まだねむり解かぬ葉の上に淡紅の房立てて合歓の花のやさしさ 2020.06.30

2020-06-30 | 文化 思索

 まだねむり解かぬ葉の上に淡紅(うすべに)の房立てて合歓(ねむ)の花のやさしさ   若山喜志子

今週のことば
 中日新聞 2020.06.30 火曜日 朝刊
 松本章男

 ネムの花は、細い糸をたばねて先端を散らした、組紐の房を思わせる。梅雨のさなかが花どきだ。喜志子は若山牧水の妻。この花に出会ったのは、朝早くだったか、雨上がりだったのだろうか。
 葉は披針形の小葉多数からなる羽状複葉。日が暮れると小葉を閉じて就眠運動をするが、雨にも葉を閉じる。特筆したいのは長雨がつづくと葉身に溜まる雨滴の重みで枝も撓(たわ)むこと。私は樹冠が地にふれるほど幹まで反り返らせた木を前に、過去に何回も里山の林道などで立ち往生をした。私を通せん坊したそのネムたちは、どれも花をつけていた。
 《象潟(きさがた)や雨に西施(せいし)が合歓の花》
 芭蕉の名句である。秋田の象潟で芭蕉はこの花に傾国の美女(西施)の愁眉を見た。嫋嫋と横たわる女性のように、俳聖の前にネムの木は樹冠を撓ませていたのであろう。雨空を見あげていると、私の出会った西施たちも、瞼の奥によみがえってくる。 (随筆家)

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖) ※披(ひ)…「開く」の意。

   合歓の花


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