オバマ大統領の「チキンキエフ」の瞬間 ウクライナ危機、外交を武器にプーチン大統領に立ち向かえるか?

2014-03-04 | 国際

オバマ大統領の「チキンキエフ」の瞬間 ウクライナ危機、外交を武器にプーチン大統領に立ち向かえるか?
 JBpress 2014.03.04(火) Financial Times(2014年3月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 ソビエト連邦末期、当時のジョージ・H・W・ブッシュ米大統領はウクライナの首都キエフで講演し、ウクライナのナショナリストにモスクワ政府を挑発するなと訴えた。米国の保守主義者はこれを「チキンキエフ・スピーチ」(※)とからかった。(※=「チキンキエフ」はウクライナの名物料理。チキンは英語で臆病者を指す)
 衆目の認める融和主義者であるバラク・オバマ大統領も今、“チキンキエフ”をどう料理するか、決断を迫られている。虎視眈々(たんたん)とニワトリを狙うキツネのように悪賢いプーチン大統領に立ち向かうことができるのか。
 オバマ大統領にそうした意思や能力、ましてや手段があるか定かではない。しかしオバマ政権の前途はこの問題にかかっている。プーチン大統領がかつてのロシア帝国の国境を回復させたいともくろんでいることに疑いの余地はない。オバマ大統領はなんとかそれを阻む方法を見つけなければならない。
 それには世界に対して腰の引けたイメージを与えてきたこれまでとはまったく違う、強いオバマ大統領が必要だ。オバマ氏は大統領就任前から、ロシアの失地回復主義者に甘いという批判を受けてきた。2008年大統領選の対立候補であった共和党のジョン・マケイン氏は同年8月にロシアがグルジアに介入したグルジア紛争を例に挙げ、こうした拡大主義は許容できる一線を越えている、と訴えた。
 だがマケイン氏のようなタカ派の姿勢を取ろうとしないオバマ氏の消極性のほうが、はるかに米国民の気分に近いものだった。イラクやアフガニスタンでの戦争にうんざりしていた米国民に、オバマ大統領はその終結を約束し、実行した。
■オバマ外交の命運かかる事態
 今日の米国民は、他国の問題に関わることに対して当時よりもさらに慎重になっている。しかしロシアがウクライナ南部のクリミア半島を占領すれば、状況は劇的に変わってくる。米国内での国づくり、イランとの核合意、中東諸国の平和、アジアへのシフトなど、オバマ大統領が目指していることの成否は、すべてプーチン大統領にどう対応するかにかかっている。
 オバマ氏は大統領に就任した当初、米ロ関係の「リセット」を提案した。いまやこのもくろみは見る影もない。大方の人がそうであるようにオバマ氏も、現状を壊すことをいとわないプーチン氏の姿勢を常に見くびってきた。
 2月27日の段階でも、米政府はロシアのクリミア半島侵攻の可能性を否定していた。3月1日の90分にわたる電話会談で、プーチン氏はオバマ氏に対し、ロシア軍が占領地域をクリミア半島からウクライナ東部にも拡大する準備があることを示唆した。プーチン大統領がそれを実行しないと考えるのは甘いだろう。
 そうした事態を防ぐために、オバマ大統領に何ができるのか。まずはワシントンのタカ派を無視することから始めるべきだ。反オバマの急先鋒(せんぽう)が求めるような、軍事行動の脅しをかけるのは明らかに不合理だ。この危機を米国が軍事行動で解決することはあり得ない。クリミア半島とそれ以外のウクライナ、あるいはウクライナの東西を分けるような「越えてはならない一線」を示せば、ロシア政府は開き直るだけだ。
 しかもオバマ大統領が「越えてはならない一線」を示して、うまくいったためしはほとんどない。直近ではシリアのアサド政権が国民に化学兵器を使ったら軍事介入するという一線を約束したが、アサド大統領は昨夏、それがはったりであることを何度も証明した。皮肉なことに、シリアの独裁者にため込んだ化学兵器を解体するよう説き伏せ、オバマ大統領を自らの発言と米議会による軍事介入否決という屈辱的な事態から救ったのはプーチン大統領だった。この出来事も今では忘れ去られたようだ。今から思えば、オバマ大統領は議会に相談せずにシリア空爆を命じたほうがよかったのだろう。いずれにしても「越えてはならない一線」など引けば、プーチン氏が勢いづくだけだ。
■エジプト、シリアで存在感示せず
 そうなると、残る手段は外交である。オバマ大統領は、長々と続く外交協議のほうが長々と続く戦争よりは良いという、チャーチル流の思想に基づいている。こうした考え方は正しい。だがオバマ氏の実行能力はひいきめに見ても並みである。オバマ氏は言うことは正しいが、その後のフォローがほとんどないというケースがあまりにも多い。
 エジプトがまさにその典型例で、エジプト国民はオバマ大統領に民主主義を支援するつもりがあるのか首をかしげている。オバマ政権には3通りの対エジプト政策がある。まず国防総省は何があろうと米国とエジプトとの関係を維持したいと考えている。ケリー長官率いる国務省は、イスラム組織「ムスリム同胞団」に対する昨年のクーデターを支援した。ホワイトハウスはクーデターを非難しつつ、日常の意思決定は国防総省と国務省に任せている。
 エジプト問題については、ワシントンでもオバマ大統領の存在感はない。シリア問題についても同じように存在感はなく、アサド大統領は昨年プーチン大統領が仲介した合意を後退させている。さらにはアフガニスタンをめぐっても同様で、カルザイ大統領はオバマ氏の望む米軍の駐留継続を盛り込んだ合意を拒否している。
 外交はオバマ大統領が好んで使おうとする武器だ。いまこそ、それを使いこなせるところを示さなければならない。ワシントンではここ2日で、「越えてはならない一線を示すか」「何もしないか」という誤った二者択一の議論がされている。だが両者の間で、オバマ氏にできることはたくさんある。 たとえば米国の同盟国に、ウクライナの脆弱な政権への支援を呼びかけるのが一つだ。そこには大規模な資金援助を含めなければならない。東欧の同盟国に、主権が脅かされることはないと安心させることも必要だ。
 そこにはオバマ氏が「リセット」を模索した時期に廃止した、ミサイル防衛システムの再構築を含めてもいい。ロシア政府がエネルギー供給を武器に欧州諸国の手足を縛れないように、米国の天然ガスや石油を欧州に輸出する計画を前倒ししてもいいだろう。
■プーチン氏説得の適任者
 何よりオバマ大統領はプーチン大統領に対し、悪賢いマネは許さないと思わせる必要がある。今回ばかりは断固とした決意が必要だ。これは無謀な行動は控えながら、リスクを取ることを意味する。父ブッシュ大統領は1991年、キエフに乗り込み、ウクライナの人々に「自滅的なナショナリズム」はやめるように説いた。
 いろいろ問題があるとはいえ、このメッセージを届けるのに最も適しているのは、やはりオバマ氏である。キエフはこのメッセージを届けるのにうってつけの地になるだろう。By Edward Luce
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