
〈来栖の独白〉
最高裁が自判せず、差し戻しとしたことを評価したい。被害者遺族は自判を望んでこられたけれど、「人の命は、そう簡単に喪われてはならない」。「7年もかかった」とのお気持だが、命の重さは、等しく同じである。おしなべてかけがえがなく、尊重されねばならぬ。本件被告の量刑が死刑相当で、限りがあると予想されるならば尚更、丁重にたいせつに、この一つの命は遇されねばならぬ。命の奪われること、喪われることのかなしみ、命の重大性について、苦しみのなかで最も強く感じておられるのは、被害者遺族のはずだ。
命を奪うことは苦しく、かなしみの極みであるがゆえに、最高裁は、被告の罪状を悪質と認定しながらも、自判を避けた。差し戻し審は、最高裁の判断に拘束される。被告が命を取り戻すことは苦難な道のりだろう。奇跡と言ってもいいかもしれない。それでも(だからこそ)、最高裁は、自判しなかった。私はここに、裁判官の裡なる「人間」を見る。かなしみを観る。「死刑を宣告するのは苦しい」と述懐した某裁判官の言葉を鋭い痛みの中で思い出す。待ってあげてほしい。苦しいのは、ひとりだけではない。命は性急には奪えない。奪ってはならない。
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山口・母子殺害 「無期」破棄差し戻し 最高裁 元少年、死刑の公算
2006年 6月21日 (水) 03:21 産経新聞
山口県光市で平成11年4月に起きた母子殺人事件で、殺人罪などに問われた当時18歳の元会社員の被告(25)の上告審判決が20日、最高裁第3小法廷(浜田邦夫裁判長=退官、上田豊三裁判官代読)であった。第3小法廷は「罪責は誠に重大で、特に斟酌(しんしゃく)すべき事情がない限り、死刑の選択をするほかない」として、無期懲役を言い渡した2審・広島高裁判決を破棄し、審理を同高裁に差し戻した。今後、被告に有利な事情が新たに出なければ、死刑を言い渡される公算が大きい。
1審・山口地裁、2審・広島高裁はともに「計画性はなく、更生の可能性がある」と無期懲役を言い渡し、検察側が上告。犯行時、死刑が適用できる18歳になって1カ月しか経過していなかった被告について死刑適用の是非が争点だった。
判決理由で第3小法廷は、19歳の少年が4人を射殺した「永山則夫事件」の最高裁判決(昭和58年)で示された死刑選択の基準に照らし、「2人の尊い命を奪った結果は極めて重大で、生命と尊厳を相次いで踏みにじった犯行は非人間的な所業といわざるをえない」と断罪した。
その上で「被告は強姦(ごうかん)を計画し、反抗抑圧の手段や犯行発覚防止のため殺害を決意して次々と実行している。殺害についての計画性がないことは死刑回避を相当とする特に有利な事情と評価できない」と指摘。さらに「18歳になって間もないことも死刑を回避すべき決定的な事情であるとまではいえない」と判示した。
1、2審判決などによると、被告は平成11年4月14日午後2時半ごろ、光市の会社員、本村洋さん(30)宅に侵入。本村さんの妻、弥生さん=当時(23)=の首を絞めて殺害して乱暴し、泣きやまなかった長女の夕夏ちゃん=同11カ月=を床にたたきつけた上で絞殺した。さらに遺体を押し入れなどに隠し、財布を盗んだ。
■差し戻し納得できぬ
遺族の本村洋さんの話「最高裁が自ら判決を出すことを願っていたが、残念ながら差し戻しになった。これから(確定まで)どれだけの歳月が流れるか分からない。裁判の迅速化が叫ばれる中、差し戻すのは遺族としては納得できない」
最高裁の自判は裁判実務において強力な先例拘束力をもちますから、いずれにせよ安易に自判をしなかったことは評価に値するといえそうですね。
差戻し審にはいよいよ真実の解明と正しい法律判断が求められるところです。
たいへん勉強になりました。
失礼します。