子どもへの性犯罪、短すぎる時効  長年の虐待、認定したのに無罪判決  横浜地裁 川崎支部 2021.4.15

2021-04-15 | 社会

子どもへの性犯罪、短すぎる時効 長年の虐待、認定したのに無罪判決 
 中日新聞 朝刊 2021年4月15日

 17歳の少女が母親の交際相手に性的虐待を受けていたと認定したのに、加害者は無罪−。そんな判決が先月15日、横浜地裁川崎支部で出た。検察は控訴せず無罪が確定した。大きな理由は時効の壁だ。訴え出にくい子どもの性被害は、海外では大人になるまで時効を止めるなどしているが、日本にはまだそうした規定がなく、時効の見直しを求める声が強まっている。(出田阿生)

被害者、認識までに時間 海外では撤廃例
 今月11日、無罪判決が出された横浜地裁川崎支部前で、性犯罪の公訴時効の撤廃などを求めてフラワーデモが行われた。「今はぐちゃぐちゃな気持ち」「時効さえなければ。判決文を聞くたびに司法から私が否定されてる気がします」。被害女性の言葉が代読されると、デモ参加者が改めて怒りの表情を見せた。 
 女性に被害の記憶がよみがえったのは二十代になってから。虐待で精神障害を患い、医師のカウンセリングを受けて警察に相談した時には、被害から9年たっていた。強制わいせつ罪の時効は7年、男性器の挿入が要件の強姦罪(現在は強制性交等罪)は10年。警察に相談した際、時効前で日記などの証拠があって起訴できたのが、この強姦罪1件だけだった。
 判決によると、女性の母親と交際していた男性は、女性が小学3~4年の頃から、週末に家へ泊るようになった。女性は男性に風呂場やこたつの中などで体を触られ、次第に行為はエスカレート。男性は月6万円の生活費を出しており、母親はこの援助がなければ「一家心中して死ぬしかない」と言っていた。女性は中学生の時、日記に「家に帰ったら、居た」「地獄の始まり」と恐怖と絶望をつづった。
 一連の性的虐待で、起訴できたのは2010年2月13日の被害だけ。起訴内容によると、その日、男性は試験勉強中の女性にベッドに行くよう指示。「普通は父親が教えるものだから、父親代わりの自分が教える」と言いくるめ、自分が生活費を出さなくなれば「お母さんが悲しむよ」と脅して性行為に及んだ。女性は当日の日記に「痛くて痛くてしかたがない。私何されたの。血がとまらない」「いっそ死にたい」「婦人科とかこわくていけないし。どうしよう」と記した。
 判決は起訴内容以外の一連の性的虐待について「重い内容の上に長期にわたっており、その苦痛も筆舌に尽くしがたいことは明らか」と強制わいせつ罪に当たる事実を認定した。しかし、そもそも同罪では起訴されていない。時効に阻まれたためだ。
 一方、裁判の主な争点は強姦罪の要件である「男性器の挿入の有無」に矮小化された。江見健一裁判長は、女性が警察などで時効について教えられたことで、挿入があったと思い込んだ可能性があり、供述には「疑問が残る」とした。また男性側は「当日は工事現場で働いていた」とアリバイを主張し、無罪となった。
 この判決について「短すぎる時効が問題となっている」と話すのは、性暴力被害者の心理に詳しい精神科医の小西聖子(たかこ)さんだ。「未成年で被害を受けた人が治療に来る年齢で多いのは、20代後半から30代。そのころにようやく記憶がよみがえり症状が出てくる。深刻な被害ほど訴えられず、時効となって救済されない矛盾が生じます」
 実際、被害女性は高校生の時に夢遊病のように教室から出ていったり道路に飛び出したりして、医師に混合性解離性障害と診断されていた。判決も「女性の重い精神障害は性的虐待が原因と考えられる」とした。
 13歳から7年間、実父に性暴力を受けた被害者で、当事者団体「スプリング」代表を務める山本潤さんは、「私自身、被害を認識できたのは30歳を過ぎてから。家庭内の性的虐待は、加害者が子どもと近い関係なので、被害の認識を持つのがよけいに難しい。自活できないかた逃げ道もなく、そこに加害者がつけこむ」と語る。

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 犯罪事件 矮小化、罰軽く   被害者像 司法と現実 ずれ 

 特 報 

 刑法の性犯罪の規定は2017年、およそ百年ぶりに見直された。だが積み残した課題が数多くあったため、改正法の付則には「三年後の見直し」が盛り込まれた。時効の問題も積み残しの一つ。法務省は昨年、性犯罪についての刑事法検討会を設置。その中で子どもに対する犯罪の時効についても議論がされている。

   

 海外に目を向けると、弱い立場の子どもを保護するため、時効についてさまざまな措置が講じられている。英国は性犯罪の時効がない。フランスは成人するまで時効を停止し、ドイツは被害者が30歳になってから時効を開始する。韓国は日本と同じく13歳としていた性交同意年齢を16歳へと引き上げ、13歳未満や障害者の被害では時効をなくした。
 さらに犯人の体液などでDNA証拠がある場合、誰のものか識別された時点から時効が始まるとする米・ミシガン州など、最新の科学捜査技術も法律の規定に反映され始めている。
 判決の問題点は時効だけではない。「男性器の挿入」が要件であるのは同じだ。性暴力に詳しい寺町東子弁護士は「挿入されたのが何であっても、被害重さには変わりない。ダメージは同じなのに強制わいせつ罪とされ、刑罰は軽く、時効も短くなる。訴えられる年齢になる前に公訴時効となってしまう」と指摘する。
 さらに、性暴力被害の支援と研究を続ける臨床心理士の斎藤梓さんは「判決で、裁判官が被害者の供述はおかしいと指摘する部分に、被害者心理からすれば全くおかしくないと思うところが複数ある」と話す。
 たとえば判決は、行為中の加害者の動きの記憶があまりないこと、婦人科の受診が被害から約3か月後だったこと、日記に妊娠や性病の不安の記述がないことなどを疑問視した。しかし、斎藤さんは「加害者に恐怖を感じている最中に被害者の記憶がおぼろげになるのはよくあること。高校生にとって婦人科はどれほど行きにくいかが理解されていない。日記に全て書くとも限らない」と話す。
 判決は「当時17歳の被害者が性交の意味が分からなかったとは考えられない」とも述べた。この点も「義務教育では性行為を教えず、性教育が不十分な中で知識には個人差が大きい。しかも言葉で知っていることと体感するのは別問題」と指摘する。
 斎藤さんは「性の知識があり理性的で一貫した行動を取る。そんな司法が想定する『女子高校生』と、実像とにずれがある」と語り、こう訴える。「法務省の検討会で時効の規定に問題があることは共有されつつある。社会に出たばかりの若年の被害者まではせめて守れるよう、時効を見直す必要があります」

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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〈来栖の独白 2021.4.15 Thurs〉
 問題の核心からすれば、些末なことかもしれないが
>女性の母親
 とは、どういう人間か。自分の彼氏が娘に不埒を働いているのに・・・。見て見ぬふりをしていたのか、それとも気づいていなかったのか。ひどい話ではないか。こんな風だから、「女性」の問題は解決に向けて進展しない。


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