自分で作り出している日本経済の癌細胞/腐敗が蔓延っても豊国の志が高い中国の政治家と官僚

2011-08-20 | 政治

西洋医学では治癒不能、末期がんの日本経済 国民一人ひとりの「ら抜き」精神が国を豊かにする〈川嶋 諭〉
JBpress2011.08.20(土)

 日本語ではら抜き言葉は文法が間違っているか、または美しくないとされる。しかし、人生は「ら抜き」することで豊かになれる。そう教えてくれたのは作家の土居伸光さんである。奥さんが突然末期がんの宣告を受けて死に直面した時、奥さんが選んだ生き方から土居さん自身が学んだことだという。
*がん治療をやめたら寿命が延びた
 医師から「余命半年、手の打ちようがない」と宣言された土居さんは、奥さんにはそのことを告げず、一縷の望みをかけて治療を受けさせることを決意した。
 しかし、最高の西洋医学をもってしてもがんの進行を止めることはできなかった。
 逆に頭髪が抜け落ち体半分が黒く変色してしまった。また嘔吐やめまい、激しい頭痛など、抗がん剤による副作用が容赦なく奥さんを襲った。
 果たしてこのまま治療を受けさせることが奥さんのためになるのか、確信を持てなくなった土居さんは奥さんに末期がんであることを告げる。
 その時、奥さんの口から出てきた言葉は意外なものだった。恐らく、聞かずとも病気のことは察知していたに違いない。
 「治療を受けるのをやめて、残された自分の人生を思いきり生き抜いてみたい」
 それからの2人の人生は西洋医学に頼っていた時とは180度違うものになった。長野県にある自然食だけで生活を送る養生園に長期滞在したり、東洋医学を勉強したりして自分の力でがんと闘うようになった。
 その過程で知り合った同じ末期がんの人たちが、痛みや苦しみに耐えながらもあっけらかんと前を向いて生きている。残された時間を少しでも長く有意義に生きようとしている。
 そうした姿を見て、「妻の中で大きな変化が生じているのが分かりました」と土居さんは言う。「人生におけるパラダイムが音を立てて変わってしまったようです」。
*がん細胞は自分で作り出している
 がんとは、交通事故などのように突然自分に襲いかかってきた不幸ではない。がん細胞は自分自身で作り出したものである。「そのことを理解した時、妻に何かが起きたのです」。
 「それまで妻の中にあった『若くしてがんに罹るなんて、何んという不幸者。大好きだったテニスももうできない』というような被害者意識は全くなくなりました」
 そして、間近に迫った死に対する不安も不思議なほど消えていったという。
 生活習慣その他で自分で作ってしまったがん細胞は、医療の力は借りたとしても自分で何とかするしかない。西洋医学に頼り切っていた姿勢から、自分で主体的にがん細胞と立ち向かう姿勢に変わったことで、「妻は悟りを開いたようです」と土居さんは言う。
 結局、奥さんの闘病は叶わず2年半後に亡くなってしまうのだが、余命半年と宣言されてから2年以上も長く生き延びたことになる。
*受身の人生からの脱却
 そして、2年間も寿命を伸ばしたこともさることながら、「苦しみに悶え不安に怯え被害者意識に苛まれて終わる人生ではなく、有意義に人生を全うしたことの意義は妻にとって大きかったと思います」と土居さんは話す。
 奥さんのそうした姿は、土居さん自身も変えた。「自分がそれまで歩んできた中で持っていた価値観が音を立てて崩れてしまいました。今までの自分はいったい何をしていたんだろう。目から鱗が落ちるとはこのことだと思いました」と言う。
 その時、土居さんが悟ったのが「ら抜き」の人生である。「やらされる」に代表される受身の人生からの脱却だ。
 土居さんは大手宝飾関連の会社で、やり手の営業マンとして辣腕を振るってきた。しかし、歯に衣着せぬ物言いが上司の反発を買い、地方へ左遷の憂き目に遭う。
 飛ばされた地方でも1年半で売上高を2倍にするなど、目覚しい成果を上げるのだが、正当な評価を受けることはなかった。不平不満のたまる会社人生だった。そんな矢先に奥さんにがんが見つかり、踏んだり蹴ったりの人生だと思うようになっていた。
ら抜きで豊かになる組織や国家
 しかし、奥さん闘病する姿を見るうちに土居さん自身にも変化が訪れる。人間の体に生まれるがん細胞のように、不平不満の原因は会社や相手ではなく自分にあると考えられるようになったという。
 土居さんの「変化」についてはご自身の最新刊『光』(光文社)に友人の娘さんとのメールのやり取りの形で詳しく書かれているので、ご興味のある方はお読みいただきたい。
 さて、この「ら抜き」で豊かにする人生の考え方は、組織や国家といったレベルにも当てはまりそうである。
 例えば、原子力発電所の誘致問題。この記事「原発で波高まる津軽海峡夏景色(上)」、「漁師仲間の飲食・タクシー代まで原発持ち」はお読みいただいただろうか。
 電源開発(Jパワー)が青森県大間町に建設中の大間原子力発電所を巡り、地元民および対岸の北海道函館市の住民の心の葛藤を描いたものだ。
原発建設巡り波高まる津軽海峡
 急速に漁獲量が減る中で、降って湧いたように出てきたJパワーの原発建設。多額の補償金と雇用という2つの甘い蜜を提示され、大間町の人々は原発誘致を決める。しかし福島第一原子力発電所の事故で、建設が宙に浮いてしまった。
 そのことに地元住民は、戸惑いと怒りを隠さない。一方、大間町とは津軽海峡をはさんで対岸にある函館市では、一銭の補償金も入らない中で原発のリスクだけを押し付けられた形になり、建設中止を求める声が支配的だ。
 有名な大間のマグロをはじめウニ、イカ、タコ、ヒラメなどの海産物や大間牛などの農産物で生計を立ててきた大間町だが、漁獲量の激減で「もう生きられない」と将来の不安を嘆き、原発誘致を決めた。
 そして、原発建設が宙に浮くと再び不安と不満が渦巻く。そこに垣間見えるのは、その地域ならではの特性を生かして主体的に努力を続けようというよりは、原発に頼り切った受身の姿勢である。「ら抜き」の人生をあきらめた姿と言えるかもしれない。
 もちろん、生きるために原発を選んだ大間町の人たちを責めることはできない。しかし、手に負えなくなった末期がんに、いくら痛み止めのモルヒネを注射しても治癒は望めないのと同じように、原発頼りでは実は地域は活性化しない。
漁業不振につけ込んだ原発建設
 補償金をもらって生活している今はいいかもしれない。しかし、原発に頼る生活を続けて子供や孫の世代に何を残していけるのか。競争力のある地域になれるのか。逆に将来を犠牲にしているとは言えないだろうか。
 最も問題なのは、地元の弱みにつけ込んで原発建設を推進する政策の考え方だろう。補償金と雇用を地元にもたらすのはいい。しかし、せっかくやるなら、それらを使って、地元が自立できるようなプログラムまできちんと用意すべきではないか。
 カネと雇用は渡したからあとは自己責任というのでは、国を豊かにする政策にはなっていない。原発を推進したいだけにとどまっている。
 ここにとどまるのか、その先にある地方を活性化して日本を豊かにするという発想を持つのかでは天と地ほど差がある。
 その意味では、高速鉄道の事故や大連でのポリプロピレンの流出事故など、不祥事続きで国民の言論の自由も許していない中国政府の方が我が日本よりも国民のことを考えていると言えるかもしれない。
所得倍増政策を研究し始めた中国政府
 今週、最新刊である『われ日本海の橋とならん』(ダイヤモンド社)のプロモーションのために日本に帰ってきていた加藤嘉一さんに会って話をした。加藤さんによると、いま中国政府は池田隼人元総理大臣の「所得倍増政策」を熱心に研究しているという。
 日本を抜いて世界第2位の経済大国になった中国では、成長率つまり国内総生産(GDP)に代わる目標が必要になってきており、中国政府が注目しているのが国民の幸福度であるという。そのために日本の所得倍増政策を研究しているというのだ。
 経済成長に最重点を置いてきた中国が国民一人ひとりの幸福度に方向転換しているという。それなしには、国民の政府批判が抑えられなくなっていることなのだろうが、国民生活を豊かにし中国経済を活性化しようという強い意欲が感じられる。
 加藤さんのこの著書の中では、中国の官僚が厳しい競争原理にさらされている姿が印象に残る。例えば、四川大地震の際には、その復興を受け持つ地域を被災しなかった市単位に任せ競争させている。
 日本で言えば、例えば、震災した福島県は東京都、宮城県は大阪府に任せるというように。復興のスピードと内容を競わせるわけだ。そういうDNAが中国の官僚システムには埋め込まれていると加藤さんは言う。競争原理とは対極にある日本の官僚システムとは180度違う世界がそこにある。
腐敗がはびこっても豊国の志が高い中国の政治家と官僚
 残念ながら、国を豊かにしようという意欲と行動力では日本の官僚と政治家は中国の足元にも及ばないようだ。
 官僚にそれだけの権限と権力を与えられている裏返しとして汚職などの腐敗が進んでいることを取り上げて、中国を批判するのはたやすい。しかし、それが負け犬の遠吠えになっていないか自己批判する必要があるだろう。
 中国政府にとって最大の問題は民主化を求める国民の声だと加藤さんは言う。インターネット、そしてスマートフォンの急速な普及によって従来型のメディアコントロールが不可能になっており、中国政府は緊張感あふれる政策運営を余儀なくされているという。
 政治家と官僚が国民を豊かにしようという志は高くても、国民は目の前にある小さな不満の解消を最優先し、民主化していない制度のせいにする。そこにあるのは、国民の主体的な改革ではなく、上からのお仕着せの政策に対する不満である。
 それは民主国家であるはずの日本でも実は全く変わらない。つまり、国民一人ひとりがお上に頼らない「ら抜き」で改革・改善をやりぬく志を持たない限り、次なる発展は望めないということだろう。
 無能で世界の恥さらしの日本の政治家を選んでいるのは私たちである。がん細胞は自分たちが作っているということを認識しないと日本は変われない。
<筆者プロフィール>
川嶋 諭 Satoshi Kawashima
 早稲田大学理工学部卒、同大学院修了。日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。1988年に「日経ビジネス」に異動後20年間在籍した。副編集長、米シリコンバレー支局長、編集部長、日経ビジネスオンライン編集長、発行人を務めた後、2008年に日本ビジネスプレス設立。
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