製造業の生命線「レアメタル」を確保せよ―資金力の中国vs技術力の日本

2010-05-08 | 社会
追跡!AtoZ ~いま一番知りたいテーマを追う!超リアルドキュメント
【第41回】2010年5月7日NHK「追跡!AtoZ」取材班
日本経済の牽引役「エコカー」が作れなくなる?! 製造業の生命線「レアメタル」を確保せよ――資金力の中国vs技術力の日本 過熱する資源争奪戦DIAMOND online
 ハイブリッドカーや電気自動車、そして太陽光発電・・・、今後の日本経済を牽引すると期待されているこれらの製品に欠かせない資源がある。ニッケルやプラチナ、レアアースなど「産業のビタミン」と言われるレアメタル(希少金属)だ。
 資源高が進む中で、国を挙げての争奪戦が始まっている。
 しかしいま、資源高が進む中で、エコカーに必要なレアアースの価格は急上昇。さらに、国をあげて世界中で資源確保に動いている中国を相手に、日本は権益の獲得で厳しい戦いを強いられており、産業界の危機感が高まっている。
 日本経済のカギを握るレアメタル確保の最前線で何が起きているのか、そして日本はどんな戦略をとるべきなのか。
ボツワナで起きたレアメタル争奪戦
 アフリカ南部、人口200万足らずのボツワナ。世界有数のダイヤモンドの生産国として知られるこの国に、いま世界各国が、レアメタルを掘り当てようと殺到している。狙うのは、リチウムイオン電池に欠かせない、ニッケル。
 4月上旬、私たちが訪れた国内最大のBCL鉱山では、地下700メートルまで降りてニッケル鉱石を掘り出していた。通常、ひとつの鉱石に含まれるニッケルは、全体の1%前後とごくわずかだが、光る部分には微量のコバルトも入っているという。現場の作業員は、「ここは宝の山だ」と話す。
 この鉱山の近くで、日本はいま、独自にニッケルを掘り当てようと、初めてのボーリング調査を行なっている。経済産業省所管のJOGMEC「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」とオーストラリアの企業との共同調査だ。
 最大で地下600メートルまで掘り下げ、レアメタルの鉱脈を探し当てようとしている。私たちが訪れたときには、地下210メートル地点の岩石が掘り出されていた。それは様々な成分が含まれた、まだら模様の石の柱だった。
 レアメタルは、まばらに、しかもごくわずかにしか存在しないため、掘り当てるのが非常に困難だ。さらに、取り出すには特殊な技術が必要で、費用と手間がかかる。JOGMECの鈴木哲夫さんは、「レアメタルの探査には時間がかかる。3年、4年、5年、そういったスパンで、われわれは計画をたてていきたい」と話している。
国を挙げて資源獲得に取り組む中国
 日本の前に大きく立ちはだかるのが中国だ。レアメタル大国でありながら海外での獲得に乗り出し、ここボツワナでも急速に存在感を高めている。その戦略を探るため、私たちはボツワナの政府機関を訪ねた。
 担当者が取り出してきたのは、それぞれの企業がどこで探査権を得たのかを示す地図。それによると、アメリカやイギリスなどの企業に混じって、最も目立った動きを見せていたのは、中国企業だった。94件もの探査権をわずか2年で獲得していた。ボツワナ地質調査局のヨハネス・ティマコ専門官は、「ボツワナで活動している中国企業は、中国大使館と密接に連絡を取り合っている。鉱物資源に関心のある企業は、中国政府から融資の支援を受けられる仕組みを利用しているようだ」と話す。中国政府のバックアップぶりがうかがえた。
 その中国企業の1つ、CGCボツワナ社。中国黒竜江省に本社がある、国有企業だ。国内で急増する需要を満たすため、ボツワナで探査活動をしている。宗光瓊(そう・こうけい)支社長は、「銅やニッケルが中心だが、他の鉱物資源も狙っている。ボツワナは資源が豊富で、開発の潜在力がとても大きいところだ」と活動の狙いを説明する。
 レアメタル獲得のために、中国は着々と手を打っている。その1つが、ボツワナの発展に欠かせないインフラ整備だ。街の至る所で、中国企業が空港や発電所などの建設を担っている。火力発電所の建設現場では、40人以上の中国人が働いていた。
 現在、ボツワナで暮らす中国人は2万人にまで増えている。ボツワナ鉱業省のホカトゥウェング・ハバーケ次官は、「中国による建設ラッシュは、ボツワナの経済に、とても大きく貢献している。それは、われわれも認めなければなりません」と、中国の存在感を説明した。
技術力で挽回を狙う日本
 こうした中国の戦略に危機感を抱いているのが、2年前に赴任した松山良一大使。レアメタルを獲得しようと、自ら先頭に立って政府とのネットワークを築こうとしている。しかし、機会があるごとに大臣などとの会談を重ねているが、自分1人の取り組みだけでは限界があると感じている。
 2月下旬に一時帰国した松山大使は、トヨタ自動車の張富士夫会長と面会。次世代自動車の生命線ともいえるレアメタルを、是非獲得して欲しいと、強い要望を受けた。松山大使は、「中国は、完全に日本と手法が違っていて、まずは資源があると思えば、そこのインフラを中国の借款でつくってしまい、食い込もうとする。とにかく、物量作戦がすごい。焦りは当然ある」と話す。中国の圧倒的な存在感を前に、いかにして突破口を見いだすか、模索が続いている。
 遅れをとった日本は、持ち前の技術力で挽回しようとしている。おととし、JOGMECはレアメタルを探査するための施設「ボツワナ・地質リモートセンシングセンター」を開設。人工衛星を使って地形や地質などを詳しく分析し、レアメタルの鉱脈がどこにあるかを探っている。さらに、この施設を地元の技術者たちに開放。最先端の技術と引き換えにレアメタルの獲得を目指している。鈴木哲夫所長は、「地元の人たちのレベルも上げることによって、一緒に探すことができるのではないかと期待している。中国には中国のやり方があるのは知っているが、日本は日本のやり方で鉱物資源を獲得していく」と話す。
 圧倒的な資金力を持つ中国に対抗し、技術力で挑む日本。ハイテク産業の将来を左右するレアメタルの獲得競争はさらに熱を帯びそうだ。(文:番組取材班 山下武朗)
取材を振り返って
【鎌田靖のキャスター日記】
 液晶テレビや携帯電話、そして次世代自動車。それらに欠かせないのがレアメタルです。今回は日本の製造業の“生命線”ともいえるこの貴重な資源を取り上げました。
 レアメタル、希少金属とも言います。希少なのは量が少ないからだけではありません。産出する場所が中国、アフリカ、南米などに限られていること。鉱石に含まれる量が極めて少ないので抽出に高い技術とコストが必要なこと。こうしたいろんな理由から“希少”金属と呼ばれるのです。
 このレアメタル、以前は商社が中心になって確保を目指していました。しかし、そこに登場したのが中国です。自国のレアメタルには輸出制限をかける一方で、各国の資源開発に国を挙げて乗り出してきました。つまり、これまでのやり方ではレアメタルが確保できなくなったのです。レアメタルが確保できなくなると、初めに紹介した製品を作ることさえできなくなります。ではどうすればいいのか。
 今回のゲストは経済産業大臣政務官の高橋千秋さんとレアメタルに詳しい東京財団研究員の平沼光さん。共通していたのは、「企業だけに任せるのではなく、国も積極的に乗り出して長期的な戦略を掲げなければならない」ということでした。
 資源獲得をめぐって国が激しく対立し、戦争を引き起こしたという苦い歴史がかってありました。もちろんそうなるわけにはいきませんが、新興国の台頭で世界経済の秩序が大きく変わる中(パラダイムシフトという言葉、最近よく耳にします)、日本経済は果たして生き残ることができるのか、レアメタルの争奪戦の行方は、その試金石にもなるのです。
※この記事は、NHKで放送中のドキュメンタリー番組『追跡!AtoZ』第42回(5月8日放送)の内容を、ウェブ向けに再構成したものです。

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