「中国の目は既に太平洋の彼方に 米軍は防衛ラインを第一列島線から第二列島線にまで後退」平松茂雄

2012-06-12 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

中国軍事研究家・平松茂雄 中国の目は既に太平洋の彼方に
産経ニュース2012.6.12 03:24[正論]
 北大西洋条約機構(NATO)側の呼称で「バックファイアC」といえば、ロシアの長距離爆撃機Tu-22M3のことである。その生産ラインの中国への売却が、長期にわたる商談を経て、15億ドルの価格で決まったようだ。同爆撃機は、中国では「轟-10」(H-10)と呼ばれる。2年前の5月、米議会の政策諮問機関、「米中経済安保調査委員会」が開催した公聴会で明らかにされた。
 ≪戦略環境変える長距離爆撃機≫
 中国軍の主力爆撃機は、長らく旧ソ連時代に導入したTu-16(バジャー)と呼ばれる双発中型機であった。冷戦時代、わが国の日本海上空にしばしば偵察飛来して話題になっている。米トマホークと同性能の巡航ミサイルなどの兵器を装備しているものの、導入以来、半世紀を経て時代遅れは否めない。ロシアでは1990年代に退役しており、中国でも更新は必然の勢趨(すうせい)であった。
 冷戦終結に伴って、中国はロシアとの関係を対立から急接近へと転換し、98年にTu-22M3爆撃機の購入を意図した。だが、ロシアは、東アジアの軍事バランスを著しく崩すという理由で、この爆撃機の売却を拒否したとされる。今回のロシアの方針転換の背後に何があるかの詮索はおくとして、中国軍の航空戦力が向上すれば、何よりも東アジアの安全保障環境に大きく影響してくるから、関心を持たずにはいられない。
 「バックファイアC」は、来年後半に試作機が完成する予定だ。エンジンを除く部品は、中国で作られる。第1陣として12機、第2陣として24機、合計で36機が実戦配備される計画だという。
 目下、世界最速の遠距離戦略ミサイル爆撃機とされ、通常爆弾と核ミサイルを搭載する。作戦行動半径は約2880キロといわれるから、中国大陸を発進して、南シナ海、東シナ海ばかりか、西太平洋海域で行動し、米空母戦闘群の行動を抑制できるという。空中給油が可能だから、作戦行動半径はさらに伸ばすことが可能だ。
 ≪空母保有を想定した演習も≫
 中国軍は、「空母キラー」と呼ばれる地上発射対艦弾道ミサイル「東風21-21D(DF-21D)」による抑止力をすでに有している。それに「バックファイアC」が加われば、米海軍をにらんだ「接近阻止・領域拒否」(A2AD)戦略にとり大きな力となる。
 中国の海洋進出といえば、わが国では、圧倒的な関心が尖閣諸島をめぐる動きに注がれ、時折、南シナ海の現状に目が行く程度で、東京都による尖閣購入構想、短期間で10億円以上にも達した購入資金の寄付、東京都と沖縄県石垣市による尖閣共同管理提案、といった話がニュースになっている。
 対する中国は、尖閣諸島はもちろん、遥(はる)か遠方海域まで視野に入れて行動している。海軍艦隊は今世紀に入り、東シナ海の中央部、春暁(日本名・白樺(しらかば))石油ガス田の近海を通過し、第一列島線を、沖縄本島と宮古島の間の海域経由で南下して、西太平洋のわが国最南端の領土、沖ノ鳥島の周辺海域にしばしば現れだした。南シナ海の海南島近海から東進して、台湾とフィリピンの間のバシー海峡で第一列島線を通れば、沖ノ鳥島の周辺に抜けられる。沖ノ鳥島を南下すれば、西太平洋における米軍の重要基地グアム島である。
 5月9日付産経新聞は、同月6日に、先島諸島から台湾にかけての太平洋海域で、中国艦隊が揚陸艦を先頭にV字形の陣形で航行する訓練を行ったと報じた。近い将来における空母の防衛を想定した訓練とみられる。この手の訓練・演習は頻繁に実施され、潜水艦も参加しているという。
 ≪防衛ラインの後退にどう対応≫
 中国軍が現状でも、「空母キラー」の援護を得られていて、さらに、そう遠くない将来には、長距離爆撃機、「バックファイアC」の配備も受けられるとなると、東シナ海、南シナ海から西太平洋にかけての海域では、米軍の活動は著しく制約されかねない。
 中国は、先ごろ、未完成のソ連製「ワリャーグ」を改造した空母を完成させ、試験運航の段階にある。フランスの空母を購入したブラジルから、この空母に使用されている搭載航空機の発進に関する技術を移転してもらったとの情報もある。新しい独自の空母の建造も計画されているようだ。
 米国は、中国の海洋進出・外洋海軍建設に対応するため、沖縄に駐留する海兵隊約2万人を半減して、グアム、インドネシア、オーストラリアに分散配備する態勢に転じている。米軍が、防衛ラインを、これまでの沖縄-台湾-フィリピンという第一列島線から、第二列島線にまで後退させるという事態に、わが国はどう対応するのか、米空母戦闘群と自衛隊との間にどんな連携が図られるのか、部外者には知るすべもない。
 ただ、中国が尖閣周辺を超え、西太平洋にまで勢力圏を広げようと目論(もくろ)んでいることだけは、強く銘記しておくべきだろう。(ひらまつ しげお)
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アジアの軍事費が初めて欧州超えへ 中国軍拡などで/中国初の空母「1隻では足りない」―軍高官 2012-03-08 
 アジアの軍事費が初めて欧州超えへ、中国軍拡などで=報告書
 ロイター 3月8日(木)12時25分配信
 3月7日、英国のシンクタンク国際戦略研究所(IISS)は、2012年のアジアの軍事費が欧州を初めて上回るとの見方を示した。写真は中国の安徽省で1月撮影(2012年 ロイター)
[ロンドン 7日 ロイター]
 英国のシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)は、7日発表の年次報告書「ミリタリー・バランス」で、2012年のアジアの軍事費が欧州を初めて上回るとの見方を示した。経済成長や中国の国防費拡大などが要因だという。

          

  中国の11年度国防費は約890億ドル(約7兆2250億円)とみられ、5年おきに倍増するペースで拡大。12年度も前年から11.2%増加する。
 また報告書は、他のアジア新興国も軍事費を拡大し、新たな紛争リスクが生まれていると指摘。IISSのチップマン所長は「アジアで起きていることは、19世紀型の領土紛争から経済的対立、核兵器を保有する可能性がある国など、あらゆる種類の戦略的挑戦だ」と述べた。
 一方、欧州では経済危機や差し迫った安全保障上の脅威がないことから、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が兵力規模を削減。こうした背景から、オーストラリアとニュージーランドを除くアジア各国の総軍事費が、欧州を上回る見込みだという。
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中国の脅威、衛星破壊やサイバー攻撃…英戦略研
読売新聞 3月8日(木)11時46分配信
 【ロンドン=林路郎】英国際戦略研究所(IISS)は7日、世界171か国・地域の軍事力を分析した「ミリタリー・バランス2012年版」を公表。
 中国の台頭や米国の将来的役割への疑問、北朝鮮への不安などから、アジア地域で、各国が互いの戦略を理解しないまま軍拡競争を起こしていると警告した。
 中国については、過去10年で軍事費が2・5倍に達し、経済成長のペースを上回ったと指摘。ステルス性の高い次世代戦闘機J20や、整備が進む初の空母「ワリャーグ」に注目が集まるものの、真の懸念材料は衛星破壊兵器や巡航ミサイル、サイバー攻撃能力などとした。
 また、「2050年までに米国の対等なライバルになるという中国の目標は達成可能だ」と分析した。.
最終更新:3月8日(木)11時46分
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中国初の空母、年内に就役か=「1隻では足りない」―軍高官
時事通信 3月8日(木)19時24分配信
 【北京時事】8日付の中国夕刊紙・法制晩報によると、中国人民解放軍の徐洪猛・海軍副司令官は同日、旧ソ連製の空母「ワリャーグ」を改造し昨年8月に試験航行を始めた中国初の空母が今年中に就役する計画があることを明らかにした。全国人民代表大会(全人代)が開かれている北京の人民大会堂で同紙の取材に応じた。
 中国国防省は昨年7月、改造した同空母を海軍の試験・訓練艦として使うと説明している。
 また、故徐向前・元国防相の息子の徐小岩中将は「中国が国産の空母を持つにはまだ時間がかかる。空母は1隻では絶対に足りない。3、4隻保有すべきだ」と述べた。
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中国の12年国防費は11.2%増、公安関連支出は11.5%増
2012年 03月 5日 15:11 JST
[北京 5日 ロイター]
 中国財務省が全国人民代表大会(全人代、国会に相当)に5日提出した2012年度予算案によると、国内の治安維持に充てる予算は前年度11.5%増の7018億元(1114億ドル)に拡大する。
今年秋の共産党大会での指導部交代に向け、政府が社会安定に腐心していることがうかがえる。
 2011年度の治安維持費は前年比約13.8%増の6293億元だった。
 温家宝首相は、あらゆる衝突やリスク、危険を効果的に沈める必要があると指摘し、単独の問題が国内全体に広がることを防ぐとともに社会調和や安定を促進していく考えを示した。
 政権交代を前にして胡錦濤・国家主席は昨年から社会管理の強化を推し進めている。当局によると、社会的混乱につながるような暴動や抗議活動などの事件は1993年の8700件から2010年には9万件に増加した。この数字を上回る推計値もある。また、政府はここ数年の数字を公表していない。
 政府は経済成長や都市化、インターネットの普及により、デモや抗議活動が全国的な運動に拡大することを警戒している。
 一方、2012年度の国防費予算は前年から11.2%増加し6703億元(1064億ドル)。2011年度の国防費は前年比12.7%増だった。国防費は過去20年間ほぼ連続で2けた増となっている。
アジア近隣国は、中国の国防費拡大に神経を尖らせてきたが、全人代の李肇星・報道官は4日、中国の国防費は米国と比べて小さいと指摘。
 全人代開幕前の記者会見で、「中国は人口13億人、広大な土地と海岸を持っており、国防費は他の主要国と比べてかなり小さい」と語った。
 さらに「中国の限定的な軍事力は国家の主権と安全、領土保全を守るためのものであり、基本的に他国の脅威にはならない」と述べた。
*内容を追加します。
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「中国が軍事力強化→周辺国からの注文が増える」と、米武器業者がホクホク顔―英誌
Record China 3月7日(水)12時1分配信
 5日、米国が軍事支出の削減を計画し、欧州各国が国防予算を減らす中、米国の武器業者はアジア諸国を販売先にしようとしている。写真は11年12月、3回目の訓練航行から大連港に戻った中国初の空母ワリャーグ。
  2012年3月5日、環球網によれば、1日付の英軍事誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(電子版)が「中国が米国の軍事産業を後押ししている」との記事を掲載した。米国が軍事支出の削減を計画し、欧州各国が国防予算を減らす中、米国の武器業者はアジア諸国を販売先にしようとしている。
  2月にシンガポールで行われた航空ショーで、防衛に係わる官僚は口々に「中国軍の活動が活発化していることにより、アジア諸国からの注文が増加している」と話していた。米国の武器業者も「中国は最良の広告塔だ」とホクホク顔。「中国が空母の試験航海を行ったり、新型戦闘機の試験飛行を行ったり、沖縄周辺を海軍の艦艇に航行させたりするたびに、引き合いの電話が鳴り続ける」と明かした。
 アジア諸国に軍備増強の必要性を痛感させているのは、中国軍の活発化だけでなく軍事力の強大化にもある。最新の「J-20(殲-20)」ステルス戦闘機は広範囲の作戦半径を実現し、「JH-7(殲轟7)」戦闘爆撃機を超える戦闘行動半径を達成するとされていることから、各国にとってかなりの脅威となる可能性が高い、と記事は指摘している。(翻訳・編集/岡田)
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増大する赤い脅威は冷戦時代のソ連を凌ぐ! 日本も「中国の研究」に一流の人材を投入せよ 2012-03-06  
  増大する赤い脅威は冷戦時代のソ連を凌ぐ! 日本も「中国の研究」に一流の人材を投入せよ
(SAPIO 2012年2月22日号掲載)
文=古森義久、中嶋嶺雄
 アジア全域の駐留米軍を射程にした中距離ミサイルの増強、空母の保有のみならず、衛星破壊兵器、宇宙基地、さらにはサイバー攻撃とアメリカを挑発しつづける中国。一方のアメリカも近年、中国の軍事的脅威に対する研究を強力に進め、その規模と深度はかつてのソ連研究を凌ぐほどになっている。
 このほど『「中国の正体」を暴く─アメリカが威信をかける「赤い脅威研究」の現場から』(小学館101新書)を上梓した産経新聞ワシントン駐在編集特別委員の古森義久氏が、中国研究の第一人者として知られる国際教養大学理事長・学長の中嶋嶺雄氏と対談。「赤い脅威の正体」について語り合った。
中嶋 このところアメリカの対中国政策がずいぶん変わってきました。その最大の理由は中国の軍事的膨張です。オバマ政権の中国に対する外交・軍事戦略は明らかに従来の姿勢と違います。その点から見て、このたび古森さんが書かれた新書『「中国の正体」を暴く』は非常に中国の本質に迫った重要な作品です。
古森 オバマ政権の対中国政策の転換は、日本にとっても大きな意味があると思います。オバマ政権が登場して最初の2年間は、融和政策でした。中国を刺激するような言動はなるべくとらない、軍事力についても軍拡とか脅威とかという言葉を口にしないという、かなり明確な通達が政権内で出されていました。中国に対して厳しいことを言うとすれば、“透明性”について言及することぐらいでした。
 ご存知のように、中国の軍事体制の特徴のひとつは透明性がないということです。どういう戦略でどういう兵器をどのように調達していくのか。それを誰が、どういう手続きで決めるのかということがまったくわからない。これは民主主義ではない国の特徴です。
中嶋 人民解放軍は、林彪の時代があり、その前は彭徳懐の時代、文革後は葉剣英、海軍は劉華清でした。つまり、誰が軍の指導者かということがよくわかっていた。ところが、今は中国の軍全体が非常に膨張し、誰が軍の指導者なのか不透明になっている。従来、アメリカは中国をカウンターパートとか、ステークホルダー(利害保有者)という認識を示してきましたが、その方針を転換せざるを得ない状況になったのですよね。
古森 アメリカがどんなに融和的に中国と接しても、図に乗ってどんどん強硬な措置をとってくる。それで、オバマ政権もやむを得ず、中国の軍事拡張を正面から批判し、対応策を打ち出すようになったということです。そのクライマックスが今年1月5日にオバマ大統領が国防総省で行なった、アジアにおける米軍のプレゼンスを強化するという演説です。
中嶋 私は1993年から「米中新冷戦」ということを言ってきました。米ソの冷戦構造崩壊にともなって東西冷戦は終わったが、アジアには冷戦が残っている。特にアメリカと中国は価値観が違うだけじゃなくて、軍事戦略の面でも冷戦を続けるだろうと。それがいよいよ現実的になった。中国が台湾を含めてどういうアジア政策を展開するのか。第1列島線、第2列島線ということを言って、最近では南シナ海、尖閣諸島だけではなく、沖縄までも虎視眈々と狙っている。

             

 古森 第1列島線、第2列島線とはその影響圏、コントロールする範囲を広げていくという意味で中国が使っている用語ですね。これは西太平洋における米軍のプレゼンスがどんどん希薄になることを願っている戦略です。最近の中国がミサイル増強や空母を保有するなど、軍事のハードウェアを強化していることの背景には、そういう膨張的な戦略意図があります。
■明の時代から中国は海洋国家だった
中嶋 私が懸念するのは、中国が太平洋地域だけならともかく、イランやアラブ地域の方向にも触手を伸ばしているということです。ハーバード大学の教授だった故・サミュエル・ハンティントンは論文『文明の衝突』の中で「儒教イスラムコネクション」の危険性という問題を提起していました。中国が儒教的な専制体制をとりながら、それがイスラム原理主義、あるいはイスラム圏と結びついた時には非常に危険だという内容です。最近の中国の動きを見ていると、パキスタン、イラン、イラクといわばイスラム原理主義的な国と関係を結んでいる。そしてスーダンや、私たちが名前も知らないようなアフリカの国々にまで関心を示しています。こういう中国の世界的な膨張に対して、アメリカとしても我慢ができなくなったということでしょうね。
古森 日本にとっては西太平洋、東アジアが最大の関心の領域ですが、一方で中国がグローバルパワーとして、まず経済面から活動を拡大してきた。たとえば、昨年、リビアのカダフィ政権が倒れました。その危機の時、3万人以上の中国人労働者を帰国させるため、人民解放軍が派遣されたというように、経済活動の拡大によって、軍事力でそれを守るようになってきた。
 ただし中国がグローバル展開する際、アメリカとの価値観の違いが顕著に表われます。たとえば、アフリカ諸国に政府援助する時、アメリカは、民主主義を進めるとか、軍事用途には使わないなど必ずある程度の条件をつけます。ところが、中国の場合、ほとんど条件をつけないので、独裁政権、軍事政権は大喜びで中国からの援助を受け入れます。これがまた、アメリカにとって脅威となるわけです。
中嶋 中国のイスラム圏、アフリカ諸国への勢力拡大は、もちろん資源確保という戦略意図があるわけですが、明の時代にアフリカまで出て行った鄭和の大航海を想起させます。われわれは中国を大陸国家だと思っているけれども、中国は実は海洋国家でもある。2008年北京オリンピックの開会式で、フィールドいっぱいに無数の人間が巨大な船形のパフォーマンスを展開して鄭和を持ち上げました。あれは、世界中に海洋国家であることをアピールしたんだろうと思うんですね。
古森 その中国の軍拡は、いったい何を目指しているのか、というのがわれわれの懸念になるわけですが、日本では国政レベルで中国のあり方、特に軍事力に光を当てて研究し、議論するということがない。期待するのは無理なんでしょうか?
中嶋 日本の政治家はそんなレベルにないですね。それどころか、大挙して中国を訪問し、江沢民や胡錦濤に頭を下げるという外交をやっている。
 そもそも中国の侵犯や威嚇が続く尖閣問題は、明らかに日本外交の失敗です。1972年に日中国交正常化しましたが、その直前に人民日報が「尖閣は中国の領土」と外交声明を掲載しました。ところが、当時アメリカのニクソン大統領が訪中するという“ニクソン・ショック”で、日本政府も外務省もバスに乗り遅れるなとばかりに、その重要な声明を考慮せず、国交正常化に流れていった。その後、78年の「日中平和友好条約」批准書交換セレモニー出席のために訪日した小平は「尖閣の問題は次の世代、また次の世代に委ねる」という内容の発言をし、政府もメディアも大歓迎した。だが、小平が最高権力者となった後の92年、中国は領海法を定め、国内法上は尖閣は中国のものであるとしました。この年、天皇皇后両陛下の訪中が控えていたため、日本政府は中国の領海法に対して、ひと言も抗議していないんです。そういう既成事実の積み重ねがある上に、さらに中国に低姿勢に出る。そうすれば、中国は世界と協調してくれるだろうと。
古森 中国に対してやさしく出れば、中国もやさしくしてくれるという発想はどこから出てくるのでしょうか?
中嶋 戦後の日本外交、特に外務省のチャイナスクールなどが大きな災いの元だと思います。私はかつて香港の総領事館に外務省特別研究員として2年間勤務したことがありますが、「中国」というとそれだけで位負けするという体質があるようですね。
■日本には中国と相容れない価値観が厳存する
古森 私は北京駐在の後半に、アメリカを専門に研究している中国の知識人―政府関係者ですが―と親しくなったのですが、彼が流暢な英語で「日本と中国はひとつの国になるのが自然じゃないですかね」と本気で言うんです。で、文化も言語も違うのはどうするのかと聞くと、「言葉はやっぱり大きい国の言葉でしょう」と言うわけです。
中嶋 まさに「中華思想」ですよね。これはとても根が深い。われわれもよほど身を構えていかないといけない。
古森 アメリカの場合には、基本的な価値観の違いを少なくとも国政レベルで認識しています。だから、日本の議員のように訪中して最高指導者に会いたいなんて言う人たちはいない。胡錦濤が訪米した時でも、議会でのパーティで議会の側からは写真は撮らなかった。胡錦濤と並んでいるところを写真に撮られるのを嫌がるアメリカ議員の声が多くて禁止になったんです。中国は大変怒りましたけどね。日本の国会議員と正反対です。
 アメリカ側のそんな姿勢の背景には、一党独裁で人権を弾圧し、国民の自由な選挙で選ばれた指導者ではないという基本的な体制・価値観の違いへのはっきりした認識があります。
中嶋 なるほどね。日本はその点、中国との関係を「同文同種」といった言葉で括ろうとしますが、そもそも無理がある。中国の文化を学んだことは事実ですが、明治時代はヨーロッパの近代化を学び、戦後はアメリカ民主主義を学びました。中国から漢字文化を学んだとはいえ、日本独自の文字をつくり上げてるわけです。独自の美意識もある。
古森 日本でも中国との相容れない価値観が厳存することを認識して、もう少し国政、あるいは外交そのものと結び付いた中国の軍事動向への対応、情報収集活動も含めて新しい枠組みへの動きがあってしかるべきだと思うのですが。
中嶋 不透明な中国の軍事力に対する分析能力を磨くことは非常に重要なことですね。
古森 アメリカは中国の軍事動向を把握するために人工衛星などハードウェアを充実させ、その情報収集能力の高さはすばらしいものです。それプラス、官と民の両方で中国の軍事を研究する人材が増加している。戦後、米ソ冷戦時代、ソ連の軍事がやはり秘密のベールに包まれており、そのソ連の軍事を研究する分野に、国際政治学、安全保障学、理工系も含めて、ベスト・アンド・ブライテスト(超一流の人材)が集まっていた。キッシンジャーやブレジンスキーなどが一例です。そのベスト・アンド・ブライテストが今、中国の軍事研究へと移ってきているんです。つまり、官と民がぴたっと歩調を合わせて、アカデミズムでも中国の軍事研究が主流となっている。そういう状況が少しでも日本に出てくればと思うのですが……。
中嶋 日本のアカデミズムでは、軍事研究そのものが人気がないだけでなく、防衛大学校を除いて安全保障や防衛についての授業はほとんどないんです。一番大事なことなのに回避している。日本はアジアの中で、大学教育レベルでも遅れる気がします。
 アジアの安全保障において、今後、アジア諸国からの期待にこたえるような人材育成とともに、日本政府は沖縄の基地問題を早く解決して、中国という「脅威」に対応していく体制を構築しなければいけませんね。
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「中国の正体」に気がつかない日本 米国の専門家が分析する中国軍拡の最終目標とは 2012-02-08
JBpress 2012.02.08(水)古森 義久 
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中国が軍備拡張 /2012年 国防予算 8兆7千億円/日本にシーレーンの危機管理シナリオはあるか 2012-03-05
中国初の空母「ワリヤーグ」が訓練用にしか使えない理由 2011-08-31 
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中国の空母ワリヤーグ 「単なるポンコツ」「くず鉄の集まり」等の評価も 2012-01-18
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中国初の空母「ワリャーグ」 DigitalGlobeがウェブサイトで公開 2011-12-17
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旧ソ連から買った中国の空母「ワリヤーグ」/有事の戦闘では弱いが、平時に発揮される中国空母配備の効果 2011-07-14
バイデン副大統領訪中で米国が見せた中国に対する配慮/日米中のトライアングル、米中2国間の関係に 2011-08-30
経済発展によるカネで軍拡を続ける中国 2010年度の国防予算は日本円で6兆292億円 2011-01-10
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石原都知事 尖閣 政府の不作為 通用せず「すべて遅すぎる。とっととやってもらいたい」 2012-06-12
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尖閣衝突事件 公訴棄却/日本という国は国家主権にかかわる問題でも「押せば法を曲げてでも退く」 2012-06-09 
  尖閣衝突事件、公訴棄却に
 中日新聞「視座」2012/6/3 Sun.
渡辺利夫 拓殖大学学長
 尖閣諸島は日本固有の領土である。日本政府が明治18年以来、数度の現地調査を重ね、ここがいずれの国にも属さない無人の島であることを確認したうえで、同28年の閣議決定により正式に日本領土として編入した。閣議決定に清国側からの異論はなく、尖閣の領有権が日本に属することは国際的な認知を得ることにもなった。第2次世界大戦での敗北後、尖閣諸島はサンフランシスコ講和条約により米国の施政権下に入ったものの、昭和47年の沖縄返還と同時に同諸島の施政権も日本のものとなった。
 尖閣諸島の領有権を中国が主張するようになったのは、国連が東シナ海海底調査を行い、この海域の大陸棚に豊富な石油が埋蔵されている旨の報告書を提出した後の同46年のことであった。平成4年には「領海法」なる国内法を制定し、尖閣を台湾に付属する領土だと規定した。
 日本の主張に理があることは明白である。その意味で、尖閣諸島には「領土問題は存在しない」。尖閣の実効支配を妨げるものは何もない。東京都の石原慎太郎知事が民間所有者から尖閣を購入する構想を発表したことに対して、日本国内にも異論があるようだが、どうしてか。
 南西諸島海域の領海を頻繁に侵犯し、あろうことか漁船を日本領海内で海上保安庁の巡視船に体当たりさせるという挑発的な行動に出たことを知らない人はおるまい。こうした挑発が全くなく、この領海が静かに打ち過ぎているのであれば、また万一侵犯が起こったとして、日本政府がこれを公然と排除するための行動に打って出るというのであれば、石原知事とてあえて公的資金による尖閣購入などという「奇策」を用いることもなかったはずである。日本政府が尖閣問題に対して、ほとんど無策であることを憂慮しての石原知事の行動なのであろう。
 一昨年9月の漁船衝突事件に対する日本政府の事後処理は、思い起こすのも恥ずかしいほどに無様なものであった。那覇地検は「日中関係への配慮」という政治的判断をもって船長を釈放してしまった。法と証拠のみをもって起訴、不起訴処分の厳格な決定を職務とする地検に、このような判断ができるはずもない。首相官邸が地検に圧力をかけて、司法手続きの歪曲を迫ったことの帰結である。
 この対応を訝る国民の不服申し立てにより、那覇検察審査会が結成され、2度にわたって起訴相当を議決。これにより、強制起訴が可能となったのは幸いであった。今年3月15日には、那覇地裁による指定弁護士が検察官役となって漁船船長を公務執行妨害罪などで強制起訴し、起訴状を船長宛に送達した。しかし、尖閣は自国領とする中国政府独自の解釈により、起訴状が船長の手に届けられることはなかった。起訴状が被疑者に2カ月以内に送達されなければ、「公訴棄却」になるという日本の刑訴法に則って、この5月17日に事件は決着した。
 ことを静かに収めようとする首相官邸からの圧力によって、那覇地検が処分保留のまま船長を釈放した時点で、この事件の決着はついていたのである。主権侵犯という国の大事であるにもかかわらず、そんな事件はまるでなかったかのように振る舞ったのが日本政府であり、日本という国は国家主権にかかわる問題でも「押せば法を曲げてでも退く」という学習効果を中国に与えて、事件は終局を迎えた。尖閣の命運尽きる日がやがてやってこよう。 


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