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中日新聞 夕刊 2023.1.18 Wed.
人の死は誰のものか?
昨年9月、映画監督のジャン=リュック・ゴダールが91歳で亡くなった。スイスで合法的な幇助による自殺だ。ゴダールは、一般的に安楽死の条件とされる治癒不能な耐えがたい苦痛を訴えたわけではない。心身が衰弱したため、自分の意志の明晰なうちに自分の死に方を自分で決めたいという望みを実行に移したのだ。
翻って日本では安楽死の法制化もまだ遠い。この違いは、欧米では故人の意志を重視するが、日本では残される家族の感情を考慮するから、と説明されることが多い。
だが、この点をめぐって、欧米をひと括りにはできない。げんに、いま安楽死の法制化をめざすフランスでは、幇助による自殺は認められない。そのため、脳卒中で体の自由を失った85歳の老人がスイスで自殺幇助を望む実話を描いた映画が、フランソワ・オゾン監督『すべてうまくいきますように』だ(本邦2月公開)。
無論、老人は一人ではスイスに行けない。そのため、娘たちに協力を依頼する。ここで、父親の死に協力する家族の感情の葛藤が描かれる。長女役のソフィー・マルソーらの好演が光る。私たち日本人はどう考えるべきだろうか。決して他人事(ひとごと)ではない。(前期高齢者)
◎上記事は[中日新聞夕刊]からの書き写し
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