だからプロ野球は面白い 中日・森繁和元ヘッドコーチが初めて明かす 『参謀』--落合博満は何が違うのか

2012-04-13 | 相撲・野球・・・など

だからプロ野球は面白い 中日・森繁和元ヘッドコーチが初めて明かす 「参謀」---落合博満は何が違うのか
現代ビジネス2012年04月12日(木)週刊現代
 落合監督は中日での8年間、Aクラスから落ちたことが一度もなかった。リーグ優勝は実に4度。名将と呼んでいいだろう。その落合監督の横には常にひとりの男が立っていた。彼こそが名将の「参謀」である。
■チームの情報を漏らせばクビ
  落合監督はコーチに対して、いつも相当な努力を求めてきた。コーチ同士でも一軍担当か二軍担当か競争をさせる。チームはそういう緊張感にあふれていた。
  たとえば、
 「内角球のインパクトのポイントを後ろにするために、内角球をバットの芯でライトに運ぶ練習をしておけ!」
  といったメニューの指示が、監督から私に出たとしよう。
  当然、監督の話はバッティングコーチに伝えてそのコーチが選手と練習をするのだが、ときどき監督が見に来て、その打者の練習について注文がつく。
 「あれで、メニューこなしたのか?練習やっているのか?」
  もちろん監督はいつも打撃練習に付きっきりではなく、打者も基本的にコーチに任せている。
  だから、「監督はいつも見ているわけじゃないから、見ていないときやっています」とバッティングコーチは思うのかもしれないが、
 「今日はたまたまやっていなかったのかもわからんけども、オレが見ている限りではやってねえぞ」
  と、監督は譲らない。
  優秀なコーチとそうでないコーチの差は、この練習が成果をあげているのか、監督の狙いどおり、打者が打てているのかを、きちんと観察して評価できるかにある。
  この観察力が、監督はどの打撃コーチよりも確かだ。見ていなくても、打者の結果を見れば想像がつくのだろう。監督の観察と指摘は実に的確だ。
  打撃コーチにとっては相当厳しかったろうし、クビにならなかったコーチはおかげで鍛えられたと思う。
  監督はナゴヤドームではいつもベンチの同じ位置に試合中座り続ける。いわば定点観測をすると、球場内のあらゆる動きが目に入り、いつもと違うことが見えてくるんだという。
  井端(弘和/編集部注・以下同)と荒木(雅博)のコンバートも、あえて右打者に左ピッチャーをぶつけるのも、そういう観察から確信したものではないだろうか。
 選手だけではなくて、我々コーチ陣に対しても、裏方に対しても、目配りというか、気配りをする。まったく動いていないようで、必ず何か見ている。
  在任8年間でリーグ優勝4回。「現代の名監督」の名をほしいままにしながら、落合博満前中日ドラゴンズ監督は昨年、突如解任された。
  落合氏が監督に就任した'04年から一貫して、「参謀」として落合中日を支え続けたのが、森繁和前ヘッドコーチだ。その信頼は厚く、落合氏には「またユニフォームを着るなら必ず森繁和を呼ぶ」と言わしめる。
  西武、日本ハム、横浜そして中日と渡り歩いた、コーチ歴23年の森氏が、落合采配の秘密と自身の培ってきた「参謀の心得」を初めて明かす、『参謀---落合監督を支えた右腕の「見守る力」』(講談社)を著した。
  監督は2003年、秋季キャンプでチームが始動してすぐに、コーチ陣を全員集めて、こう言った。
 「チームの情報は絶対に漏らさないでほしい。いいことだろうと悪いことだろうと、それがこのメンバーの中で出るようだったら、いっさい一緒にはできないからな」
  監督は最初から、そういう情報が監督の耳に入った時点で、一緒に野球はできないよ、つまりクビにすることもありうるよ、と宣言しているのだ。
  情報管理といえば、岩瀬(仁紀)のことが象徴的だろう。
  実は8年間で10回ほど、抑えの岩瀬を、登録抹消していないのに球場に呼ばなかったことがある。連投が続いたあと、あるいはちょっとした「違和感」を岩瀬が訴えたときなどである。岩瀬はわりあい早めに大事を取る傾向にあるのだが、本人がそう言ってきたら必ず、
 「じゃあ明日は、休んでくれ」「病院に治療に行ってこい」
  と本人の言葉を尊重した。ただし、もちろん岩瀬がストッパーとして控えていないことは全力で相手チームから隠した。わざと一旦球場に姿を見せさせておいて、誰にも知られないように帰したこともある。
  岩瀬不在がバレたことは一度もないはずだ。
■ジャンケンで決めろ
  情報漏洩を許さない、特例は作らない、だから8年間、中日は上位にいたのだと思う。
  ただし、あまりにこの方針を徹底したことが、優勝したシーズンに、(正確には優勝しそうな状況で)監督はじめわれわれ首脳陣が8年間で契約満了で退団したことにも繋がったのだろう。
 もちろん監督も私もそんなことは百も承知だ。それでも、少しの例外を許したり、政治的配慮で指導も情報管理も信用できないOBコーチを起用したり、そんな大人の配慮はいっさいしようとしなかった。
  すべては、私たちの契約が「シーズン優勝と日本一を勝ち取ること」にあったからである。優勝を最優先に考える。優勝のためにならないことは絶対にしない。
  この件に関しては監督もわれわれコーチ陣も、最後まで妥協することはなかった。
 「へえ、今日は先発そいつなんだ」
  と、試合前のメンバー表を書くときに監督に言われたこともある。監督に事前に先発を告げなかったことも二度や三度ではない。
 「オレが先発知らないんだから、情報が漏れることもないだろう」
  というわけだ。
  とはいえ、事前に投手起用で悩むと相談することはよくあった。
  たとえば3連戦の初戦に勝ったときに、あえて第2戦や第3戦の先発予定を変更して、ローテーションの谷間にする場合があった。
  3連敗がなくなったから、次のカードに備えたいというケース。
  そのうえで、たとえば前の日に右投手が投げて一応は勝ったけれど、その右投手が、けっこう打たれた場合もある。その場合、第2戦にもう一回右投手を持ってくるのがいいのか、少し力は落ちるけれども左ピッチャーを使うべきか悩むことが何度かあった。相手打線が右ピッチャーにはタイミングが合っているというイヤな感じがあるときだ。
  正直、正解は結果を見てみないとわからない。
 「監督、本当は今日投げさせる予定だったピッチャーを1日ずらして、3戦目に持っていきますよ」
 「あ、いいよ。なんで?」
 「3戦目に予定されていたピッチャーは本当は次のカードの頭にしたかったので。昨日勝ったし、そのほうがよいでしょう。問題は今日誰にするか。右の山井(大介)か左の長峰(昌司・現オリックス)か迷っているんです。昨日右ピッチャーで打たれているので」
  こんな感じで話しながら先発を決めることが多かった。だが、このときの答えには驚いた。
 「二人でジャンケンさせれば?」
 「それで決めるんですか?」
 「だって、おまえが、どちらかって言うとき、だいたいもう決まってんだろ?おまえが言うんだから」
 「まあ、気持ち的には山井で決まってますが。でも・・・・・・ジャンケンしてみましょうか」
■選手との食事は事前に報告せよ
  その日は、ピッチャーも谷間なので「きょうは誰?誰が投げるの?」と、どの投手も球場入りから興味津々。もう、みんな当日まで誰が先発なのかわからない。
  私は彼らに聞かれるたびに、「おまえだよ、先発はおまえ」などと、みんなに言っておいたりする。
  さて、その日、試合前の練習が終わってゲーム前にみんなが軽く食事する、そのミーティングの前に、
 「おい、山井と長峰!ちょっと二人来い。ジャンケンしろ」
 「・・・・・・はあ?」
 「先発な」
  で、山井がめでたくジャンケンに勝った。そこで山井に、「よし、先発」と言ったけれど、もしあれで山井が負けていたら、
 「お、長峰、チャンスだぞ。こいつ3イニングしか持たないから、勝利投手、おまえに権利ある」
  と言おうと思っていた。ジャンケンの前に「勝ったら先発」と言わないところがミソだ。そうしたら山井が勝ったので、「よし、行くぞ」となり、そういうゲームで、山井がきっちり勝ったことがあったのだ。
  監督にはあとでこう言っておいた。
 「ジャンケンさせて山井が勝ちましたから、山井先発で行きますよ」
 「負けてたら?」
 「わかってるでしょ?」
 「そうだな、やっぱりな」
  たまにはこんな感じになることもある。
  ふざけて遊んでいるようだが、監督は私がほぼ山井で行くと決めているのに、どこか踏ん切りがつかないのを感じ、ジャンケンを持ち出したのだとあとで気づいた。
「シゲはいいよなあ、いつも投手会(投手陣での食事会)に呼ばれて、うらやましいよ。オレなんて誰も呼んでくれない」
  落合監督は、よくこう言っていたものである。
  8年間苦楽をともにした監督には、だいたいのことは常に報告するように心がけていた。
  監督からも、
 「特に選手と食事や飲みに行くときは事前に必ず報告してくれ」
  と言われていたので、選手たちとの会合はすべて伝えていた。
  そうすると、監督は「いいよなあ」と言いながら、「シゲ、これ持ってけ」と軍資金をポケットマネーから出してくれるのだ。
 「監督は、リーダーは、嫌われる存在でいいんだ」
  と、監督は覚悟を決めていたのだと思う。
  特にバッテリーに関しては、監督は私にほとんどすべてを任せてくれており、「投手会」のようなグラウンド外のこともふくめて、こういうふうにカゲでいろいろ援助してくれた。
  私は現場の責任者にして選手と監督とのパイプ役。先発投手の順番、リリーフ投手への交代、一軍二軍の入れ替えなど、よくぞここまで信頼してくれると驚くほど、任せてくれた。
  もちろん迷ったときに最後の決断をするのは監督。責任を取る、批判されるのも監督だ。
■コーチの給料はオレが決める
  選手に気持ちよく働いてもらう。
  そのためにはコーチにも厳しいながらも、気持よく働いてもらう。
  落合監督は、相当そこに気を遣っていたと思う。
 「コーチの給料は、全部オレが決めたから」
  監督は今も口にするのだが、実際、待遇は相当よくしてもらったと思う。
 「給料も決めておいたから、年俸○○万な」
 「えっ?」
「あっ少ねえか」
 「いやいや、そんなにもらっていいんですか」
  監督に言われた金額は、相場の倍、かつて西武で勝ち続けたときとあまり変わらないくらいの額だったから驚いたのだ。監督にはコーチの経験もなかったから、コーチの給料の相場など全然知らないのかと思ったら、そうでもなかった。
 「バカ野郎、おまえが自宅から通えるなら○○万でもいいだろうけど、単身赴任で二つ家持って、あまり家に帰れなくなる責任ってのはオレにあるんだから、普通の倍が妥当だろう」
  こうまで気を配られては、もう監督のためにやるしかない。
  現役時代には、年俸交渉でとことん粘り、時に故なき批判をされながらも、後の選手の地位向上につとめ、監督となっても、コーチ、そして選手の地位向上につとめる落合監督は、やはり、球界の発展を考えた凄い人物というほかないのではないか。
  監督は私と違って、2012年のシーズンはプロ野球界とは距離を置いている。
 「どう勝とうか考えないでいいのが、こんなに気持ちがラクだとは思わなかったよ」
  などと言っていたのだが、やはりドラゴンズの選手のことは気になるようだ。
 「監督、新人の西川健太郎、あれはおもしろいですよ。案外早く出てくるかもわかりません」
 「そうか、やっぱりそうだよな」
  西川というのは、星稜高校から2位で入った右ピッチャーである。2011年のドラフト前、監督と資料を見ていてこれはおもしろいピッチャーだと、意見が一致したキレのあるピッチャーだ。
  監督も早くも野球好きの虫がうずき出している感じなのである。
 「週刊現代」2012年4月14日号より
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