中日新聞 社説
2023年7月12日
性自認とトイレ 個人の尊厳守ってこそ
戸籍上は男性だが女性として暮らす性同一性障害の経済産業省職員が女性用トイレの利用を不当に制限されたとして国に処遇改善を求めた訴訟で、最高裁は職員の訴えを認めた。性的少数者(LGBTQ)の尊厳を守るのは当然で、社会も対応を急ぐべきだ。
性的少数者に対する国民意識は急速に変わっている。戸籍上の性と一致しない性で生きるトランスジェンダーが、本人が自認する性のトイレ使用を選択できるようにすべきはもはや自明の理だ。
今回の最高裁判断は性的少数者の職場環境に対する初の判断で、個人の尊厳を守り、時代の流れを受けたものと評価する。
職員は性同一性障害と医師に診断され、同僚への説明会を経て、女性の服装で勤務を始めた。
これに対し経産省は、他の女性職員への配慮として執務フロアから離れたトイレを使うよう制限。職員は人事院に取り消しを求めたが、認めない判定をしたため処遇改善を求める訴訟に踏み切った。
東京地裁は使用制限を違法と認めたが、東京高裁は「制限は不合理ではない」と職員側が敗訴。最高裁は「使用制限を是認した人事院の判定は違法」と述べて、職員側の訴えを認めた。
トイレ使用は本人には切実な問題であり、使用制限により日常的に不利益を受けていた。「個人が自認する性別に即した社会生活を送ることは重要な法的利益だ」との職員の言い分は理解できる。
そもそも職員の女性用トイレ使用について、他の職員が抵抗感を訴えた事実はなく、トラブルもなかった。最高裁が「他の職員への配慮を過度に重視し、原告の不利益を不当に軽視した」と断じたのも当然の結論といえよう。
国会で先月「性的少数者への理解増進法」が成立したが、公的なガイドラインはいまだ存在せず、職場環境に関しては当事者の意思や施設の状況を勘案して対応しているにすぎない。
トランスジェンダーが自身の性自認に沿ってトイレを利用することについて、肯定的な意見が七割を占める意識調査もある。
多様性を尊重する共生社会こそ目指すべき方向である。本人の性自認を最大限尊重することを明確にし、性的少数者の尊厳を傷つけるような対応は排除する。こうした取り組みを重ね、差別のない社会を一刻も早く実現したい。
2023.7.12
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です
戸籍上は男性だが女性として暮らす性同一性障害の経済産業省職員が女性用トイレの利用を不当に制限されたとして国に処遇改善を求めた訴訟で、最高裁は職員の訴えを認めた。性的少数者(LGBTQ)の尊厳を守るのは当然で、社会も対応を急ぐべきだ。
性的少数者に対する国民意識は急速に変わっている。戸籍上の性と一致しない性で生きるトランスジェンダーが、本人が自認する性のトイレ使用を選択できるようにすべきはもはや自明の理だ。
今回の最高裁判断は性的少数者の職場環境に対する初の判断で、個人の尊厳を守り、時代の流れを受けたものと評価する。
職員は性同一性障害と医師に診断され、同僚への説明会を経て、女性の服装で勤務を始めた。
これに対し経産省は、他の女性職員への配慮として執務フロアから離れたトイレを使うよう制限。職員は人事院に取り消しを求めたが、認めない判定をしたため処遇改善を求める訴訟に踏み切った。
東京地裁は使用制限を違法と認めたが、東京高裁は「制限は不合理ではない」と職員側が敗訴。最高裁は「使用制限を是認した人事院の判定は違法」と述べて、職員側の訴えを認めた。
トイレ使用は本人には切実な問題であり、使用制限により日常的に不利益を受けていた。「個人が自認する性別に即した社会生活を送ることは重要な法的利益だ」との職員の言い分は理解できる。
そもそも職員の女性用トイレ使用について、他の職員が抵抗感を訴えた事実はなく、トラブルもなかった。最高裁が「他の職員への配慮を過度に重視し、原告の不利益を不当に軽視した」と断じたのも当然の結論といえよう。
国会で先月「性的少数者への理解増進法」が成立したが、公的なガイドラインはいまだ存在せず、職場環境に関しては当事者の意思や施設の状況を勘案して対応しているにすぎない。
トランスジェンダーが自身の性自認に沿ってトイレを利用することについて、肯定的な意見が七割を占める意識調査もある。
多様性を尊重する共生社会こそ目指すべき方向である。本人の性自認を最大限尊重することを明確にし、性的少数者の尊厳を傷つけるような対応は排除する。こうした取り組みを重ね、差別のない社会を一刻も早く実現したい。
2023.7.12
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です