦が終結してから30年、世界の安全保障環境は再び大きく変貌しつつある。中国とロシアが急速に軍備を拡大。米国による事実上の一極支配を揺るがし始めた。トランプ米政権は対テロ戦争から大国間競争にかじを切り、「中国包囲網」構築を狙う。米国の「矛」と日本の「盾」から成る日米安保体制は今後、どこに向かうのか。米軍幹部や識者らへの取材を通じ、5回にわたり答えを探る。

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◇米、優位性消失に焦り
 「ロシアはハリケーンだが、中国は気候変動だ」。ある米軍幹部はこう例え、ロシアの一過性の脅威に対し、中国の台頭は着実に進行し、より深刻な脅威をもたらすと語った。中国の軍備拡大は米専門家らの予想を上回るペースで進み、太平洋の勢力図は急速に塗り替えられつつある。
 米国内では焦りが募る。日本や米領グアムを射程に収める中国のミサイル戦力を前に、米軍は戦略を転換。エスパー国防長官はロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約失効を受け、新たに中距離ミサイルを開発し、アジアに展開することも視野に入れている。  

◇今後100年の難題
 中国の2019年の国防予算は1兆1899億元(約18兆円)で、00年からほぼ10倍に急増した。公表額はいまだ米国防予算の4分の1程度にすぎないが、研究開発費や外国からの兵器調達費が含まれておらず、実際の国防費は公表額の2~3倍とも指摘される。
 中国は米軍の優位性を相殺するミサイル戦力や科学技術分野に集中的に投資。極超音速兵器や量子技術の開発では米国の先を行くとも言われる。
 トランプ政権が昨年1月に公表した国家防衛戦略の策定で中心的役割を担ったコルビー前国防副次官補は「ロシアは東欧における局地的脅威で、北大西洋条約機構(NATO)で十分に対処できる。米国にとって長期的に真の脅威になるのは中国だ」と指摘する。米軍制服組トップの統合参謀本部議長に就任するミリー陸軍参謀総長も上院公聴会で「中国が今後50年、100年にわたる安保上の主な難題だ」と訴えた。  

◇先制ミサイル攻撃も

 米商業衛星は13年、中国北部に広がるゴビ砂漠に、港湾に停泊する艦艇や建物を模した標的が配置されているのを捉えた。反転させれば、米海軍第7艦隊が拠点とする横須賀基地の構造とうり二つ。駆逐艦とほぼ同じ大きさの三つの標的の近くにはミサイル着弾跡とみられる穴が開いていた。
 米海軍のシュガート大佐は17年発表の報告書で、台湾問題や東・南シナ海で「核心的利益」を脅かされた場合、中国が米国の指揮系統をまひさせ、戦力をそぐために「前方展開する米軍基地に先制ミサイル攻撃を加える可能性は十分にある」と警告した。
 国防総省によると、中国は日本を射程に収める短・準中距離弾道・巡航ミサイルを1170~2490発保有。グアムに届く中距離弾道ミサイル「東風26」や高精度の対地・対艦ミサイルも多数配備する。一方、INF条約に縛られていた米軍は地上配備型の中距離ミサイルを保有していない。
 シュガート大佐によるシミュレーションでは、中国が日本にある米軍基地にミサイル飽和攻撃を仕掛けた場合、数分間でほぼ全ての司令部や補給施設が被弾。停泊中の艦艇や滑走路、航空機200機以上が破壊された。  

◇過小評価
 「中国が台湾に侵攻しても、(人民解放軍の)100万人が泳いでくるだけだ」。1990年代、米軍の間では人民解放軍の前近代的な軍備をやゆする笑い話があったという。だが、国防総省の最新の報告書によれば中国海軍の艦艇数は300隻を超え、現在290隻体制の米海軍を上回る。
 米太平洋艦隊で情報部門トップを務めたファネル元大佐は、中国海軍が過去4年間で米軍の4倍以上の艦艇を建造したと分析。「30年には中国海軍は水上艦450隻以上、潜水艦110隻近くを保有する」と予想する。米海軍は34年までに355隻への拡大を目指すが、予算上の制約などから実現は疑問視されている。
 米戦略予算評価センターのトシ・ヨシハラ上級研究員は「米国は2000年代に入っても中国を過小評価していたが、その軍拡ペースは予想をはるかに超えた」と語る。
 ファネル氏は「習近平国家主席は20年中に台湾を武力奪取できるだけの能力を持つよう軍部に命じている」と指摘。49年の建国100年に向け、中国国内で台湾統一の圧力が徐々に高まっていくとして、今後10年間が米中衝突の可能性が危険水域に入る「懸念の10年」だと警告している。

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 ◎上記事は[時事ドットコムニュース]からの転載・引用です


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