【孤立恐れているのは中国】 湯浅博の〈世界読解〉

2013-07-03 | 国際/中国/アジア

【湯浅博の世界読解】孤立恐れているのは中国
産経新聞2013.7.3 11:54
 米国のブッシュ共和党政権の元高官が最近、ケリー国務長官とアジア問題で協議した際に、長官から「どうして日本はアジアで孤立しているのか」と問われた。知日派の元高官が「それは中国と韓国だけのことで、日本の安倍晋三政権は、他のアジア諸国から歓迎されている」と答えると、びっくりしていたという。
 最近、ある日米安全保障に関係した集まりで聞いた話である。元来、アジアへの関心が薄かったケリー長官に対する国務官僚の説明が不十分だったか。あるいは、中国による「世論戦」の成果かもしれない。
 中国は日本政府が尖閣諸島(沖縄県石垣市)を国有化して以来、尖閣諸島問題がただの領土紛争ではなく、日本による「侵略の歴史」が原因として歴史カードを多用した。
 だからこそ、東アジアを熟知する米国の知日派人脈が重要になる。知日派の元高官は、ケリー長官に「孤立を恐れているのは、むしろ当の中国なのだ」と解説を加えており、長官は東アジア情勢への学習効果を高めたに違いない。
 実際、日本がアジアの海をめぐる案件で孤立することは考えにくい。中国は南シナ海の大半を「力で支配」しようと、ベトナム、フィリピンの沿岸国と対立し、東シナ海では尖閣諸島を奪取しようと日本と対立している。 彼らは中華帝国の伝統理念である「華夷秩序」を海洋にまで持ち込んできた。中心部には中華があり、帝国は外縁に向かって序列の低くなる異民族を統治する。東南アジアの小国には中国の巨大市場をちらつかせ、必要なら経済支援もする。狙いは日米と東南アジア諸国連合(ASEAN)の分断であり、ASEAN内にもまた、南シナ海の沿岸国とインドシナ半島内陸の国々との間にクサビを打ち込んできた。
 中国の悪夢は2010年7月のASEAN地域フォーラム(ARF)で、当時のクリントン国務長官が「アジア回帰」を改めて打ち出したときだ。長官は「南シナ海の航行の自由」は米国の国益だと強調し、領有権問題の多国間での取り組みに意欲をみせた。
 中国は個別交渉なら力でねじ伏せられるが、多国間交渉になると、とたんに孤立する。日本の安倍政権には、東南アジアをはじめ、インド、ロシアなど遠い国と手を組まれ、近くの“敵”に2正面作戦を強いる「遠交近攻外交」で包囲網を築かれている。
 今回、ブルネイでの中国とASEANの外相会議で、中国の王毅外相は対立を緩和する現行の「行動宣言」を法的に拘束する「行動規範」に引き上げる高官協議を受け入れた。王外相は多国間協議を「9月開始、場所は北京」とした。
 これにより、日米が加わるARFで、南シナ海の係争に対する介入を封じることができる。外相は02年に署名した法的拘束力のない「行動宣言」に触れ、「個別の紛争は当事国と協議する」と消極的な立場を示唆した。
 中国にとって韓国の中国急接近は、心強かったはずだ。韓国はしょせん、大陸に連なる「従属変数」だと考えれば、中国をヨイショするのもムベなるかなである。日本は民主主義、法の支配など価値観の違う中国を相手にする以上、急がず騒がず「機が熟するのを待つ」(東洋学園大学の櫻田淳教授)外交が妥当だろう。(東京特派員)
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ウイグル、チベット、モンゴル「御三家」は日中が戦火を交えれば直ちに武装蜂起する 2013-02-18 | 国際/中国/アジア
 漢族や周辺地域にも呼応する勢力が続々 ウイグル、チベット、モンゴル「御三家」は日中が戦火を交えれば直ちに武装蜂起する
(SAPIO 2013年2月号掲載) 2013年2月18日(月)配信
文=宮崎正弘(評論家)
 江沢民と胡錦濤政権の20年間で解決できなかったどころか悪化した少数民族問題。抑圧され続けてきた少数民族は中国が戦争に突入した場合、どういう行動にでるのか。中国ウォッチャー、宮崎正弘氏がシミュレーションする。
中国政府は、漢族と55の少数民族を総称して「中華民族」と定義する。最近の統計では漢族の人口比は92%。漢族以外の主要な少数民族はチベット、ウイグル、モンゴルで、それぞれ600万人、900万人、450万人とされる。これら「御三家」が地下運動で「独立」を主張している。
 極東で戦争状態となれば、隙を見て独立闘争に踏み切る可能性が高いのが新疆ウイグル自治区だ。中国の横暴に抗して爆弾闘争も辞さない。果敢に「東トルキスタン」の独立を主張するイスラム教徒を中心とする自治区である。
 ウイグル人からすると、土地を勝手に侵略し、核実験を行ない、さらには原油とガスを盗掘しているのが漢族ということになる。その恨みはウイグル族の精神に刻印され、記憶回路に長く蓄積されており、和による解決を望む穏健派ばかりではない。
 中国共産党の政策によって次々と漢族が移住してきて、漢族が多数派となった首府のウルムチはともかく、ホータン、カシュガル、イリでの反政府地下運動は猖獗を極めており、漢族を狙うテロが増えるだろう。
 過去数年でも自爆テロ、警察署襲撃などの武装闘争は収まらず、人民解放軍はアルカイダの流れを汲む武装ゲリラの潜入をもっとも警戒する。背後には国境を接するカザフスタン、キルギス、アフガニスタンなどのイスラム圏が構えている。
中国政府はこの数年、イスラム諸国に相当気を遣ってきた。
 胡錦濤国家主席は副主席時代を含め、実に十数回、中国の西部に位置するイスラム国家を訪問し、「友好親善」の外交を展開してきた。遠くトルクメニスタンからは8000キロメートルのパイプラインを上海まで敷設してガスを購入している。輸送費を加味すれば採算が合わないにもかかわらずである。
 2001年には中国、ロシア、中央アジア4か国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン)が加盟する上海協力機構を設立した。軍事、政治、経済貿易など包括的な協力をうたっているが、中国の目論見は、中国が混乱に陥った場合、イスラムの連帯による新疆ウイグル自治区への武器搬入やゲリラの潜入を防ぐための防諜協力である。
 アフガニスタンへの接近にも努力を惜しまない。中国企業による石油、鉱物資源の採掘など同国重視の外交を進めている。
 アフガニスタンにタリバン政権が復活すれば、新疆ウイグル自治区へ繋がる「アフガニスタン回廊」が復活する。そうなれば夥しいイスラム戦士が山越えして、独立運動闘争を展開しかねないからだ。「両国関係は極めて重要」とするカルザイ大統領は数回、北京を訪問している。
 一方、08年、最過激派の「東トルキスタン・イスラム運動」(イスラム原理主義過激派)が中国政府へのジハード(聖戦)を宣言した。従来、イスラム過激派は「シオニスト」と「帝国主義」を敵と公言してテロ活動を展開してきたが、名指しで中国を挙げたのは初めてである。「中国人占領者」と定義付けし、東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)から出て行けと要求しているのだ。
 中国がいかに周辺イスラム国と友好を築こうと、ウイグル族の独立運動の背後に世界的なイスラムの連帯がある限り、中国の恐怖はなくならない。
7000万“隠れキリシタン”
 チベットはどうか。最近1年間に中国政府に抗議する焼身自殺が45件にも達した。中国が日・米と戦争状態になった場合、僧侶たちの抗議行動が爆発する。チベットの南には、中国と対立するインドがある。
 チベットの西半分を管轄するのは人民解放軍の7大軍区のひとつ、蘭州軍区だ。新疆ウイグル自治区に大部隊を配置し、中国の西の守りを固めている。だが、チベットの残り半分は成都軍区が管轄している。
 成都軍区の管轄エリアは四川省、一部地区を除いたチベット自治区、重慶市、雲南省、貴州省で、ベトナム、ラオス、ミャンマー、ブータン、ネパールと国境を接している。それぞれの国境付近で少数民族によるテロを警戒している軍区である。
 人民解放軍の配置を見ても、チベットの反乱に対して整合性のある軍事戦略が存在するとは言い難い。兵力が分散されて総合力に欠けるのだ。
 つまり蘭州軍区と成都軍区とにまたがって管轄されるチベット自治区の反乱は、人民解放軍が戦略的に動けないため、インドの出方次第で中国を一気に追い詰める可能性を秘めていると言える。
 新疆ウイグル自治区、チベット自治区のほかに、極東方面で軍事的緊張が高まると中国国内で不安定化する地域は内モンゴル自治区である。
 モンゴル族は3つの地域に分断された。現在のモンゴル、ロシア領内のモンゴル自治区、そして中国に編入されている内モンゴル自治区である。モンゴル民族主義の原則からいえば、以上の3つを“合邦”し、チンギス・ハーン以来の独立した民族統一国家を樹立することが理想である。しかし、地理的にロシアと中国に挟まれ、実現は困難だ。
 中国領内にはモンゴル独立を志向する地下組織があり、彼らはチベット、ウイグル独立派の海外組織と共闘する準備を進めている。
 他の少数民族では朝鮮族が200万人、おもに吉林省の北朝鮮国境地帯で独自の文化を維持しながら暮らす。最大人口を誇るチワン族はベトナム国境に1600万人いる。朝鮮族、チワン族ともに「独立」を主張せず、適度の自治に甘んじ「漢化」されているのが現状だ。
 その一方で、少数民族ではなく漢族のマイノリティ勢力が中国政府に抗う可能性も低くない。たとえば、アフガニスタンとの国境山岳地帯にはドンガンと呼ばれる漢族のイスラム教徒の集落がある。
 そして、中国政府が特別な警戒をしているのが、地下教会というキリスト教信者のシンジケートである。その弾圧は日ごとに強まっている。バチカンと中国の宗教政策の対立も根深い。
 中国共産党の監督下にある公認教会のカソリック信者は500万人、プロテスタント信者は1700万~1800万人。一方、共産党非公認の地下教会信者は7000万人とも言われる。実態は謎のベールに包まれているが、キリスト教の信者は共産党に反対する漢族が主流である。
 以上のように、極東で戦争状態になったとき、中国国内の少数民族、反中国共産党の漢族の不満が一気に噴き出す。その場合、武装警察だけでは対処しきれず、各軍管区が動くことになろうが、そうなれば対米・対日戦争など遂行できるはずもない。
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デルロサリオ外相「日本には憲法を改正してでも軍備強化を進めてほしい」/セキュリティー・ダイヤモンド 2013-01-28 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉
 日本の改憲、アジア肯定 ワシントン・古森義久
 産経新聞2013.1.26 08:05[緯度経度]
 米国のメディアが安倍晋三首相の今回の東南アジア訪問で最も注目したのは、語られることのなかった演説だったようだ。訪問先のインドネシアの首都ジャカルタで18日、安倍首相は「開かれた、海の恵み-日本外交の新たな5原則」と題する主要政策演説をする予定だった。
 だが首相はアルジェリアでの人質事件が急展開したために予定を変えて帰国することになり、演説は中止となった。演説の内容はそれでも首相官邸サイトなどで公表された。
 その内容に米国大手紙のウォールストリート・ジャーナルが注視して、詳しく報道した。22日付のその記事は「安倍首相の失われた政策演説での安倍ドクトリンでは米国が中心」という見出しで、同首相の新しい外交政策の要点を伝えていた。
 同演説案はまず「日本の国益」として「海の安全」と「日米同盟」とを掲げ、インドネシアなど東南アジア諸国との連帯の重要性を強調していた。そのうえで5原則として「思想や言論の自由」「海洋での法と規則の尊重」「自由な交易と投資」「日本と東南アジアとの文化交流」「同じく若い世代の人的交流」をあげていた。
 演説案は日本とインドネシアの「交流」の実例として日本の看護師試験に受かったインドネシアの若い女性が東日本大震災の被災地で活躍したケースや、ジャカルタの劇団が「桜よ-大好きな日本へ」という日本語の歌を激励に合唱したケースをも伝えていた。
 この演説全体を報道したウォールストリート・ジャーナルの記事は「日本が米国との同盟を最重視しながら東南アジア諸国との連帯も強化し、アジアの海が軍事力ではなく国際規範により管理されることを強く訴えたのは、中国の好戦的な海洋戦略への懸念の反映である」と総括していた。
 安倍首相がジャカルタでこうした演説を計画したことは明らかに日本とインドネシアの年来の友好や信頼を示すとも指摘するのだった。
 両国のこうした緊密な関係を証するかのように、安倍首相がこの「失われた演説」の予定と同じ日にインドネシアのユドヨノ大統領と会談した際、日本が憲法を改正し、国軍の創設を可能にし、集団的自衛権も解禁するという方針を伝えたという報道が日本の各新聞で22日に流された。ユドヨノ大統領はそれに対しなんの反対も示さなかったという。
 そこで想起されるのはフィリピンのデルロサリオ外相の言明である。同外相は昨年12月、英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューに応じて「日本には憲法を改正してでも軍備強化を進めてほしい」と述べたのだった。
 この言明は米国側の識者たちの強い関心をも引きつけた。マイケル・グリーン元国家安全保障会議アジア上級部長は「日本がアジア全体への軍事的脅威になるという中国の主張を他のアジア諸国は信じない。東南アジア諸国はむしろ日本の軍事力増強を望んでいる。中国の軍拡へのバランスをとるという願いからだ」と述べ、「戦時中は日本の軍事行動で最も大きな被害を受けたフィリピンからこうした希望が述べられる点に注目すべきだ」とも強調するのだった。
 安倍首相の東南アジア訪問は日本の防衛面の動向へのこうしたアジアの反応を照らし出し、日米同盟の重要性の訴えを伝えた点だけでも、効果があったのではなかろうか。
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中国が管轄海域と主張する南シナ海の「牛の舌」/中国は、その誇大な主張の後ろ盾となる軍事力を有している 2011-08-03 | 国際/中国/アジア
 南シナ海の「牛の舌」 清水美和の【アジア観望】
 中日新聞夕刊2011/08/02Tue. 

    

 中国の地図を見ると、自分の縄張りのように南シナ海のほぼ全域を点線で囲んでいる。その形から「牛の舌」と呼ばれる区域を、中国は「管轄海域」と主張している。
*国際法の根拠不明
 しかし、海外からは、国連海洋法条約が認める領海や排他的経済水域(EEZ)でもなく、意味が分からないと批判されてきた。
 「南シナ海で島々の領有権を主張する関係国は、国際法の根拠を明確にすべきだ」
 先月下旬、インドネシアで開かれた東南アジア諸国連合地域フォーラム(ARF)で、米国のクリントン国務長官は主張した。名指しこそ避けたが、主に中国に向けた発言であることは明らかだ。
 中国は南シナ海の南沙(スプラトリー)、西沙(パラセル)諸島の領有権を巡り、対立するベトナム、フィリピン、マレーシアなどの漁船や調査船を自らが主張する管轄海域から追い立ててきた。
*中国に身構えた米
 2009年3月には米海軍の調査船を中国艦船が取り囲み、調査を中止させた。10年3月に、中国は米国に南シナ海の海洋権益を交渉の余地がない「核心的利益」と見なすと通告したといわれる。
 米国は中国に身構え、昨年7月のARFで、クリントン長官は領土紛争には中立を保つとしながら「航海の自由」を断固として守ると表明した。
 中国外務省は「南シナ海の諸島は古代から中国領」と主張しているが、国際法の根拠について明確に説明していない。中国で発表された学術論文で主流の意見はこうだ。
 南シナ海の島々は1930年代からフランスや日本が一時占領したが、日本は敗戦で領有権を放棄した。その後、国民党政権が現地を測量し「中華民国行政区域図」(48年)で南シナ海を点線で囲うことによって中国の管轄海域であることを宣言した。
 当時、周辺諸国はこれに異を唱えなかったが、60年代から海洋資源が発見されたことで、次第に島々の領有権を主張するようになった。
 南シナ海について、中国は国連海洋法条約(82年採択)も、関係国の協議で領海やEEZを画定する作業は必要がないと認める「歴史的所有権」を持っているという。
*とんでもない地図
 南シナ海の管轄権を宣言したという「中華民国行政区域図」は、モンゴル全域も中国領としている。日本の尖閣諸島をはじめロシアやインドなど隣接する9か国との係争地域をすべて自国領としているとんでもないシロモノだ。
 国際的に受け入れられるはずもなく、南シナ海の領有権をめぐって、中国は新たな主張を展開する必要に迫られるだろう。(しみず よしかず・東京論説主幹)
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パキスタンのグワダル港を得た中国 「真珠の首飾り」に神経をとがらせるインド 2013-03-17 | 国際/中国/アジア 
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南シナ海では圧倒的海軍力で恫喝 軍艦と札束外交で東南アジア呑み込みを狙う中国/尖閣でも起こり得る 2012-10-19 | 国際/中国/アジア
 南シナ海では圧倒的海軍力で恫喝、巨額のインフラ整備で籠絡 軍艦と札束外交で東南アジア呑み込みを狙う中国の“権謀術数”を挫け
 (SAPIO 2012年10月3・10日号掲載)2012年10月18日(木)配信
文=井上和彦(ジャーナリスト)
 日本政府が尖閣諸島の国有化を決定したことに対して、中国国家海洋局は尖閣諸島周辺海域に巡視船2隻を派遣した。中国国防相は報復を示唆し、ついに軍事力を前面に、領土拡張へと動き出した。が、日本に対して牙を剥くのはむしろ遅かったと言っていい。すでに多くの国が中国の版図拡大の脅威に晒されている。
 中国は、増強著しい軍事力を背景に、近年とみに東南アジア諸国に対する圧力を強めている。中国の国防費852億ドルは、東南アジア諸国全体の国防費329億ドルの2・5倍余りだ。東南アジア諸国全体の陸上兵力、作戦機の数、艦艇の総トン数がそれぞれ153万人、1050機、60万tであるのに対し、中国はそれぞれ160万人、2070機、135万t。しかも、中国の国防費の伸び率は毎年2桁を続けているのだから差は開くばかりだ(数字は2011年。いずれも概数)。
 とりわけ圧倒的な海軍力が、東南アジア諸国への威圧外交を支えている。中国海軍は人員22万人、艦艇1088隻を擁し、近年は目覚ましい近代化を遂げている。なかでも江凱型フリゲート艦は、ヨーロッパ諸国及びロシアのハイテク技術を盛り込んだ最新型で、ステルス性が高い。旧ソ連製空母ワリャーグを再生して空母保有を実現し、潜水艦戦力の拡充にも努めている。1万t級の大型病院船を建造したことなどから、外洋での軍事行動を想定していることが読み取れる。
■軍事的恫喝を繰り返す“海のならず者”
 東シナ海で日本に対する挑発行為をエスカレートさせる中国は、南シナ海では、南沙諸島(スプラトリー諸島)、中沙諸島、西沙諸島(パラセル諸島)の領有権を争うフィリピン及びベトナムに対して軍事的攻勢を強めている。
 11年2月25日には、中国のフリゲート艦が南沙諸島のジャクソン環礁でフィリピン漁船3隻を威嚇射撃によって追い払うという事件があった。3月2日には、哨戒艇2隻が南沙諸島のリード礁でフィリピン政府から許可を得ていた資源探査船の作業を妨害し、衝突寸前となった。現場はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内だった。それまで中国の資源探査船が、フィリピンが自国の領海だと主張する海域で探査活動を繰り返すことはあったが、フィリピンの探査活動の妨害に出たのは初めてだった。5月31日には、中国海軍の艦船が、フィリピンが領有権を主張するパラワン島沖のイロコイ礁近くで建築資材を降ろし、ブイや杭を設置した。
 同様に、同年5月26日には、中国艦艇3隻が南シナ海のベトナム近海でベトナムの資源探査船の海洋調査を妨害し、曳航していたケーブルを切断した。場所はベトナムのEEZ内だった。6月9日には、今度は中国漁政局の監視船に護衛された中国漁船が、南沙海域でベトナムの資源探査船のケーブルを切断した。
 そうした蛮行に対し、フィリピンもベトナムも「領海侵犯だ」と強く抗議したが、逆に中国は「我が国の領土、領海だ」と開き直った。そればかりか、今年6月21日、領有権を争う南沙・西沙・中沙諸島を施政下に置く「海南省三沙市」を設けることを一方的に発表。7月に入ると、この「三沙市」の人民代表大会を西沙諸島で開催し、「三沙市長」を選出した。加えて、中国共産党中央軍事委員会が「三沙警備区」を設定して軍による警備を合法化した。これに呼応するかのように、さっそく中国漁船が南沙諸島の周辺海域に現われて操業を始めている。強引に実効支配の既成事実化を推し進めているのである。
 そんな中国とフィリピンの一触即発の事態に不可解なことが起こった。
 今年4月、両国が領有権を主張する中沙諸島に双方が艦艇を送り込んで睨み合いを続けていたところ、6月になってフィリピンが艦艇を引き揚げてしまったのだ。その舞台裏について、古森義久氏(産経新聞編集特別委員)が、米「戦略国際問題研究所(CSIS)」上級研究員の「中国の威圧的な経済外交=懸念すべき新傾向」という論文を引用して解説している。
 それによると、艦艇の睨み合いが始まるや、中国はフィリピンの主要輸出品で、その30%が中国に輸出されているバナナに、「ペストに汚染されている疑いがある」などと言いがかりをつけて輸入制限した。さらに、中国人観光客のフィリピン訪問を禁止した。フィリピン経済は大打撃を受け、フィリピン政府は艦艇を引き揚げざるを得なくなったというのである。
 権謀術数に長けた中国は、軍事的圧力と「威圧経済外交」を併用し、相手国の経済に打撃を与えることで自らの政治的主張を実現させようとしているのである。
■カンボジアを金で“躓かせる”
 インドシナ半島にはベトナムのダナンからラオス、タイを通ってミャンマーのモーラミャインに至る東西(経済)回廊と呼ばれる道路が走っている。これは日本の援助によるものだ。これに対抗するかのように中国の援助で敷かれたのが、雲南省の昆明から南下し、ラオスを通ってタイのバンコクに至る南北(経済)回廊だ。ともに今世紀に入ってから開通し、その回廊を中心とした大きな経済圏が形成されつつあるのだが、近年、インドシナ半島全体で中国の影響力が高まっている。
 なかでも中国の「札束外交」は貧しい国に対しては絶大な効果を上げている。
 典型がカンボジアだ。中国はカンボジアに対し、この10年間に100億ドル(現在のレートで7800億円余り)という巨額の経済援助を行なっており、これは日本のODAをはるかに凌ぐ。今年6月にも、カンボジアのインフラ整備に4億2000万ドルの融資を約束した。その結果、カンボジアは中国の意のままに動く衛星国になり下がってしまった感がある。
 翌7月、カンボジアで開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)外相会議で異例の事態が起きた。フィリピンとベトナムが共同声明に南シナ海問題を明記するよう求めると、議長国カンボジアがこれを拒否し、挙げ句は共同声明そのものが見送られたのだ。これが中国の意を受けた行動なら、前月の巨額融資はカンボジアに対する「賄賂」と言えるだろう。
 そして、中国が近年、最も力を入れて接近を図っているのがミャンマーだ。
 ミャンマーは、中国が陸路でインド洋に出て行くルート上にあり、いわゆる「真珠の首飾り作戦」(インド洋沿岸諸国の港湾を借りて自国の海軍基地を確保し、シーレーン防衛の強化を狙う戦略)にとって重要拠点のひとつだ。そこで中国は、ミャンマー沖のアンダマン諸島に近い大ココ島の港湾を借りて海軍基地を置いている。また、中国はミャンマーに天然資源と電力の供給源として大きな期待を寄せており、現在、雲南省まで運ぶ天然ガスと原油のパイプラインを敷設中だ。水力発電所を中心に50ほどの発電所建設計画もあり、少なくともその7割以上に中国企業が関わっており、すでに竣工したミャンマー最大級のシュウェリー水力発電所No.1からは雲南省に電力が送られているのだ。
 ラオスにも同様の「札束外交」を仕掛けている。いまやラオスへの投資額は隣国ベトナム、タイなどを抑えて中国が1位となり、とりわけ水力発電や鉱物資源開発などに投資を行なっているのだ。
 経済攻勢は東南アジアの雄タイに対しても行なっており、メコン川流域国の経済協力を謳い始めている。インドネシアに対しても、今年3月、総額170億ドルの経済協力を約束するなどして急接近を図っている。狙いは同国が有する豊富な石油資源である。
 このように、「遅咲きの帝国主義国家・中華人民共和国」は、軍事的圧力と併用して、金にモノを言わせる経済的圧力をもって東南アジア諸国を呑み込もうとしている。その硬軟あわせた揺さぶりを挫くことなく放置しておけば、日本が長い時間をかけて親密な関係を築いてきた東南アジアが「中国の庭」になる日は近い。
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「右傾化」で外交をくくるなかれ 櫻田淳 2013-07-02 | 政治


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