<命の償い 第5部 米、死刑と政治>(下)「ただちに処刑室を解体せよ」バイデン大統領への批判

2023-08-01 | 死刑/重刑(国際)

「ただちに処刑室を解体せよ」バイデン大統領への批判 <命の償い第5部 米、死刑と政治>(下)
 2023年7月31日  中日新聞
 「バイデンは、ただちに処刑室を解体せよ」。米ワシントンで七月に行われた死刑反対派の集会では、大統領就任から二年半となった民主党のバイデン(80)に、死刑廃止を強く求めるプラカードが掲げられた。
 バイデンは二〇二〇年の大統領選で「死刑は常に正しく運用できるわけではない」として、連邦レベルでの死刑廃止の取り組みを公約に掲げた。かつては「犯罪と戦うための有効な手段だ」と述べるなど死刑肯定派だったが、犯罪抑止効果が小さいことや冤罪(えんざい)などの問題点が実証されるにつれ、姿勢を転換。就任後は、処刑を強行した前大統領トランプ(77)の方針を覆し、連邦政府による死刑執行を停止した。民主党も綱領で死刑廃止をうたう。
 だが、集会に参加したチャック・クルへイン(78)は「バイデンにはがっかりしている」と切り捨てた。
 連邦死刑の廃止に必要となる議会での法案可決などは、昨年の中間選挙で死刑支持の共和党に下院の多数を奪われた現状では困難になった。さらにバイデンは、大統領権限で可能な恩赦による連邦死刑囚の減刑を実施していない。連邦死刑を停止したにもかかわらず、13年のボストン・マラソン爆破テロや17年にニューヨークで起きた車突入テロの裁判では、被告への死刑求刑を維持した。
 クルへインには、冤罪を訴えた警官襲撃に絡む罪などで一時的に死刑囚となり、減刑された過去がある。生死を左右する極刑の重さを誰よりも知るだけに「選挙で有権者を喜ばせることしか考えていない」と、ぶれるバイデンを責める。
 死刑の存廃に中立的立場をとるNPOの死刑情報センター事務局長のリチャード・ディーターも「バイデンは就任後、死刑について話さなくなり、廃止への指導力を発揮していない」と指摘する。
 ギャラップ社の昨年の世論調査によると、殺人犯を対象とした死刑制度に賛成したのは55%。共和党支持層で77%と圧倒的多数でであるのはもちろん、死刑廃止を唱える民主党の支持層でも35%と無視できない。
 ディーターは「多くの人々は死刑についてあいまいな立場だ」と述べ、凶悪事件の発生などで世論が変わりやすいとも指摘する。来年11月の再選を目指すバイデンは、トランプら共和党候補者から「犯罪に弱腰」との攻撃を受け、死刑ハ廃止への強い姿勢を示せない状況だ。「死刑は政治問題。バイデンが死刑囚の減刑を実施するとしても、反発を恐れて退任間際になるだろう」とディーター。
 ワシントンの集会では、冤罪や人種間の不平等、執行人らが負う心の傷など、死刑制度への賛否を超えた問題点んも議論された。
 それをよそに、有権者受けを狙って死刑推進を訴えるトランプらと、動けぬバイデン。半世紀で千五百人以上を処刑してきた米国の死刑制度は、なお課題を抱えながら、政治のはざまで漂流している。(ワシントンで、杉藤貴裕、写真も)

 ◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用、及び書き写し(=来栖)

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* <命の償い 第5部 米、死刑と政治>(上)大衆あおる政争の具 2023/7/30


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