望んだ「極刑」に揺れる心「奈良女児誘拐殺人」小林薫死刑囚 中日新聞 特報 2008/4/16

2015-11-16 | 死刑/重刑/生命犯

望んだ「極刑」に揺れる心「奈良女児誘拐殺人」 死刑 存廃を問う前に
 中日新聞 特報 2008/4/16 
 「死刑になりたい」--。殺人などの凶悪な罪を犯して、そう口にする犯罪者がいる。2004年に奈良市で学校帰りの小学1年女児=当時(7つ)=を誘拐、殺害した小林薫死刑囚(39)もその一人だ。その言葉の裏に何があるのか。罪を認めて“志願”する者を死刑にするのには、何の矛盾もないのだろうか。小林死刑囚とかかわった二人に、問いをぶつけた。(岩岡千景)

 「主文は最後に朗読します」。06年9月26日。奈良地裁で開かれた、小林薫被告の判決公判。開廷して間もなく、奥田哲也裁判長がそう口にすると、法廷に緊張が走り、記者たちが慌しく外に出た。
 死刑判決が出る場合、慣行として主文は最後に読み上げられる。裁判長の言葉はすなわち、死刑判決を意味したからだ。裁判長は、1時間半近く量刑の理由などを述べた後、「生命をもって償わせるほかない」と、死刑を言い渡した。
  被告は04年11月17日、奈良市内で帰宅中の女児を車で誘拐、自室の浴槽で水死させた。さらに遺体を傷つけ、写真を撮って女児の携帯から母親に「娘はもらった」の文面とともに送付。翌日、遺体を奈良県平群町の側溝に捨てて、翌月に「次は妹だ」というメールを親に送り付けもした。
  わいせつ目的誘拐、殺人などの8つの罪に問われた被告は、公判で「死刑になりたい」などと発言。死刑判決に弁護側は「結論ありきの判決。事件の本質に迫っていない」として即日控訴した。だが被告自ら控訴を取り下げ、死刑が確定した。
  判決が出る直前、「週刊現代」に「小林薫被告『シャバに戻ったら2人殺す!』」と題した記事が掲載された。「望みは死刑」「無期懲役などなら再び罪を犯す」と明言した被告の手紙を紹介した記事だ。手紙は刑務所からジャーナリストの吉富有治氏に送り、公開を依頼していたものだった。
  「自分を死刑に」という小林被告の言葉の裏には、何があったのか。
  被告と60通以上の手紙をやりとりした吉冨氏は「3つの意味があった」と分析する。1つは「新たな殺人をしてしまう恐怖心」だ。「小林被告自身に、再犯しないために、自分の存在を消しておかなくてはという気持ちがあった」と言う。
  もうひとつは「命をもって償いたいという気持」。被告は「命で償うしかない」と公判で述べ、面会した吉冨氏にも「(死刑になりたいのは)本気です。それしか償う方法がない」と語っていた。さらに「強がりなところもあって、本心でもないのに、死刑になりたいと言った面もある」。
  一審を担当した弁護士の高野嘉雄氏も「小林被告が死刑になりたい、と言ったのには重層的な意味がある」と話す。
  「彼は社会に絶望感を持ち、生きていてもしょうがないやとやけになっていた。でも自分で死ねるわけでもない。犯罪を起こした自分に対する社会的評価を気にしている面もあり、それがああいう言葉になった」
■彼はまだ語っていない
 では、罪を認め、死刑になりたいという被告を、死刑にしない理屈は、残されるのか。
  吉冨氏は「小林死刑囚は、死刑に価することをしたと思う」と前置きした上で語る。「だけどすぐ死刑にするのは待って、と言いたい。差し入れにも丁寧に礼を述べ、僕の見た彼は普通のあんちゃん。それが何であんな犯罪をしたのか」
  「ちゃんと解き明かさないと、われわれの社会は事件から教訓を学んだことにならない。彼はまだ語っていないことがある。できれば3審までやり、事件について語ってほしい」
  高野氏も「公判の情状鑑定では、犯行の背景にある反社会性人格障害は素質でなく、社会的環境が原因と結論づけられた」と指摘している。
  小学4年で母を亡くした小林被告は、学校でいじめなどのトラブルに巻き込まれ、親身に助言してくれる人や、愛情を注いで支えてくれる人に恵まれなかった。
  さまざまな事件を手掛けてきた高野氏は「量刑を軽くすればいい、というのではなく、重大な罪を犯した者に犯行を見つめ、真摯に反省させる」という姿勢で弁護活動に臨んできたという。
  小林被告も母親を思い出して涙を流し、犯行に至る人生に向き合いつつあったが、「1審では、反省は中途半端に終わった」と語る。
■関係者「反省の芽」摘むな
 昨年6月、小林死刑囚は新たな弁護人を立て、「1審の控訴取り下げは無効」として大阪高裁に控訴審の期日指定を求める申し立てをしている。
  前出の吉冨氏は「根っこの部分で生きたいんだとわかる」と強調する。
  高野氏も同様の見方だ。「気持に揺り戻しが来て、死の恐怖におびえてもいる。高裁で謝罪の念が芽吹いていくのではないか。誰しも、死の恐怖に直面した時、あきらめとともに、反省や謝罪の念がうまれてくる」
  そして「たとえ凶悪な犯罪者でも、人間は変えられるという確信も抱く。
  2001年に児童人を殺害した大阪の池田小殺傷事件の宅間守死刑囚=04年に死刑執行、当時(40)=をはじめ「死刑でいい」などと自ら控訴を取り下げ、死刑が確定した被告が目立つ。
  こうした風潮を踏まえ、吉冨氏はこう問題提起する。「死に対する願望を抱き、市民を巻き添えにするかのように殺人を犯す者には、生きていくのが死刑以上につらいことだろう。生きて償わせる終身刑の選択が、あるべきではないか」
  2008/04/18 up
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「奈良女児誘拐殺害事件 2004/11/17」小林薫公判最終弁論要旨/奈良地裁判決/控訴取り下げ、死刑確定 2015-11-16 
遺族「極刑以上の刑を」奈良女児誘拐殺人事件(小林薫死刑囚)から5年・・・死刑の積極的な意義付け 
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「生き直そうとした小林薫さん(2013/2/21死刑執行)」 中道武美 FORUM90 2013.3.30 
死刑執行、解決されぬ苦しみ - 奈良・女児誘拐殺人9年/両親が手記発表 (2013年11月17日 奈良新聞) 
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