「タトゥーは芸術」彫り師、異例の法廷闘争決意 「ライセンス制の導入を」
withnews 2016/1月2日(土)10時0分配信
タトゥーの彫り師に対する、医師法違反容疑での摘発が拡大しています。取り締まりを受けた彫り師の側は、どのように受け止めているのでしょうか。無罪を主張し、法廷闘争の道を選んだ男性にインタビューしました。
■罰金を拒否、異例の法廷闘争を決意
大阪府吹田市の彫り師、増田太輝さん(27)は昨年4月、大阪府警に店を捜索され、警察官から「タトゥーを彫ってますね。許可を得ていないと医師法違反ですよ」と告げられました。逮捕はされなかったものの、複数回にわたって取り調べを受け、8月に医師法違反の罪で在宅のまま起訴されました。
しかし、法律に対する疑問をぬぐえなかった増田さんは、異例の法廷闘争を決意。吹田簡易裁判所による罰金30万円の略式命令を拒否し、正式裁判を申し立てました。先月25日には、大阪地裁で公判前整理手続きが開始されました。
主任弁護人の亀石倫子弁護士は「タトゥーは人類が古代から脈々と受け継いできた、身体装飾の表現。医師でなければタトゥーを入れてはいけないとなると、タトゥーを入れたい人の自己表現の権利まで侵害される。摘発は職業選択の自由や表現の自由など、憲法上の価値に対する配慮を欠いている」と主張。無罪を訴えています。
■練習台買って出てくれた家族
増田さんへの一問一答は次の通りです。
――彫り師を目指したきっかけは何だったのでしょうか。
小さい頃から、絵を書いたりプラモデルをつくったりするのが好きでした。高校生の頃、音楽イベントでタトゥーを実演しているのを見て、彫り師の仕事に興味を抱きました。いくつかタトゥー・スタジオを見学して、「彫り師になりたいんです」と話したら、「自分自身も入れないといけない」と言われて。卒業後、左腕にウサギのタトゥーを入れたのが最初です。
――そのまま、すんなりと彫り師に?
いえ、建設現場の監督見習いや作業員など昼間の仕事をしながら、夜にタトゥーの勉強を続けていました。朝方、仕事が始まる直前まで絵を描いていましたね。彫り師は自分の体を使って練習するので、僕の足なんかグチャグチャですよ。後で塗りつぶしたから真っ黒になっています。
家族にも練習台になってもらいました。母親は内心、反対していたと思うのですが、「どうしても彫り師になりたい」と伝えると、「じゃあ入れてよ」って。手の指にクモの巣とクモを彫りました。兄貴も練習台を買って出てくれて、右腕から胸にかけてトライバルという民族的な模様を入れさせてもらいました。そうやって練習を重ねて、自分の店を開業したのが2011年ごろのことです。
■針は使い捨て、滅菌器も設置
――利用客はどのような人たちですか。
世代は20代~30代後半、会社勤めの方が多いです。あとは、美容師さんとか、医療関係とか。亡くなったご家族やペットの命日を入れたこともあります。ただ、「恋人や夫婦の名前を入れてください」という依頼は基本的にお断りしています。やはりいつ別れることになってしまうかわかりませんし、勢いで入れて後悔してほしくないですから。実際、お断りした数カ月後に連絡を受けて、「入れなくてよかったです」と感謝されたこともあります。
――暴力団関係者も来るのでは。
まったくないです。あらかじめ用意した「施術同意契約書」に、暴力団関係者や麻薬中毒者、感染症にかかっている人には施術できない旨を明記し、サインしてもらっています。こちらもトラブルは避けたいですから、身分確認などはきちんと行っています。
――衛生面は大丈夫ですか。
針やインクを入れるキャップは使い捨てですし、ベッドやライトは、1回1回ラップやシートで覆っています。グリップやチューブなどの器具を消毒するための滅菌器も置いています。この滅菌器がないと、タトゥー・スタジオは開けないんです。
■「ライセンス制の導入を」
――摘発についてはどう受け止めていますか。
警察や検察の取り調べでは、「アートメイクと一緒でタトゥーも無免許なら医師法違反です」と言われました。でも、アートメイクとタトゥーでは目的が違う。タトゥーは芸術であり、作品です。それが医師法違反にあたるだなんて、思ってもみませんでした。僕はこの仕事に誇りを持っていますし、確定申告の職業欄にもはっきり「彫り師」と書いています。
18歳未満にタトゥーを入れると、(自治体によっては)青少年健全育成条例違反になります。刑事さんに「であれば、成人には彫っていいはず。医師資格が要るという法律はおかしいのでは」と反論しましたが、流されてしまいました。彫り師になるために医師免許を取らなければいけないというのは、あまりにハードルが高過ぎる。医師免許がとれたとしたら、普通はそのまま医者になりますよ(笑)。
――だからと言って、まったく野放しにするのはマズイのでは。
海外と同様、タトゥーのライセンス制を導入するべきではないでしょうか。昔から彫ってきた人たちが「今さらライセンスなんて」と思う気持ちはわかります。でも、逮捕者が出ている以上、このままグレーな状態ではいられないと思うんです。放置すれば、警察の目を逃れようとモグリが増えて、かえって地下化しかねない。ライセンス制にして、彫り師の仕事をきちんと認めてほしいです。
◎上記事は[Yahoo!JAPAN ニュース]からの転載・引用です
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* <入れ墨>医療か、芸術か 増田太輝被告 医師法で初の正式公判―大阪地裁 2017/4/26
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刺青と規制、脈々と続く歴史 吉本ばなな「臨機応変の判断を」 負のイメージの源泉は…五輪で混乱も?
withnews 2016/1月3日(日)10時0分配信
腕や胸にタトゥーがあるネイマール選手=2015年6月6日、ロイター
タトゥーの彫り師らに対する、医師法違反を理由にした取り締まりが広がっています。摘発強化の背景にある「刺青と規制」の歴史。そこから見える、将来への課題とは? 東京五輪では様々な文化を持った外国人が訪れます。自らもタトゥーを彫っているという作家の吉本ばななさんは「臨機応変な対応を」と話しています。
・5千年前、すでに記録
刺青の風習は、一体いつから始まったのでしょうか。山本芳美著『イレズミの世界』などの文献によると、少なくとも5千年前の時点で人類が刺青を入れていたことが確認されており、中国の史書『魏志倭人伝』には、弥生時代の日本の男性が刺青を入れていたと記録されています。
江戸時代になると、愛を誓い合った遊女と客が互いの指に刺青を入れる「入れぼくろ」が流行します。また、火消しや鳶、飛脚、船頭、きょう客らもこぞって彫り物をするようになりました。描かれるモチーフも、文字やシンプルな図案から次第に絵画的で複雑なものへと進化。刺青文化が盛んになるなかで、職業としての彫り師が誕生したと言われています。
・負のイメージの源泉に刑罰の「入れ墨」
他方、刑罰としての「入れ墨」も日本書紀の時代から存在しました。その後千年以上、入れ墨の刑は絶たれていましたが、江戸時代に復活。8代将軍の徳川吉宗が鼻そぎや耳そぎに代わる刑罰として入れ墨を採用、明治時代に廃止されるまで続くことになりました。恐怖感や嫌悪感など、いまなお残る刺青に対する負のイメージの源泉は、こうした歴史に求めることができるでしょう。
前掲書によれば、刺青は風俗を乱すとして江戸時代に2度禁止されました。ただ、4、5年も経つと規制が緩むなど、さほどの強制力はなかったようです。明治時代に入ると、文明国としての体面を気にした政府は刺青の禁止に踏み切ります。
刺青に対する直接の法規制は戦後1948年に終了しますが、同年施行の医師法で、医師以外による医業の禁止が明文化されました。
・世界が注目した技術 英国王子、ロシア皇太子も
規制の一方で、日本の刺青技術は世界から高く評価されていました。明治期には法律で禁じられていたにもかかわらず、英国のジョージ王子(のちのジョージ5世)やロシアのニコライ皇太子(のちの皇帝ニコライ2世)ら、海外の名だたる上流階級の人々が日本で刺青を入れています。
そうした経緯をまとめた『日本の刺青と英国王室』で、著者の小山騰は《ここには誠に興味深い逆説がある。「文明開化」に邁進する日本は、明治5(1872)年に、刺青を「野蛮」の名の下に禁止するが、その日本の刺青を「文明国」の王室関係者や貴族が競って求めたという逆説、「文明」と「野蛮」をめぐる奇妙なパラドクスである》とつづっています。
同書によると、ヤルタ会談を開いたルーズベルト、チャーチル、スターリンの米英ソ3首脳は、いずれも刺青を入れていたそうです。
刺青という題材は、文学者をも引き付けました。谷崎潤一郎はそのものズバリ『刺青(しせい)』という短編小説を残しています。イレズミを示す「刺青」という言葉が広がったのは、谷崎の影響が大きいとされています。
また、山田一廣著『刺青師一代 大和田光明とその世界』には、三島由紀夫が自決の10日ほど前に「刺青を彫りたい」と電話をしてきた、という彫り師の証言が記録されています。
・半数が「不快」 嫌悪の風潮
しかし、刺青を嫌悪する風潮は、依然として根深く存在しています。関東弁護士会連合会が2014年6月、20~60代の男女1千人を対象に実施した意識調査では、「イレズミを入れた人を実際に見た時に、どのように感じましたか?」(複数選択可)という質問に対して、以下のような結果が出ました。
「不快」…51.1%
「怖い」…36.6%
「何も感じない」…14.2%
「個性的」(格好良い・お洒落)…11.2%
「強そう」…6.2%
「見たことはない」…8.3%
また 「『イレズミ』や『タトゥー』と聞いて、何を連想しますか?」(複数選択可)という質問にも、否定的な回答が多くを占めました。
「アウトロー」…55.7%
「犯罪」…47.5%
「芸術・祭・ファッション」…24.7%
「スポーツ」…5.5%
「その他」…9.6%
アンケート結果からは、「刺青=反社会的勢力」というイメージが広く浸透していることが伺えます。実際、温浴施設などでは、刺青・タトゥーと暴力団関係者をセットで「お断り」と表示しているケースが多く見受けられます。
「若手の組員は、仕事がしづらくなることを嫌って刺青を入れなくなってきている。刺青が一般人に広がったことで、『価値が下がった』と考える組織の人間も多いようだ」と証言するタトゥー関係者もいますが、いまでも反社会的勢力を排除する名目で「刺青禁止」がうたわれているのが実情です。
次の「イレズミを入れることを法律で規制すべきだと思いますか?」(1つ選択)という設問では、賛否を二分する結果が出ています。
「強く規制すべきである」…11.1%
「規制はあってもよい」…22.8%
「どちらとも言えない」…38.0%
「規制すべきではない」…20.2%
「規制は不当である」…7.9%
なお、20代に限ると、「個性的」(格好良い・お洒落)が19.5%、「芸術・祭・ファッション」を連想する人が38.0%まで上昇し、「規制すべきではない」と考える人も25.0%まで増えるなど、若年層ほどタトゥーに寛容な傾向が浮かびあがってきます。
・国の姿勢、揺るがず
若者の間でタトゥー文化が浸透しつつあるとはいえ、国の姿勢はいささかも揺らぎません。厚生労働省は医師法を根拠に、「タトゥーや刺青を入れることは医療行為にあたり、医師資格を持っていないといけない。皮膚を傷つける行為には感染症発生のリスクもある」としています。
実際にタトゥーによる健康被害が出ているのかも問い合わせましたが、「警察や消費生活センターでまとめているかもしれないが、厚労省としては把握しておらず、統計もない」とのことでした。
関弁連によると、米国では多くの州がタトゥーのライセンス制を採用し、英国は登録制を採っています。
日本でも、はり師やきゅう師は「医業類似行為」として扱われ、医師とは別の国家資格があります。しかし、タトゥーに関してこうした別資格を設けることは「検討していない」(厚労省)ということです。
皮膚科医で『いれずみの文化誌』の著書もある小野友道さんは、多くの患者を診察してきた経験から「子どもが生まれた後に『一緒にお風呂に入れない』と後悔したり、就職後に除去を望んだりするケースもあります。タトゥーを入れられる側、入れる側ともに用心しないといけません」と警告します。
一方、医師法の厳格解釈による摘発に対しては、懐疑的な立場です。
「刺青はボディー・オーナメント(身体装飾)として世界各地に残っています。医師法違反というのは筋としては正しいですが、文化・民俗・風俗の観点からもう少し広い視野で考えるべきではないか」
「医師で刺青を入れられる人はいません。感染症予防のために彫り師向けの講習会を開く、彫り師を登録制にするなど、現実的な解決に向けて議論していく必要があると思います」と提案しています。
・吉本ばななさん「臨機応変な判断を」
2020年の東京五輪では、多くの外国人が日本を訪れます。タトゥーを含め、多様な文化的背景を持つ人々をどのように受け入れるかは、一つの焦点になりそうです。
すでに、星野リゾートをはじめ一部の温泉旅館や温浴施設では、シールで隠すことを条件にタトゥーをした人の入浴を試験的に認めています。
右の太ももにバナナ、左肩にオバケのQ太郎を彫っているという作家の吉本ばななさんは、取材に対して次のようなコメントを寄せました。
「日本でもある種の人にとってタトゥーは宗教的な意味を持つし、海外ではもっと直接信仰にかかわる場合があります。最低限のマナー(温泉などでは隠すなど)と、彫る側は衛生面での基準などを満たした上で、臨機応変の判断をできるようでないと、オリンピック開催に関してトラブルが多いだろうと推測します」
最終更新:1月3日(日)10時14分
◎上記事は[Yahoo!JAPAN ニュース]からの転載・引用です
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