【安保新時代(下)】9条の制約 防衛法制は未完

2015-09-21 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

2015.9.21 17:44更新
【安保新時代(下)】9条の制約 防衛法制は未完
 19日未明に成立した安全保障関連法の参院審議は、「良識の府」とは名ばかりの醜態をさらした。20日のNHK番組では、自民党の稲田朋美政調会長と民主党の辻元清美政調会長代理が激しくやり合った。
 稲田氏「(野党側が)理事会室に委員長を閉じ込めたり、女性議員を使って『セクハラだ』と叫んだり、計画的に審議を妨害した。良識の府といわれる参院でこのようなことがなされたのは恥ずかしい」
 辻元氏「私たちは最後まで質疑をして採決に臨もうとしていたが、与党が審議を断った。よく戒めていただきたい」
 野党は、安全保障が専門ではない憲法学者の「違憲論」を最後まで振りかざし、「戦争法案」や「徴兵制導入につながる」といったレッテル貼りを繰り返してきた。その結果、日本に対する軍事的脅威の具体的シナリオに基づいた安全保障の議論は置き去りにされてきた。法律への理解が進まない一因はここにある。
 8月下旬、北朝鮮と韓国が互いに砲撃しあい、南北間の緊張が一気に高まった。「朝鮮半島有事」は決して絵空事ではない。
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 「朝鮮半島で何かあれば民間人を含め数十万人が日本に来る。それを前提に、場合によっては国連軍と連携して対応する必要があると理解しないといけない」
 自民党の佐藤正久元防衛政務官は7月末の国会審議で、そう指摘した。
 半島有事が勃発すれば避難民が日本に押し寄せ、日米を含む各国が連携した退避作戦を展開することになるが、個別的自衛権だけでは、退避する民間人を乗せたり、弾道ミサイルを警戒中の米艦を自衛隊が守ったりすることはできない。米艦が日本をミサイルから守る防衛態勢の重要な一角を占めるにもかかわらずだ。
 今回の安全保障法制は、その致命的な穴を埋めた。緊張が高まりつつある段階では「武器等防護」の拡大により、米艦を守れる。事態が緊迫し、日本への直接の攻撃につながりかねない「重要影響事態」になれば、公海上での他国艦艇への後方支援も可能になった。本格的な軍事衝突で「存立危機事態」となれば、集団的自衛権で日米が守り合う態勢が実現する。
 とはいえ、自衛隊が本格参戦するわけではない。活動は原則として後方支援や米艦防護に限られる。今回の法制が、憲法9条の制約を順守しているからだ。
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 「戦争法案」などのレッテル貼りの陰に隠れ、国会審議でほとんど顧みられなかった視点がある。
 「法案はなおも不十分だ。成立しても不断の態勢整備が必要だ」。参院の参考人質疑で、慶応大の神保謙准教授はそう指摘し、一例として集団的自衛権の行使要件を挙げた。
 「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、財産、幸福追求権が根底から覆される明白な危険」。この要件は厳格すぎるほど厳格だ。神保氏が指摘したように、日米共同で北朝鮮の弾道ミサイルに対処中、米国に向かうミサイルの撃墜を、要件の範囲内で実施できるかは微妙だ。それは日米の信頼関係に決定的な亀裂をもたらしかねない。
 国連平和維持活動(PKO)をめぐっても、自衛官が住民保護の際に民間人を誤射してしまった場合、誤射を過失として裁こうにも、日本に諸外国のような軍法会議はない。憲法で禁じられているからだ。
 「『軍法で裁くから許して』という言い訳ができない。重大な外交問題に発展する」。そう指摘した東京外国語大大学院の伊勢崎賢治教授は「PKOの現実としてしっかり想定すべきだ」と強調した。
 今回の法制は、憲法の制約と安全保障の現実的な要請をギリギリの範囲で折り合わせたが、なおも不合理や、足らざる部分は残る。
 しかし、それは自衛隊の存在すら規定しない憲法自体に由来する不合理だ。国会論戦ではそうした視点は顧みられず、安全保障の本質的な議論を行うことの難しさを改めて示した。
 「平常心で成立を待っていた」
 安倍晋三首相は20日に放送された日本テレビ番組で、安保関連法が成立した際の心境について、こう語った。
 日本の安全保障は歴史的な一歩を踏み出した。しかし、首相には憲法改正という大事業が残されている。これを成し遂げない限り、日本の防衛法制は未完のまま終わってしまうだろう。
 この連載は、小島優、桑原雄尚、峯匡孝、岡田浩明、千葉倫之、石鍋圭が担当しました。

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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