映画「修道士は沈黙する」 ロベルト・アンドー監督来日特別試写会ティーチイン開催
2018年1月29日19時10分 記者 : 坂本直子
日本で3月に公開される映画「修道士は沈黙する」のロベルト・アンドー監督が来日し、イタリア文化会館(東京都千代田区)で27日、特別試写会ティーチイン(共催:ミモザフィルム、同会館)が行われた。
本作は、厳格な修道士を主人公に、天才エコノミストの死をめぐり繰り広げられる異色ミステリー。原題の「Le confessioni」は、カトリック教会の罪の赦(ゆる)しの儀礼である「告解」を意味する。アンドー監督は、前作「ローマに消えた男」で国内外の数多くの賞を受賞しており、ティーチインでは早稲田大学文学学術院教授の小沼純一氏と対談した。
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小沼:映画では、鳥や犬がシンボリックなものとして登場し、とてもうまく使われていることに感心しました。
アンドー:主人公の修道士サルスが所属するカルトジオ会は、極めて厳格な戒律を特徴とし、修道士たちは世俗から離れた中で、神と他者のために沈黙と祈りをささげて生きています。そんな修道院に属するサルスが鳥の鳴き声に耳を澄ますところは、清貧を説き、小鳥に説教したアシジの聖フランシスコを、またどう猛な犬を手なずけるところは、荒野でライオンのとげを抜いた聖ヒエロニムスを思い起こすかもしれません。
小沼:この映画では、自然の音が重要だと思いますが、音楽の使い方も非常に深く考えらえていると思いました。BGMには、イタリア映画音楽の第一人者であるニコラ・ピオヴァーニが担当され、さらにシューベルトの曲が引用されていることが印象的でした。
アンドー:ピオヴァーニの書いた曲は、サスペンスの要素もあり、それと同時にこのサミットの場に踏み込んだ、ちょっと宙に浮いたようなサルスの精神性をも表していて、とても気に入っています。シューベルトに関しては、天才エコノミストで国際通貨基金(IMF)理事長であるロシェの遺体が運ばれるときに、歌曲「冬の旅」24番の「辻音楽師」を使い、今の政治の状態をある意味表しています。シューベルトが生きた19世紀初頭は、決して明るい時代ではありませんでした。「冬の旅」はそんな欧州の状態を表しており、今も冬の旅をしているようなものであることを表現したかったのです。
小沼:この映画は欧州の政治・経済をテーマにした社会派ミステリーである半面、葬儀の場面では、修道士がふといなくなり、その後に鳥が現れるなど、非科学的な謎を残す作品ですね。
アンドー:前作もそうですが、政治や権力の世界を事実関係で描くのではなくて、それに関わっている人たち、どういう人間が関わっているかを描きたかった。前作は、明るいフィナーレにはなっていませんが、自分自身が政治というものをフィクションとして捉えているから、あのようなエンディングになっているわけです。しかし、今回描いた人物は、今まで取り上げてきた人物とまったく違うタイプです。主人公について、われわれは何も知らない、何も知らされないまま、消えていく。彼の経歴については、かつて数学者であったことだけが明かされるが、その他のことは何も分からない。葬儀の場で消え、その後に鳥が現れます。それに関しても、あれは「奇跡」なのかと聞かれることもあるのですが、主人公は、奇跡を起こす人物ではなく、人間であると私は考えています。
小沼:この映画の中では、個ということが重要視されています。修道士が「あなた自身で考えてください」と言うセリフが、何度か出てきて欧州的だなと思いました。また、告解が複数形になっているのも興味深いです。
アンドー:告解が複数形になっているのは、サルスに直接告解をしたロシェだけでなく、他の人たちも告解をするという意味が込められているからです。20世紀は大衆の行動が目立った世紀でしたが、この映画は、内面的なものを見ていて、それは個から生まれるものであってほしいのです。この映画は、実際に主要8カ国(G8)財務相会合が行われた場所で撮っています。それで知ったのですが、そのリゾートホテルは警備のため、その周辺が大きな鉄の壁で覆われていました。そのため、ホテルは外の世界と完全に遮断され、参加者は孤独と向き合わざるを得ないという状態にありました。
小沼:しかし映画では、孤独と向き合う中でも、外部という存在は確実に存在しているのだということを、女性の登場や、パソコンが映し出す映像によって示していたように思います。それとG8財務相会合の決議の鍵を握る数式。その数式は言葉とは違うものなのでしょうか。だから、告解で聞きながらも表に出せたのでしょうか。
アンドー:数式に関してはロシェが、何の意味もないことを告白しているわけです。ロシェは、自分が告解することで赦しを得たいわけですが、修道士は、彼が本当は後悔していないことを知り、赦しを与えませんでした。そして修道士は、その数式を使ってパワーゲームに挑みました。数式というのは、ファーストシーンに出てくる宙に浮いている大道芸人と同じで、そのトリックがどこにあるのか見えない。そういう意味では数式は空っぽな抜け殻みたいなものなんです。ロシェは、それが意味がないと言いつつも、大臣たちはそれを使えばお金が動くことを信じるだろうと伝える。それは今の世界がどこに向かっているのかということと一緒だと思います。それが数式の意味なんです。
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対談の後、会場からの質疑応答にも応じた。カトリック信徒の男性は本作を見て「現代社会はあまりにも言葉が氾濫しすぎており、深い沈黙の底から自然と湧き出る言葉こそ真実の言葉ではないかと感じた」などと話した。
各国の一流俳優が豪華共演することでも話題の同作は、3月17日(土)から、Bunkamura ル・シネマ(東京)ほか、愛知、大阪、兵庫など全国の劇場で全国順次ロードショー。
■ 映画「修道士は沈黙する」公式サイト
◎上記事は[Christian Today]からの転載・引用です
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修道士は沈黙する
3/17(土)よりロードショー
ドイツの高級リゾートホテルを舞台に繰り広げられる社会派ミステリー
ドイツ、ハイリゲンダムの空港に、イタリア人修道士、ロベルト・サルスが降り立つ。彼は迎えの車に乗り、ある国際的な会合が開かれる場に向かう──。バルト海に面したリゾート地の高級ホテルで開かれる予定のG8の財務相会議。そこでは世界市場に多大な影響を与える再編成の決定がくだされようとしている。それは貧富の差を残酷なまでに拡大し、特に発展途上国の経済に大きな打撃を与えかねないものだ。会議の前夜、天才的なエコノミストとして知られる国際通貨基金(IMF)のダニエル・ロシェ専務理事は、8ヵ国の財務大臣と、ロックスター、絵本作家、修道士の異色な3人のゲストを招待して自身の誕生日を祝う夕食会を催す。会食後、サルスはロシェから告解がしたいと告げられる。翌朝、ビニール袋をかぶったロシェの死体が発見される。自殺か、他殺か?殺人の容疑者として真っ先に浮上したサルスは、戒律に従って沈黙を続ける。間近に迫るマスコミ向けの記者会見。ロシェの告解の内容をめぐり、権力者たちのパワーゲームに巻き込まれたサルスは自らの思いを語り始める。果たして謎の死の真相は?そしてロシェがサルスに託したものとは──。
■イタリアの鬼才ロベルト・アンドー監督×豪華俳優たちの競演
イタリアの政界を背景にした風刺劇『ローマに消えた男』(13)で、権力の寓話を軽やかなユーモアを交えて描いたロベルト・アンドー監督。フェデリコ・フェリーニやフランチェスコ・ロージなど名だたる映画監督の助手を務めてきた彼が新作の題材に選んだのは、"物質主義vs精神主義"の構図を核に捉えた知的でスタイリッシュな異色ミステリーだ。キャストには国際的な俳優が顔をそろえた。主役の修道士サルスには、『グレート・ビューティー/追憶のローマ』(13)のトニ・セルヴィッロ。物語のキーパーソンとなるロシェ理事訳には、『八日目』(96)でカンヌ国際映画祭の男優賞に輝いたフランスの名優、ダニエル・オートゥイユ。『ワンダーウーマン』(17)のコニー・ニールセン、『潜水服は蝶の夢を見る』(07)のマリ=ジョゼ・クローズ、『ソウル・キッチン』(11)のモーリッツ・ブライプトロイ、『神々と男たち』(11)のランベール・ウィルソンら、国際色豊かな顔ぶれによる競演も見所。
■監督・原案・脚本ロベルト・アンドー キャストトニ・セルヴィッロ、ダニエル・オートゥイユ、コニー・ニールセン、モーリッツ・ブライプトロイ、マリ=ジョゼ・クローズ 作品情報2016年/イタリア・フランス/108分受賞
ノミネートイタリア映画祭2017出品作品
ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞2017主演男優賞・脚本賞・プロデューサー賞ノミネート
イタリア映画記者協会賞2016 最優秀撮影賞受賞配給ミモザフィルムズ
◎上記事は[Bunkamura]からの転載・引用です
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