出産する女性受刑者、悩む刑務官、課題多き「女子刑務所」の今・・・

2015-02-14 | 社会

 産経ニュース 2015.2.11 06:00更新
【日本の議論】出産する女性受刑者、悩む刑務官、課題多き「女子刑務所」の今…「やり直したい」という受刑者の言葉がやりがい
 九州で唯一の女子刑務所「麓(ふもと)刑務所」(佐賀県鳥栖市)。全国で女子受刑者の収容過剰と高齢化が問題化しているが、約300人を収容する麓刑務所も例外ではない。昨年10月に収容率100%を切ったものの、依然として95%と高止まりしている。逆に若年化と早期離職が進む女性刑務官の負担は増えている。上川陽子法相の麓刑務所視察に同行し、女子刑務所の現状と女性刑務官の本音を取材した。(池田証志)
■部屋の入口には必ず生花
 佐賀県の東端に位置する鳥栖市。田んぼや畑が広がるなだらかな丘が続く。麓刑務所も、そんな緩やかな丘の上にある。
 ベージュ色の刑務官宿舎に挟まれた坂を上がると、高さ3メートルほどのコンクリートの塀と白い鉄格子でできた正門にたどり着く。塀をくり抜いた鉄格子の通用門を抜け、2階建ての管理棟へ。部屋の入り口には必ず生花が飾られていて、ここが女子刑務所であることを思い出させる。
 「ここには主に九州地方で刑が確定した女子受刑者285人が収容されています」。麓刑務所幹部が収容状況について説明してくれた。受刑者の年齢は23~85歳で、平均年齢は48歳。全国の女子刑務所同様に高齢化が進んでおり、60歳以上の割合は22年に約15%だったが、25年には25%に増えた。
 麓刑務所は敷地面積約4万6000平方メートルと広く、丘にあるため坂が多い。ある職員は「(敷地内は)階段が多く、ふらふらしている受刑者もいて危ない」と指摘する。これまで手すりを増やしてきたが、今後はバリアフリーを進めなければならないという。
■出産する受刑者、そのときに手錠はどうするのか…
 管理棟を抜けると、左手に2階建ての居室棟が6棟ある。昭和50年3月竣工。築40年とあって壁の表面が黒ずみ、窓を覆う鉄格子にはさびも見られる。
 「居室棟を平成15年に増設したのに、18年には収容率が130%を超えました。部屋に2段ベッドを入れたり、教室を居室にして対応しなければならなかったこともあったほどです」(同幹部)
 居室棟の正面には、医療棟があり、常駐医が診療を行う。高齢化が進み、さまざまな病気を抱える受刑者が増えている。摂食障害のある女子受刑者もいるが、ある女性刑務官は「摂食障害は個別の処遇が求められるので大変」と厳しい表情で話した。
 妊婦も毎年数人が収容される。刑務官同行のもと、外部の医療機関に定期的に診断に行くが、出産のときには、妊婦1人に3人1組の女性刑務官が同行し、24時間態勢を取るため2組計6人が投入される。
 出産時に手錠を外すかどうかは各刑務所の判断だった。法務省は昨年12月、出産時には受刑者の手錠を外すよう通達を出したが、麓刑務所では以前から手錠は外していたという。
■わが子を想い、母子像に手を合わせる受刑者
 受刑者の1日は規則正しい。午前6時半に起床し、点検、洗面、掃除をすると、300人が一度に入れる食堂へ向かい、朝食をとる。麓刑務所では、毎日、朝昼晩の三食すべてを全員そろって食べる。
 居室棟から食堂へ向かう通路の途中に「慈母観音」と呼ばれる石像がある。胸に赤ちゃんを抱く母親の像だ。赤ちゃんの手は母親の乳房に触れようとしている。
 「つぐないの道にいそしむおみならにあまねくそそぐ春のみ光」
 麓刑務所の受刑者がわが子を想う気持ち表した歌に感動した近くの石仏師が彫ったという。昭和34年2月に建立された。女子受刑者らは、工場へ作業に向かう朝と作業を終えて居室棟に戻る夕方に、石像の前で手を合わせる。
■高齢者が増え、生産量減少
 朝食を終えた受刑者らは、7時40分には工場へ移動し、更生活動の一部である担当の作業を行う。数少ない女子刑務所である麓刑務所では、全国の刑務所職員らの制服や地元の伝統工芸「佐賀錦」の小物などが作られている。
 天井の高い工場内には、裁断やプレスなどの作業台が並ぶ。壁には「蒸気を出すときは他方の手に注意すること」「はさみは利き手で持つこと」などの注意書きが張られている。
 1日に刑務官の制服40着、警備服20着などが生産される。高齢者には、紙細工など負担の軽い作業が割り当てられる。同幹部は「高齢者は能力的にも体力的にもできる作業が限られる。最近はミシンを使える受刑者が減り、制服の生産量も減りました」と話す。
 4時間後に30分程度の昼食時間を挟み、午後4時半ごろには作業終了。夕食を取った後、居室棟に戻ると、午後9時の就寝時間までは余暇の時間だ。短歌や書道といったクラブ活動、テレビ、手紙書きなど、思い思いの時間を過ごす。
■8割が女性職員…結婚、出産、介護など悩み多く
 麓刑務所の職員数は131人。うち109人が女性だが、全国の女子刑務所同様、女性職員の若年化と早期離職が問題になっている。法務省の調査では、全国で平成22年までの3年間に採用された女性刑務官の離職率は約3割。結婚、出産のタイミングで辞めたり、親の介護をしたりと事情はさまざまだ。
 「夜間勤務がある中での子育ては想像できないのでは」と話すのは、勤務歴27年の看守部長(45)。「子供を預けるところがないと、休暇をとらなければいけない」とも。交代制勤務に穴をあけ、同僚に迷惑をかけるのも精神的な負担となるようだ。
 また、同じく法務省の調査によると、女性刑務官のほぼ半数が20代。麓刑務所も同様の状況で、勤務歴3年の看守(22)は「(女性刑務官の方が)若いと、踏み込んだ指導が難しい」と実情を吐露した。
■やりがいは「やりなおしたい」という受刑者の言葉
 麓刑務所視察の中で女性刑務官らとの座談会を終えた上川法相は「結婚、出産、育児の壁だけでなく、自分の求めている仕事と現場とのギャップも大きな壁になっている」と話した上で、女性の活躍を促進するための取り組みを推進していく意向を示した。
 女性刑務官をバックアップしようと、法務省は今年度から、栃木、和歌山、麓の3刑務所で近隣の民間団体などと連携し、看護師や介護士といった専門家の協力を得る「地域支援モデル事業」を開始。麓刑務所でも助産師や看護師が週に1回程度訪れ、受刑者の指導支援などを行っている。来年度は他の3女子刑務所に拡大する方針だ。
 再犯防止のために受刑者の更生処遇を担う女性刑務官。厳しい職場だが、つらいことばかりではない。「(受刑者から)出所するときにお礼の言葉や『やり直したい』という更生の言葉があるときに、やりがいを感じる」。子育て中の看守部長が笑顔で語った。

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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出産時「手錠外す」法務省指針制定 / 妊娠受刑者の思い「手錠をはめて分娩台に…悲しいけど」国を動かした 2014-12-30 
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