長崎市長射殺 判決文要旨

2008-05-26 | 死刑/重刑/生命犯

<長崎市長射殺>死刑判決の要旨
5月26日19時22分配信 毎日新聞
 伊藤一長・前長崎市長射殺事件で殺人罪などに問われた元暴力団幹部、城尾哲弥被告(60)に対し、長崎地裁=松尾嘉倫(よしみち)裁判長=が26日言い渡した死刑判決の要旨は次の通り。(敬称呼称略)

 ◇争点に対する判断
 殺害動機についての判断
 被告は65年ごろ、暴力団松本組(95年4月に「水心会」と改称)組員となり、その後、水心会若頭になり、次期会長を期待された。しかし、次期会長としての器を問われ、02年5月ごろ、会長代行とされて実質的に降格となり次期会長就任の見込みはなくなり配下組員もいなくなるなど経済的に体面を保つことが困難となっていた。
 被告は長崎市の建設会社社長を言いなりにさせ、金を引き出すなどして利用してきた。01年末、同社は資金繰りに窮し、被告らは02年1月、長崎市の中小企業連鎖倒産防止資金融資制度を利用し高額の融資を受けようとしたが受けられず04年1月、事実上倒産した。
 同社は03年1月、長崎市発注の歩道新設工事の入札に参加し、談合を持ち掛けたが失敗し工事は別の業者が落札した。03年2月24日、被告は同工事の現場で運転手を後退で誘導し、自分の自動車の後輪を工事で生じた陥没部分に落下させる事故を起こした。被告は03年7月、長崎市に対し、業者が市に提出した事故報告書には、被告が故意に事故を起こしたように記載され虚偽であるなどとして市が間に入るよう要請した。市を交え複数回賠償交渉がもたれたが話し合いはつかなかった。
 被告は本件融資制度を利用しての活動資金獲得や本件車両事故による賠償金獲得にも失敗するなどして自暴自棄となった。市の対応によって、市への影響力を獲得、行使しようとしたもくろみも実現できず市への憤まんを募らせ、その首長である伊藤を逆恨みした。
 同人の市長選への出馬表明を知るや、同人を殺害し、当選を阻止することで、同人及び市への恨みを晴らすとともに、世の中を震撼(しんかん)させるような大事件を引き起こすことによって自らの力を誇示し、暴力団幹部としての意地を見せようと考えたと推認できる。
 殺意発生の時期・内容(計画性)
 被告が伊藤殺害を決意したのは、同人が市長選への立候補を表明し、そのことを知った直後ごろと解するのが相当であるし、07年4月2日ころから同人の動向をうかがうなどしていたのもそのための準備であり、犯行は計画的で殺意は強固であったと認められる。

 ◇量刑の理由
1本件の概要と特徴
 被害者には被告から命を奪われなければならない理由は何一つなかった。まさに暴力団による銃器犯罪の典型であるとともに行政対象暴力として類例のない極めて悪質な犯行である。暴力によって被選挙人の選挙運動と政治活動の自由を永遠に奪うとともに、選挙民の選挙権の行使を著しく妨害したのであり、民主主義の根幹を揺るがす犯行というべきである。民主主義社会において到底許し難い。2犯行の経緯、動機について
 被告が被害者を逆恨みするようになった経緯は自己中心的で、暴力団として生きてきた被告ならではの独自の論理に基づくというほかない。動機は身勝手きわまりなく、強く非難されるべきで酌量の余地は全くない。
3犯行態様について
 犯行は計画的で強固な殺意に基づいて敢行されたことは明らかである。背後の至近距離から2発の銃弾を被害者の背中めがけて撃ち込み、死亡させた犯行態様は死に至らしめる確実性が高く、冷酷かつ残忍で、凶悪であるし卑劣この上ない。県下有数の繁華な場所で敢行されて通行人など付近にいた人々をも巻き込みかねない危険もあった。
4本件犯行の結果について
 被害者は約12年間、長崎市長を務め、被爆都市の市長として世界に平和を訴え続けてきたし、暴力団などによる行政への不当要求の排除にも尽力してきたのであり、多くの市民に支持されてきた。選挙期間中、志半ばにしてこの世を去らなければならなかった無念さは計り知れない。家庭人としても良き夫、良き父親として家族の支えになっていたのであり遺族は精神的支柱を失った。妻の処罰感情は峻厳を極め、娘らも同様に厳しい被害感情をあらわにしている。
 現職市長が暴力団の凶弾に倒れる事態は暴力団の無法さ、銃器犯罪の恐怖を改めて全国に知らしめることになり、社会全体を震撼させた。各地方自治体職員などの不安を増大させることにもなった。地域社会ひいては社会一般に及ぼした影響は重大であり、同種事犯の再発防止を求める社会的要請は非常に大きいと考えられる。
5犯行後の被告人の態度など
 取り調べでも市に不正があるなどと主張して自らの行為を正当化し、公判廷では新たな弁解を展開して、責任軽減にきゅうきゅうとしており、真摯(しんし)に反省しているとは認められない。
6更生可能性について
 被告は人生の大半を暴力団構成員として活動してきた。服役前科6犯を含む前科9犯がある。殺人未遂などの罪で懲役4年に処せされたもの(初服役)も含まれ被告の人命軽視の姿勢は早い段階からみられた。銃器の所持、使用に対する規範意識も鈍麻している。こうした暴力的犯罪傾向は、度重なる服役にもかかわらずむしろ深まっており、固着している。矯正、改善は困難極まりない。
7一般予防の必要性
 犯行の罪質などからすれば、一般予防の必要性は非常に大きい。
8被告のために有利に斟酌(しんしゃく)すべき事情
 被告は、被害者およびの遺族に謝罪の意思を表明している。年老いた母やまた幼く病弱な息子がいて、被告もその息子の将来を案じていた。これらは被告に有利に斟酌できる。
9被告の刑事責任
 以上の通り被告の刑事責任は極めて重大であり、酌むべき事情や、死刑が人間の生存する権利をはく奪するものだけに、その適用には特に慎重を期すべきであるところ、本件では殺害された被害者は1人にとどまることなどを十分考慮しても、本件犯行の罪質、結果の重大性、遺族らの処罰感情、犯行動機の不当性、犯行態様の悪質さ、被告の犯行後の情状や犯罪性向の根深さ、一般予防の必要性の高さなどからして、被告に極刑を科すことはやむを得ない。

 ◇主 文
 被告を死刑に処する。 

最終更新:5月26日19時58分


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