『老いてこそ生き甲斐』石原慎太郎著 2020.5.17

2020-05-17 | 政治/石原慎太郎

読む人】 中日新聞 2020(令和2)年 5月17日 日曜日 19面

老いてこそ生き甲斐』石原慎太郎著(幻冬舎・1540円)

  

衰えと対峙する魂の輝き

 評 小松成美(作家)

 私の人生に最も影響を与えた一冊に石原慎太郎の『太陽の季節』がある。昭和31年出版の短編小説を18歳の頃に読むと、主人公の道徳の対極にある破廉恥な行いの数々、その躍動に、平凡な女子高生だった私の心は揺さぶられた。
 人気小説家であり、国民的スター・石原裕次郎の兄であったその人は、昭和から平成の時代に国会議員、東京都知事と政(まつりごと)に身を投じた。(略)本書に触れ、今まさに「才能は文章にこそ宿る」という気持ちを新たにしている。
 齢を重ね綴られた今作は、私にとっては予言書のようにも読めるのだ。老いるとは何か。死とはどんな瞬間なのか。著書は、その事と向き合い、揺れる心を語りかけるような軟らかな文章で記していく。80歳を超えた肉体がどのように痛み、病んで、またその魂が肉体の衰えとどのように対峙し、抗い、けれど近づく死をどのように肯定するのか。読者は、著者の魂の道程を鮮やかに追体験することができる。
 亡き人への思慕、自らの生と死への超然とした意志、そうした記憶を手繰り寄せながら明かされる過去は昭和という時代を呼び起こす。肝臓癌の痛みに苛まれた弟への同情と臨終への恐れ、市ヶ谷駐屯地で自決した三島由紀夫の晩年の姿、盟友・江藤淳の自死を回避できなかったことへの後悔、智の巨人であった渡部昇一への尊敬、老いた妻へ親愛、孫たちへの温かなまなざしなど、その回想は彼の人生の叙事詩だとも言える。
 「老いるということは経験の蓄積です」「人生での経験は無差別無尽に他の人々に分かち役立てることが出来ます」と語る著者。溢れ出す思い出と蘇る感傷、大きな病に見舞われた自分への鼓舞は痛々しくもあり、そこに連なる言葉には「黄昏」を感じる。けれど暗くはない。岬に立って漆黒の闇を照らす古い灯台の光のようでもある。
............
〈来栖の独白 2020.5.17 Sun〉
 様々な石原慎太郎評を読むたびに、「人生は、こういう風にも生きられるものなのか」と圧倒される。無論、その人その人の持って生まれた能力によるだろうが。ところで、ここでもまた、幻冬舎か。
 * 少年Aの手記の仕掛人は幻冬舎・見城徹社長 自社では出さず太田出版に押し付け excite ニュース2015.6.17


「国家のためには、誰かがやらなければならないことなんだ。国民は私を支持してくれるだろうか」知事辞職
-----------
*  石原慎太郎著『新・堕落論』 新潮選書 2011/7/20発行

  
-------------
中3に英語テスト 19年度実施 「祖国とは国語だ」シオラン 「無機的な、からっぽな、経済大国」三島由紀夫
【「戦後日本」を診る 思想家の言葉】 三島由紀夫=「からっぽ」な時代での孤独
三島由紀夫が東京・市ケ谷の自衛隊に乱入、自決して43年 / 三島の生涯を描いた猪瀬直樹著『ペルソナ』 


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。