2009/2/21 Business-i
今年、ロシアでも経済危機とその社会的影響は深刻化するだろう。その状況のなかで、メドベージェフ大統領とプーチン首相の「双頭体制」の行方が注目されている。2人の権力者は共同戦線をしっかり守っているようにみえる。しかし、国民の目からは隠されているが、経済状況の悪化に伴って、大統領と首相の政治的・政策的スタンスの違いが浮き彫りになるばかりだ。
◇
≪分析≫
ロシア下院防衛委員会委員長は12日、2009年の軍事予算が少なくとも15%削減されるだろうと述べた。だが、軍事予算の大幅削減計画と同時に、内務省特殊部隊(OMON)、内務省国内軍など、正規連邦軍以外の準軍隊など治安部隊の統合、再武装、拡大が行われている。ロシア当局は民衆の暴動を恐れており、直接行動を抑え鎮めるために利用できる治安部隊の整備と展開を優先課題とするだろう。
◆一般民衆がデモ
ロシア当局は、経済問題に端を発し、政治的に動機づけられた運動を引き起こす、民衆の直接行動を明らかに不安視しているが、それも当然といえる。プーチン首相は大統領時代、民族主義的レトリックや経済機会の拡大、政治組織の操作によって、ロシア国民を「非政治化」することに成功してきた。民衆による行動はクレムリンの権威に対してばかりでなく、プーチン首相に疑問を投げかけるものでもあるのだ。
これまで自由主義者と共産主義者の支持者を超えた動員能力は非常に限られていた。しかし、経済の停滞と政府の対策に反発して、一般市民が集会やデモに加わるようになった。
また、経済問題によって、かつておとなしかった民衆の政治意識が徐々に高まっている。ロシアの指導者は、地方のリーダーたちが地元住民懐柔のために、連邦当局に対し強硬路線をとらざるを得なくなることを懸念している。さらに、経済の圧迫から、地域間の対立、民族主義、外国人排斥が活発化している。
治安を維持するために部隊を動員することに対して、指導者らは舞台裏で、警察権の管理をめぐって新たな論争を始めている。
昨年12月、政府が輸入自動車への関税引き上げを決定すると、極東のウラジオストクは抗議運動に揺れた。地元警察のアンドレイ・ニコライエフ署長は、OMONの派遣を拒否した。OMONが署長の命令に従わないことを恐れたとも、暴力事件に発展することを恐れたともいわれる。プーチン首相はデモを解散させるための武力行使を支持し、これに反対した地域警察幹部の更迭を命じた。これに対して、メドベージェフ大統領は地元警察の判断を支持した。
メドベージェフ大統領とプーチン首相の政策が一致しているという考えは、一般的に正しい。首相よりも大統領が常に自由主義的なイメージを保ち、強調するニュアンスは異なるものの、大統領と首相は表明する政策において、素晴らしく調和している。しかし、経済危機が進展するにつれて、潜在的な対立が露呈しつつある。
ロシア連邦下院では、国家反逆罪の定義を拡張する新法の計画が進められている。プーチン首相はこれを支持しているが、法律問題に関して自由主義的なイメージを損なうとして、メドベージェフ大統領は懸念しているといわれる。大統領と首相の政策の違いが明らかになることは体制にとって受け入れられないので、議員らは妥協点を探っている。
◆首相解任は不可能
ロシアでは、経済問題は首相の管轄だ。経済不振時には、大統領から首相が公然と批判されるのが通例だ。1998年の経済危機では、キリエンコ首相は故エリツィン元大統領に解任された。
しかし、首相に対する大統領の憲法上の優越性にもかかわらず、メドベージェフ大統領がプーチン首相を個人的に批判することは難しい。たとえ大統領が望んだとしても、現在、首相を解任することは不可能だ。
しかし、プーチン首相は批判を受け付けない不可侵の指導者としてのオーラを失いつつある。経済政策に対する最近の抗議行動で、反プーチンのスローガンが横断幕に現れた。プーチン氏がもはや国家元首の地位を占めていないという事実を踏まえて、首相に対してあまり適切とはいえない態度が評論家の間にみられるようになってきている。
プーチン首相の過去の行動を考えると、連邦政府が民衆暴動を封じ込め、鎮圧するために実力行使の準備を進めていることは驚くにあたらない。しかし、どこまで強制手段を通じて民衆を管理すべきかについて、ロシア指導層の間で論争が始まろうとしている。これに伴い、メドベージェフ大統領とプーチン首相の政治スタイルと政策優先順位の違いが目に見えて明らかになるにつれて、大統領と首相との間にくすぶる緊張関係が顕在化するかもしれない。
◇
≪結論≫
経済危機は、たえず生活水準が上昇し続ける、プーチン=メドベージェフ体制に対する国民の支持の根幹を傷つけている。経済政策に対する民衆の抗議運動が高まっているが、社会不安でロシアの「双頭体制」が崩壊する可能性は小さい。だが、エリート間の政策の食い違いから、ロシア政治は不安定化し、プーチン首相とメドベージェフ大統領の協力関係に不協和音が生じつつある。
今年、ロシアでも経済危機とその社会的影響は深刻化するだろう。その状況のなかで、メドベージェフ大統領とプーチン首相の「双頭体制」の行方が注目されている。2人の権力者は共同戦線をしっかり守っているようにみえる。しかし、国民の目からは隠されているが、経済状況の悪化に伴って、大統領と首相の政治的・政策的スタンスの違いが浮き彫りになるばかりだ。
◇
≪分析≫
ロシア下院防衛委員会委員長は12日、2009年の軍事予算が少なくとも15%削減されるだろうと述べた。だが、軍事予算の大幅削減計画と同時に、内務省特殊部隊(OMON)、内務省国内軍など、正規連邦軍以外の準軍隊など治安部隊の統合、再武装、拡大が行われている。ロシア当局は民衆の暴動を恐れており、直接行動を抑え鎮めるために利用できる治安部隊の整備と展開を優先課題とするだろう。
◆一般民衆がデモ
ロシア当局は、経済問題に端を発し、政治的に動機づけられた運動を引き起こす、民衆の直接行動を明らかに不安視しているが、それも当然といえる。プーチン首相は大統領時代、民族主義的レトリックや経済機会の拡大、政治組織の操作によって、ロシア国民を「非政治化」することに成功してきた。民衆による行動はクレムリンの権威に対してばかりでなく、プーチン首相に疑問を投げかけるものでもあるのだ。
これまで自由主義者と共産主義者の支持者を超えた動員能力は非常に限られていた。しかし、経済の停滞と政府の対策に反発して、一般市民が集会やデモに加わるようになった。
また、経済問題によって、かつておとなしかった民衆の政治意識が徐々に高まっている。ロシアの指導者は、地方のリーダーたちが地元住民懐柔のために、連邦当局に対し強硬路線をとらざるを得なくなることを懸念している。さらに、経済の圧迫から、地域間の対立、民族主義、外国人排斥が活発化している。
治安を維持するために部隊を動員することに対して、指導者らは舞台裏で、警察権の管理をめぐって新たな論争を始めている。
昨年12月、政府が輸入自動車への関税引き上げを決定すると、極東のウラジオストクは抗議運動に揺れた。地元警察のアンドレイ・ニコライエフ署長は、OMONの派遣を拒否した。OMONが署長の命令に従わないことを恐れたとも、暴力事件に発展することを恐れたともいわれる。プーチン首相はデモを解散させるための武力行使を支持し、これに反対した地域警察幹部の更迭を命じた。これに対して、メドベージェフ大統領は地元警察の判断を支持した。
メドベージェフ大統領とプーチン首相の政策が一致しているという考えは、一般的に正しい。首相よりも大統領が常に自由主義的なイメージを保ち、強調するニュアンスは異なるものの、大統領と首相は表明する政策において、素晴らしく調和している。しかし、経済危機が進展するにつれて、潜在的な対立が露呈しつつある。
ロシア連邦下院では、国家反逆罪の定義を拡張する新法の計画が進められている。プーチン首相はこれを支持しているが、法律問題に関して自由主義的なイメージを損なうとして、メドベージェフ大統領は懸念しているといわれる。大統領と首相の政策の違いが明らかになることは体制にとって受け入れられないので、議員らは妥協点を探っている。
◆首相解任は不可能
ロシアでは、経済問題は首相の管轄だ。経済不振時には、大統領から首相が公然と批判されるのが通例だ。1998年の経済危機では、キリエンコ首相は故エリツィン元大統領に解任された。
しかし、首相に対する大統領の憲法上の優越性にもかかわらず、メドベージェフ大統領がプーチン首相を個人的に批判することは難しい。たとえ大統領が望んだとしても、現在、首相を解任することは不可能だ。
しかし、プーチン首相は批判を受け付けない不可侵の指導者としてのオーラを失いつつある。経済政策に対する最近の抗議行動で、反プーチンのスローガンが横断幕に現れた。プーチン氏がもはや国家元首の地位を占めていないという事実を踏まえて、首相に対してあまり適切とはいえない態度が評論家の間にみられるようになってきている。
プーチン首相の過去の行動を考えると、連邦政府が民衆暴動を封じ込め、鎮圧するために実力行使の準備を進めていることは驚くにあたらない。しかし、どこまで強制手段を通じて民衆を管理すべきかについて、ロシア指導層の間で論争が始まろうとしている。これに伴い、メドベージェフ大統領とプーチン首相の政治スタイルと政策優先順位の違いが目に見えて明らかになるにつれて、大統領と首相との間にくすぶる緊張関係が顕在化するかもしれない。
◇
≪結論≫
経済危機は、たえず生活水準が上昇し続ける、プーチン=メドベージェフ体制に対する国民の支持の根幹を傷つけている。経済政策に対する民衆の抗議運動が高まっているが、社会不安でロシアの「双頭体制」が崩壊する可能性は小さい。だが、エリート間の政策の食い違いから、ロシア政治は不安定化し、プーチン首相とメドベージェフ大統領の協力関係に不協和音が生じつつある。