記者の目:裁判員裁判の死刑判決=五十嵐朋子(岡山支局)
毎日新聞 2013年03月27日 01時55分
◇問われる法曹三者の役割
岡山地裁は先月、元同僚の女性を殺害したとして強盗殺人、強盗強姦(ごうかん)などの罪に問われた大阪市住吉区の無職、住田紘一被告(30)に死刑判決を言い渡した。だが、裁判員裁判で行われた審理で、被告の更生可能性が十分に検討されたのか、疑問が残った。判決文は簡潔すぎて死刑を選んだ理由を説明し尽くせていない。被告に内省を促し、裁判員裁判を定着させるためにも、裁判官、検察官、弁護士の「法曹三者」と呼ばれるプロの法律家の役割が、より重要だと主張したい。
◇厳しい判断だが説明が不十分
裁判員裁判の死刑判決は16件目。被害者1人の事件では3件目だが、前科のない被告では初めて。死刑判決の判断基準「永山基準」(83年最高裁)では被害者の人数が重視されており、これまでの死刑判決と比較しても厳しい判断だったといえる。
言い渡しはわずか10分間ほどだった。判決は「深まりに乏しい反省態度や凶悪で非情な犯行計画を実行できたことからして、犯罪的傾向を有することも否定できない」として、「更生可能性は高いとはいえない」と結論づけた。私は発生直後から、この事件を取材し、人間の尊厳を踏みにじる犯行は許せないと考えてきた。しかし判決には、年齢や社会的な影響を「酌量すべき事情ではない」と判断した理由など、説明不足な点が多いと感じた。
判決によると、住田被告は11年9月、岡山市内の元勤務先の会社敷地内で、派遣社員の加藤みささん(当時27歳)を倉庫に誘い込み、現金を奪って性的暴行を加えて刺殺。遺体を大阪市に運んで刃物で解体し、川などに遺棄した。
被告は起訴内容を認め、動機について「別の女性との交際に満足できず、欲求不満を解消したかった」と話した。殺人罪で起訴された後、事件発生から半年後の昨年3月になって、検察官に「真相を話していない」と手紙を送り、性的暴行を告白したことから、強盗殺人と強盗強姦の罪に訴因変更された。
法廷で被告の発言内容は揺れた。当初「殺人は手段として是認される」と述べたが、被告の両親が「本当は優しい子」と証言すると態度を一変。「死刑になるために自分を悪く見せようとした」と涙を流し、遺族に「ごめんなさい」と頭を下げた。検察側の論告後、被告は「両親を残して命を絶てない」とも述べた。
◇被告の態度変化に振り回されて
被害者参加制度を利用して法廷に臨んだ加藤さんの父裕司さん(60)は「私たちを何回苦しめるのか」と疑問を投げかけた。裕司さんは最愛の娘を奪われた無念さを語り、「最低でも死刑に」と訴えた。しかし死刑判決後の記者会見で「達成感はない」と話した。二転三転した被告の態度に、40代の男性裁判員は「真相に迫れたかどうか疑問だ」と話し、別の裁判員は「難しい判断だった」と述べた。法廷に立ち会った法律専門家は「みんな被告に振り回された」と分析した。
事前に争点を整理する公判前整理手続きでは、法曹三者は「事実関係に争いはない」と一致した。強盗殺人の法定刑は死刑か無期懲役なので争点は、死刑の選択が妥当かどうかに絞られた。しかし、裁判員に十分な判断材料が提供されたのかどうか疑問だ。特に専門家である法曹三者の取り組みが不十分だったのではないか。
岡山大法科大学院の上田信太郎教授(刑事訴訟法)は「法律の素人である市民が参加する裁判員裁判では、逆に法律の専門家の力量が試される」と指摘する。しかし、公判では、被告の生い立ちにも、2度実施されたという精神鑑定にもほとんど触れられなかった。事件に至る被告の精神状態など、事件の核心部分には未解明の点が少なくない。被告が検察官に手紙を送って告白した経過の評価や、更生に向けた両親の協力など検察側と弁護側で対立した主張を争点化して、緻密な議論を重ねる余地はかなりあった。
被告はなぜ、遺体を切り刻んで捨てるという残忍な行為に及んだのか。被告の内面に迫り、真相を解明するには、弁護側、検察側双方が立証を積み重ねて「なぜ」を突き詰めていくプロセスが欠かせない。被告に一つ一つ問い続けることで「心の底からの謝罪を」と求める遺族の願いにも応えられるはずだ。
国際的に死刑撤廃の動きが広がる中、私は死刑の適用は慎重であるべきだと考えている。弁護側の控訴を受けた控訴審では、更生可能性の有無をはじめ、疑念を挟む余地がないくらい判断の理由に踏み込んで、被告にその刑事責任を問いかけてほしい。
*リンクは、来栖
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女性強殺、元同僚に死刑 岡山地裁「被害者1人でも重大」
日本経済新聞 2013/2/14付
岡山市で2011年9月、派遣社員の加藤みささん(当時27)を殺害したとして、強盗殺人や強盗強姦、死体損壊・遺棄などの罪に問われた元同僚の大阪市住吉区、無職、住田紘一被告(30)の裁判員裁判の判決で、岡山地裁は14日、求刑通り死刑を言い渡した。弁護側は即日控訴した。
森岡孝介裁判長は判決理由で「被害者が1人であっても、性的被害を伴っており、結果は重大だ」と指摘した。
裁判員裁判の死刑判決は16人目で、1人殺害のケースでは3人目。被告には前科がなく、1人殺害でかつ初犯の場合では初とみられる。
森岡裁判長は「性的欲求不満を解消するためという動機は極めて自己中心的で、犯行は残虐。公判途中での謝罪は被害者の心情を思ってのものとは認めがたい。更生の可能性は高くない」と述べた。前科がない点は「被告の犯罪的傾向は否定できず、考慮するのは相当でない」と判断した。
住田被告は公判で起訴内容を認める一方、当初「被害者がかわいそうとは思わない」と供述。7日の被告人質問で一転して涙を流しながら遺族に謝罪した。弁護側は「反省している」と死刑回避を求めていた。
判決によると、11年9月30日、岡山市の勤務先の倉庫で、加藤さんから現金約2万4千円やバッグなどを奪い、性的暴行を加えてナイフで殺害。遺体を切断し大阪市内に遺棄した。
裁判員を務めた40代の男性は閉廷後、最高裁が1983年に示した死刑適用基準「永山基準」を参考にしたと述べる一方、「私たち一般市民が今の時代の流れに沿った意見を判決に入れてもいいのではないかと思った」と振り返った。
加藤さんの父、裕司さん(60)は「死刑を受け入れ本当の意味の反省をしてほしい」と語った。〔共同〕
◎上記事は[日本経済新聞]からの転載・引用です
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岡山女性強盗殺人:住田被告の死刑確定へ 控訴取り下げ
毎日新聞 2013年03月29日 13時39分(最終更新 03月29日 13時54分)
岡山市で11年9月、元同僚の女性を殺害したとして、強盗殺人、強盗強姦(ごうかん)などの罪で今年2月14日に岡山地裁で死刑判決を受けた大阪市住吉区、無職、住田紘一被告(30)が控訴を取り下げたことが分かった。住田被告の死刑が確定する。
死刑判決を受け、住田被告の弁護側は即日控訴していた。弁護士によると、住田被告は28日、勾留中の岡山刑務所で、所長宛てに書面で取り下げを申し出たという。【五十嵐朋子】
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元同僚女性殺害で死刑確定=被告の男、控訴取り下げ-岡山
岡山市で2011年、派遣社員加藤みささん=当時(27)=が殺害された事件で、強盗殺人や死体損壊、遺棄などの罪に問われ、一審岡山地裁の裁判員裁判で死刑とされた元同僚の無職住田紘一被告(30)が29日までに、控訴を取り下げた。取り下げは28日付で、これで死刑が確定した。
殺害された被害者が1人の事件の裁判員裁判で死刑とされ、確定したのは初めてとみられる。
被告の弁護人は「28日も接見し、控訴審で謝罪の意思を伝えるよう勧めたが、本人の意向でこうした結果となった」との声明を出した。
加藤さんの母親は「一つの区切りが付いた気がする。住田(被告)にも、人間の血が少しは通っていたのだと思う」とコメントした。(時事通信2013/03/29-18:27)
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岡山の女性強殺、被告の死刑確定 控訴取り下げ
日本経済新聞 2013/3/30付
岡山市で2011年に派遣社員の加藤みささん(当時27)を殺害したとして、強盗殺人や死体損壊・遺棄などの罪に問われ、2月の岡山地裁の裁判員裁判判決で死刑を言い渡された元同僚の無職、住田紘一被告(30)が控訴を取り下げたことが29日、分かった。死刑が確定した。弁護人が明らかにした。
一審判決は2月14日に言い渡され、弁護人が即日控訴していたが、今月28日夜に住田被告が岡山刑務所長に控訴取り下げを申し立てる書面を提出し、受理された。
住田被告は29日、弁護人を通じて「被害者の命を奪ってしまったのに自分は生きているという罪悪感があります」などと気持ちを記した文書を公表した。
地裁判決によると、11年9月30日、岡山市の勤務先の倉庫で、加藤さんから現金約2万4千円やバッグなどを奪い、性的暴行を加えてナイフで殺害。遺体を切断し大阪市内に遺棄した。〔共同〕
◎上記事は[日本経済新聞]からの転載・引用です *強調(太字)は来栖
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◇ 加藤みささんに対する強盗殺人・強姦・死体損壊・遺棄…住田紘一被告に死刑判決 2013/2/14 岡山地裁
女性の遺体の一部が遺棄された大和川の捜索を行う岡山県警=平成23年10月、大阪市住之江区(本社ヘリから)
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◇ 死刑執行[2017/7/13]の住田紘一死刑囚「自分は生きているという罪悪感があります」 / 「娘は生き返らず喜びなどない」被害女性の父