〈来栖の独白 2018.7.30 Mon〉
日を重ねるにつれ私の裡で、今回のオウム死刑囚13名死刑執行という国家の断行に驚きは高まるばかりだ。
オウム高橋克也氏の判決確定は2018/1/25。その前、菊地直子被告の無罪確定が2017/12/25だったから、国はオウムの(裁判)終結を裁判所に急がせているな、とは感じた。
高橋氏確定の時点でオウム死刑囚への刑執行という段階に入ったと感じたが、しかし、それにしても13名もの死刑囚。同一事件の死刑囚の執行は基本的に同日なされると決まっている(確定期日によりずれることもある)が、13名の死刑囚、どのようにそれが為されるのか。拘置場所(刑場)「分散」ということは予測したが、私に考えられるのは、そこまでだった。
そうこうするうち、政府は、国会会期を7月22日まで、32日間延長すると発表した(6月20日の衆院本会議で議決)。死刑執行は会期中は避けたいのが、通例だ。安倍総理(政権)には死刑執行への配慮はないのかな、会期中の死刑執行になりそうだ、というのが私の直感だった。
今回、同月中に13名全員の執行を遂げたことを、評価したい。刑場分散し、2期に分けざるを得なかった事情を理解すればするほど、3週間後(同月中)に6名を執行したことは現場の苦しい情況(極限の苦しみ)を露呈したものとして、私は胸の深くに畳む。
13名もの死刑執行を命令せねばならなかった上川陽子法相の心情に深く同情申し上げると共に、その手で有為な若者たちを手に掛けねばならなかった刑務官の皆さんの苦衷に、頭を垂れないではいられない。
幾人かの人たちは「宗教的テロ集団がなぜ生まれたのか、調査すべきだ」と、死刑にせず生かして、彼らの声を聞くべき、という意見のようだ。
が、その人たち、果たして、彼らが自由でいられた(刑事被告人身分)時から今日まで、どれほど切実に彼らの声を聴こうとしたのか。
彼ら死刑囚の生前の佇まいを知れば知るほどに、私にはいま、彼らの霊魂が天の国で真に安らいでいるように思える。(命を殺めたという)怖ろしい苦しみから解放され、安らいでいるのではないだろうか。
「朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり」(論語 )、命よりも大切なものがあると考える。イエス(聖書)は云う。
マタイ10章
28また、からだを殺しても、魂を殺すことのできない者どもを恐れるな。むしろ、からだも魂も地獄で滅ぼす力のあるかたを恐れなさい。
34 地上に平和をもたらすために、わたしがきたと思うな。平和ではなく、つるぎを投げ込むためにきたのである。
35 わたしがきたのは、人をその父と、娘をその母と、嫁をそのしゅうとめと仲たがいさせるためである。
36 そして家の者が、その人の敵となるであろう。
37 わたしよりも父または母を愛する者は、わたしにふさわしくない。わたしよりもむすこや娘を愛する者は、わたしにふさわしくない。
38 また自分の十字架をとってわたしに従ってこない者はわたしにふさわしくない。
39 自分の命を得ている者はそれを失い、わたしのために自分の命を失っている者は、それを得るであろう。
産経ニュース 2018.7.29 21:37更新
【オウム死刑執行】「オウムの本質見誤った」「若者たちがどうやって染まったか」検証訴え 元教祖取材の藤田庄市氏
画像;広瀬健一元死刑囚が藤田庄市氏に寄せた手記。教団にのめり込んだ経験から、現役の大学生にカルトへの注意を呼びかけた(吉沢良太撮影)
オウム真理教による一連の事件で死刑が確定した元教祖、麻原彰晃元死刑囚=執行時(63)、本名・松本智津夫=ら元幹部13人全員の刑が執行された。若者たちは、なぜ社会を震撼(しんかん)させる凶行に関わったのか。宗教の取材を続けるフォトジャーナリスト、藤田庄市氏(70)は「彼らがどうやってオウムの信仰に染まっていったのか、宗教的背景をきちんと検証するべきだ」と訴える。
あおむけになった弟子の額に親指を置き、側頭部に手のひらをあてる。ごく静かな時間が流れた。
平成3年秋、藤田氏は週刊誌の取材で静岡県富士宮市の富士山総本部道場を訪れた。麻原元死刑囚がやって見せたのは「イニシエーション(秘儀伝授)」の一種とされる「シャクティーパット」。インタビューの応答には特に卓越したものは感じなかったし、あれほどの事件を起こすようにも見えなかった。最終解脱に至った場所を問う質問には、少し言いよどんだ。
一方、麻原元死刑囚の号令の下、熱狂して立位礼拝やヨガに励む信者らの姿には、教祖の強いカリスマ性をみせつけられた。
掲載された記事は客観的な記述に徹したつもりだが、藤田氏には「オウムの本質を見誤った」という忸怩(じくじ)たる思いが残る。「私にとっては痛恨事。被害者に取材していれば取り上げていないか、違う書き方になっていた」
事件後、藤田氏は元幹部らの刑事裁判を傍聴し、広瀬健一元死刑囚=同(54)=らと面会を重ねた。
教団の初の殺人とされる元年の元信者殺害事件。人を殺したことがないはずの新実智光元死刑囚=同(54)=らは1時間ほどで犯行を遂げる。その新実元死刑囚は法廷で一連の事件は「菩薩の所業である」と表現した。そこには数々の判決が言う「口封じ」「強制捜査阻止」という理由では説明できない背景がある、と藤田氏は見る。
「グル(尊師=麻原元死刑囚)への絶対的帰依」という信仰と厳しい修行、薬物すら用いられた「神秘体験」。これらによって、「これ以上悪行を積んで地獄に落ちないようにするために殺す、という救済・慈悲殺人」という信仰が作り上げられていったという。
藤田氏は「裁判は事件の外形しか見ていない」とも話す。早川紀代秀元死刑囚=同(68)=が死刑確定直後の面会で話した言葉が今も脳裏に残る。
「事件は全て麻原の宗教的動機から起きている、と法廷で繰り返してきたが、裁判では認められなかった。また(カルト集団による犯罪が)起こりますよ」
藤田氏は言う。「無期懲役囚や元信者から話を聞き、裁判資料を精査するなどして、宗教的テロ集団がなぜ生まれたのか、調査すべきだ」
◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
-----------------------------
* 【死刑執行】命令書にサインする法相と現場刑務官の苦衷…私も胸が痛む〈来栖の独白2018.7.7〉
* 上川陽子法相、歴代最多の計16人死刑執行 2018/7/26 【63年法務省矯正局長通達】に見る行刑の苦難
-----------------
◇ 「人のために尽くしたい」と出家して2カ月で殺人者に…<教団エリートの「罪と罰」(3)>土谷正実 中川智正
◇ 「グル(麻原彰晃)の指示なら、人を殺すことも喜び」<教団エリートの「罪と罰」(2)>新実智光 早川紀代秀
◇ 超有能な彼らはなぜ麻原彰晃の元に集まったのか? <教団エリートの「罪と罰」(1)>遠藤誠一 井上嘉浩
------------
* 「麻原彰晃」はいかにして「超高学歴信者」を心服させたか(3)無力感、そこに投げかけた麻原の言葉
* 「麻原彰晃」はいかにして「超高学歴信者」を心服させたか(2)マインドコントロール術、4つのカギ
* 「麻原彰晃」はいかにして「超高学歴信者」を心服させたか(1)“ASC”でコントロール
――――――――――――――――
◇ 13名の命を奪った「地下鉄サリン事件」実行犯たちの今 「オウム死刑囚」13人の罪と罰(8)最終回
◇ “修行の天才”井上嘉浩 再審請求は“生への執着ではない” 「オウム死刑囚」13人の罪と罰(7)
◇ 麻原に“オシメを外せ”と言ってやる 遠藤誠一・土谷正実 2人の科学者 「オウム死刑囚」13人の罪と罰(6)
◇ 早川紀代秀死刑囚「量刑判断には不満です」 端本悟死刑囚--母の後悔 「オウム死刑囚」13人の罪と罰(5)
◇ 教団脱走、麻原彰晃を恐喝 「異質のオウム死刑囚」岡崎一明の欲得と打算 「オウム死刑囚」13人の罪と罰(4)
◇ 23年を経て「尊師」から「麻原」へ “側近”中川智正と新実智光 「オウム死刑囚」13人の罪と罰(3)
◇ 麻原彰晃、暴走の原点は幼少期 権力維持で求めた“仮想敵” 「オウム死刑囚」13人の罪と罰(2)「週刊新潮」2018年3月29日号
◇ 拘置所衛生夫が見た「オウム麻原彰晃」の今 「オウム死刑囚」13人の罪と罰(1) 「週刊新潮」2018年3月29日号
-----------------
◇ オウム真理教元信者 高橋克也被告 異議申し立て棄却 無期懲役判決 確定 2018/1/25付け
◇ オウム菊地直子被告の無罪確定へ 都庁爆弾事件 上告棄却(池上政幸裁判長)2017/12/25付