暮れ果つる秋の形見にしばし見むもみぢ散らすな木枯らしの風 西行

2020-11-17 | 文化 思索

 

暮れ果つる秋の形見にしばし見むもみぢ散らすな木枯らしの風  西行

今週のことば
 中日新聞 2020.11.17 火曜日 朝刊
   松本 章男

 節気の「立冬」は11月7日か8日。掲示歌は立冬の前日に詠まれている。紅葉は往日、現在のように初冬ではなく、まさしく秋の景物であった。
 「暮れ果つる秋」が起句。その秋を承(う)ける「形見にしばし見む」を承句とみよう。おもむきを転じて「もみぢ散らすな」が転句。そして結句に「木枯らしの風」。漢詩の起承転結を地で行くような味わいを覚える。
 《時雨かと寝覚めの床に聞こゆるは嵐に耐へぬ木の葉なりけり》
 こちらも「曉落葉」と題された西行歌。「耐へぬ」を「絶えぬ」とする板本(はんぽん)もある。今日このごろの詠であろう。
 時雨かと目覚めたばかりの寝所に聞こえてきたのは、強風に耐えられず、絶え間なく散る木の葉の音だった。歌意は言っている。
 わが家ではすでにハナミズキが散り果てるところ。火襷(ひだすき)をみるような落葉を掃き寄せながら、この2首を思い起こした。(随筆家)

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)


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