大量殺人犯は犯行を肯定しながら自ら死を選び、1人とはいえ人を殺した人物が今も一般生活を送る 殺人犯と死刑制度の問題

2020-05-28 | 死刑/重刑/生命犯

川崎20人殺傷から1年、殺人犯と死刑制度の問題
2020/5/28(木) 8:10配信

 神奈川県川崎市の登戸駅近くの路上で、私立カリタス小学校の児童がスクールバス待ちの列を作っていたところへ、突然、2本の柳刃包丁を持った男(当時51歳)が襲いかかった事件から、5月28日で1年になる。見送りにきていた保護者の男性と女子児童の2人が死亡、18人が負傷し、男はその場で自ら首を刺して命を絶った。のちに男は長年のひきこもり状態だったことが明らかになっている。

 この事件は、その直後にもうひとつの事件を呼ぶ。
 元農林水産省事務次官の熊沢英昭(77歳)が練馬区の自宅で息子(当時44歳)を刺殺したのは、4日後の6月1日のことだった。こちらの息子もひきこもりの生活が長く、しかも家庭内暴力に悩まされていた。
 事件の数時間前には、自宅に隣接する小学校で運動会があり、「うるさい。ぶっ殺すぞ」と息子が言いだしたことから、カリタス小学校の事件を思い浮かべ、子どもに危害を加えるかもしれないと思ったことから殺害を決意した、と取り調べで供述している。
 こちらの事件は、昨年12月16日に東京地方裁判所の裁判員裁判で懲役6年の実刑判決が言い渡された。ところが、その4日後に保釈されている。息子とはいえ、人を1人殺した殺人罪で実刑判決が下りながら保釈され、控訴審を待ついまは普通の生活が送れるという異例の展開を見せている。

■殺人犯への判決から考えさせられること
 さらに昨年7月の「京都アニメーション」への放火で36人が死亡、33人が重軽傷を負った事件で、青葉真司容疑者が5月27日に逮捕された。10カ月以上、治療が続けられていたが、今後、放火や殺人の容疑で本格的な取り調べが始まることになる。

 大量殺傷事件でいえば、コロナ禍で多くの人の記憶から遠のいてしまったが、神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年7月に、入所者ら45人が死傷した事件の植松聖(30歳)の死刑が確定してから、2カ月になる。  横浜地方裁判所は3月16日、求刑通り死刑を言い渡した。その後、27日に植松の弁護側が控訴したが、30日に植松本人が控訴を取り上げ、31日に確定した。
 本来ならば、現在でも上級審で裁判が続いていてもおかしくはなかったが、本人がこれを拒んだことになる。言い換えれば、19人の命を奪って自ら望んだ死刑。裁判でも多くを語らず、どこか登戸の事件の顛末と重なる。

 元農水事務次官の事件は、今後行われる予定の1審判決を不服とした控訴審で、執行猶予がつく可能性が高い。そうでなければ、裁判所が保釈を認めるはずもないからだ。
 そこに浮かぶ奇妙な違和感。大量殺人犯は犯行を肯定しながら自ら死を選び、1人とはいえ人を殺した人物がいまも一般生活を送る。この2つの事件と裁判を結ぶ違和感の正体を、過去の裁判事例から紐解いてみたい。

 千葉県松戸市で、ベトナム国籍の女児が猥褻目的で誘拐、殺害される事件が発生したのは、3年前のことだった。ベトナム人の父親が日本語で「リンちゃん」と娘の名を呼ぶ姿は広く報じられて同情を誘ったことは、印象に残る。
 事件は2017年3月24日、松戸市の小学校に通うベトナム国籍の3年生女児(当時9歳)が行方不明となり、翌々日に排水路脇の草むらで絞殺体となって発見された。
 同年4月14日に被害児童が通っていた小学校の保護者会の元会長で、通学の見回りボランティアに参加していた渋谷恭正が逮捕。殺人、死体遺棄で起訴されるが、裁判では起訴事実を否認して、無罪を主張していた。検察は死刑を求刑している。
 この裁判で特筆すべきことは、判決までに極刑を望む約117万人の署名が集まったことだ。罪質が悪質であることは言うまでもないが、同情としても、それだけの民意が集まることは珍しい。
 ところが、18年7月に3人の裁判官と6人の裁判員が下した裁判員裁判の判決は、無期懲役だった。検察、弁護側、双方がこれを不服として控訴。現在も裁判が続いている。

■死刑を不服として控訴し、無期懲役になる事例も
 実は、2009年に裁判員制度が導入されてから、殺された被害者が1人でも死刑判決が言い渡されたケースが4件ある。それまでの刑事司法では、まずなかったことだ。しかし、それも裁判員制度導入の趣旨でもあった市民感覚が反映されて、厳罰化が進んだものだと理解していた。
 このうち3件で死刑を不服として控訴したところ、減刑されて無期懲役に変わり、そのまま確定している。
 うち2件は殺人などの前科があったにもかかわらず、減刑された。もう1件は、「リンちゃん」のケースと同じで、2014年に神戸で当時6歳の女の子をアパートに誘い込み、ロープで首を絞めたうえ、包丁で後頭部を刺して殺害。遺体を解体してコンビニ袋に入れて、近くの雑木林に捨てた事件だった。裁判員は死刑判決を下したものの、職業裁判官のみで裁く控訴審で取り消され、無期懲役となっている。
 残る1件は、強盗殺人、強盗強姦などの罪に問われた住田紘一死刑囚のケース。2011年9月30日、岡山県で当時27歳の派遣社員だった元同僚の女性に性的暴行を加えて刺殺。財布を盗み、遺体を大阪市に運んで刃物で解体し、川などに遺棄した。前科は無かったものの、2013年2月に裁判員裁判で死刑判決。2017年7月に執行されている。
 実はこの裁判も、一旦は控訴したものの、植松死刑囚と同じように、被告人本人が控訴を取り下げてしまっている。こちらの事件でも、控訴審が開かれていれば、死刑は回避された可能性は高い。

■裁判員制度の問題点
 ここにおいて、死刑は平等といえるのだろうか。松戸の「リンちゃん」の事件で、117万人の署名が集まりながら、死刑でなかったとなると、裁判員制度の本来の目的と機能が果たされているのだろうか。検察が死刑を求刑しても、被害者が1人だとはじめから回避される裁判員裁判が常態化している。
 そうかと思えば、1人も殺していないのに死刑になったケースもある。
 いまから25年前の1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件で、丸ノ内線にサリンを撒いた横山真人は、自分の担当路線で死者を1人も出していない。犠牲者は0人だった。
 しかし、同事件は朝8時すぎに東京の地下鉄の5路線で一斉にサリンを撒く、同時多発テロだった。それで乗客や駅職員の12人が死亡している。横山は共謀共同正犯として、死亡した12人全員の責任を背負って死刑になった。
 ところが、同じ事件で千代田線にサリンを撒き、駅職員2人を殺した林郁夫は無期懲役だった。
 事件の2日後、オウム真理教の教団施設に一斉家宅捜索が入り、指名手配犯と一緒に逃亡していた林は、他人の自転車を乗っていたところを”自転車泥棒”で捕まる。そこで取り調べを受けていたところで、地下鉄サリン事件の実行犯であることを自白。これが事件の全容解明と教祖の逮捕につながったことから、「自首」が認められて死刑の回避となった。求刑から無期懲役だった。
 つまりは、林の担当路線で死んだ2人の責任を、自分の担当路線で1人も死んでいない横山が背負って死刑になったことになる。横山は2018年7月に教祖をはじめ13人に死刑が執行されたうちの1人だった。
 1年前の登戸の事件の直後には、どうせ死ぬのなら独りで死ね、という声がSNSなどにあがった。それに対して、独りで死ねということも命の尊厳を無視している、という批判もあった。
 ならばこそ、死刑の適用は厳格であるべきはずである。まして、1人を殺しても罰せられないことがあっていいはずもあるまい。
 植松死刑囚においては、本当に自分が正しかったのか、公の場で事件を再考する機会が失われたことは、残念でならない。
 青葉容疑者については、全身の9割の火傷から一命を取り留めている。精神科への通院歴も報じられる一方で、すでに容疑を認めている。どうしてこのような事件を起こしたのか、公判で自らしっかりと語り、公正な裁きを願うばかりだ。
 青沼 陽一郎 :作家・ジャーナリスト

 最終更新:5/28(木) 8:10 東洋経済オンライン

 ◎上記事は[Yahoo!JAPAN ニュース]からの転載・引用です


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