能「熊野」「小鍛冶」 / 狂言「薩摩守」

2016-01-15 | 本/演劇…など

熊野/湯谷(ゆや) 
・あらすじ
遠江の国(現在の静岡県)、池田宿の女主人である熊野(ゆや)は、京の都で、平家の公達で権勢を振るう平宗盛(たいらのむねもり)に仕えています。このところ故郷の母の病状が思わしくないと聞き、故郷に帰りたいと、休暇を願い出ますが、宗盛は今年の花見までは一緒に過ごそうと言って、聞き入れません。その頃、熊野の一家の侍女である朝顔が、母の手紙を持って訪れます。文には、病状が思わしくなく、今生の別れが来る前に一目でも会いたいという切々とした母の願いがしたためられていました。一刻も猶予はないと熊野は、母の手紙を宗盛に読み聞かせ、帰郷の許しを一心に願います。しかし宗盛は、許すどころか清水寺の花見に同行するように命じます。
春爛漫の中、楽しげな都の人々の様子を見ても、熊野の心は故郷への思い、母への気遣いで沈みがちです。心ならずも酒宴で舞を舞っていると、急に時雨が来て、花を散らしてしまいました。これを見た熊野は、母を思う和歌を一首読み上げました。その歌はかたくなな宗盛の心に届き、ようやく帰郷が許されます。熊野は、宗盛が心変わりしないうちに、と急いで京を発ちました。
・みどころ
この能は、平家物語の巻十に語られた、平宗盛と愛妾熊野のエピソードに肉付けした現在能です。「松風」と並び昔から人々に親しまれ、「熊野松風は(に)米の飯」と言われるほど、飽きのこない面白さが称えられてきました。
話の内容は、平宗盛という権力者に翻弄される美女の姿を描いていますが、この能の最大の魅力は、明るい春の情景と熊野の暗く沈む心象風景という光と影を際立たせて、物語に深みを与えているところでしょう。清水での花見の道すがら、車窓からの風景を美しい詞章の連なる謡で描写し、その情景に熊野の心の揺れを重ねるように、謡、舞が織り込まれ、秀逸です。
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小鍛冶(こかじ) 
・あらすじ
夢のお告げを受けた一条天皇(980〜1011)の命により、勅使の橘道成は、刀匠として名高い三條小鍛冶宗近(さんじょうのこかじむねちか)のもとを訪れ、剣を打つよう命じます。宗近は、自分と同様の力を持った相鎚を打つ者がいないために打ち切れない、と訴えますが、道成は聞き入れません。進退きわまった宗近は、氏神の稲荷明神に助けを求めて参詣します。そこで宗近は、不思議な少年に声をかけられます。少年は、剣の威徳を称える中国の故事や日本武尊(やまとたけるのみこと)の物語を語って宗近を励まし、相鎚を勤めようと約束して稲荷山に消えていきました。
家に帰った宗近が身支度をすませて鍛冶壇に上がり、礼拝していると稲荷明神のご神体が狐の精霊の姿で現れ、「相鎚を勤める」と告げます。先ほどの少年は、稲荷明神の化身だったのです。明神の相鎚を得た宗近は、無事に剣を鍛え上げました。こうして表には「小鍛冶宗近」の銘、裏にはご神体が弟子を勤めた証の「小狐」の銘という、ふたつの銘が刻まれた名剣「小狐丸」が出来上がったのです。明神は小狐丸を勅使に捧げた後、雲に乗って稲荷の峯に帰っていきました。
・みどころ
 「小鍛冶」は、一曲の展開が素早く、非常に変化に富み、前半、後半ともに見どころの多い人気の曲です。前半では宗近の前に現れた不思議な少年が、名剣の霊験を語るところ、特に火に囲まれた日本武尊が、草薙の剣を抜いて草をなぎ払い、炎を敵に返して退ける名場面の語りと動きの変化が面白く、後半は相鎚を勤める明神と宗近が剣を鍛えるクライマックスへ向かってどんどん運んでいくところに妙味があります。
きびきびした動きと爽快な謡は見る人を飽きさせません。演者の技の切れや謡の力を素直に楽しめる曲で、その娯楽性の高さからでしょうか、歌舞伎や文楽にも採り入れられ、親しまれています。

 ◎上記事は[the 能 com.]からの転載・引用です
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薩摩守(さつまのかみ) 
登場人物/新発意・船頭・茶屋亭主 上演時間/約30分
 東国の新発意(しんぼち=若い修行僧)が住吉天王寺へ参詣する途中、一軒の茶屋に立ち寄り休息します。茶代も持たずに一服した新発意に茶屋は道中を案じ、この先にある大河神崎川の渡し舟に乗るには、かなりの船賃を支払わないと乗せてもらえないと告げると・・・。
 この演目は《秀句》が一つのテーマとなっています。秀句とは秀逸な俳句でもあり、また巧みな掛け言葉による洒落句でもあります。当時は秀句を好んで嗜む者も多く、狂言の中にも度々起用されています。
 また不正乗車(無賃乗車)の事を、かつては「薩摩守」と呼んでいた事を、知る人は多くないでしょう。さて新発意はこの秀句を上手く利用して、無事対岸へ渡り天王寺参拝の本望を遂げられたのでしょうか。行方を左右する船頭との駆け引きが見どころの作品です。
 *公演形態によって、新発意をシテ(主役扱い)とする場合と、船頭をシテにする場合とがあります。。

 ◎上記事は[狂言共同社]からの転載・引用です
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1月24日(日) 第60期第1回 名古屋宝生会定式能  
 名古屋能楽堂
 解説(12時半)
 *能は13時始
 能「熊野」シテ 衣斐愛 ツレ 内田朝陽
 能「小鍛冶」シテ 内藤飛能
 他仕舞・狂言
 【お問合せ】名古屋宝生会TEL052‐882‐5600
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本日は名古屋能楽堂 2016.1.24. Sun. 能「熊野」「小鍛冶」 / 狂言「薩摩守」
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