ウトロ放火判決 差別生む社会への警告
2022年9月5日Mon. 中日新聞 社説
外国籍の人に対する差別や憎悪が生まれがちな社会への警告といえる判決ではないか。
第二次大戦中、国策の飛行場建設に従事した在日コリアンの子孫らが多く住む京都府宇治市の「ウトロ地区」の空き家や、名古屋市の在日本大韓民国民団愛知県本部に火をつけたとして、非現住建造物等放火などの罪に問われた男に、京都地裁は求刑通り懲役四年の判決を言い渡した。
男は公判で起訴内容を認め、犯行を正当化する供述に終始した。「韓国人に敵対感情があった」「名古屋の事件では、慰安婦を象徴する像が展示された表現の不自由展を問題にしたかった」「差別や憎悪の感情を抱く人は多い」−。
これに対し、判決では厳しい言葉が続いた。動機を「特定の出自を持つ人々への偏見や嫌悪感に基づいており、誠に独善的かつ身勝手で、甚だ悪質」と指摘。さらに、「社会不安をあおって世論を喚起するなどの犯行目的は、民主主義社会で到底許容されない」と断罪した。
ウトロ地区関係者の中には「判決文に『差別』という言葉がなかった」と残念がる声もあった。しかし、元裁判官で法政大法科大学院の水野智幸教授は「地裁は、判決文中の『偏見』を『差別』と同義で使ったのではないか」とし、「動機を含めて被害者の思いを酌んだ判決と思う」と評価する。
排外的な主張を声高に唱えるヘイトスピーチの解消法が施行されて六年。差別的な言動を「許されない」と明記し、行政に対策を促す内容だが、表現の自由との兼ね合いから、罰則はない。
法の施行を受けて条例を制定した自治体のうち、東京都はこれまでに、露骨に外国人を非難したデモ十九件の内容などを公表。愛知県も来月から公表に踏み切る。川崎市は唯一罰則を持ち、差別的な言動を繰り返すと、刑事裁判を経て罰金が科される。
悪質なデモは減少傾向という。だが、ネット空間にはヘイトの言葉があふれている。法や条例でヘイト的な言説を減らすことも大事だが、差別意識が育たない社会のあり方をこそ探っていきたい。
ウトロ地区の関係者は「歴史を知り、語り合うことが理解への第一歩」と話す。何より避けるべきは、無関心だ。「動機はヘイト」を厳しく批判した今回の判決の文言を深くかみしめたい。
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です
【速報】「ウトロ地区」放火事件 男に懲役4年の実刑判決「犯行動機は在日朝鮮人への偏見で独善的」「到底許容できない」京都地裁
8/30(火) 11:05配信
在日コリアンらが多く住む京都府宇治市のウトロ地区の空き家に放火したなどの罪に問われた奈良県桜井市の無職・有本匠吾被告(23)に対し、京都地裁は懲役4年の判決を言い渡しました。
起訴状などによりますと、奈良県桜井市の無職・有本匠吾被告(23)は、去年8月に在日コリアンらが多く住む京都府宇治市伊勢田町のウトロ地区で空き家に火を放ち、家屋など7棟を全焼させた非現住建造物等放火などの罪に問われていました。この事件でウトロ地区に関する史料約50点が焼失しました。
また去年7月に、有本被告は名古屋市の韓国民団や名古屋韓国学校にも放火した罪に問われていました。
これまでの裁判で有本被告は起訴内容を認め、「平和祈念館の展示品を燃やすことで開館を阻止し、過去のウトロ地区の歴史問題を世に知ってもらいたかった」などと述べていました。
検察側は「一方的な嫌悪感から放火し身勝手極まりない」などとして懲役4年を求刑していました。
有本被告は裁判で「日本に在住している、していないにかかわらず、韓国人に敵対感情があった」、「ウトロ地区を不法占拠している」などとウトロ地区への差別的な動機があったことを明らかにしていて、差別や偏見に基づくいわゆる『ヘイトクライム』について裁判所が量刑でどのように考慮・言及するかが注目されていました。
8月30日に開かれた判決で京都地裁は、「犯行動機は在日韓国人、朝鮮人という特定の出自に対する偏見に基づくもので、誠に独善的」、「不安をあおって世論を喚起するという動機は民主主義社会で到底許容できない」として、求刑通り有本被告に懲役4年の判決を言い渡しました。
裁判に対してウトロ地区の住民側はこれまでの会見で「明確に韓国そして朝鮮半島にルーツを持つ人たちをターゲットにしてきわめて計画的に行われた重大犯罪であると。政治的なものではなくて明らかに差別の問題」と話していました。
最終更新:MBSニュース
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