オウム真理教事件の再来の如きイスラム国「戦闘員志願」事件…「厭世観」が背景に

2014-10-22 | 社会

 産経ニュース 2014.10.22 11:00更新
【衝撃事件の核心】「日本にいても自殺するだけだから」オウム再来の如きイスラム国「戦闘員志願」事件…高学歴「厭世観」が背景に
 イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の戦闘員に加わろうと、北海道大学の男子学生(26)=休学中=がシリア渡航を企てた事件は、就職活動の失敗などで深めた厭世(えんせい)観が背景にあるとの見方が強まっている。北大生の周囲には複数の支援者が集まり、日本人戦闘員が誕生する可能性は十分にあった。捜査関係者からは、同じような厭世観から多くの高学歴者が入信して前代未聞の無差別テロを引き起こしたオウム真理教事件の再来を危惧する声も出ている。
「どうせ1、2年後に自殺するから…」
 「シリアに渡ってイスラム国に加わり、戦闘員として働こうと思った」
 今月6日、刑法の私戦予備・陰謀の疑いで関係先を家宅捜索された北大生は、警視庁公安部の任意の事情聴取に意図を明かした。
 北大生はその理由について、「就職活動がうまくいかなかったから」と説明。知人らには「どうせ1、2年後に自殺するから、シリアで死んでも変わらない」「イスラムに入信したがそれほど関心はない」などと話していたといい、背景にあったのは宗教や政治的な信念ではなく、現状への不満が無謀な行動の引き金になったとの見方が有力だ。
 北大生は公安部の任意聴取に「戦闘員になって戦うことになれば人を殺すつもりだ」とも話していた。
 他国へ渡り、私的に戦闘を仕掛けることなどを禁じた同容疑の適用は極めて異例で、事件の特異さを象徴する。
 北大生は家宅捜索翌日の7日、日本を出国してイスラム国へ向かう予定だった。そのきっかけは、一枚の張り紙だった。
「勤務地 シリア」に「何これ、面白そう」
 「勤務地 シリア」「詳細 店番まで」。JR秋葉原駅にほど近い古書店。風変わりな“求人広告”が出現したのは、今年春頃だった。広告を張り出したとされるのは書店関係者の30代の男性。元東大生で実家は資産家。周囲からは「大司教」の愛称で呼ばれ、ネット上でも知られたリーダー的存在だったという。
 この広告を見たのが上京中の北大生だ。「何これ、面白そう」。就職活動に失敗し、休学中だった北大生は、シリアで過激組織に「就職する」という“非日常”に強く引きつけられたようだ。
 北大生が書店関係者から紹介されたのが、元大学教授で、イスラム法学が専門の中田考氏(54)だ。書店関係者と中田氏は、短文投稿サイト「ツイッター」などで知り合ったとされる。中田氏は「求人」そのものには関与していなかったとみられるが、北大生の求めに応じて渡航の支援に乗り出す。
 中田氏は、イスラム法学が専門で、自身もイスラム教徒。本人のホームページなどによると、昭和58年にイスラム教に入信し、カイロ大で博士号を取得後、同志社大でイスラム学の教授を務めた。
 今年6月にイスラム国が、指導者を「カリフ(預言者ムハンマドの後継者)」とするカリフ制復活を唱える前からカリフ制復活の可能性に言及していた。
 過去、複数回にわたりイスラム国支配地域を訪問し、中東専門サイト上で報告。イスラム国の幹部の一人を「好青年」と持ち上げ、「彼のような人材がいる限りイスラム国の未来は決して暗くはない」と評価し、「カリフ制再興を目指すイスラム国は、実はどうしてなかなか柔軟で良識的なのだ」と好意的に記していた。
 1年前に中田氏と会食した通訳の30代女性は「イスラム原理主義勢力タリバンとの太いパイプを豪語するなどイスラムの世界に詳しく、一部のイスラム教信奉者の間では教祖のような存在だった」と語る。
 中田氏は、イスラム教に関心のある学生をトルコの大学に紹介したり、イスラム教への入信をためらう関係者の説得を試みたりしていたという。
「人殺しは日本では悪、外国では正義」
 中田氏の紹介で、北大生の渡航に同行して取材する予定だったのが、ジャーナリストの常岡浩介氏(45)だ。北大生について、常岡氏は「ひげを生やした短髪のイケメンで、応対もしっかりしていた。外見上何かに悩んでいる様子は見えなかった」と語る。「二度と日本に戻ることはない。行かなくても自殺するので同じこと」と話す内面とのギャップに驚いたという。
 常岡氏はこれまで、中東地域で戦闘員として志願してきた日本人や欧米人を多数取材したといい、「彼らに共通するのは該当地域への強い思い入れ」だったという。だが、「イスラムへの関心はそれほどない」と語る北大生には、異質さを感じざるを得なかった。
 常岡氏が「戦闘員になると、人を殺すことになるかもしれないが」と尋ねると、「それこそ自分が望むもの。日本では人殺しは悪として取り扱われるが、外国では正義。そういう違う世界に自己を置いてみたかった」と話したという。
「イスラム国司令官はあなたを歓迎する」
 「『リアル』な現実社会と、ソーシャルネットワークなどの『バーチャル』な世界が交わりながら、構想が具体化していった」
 捜査関係者は、事件の経緯をこう読み解く。休学中の北大生、「大司教」と呼ばれる男性、イスラム法学の権威の元教授、フリージャーナリスト-。関わった人物は多種多様で一見、交流が芽生えるようには見えない。
 だが、捜査関係者は「住む世界が違う人々が、『イスラム国』や『戦闘員』といったキーワードを通して目的を一致させ、実現へ動き出した」と指摘する。
 海外渡航歴がなかった北大生は5月に旅券を取得。7月には北海道から上京し、書店関係者が管理人を務める東京都杉並区内のシェアハウスで知人らと同居。イスラム教徒となり、アラビア語も学び始めた。
 北大生を含め、関係者はイスラム国渡航への認識を共有していたとみられる。「戦闘員として加われるように、イスラム国の司令官に連絡した。あなたを歓迎すると回答された」。北大生は中田氏からこう説明されたと証言している。
「イスラム国」のリクルーター否定
 「イスラム国に渡り、戦闘員になる」。北大生がイスラム教徒となる儀式の場で、渡航計画に関わった関係者らを前に、中田氏がこう宣言したこともあったという。「中田氏の人脈や知識があったからこそ計画は『本物』になり得た」。ある捜査関係者は指摘する。
 中田氏は8日、ネット上で今回の事件の見解として、「イスラム国のメンバーでもなく、義勇兵のリクルートを行う立場にもない」と否定。「戦闘員である前に、移民として日本人が一人、イスラム国に行くことをイスラム国幹部に伝えた」としている。
 北大生は8月、千葉県の20代の男性らと渡航を計画したが、旅券紛失や家族の反対などで実現しなかった。今回は渡航を察知した公安部が急遽、強制捜査に乗り出して阻止した。公安部は北大生らの旅券を差し押さえ、スマートフォンやパソコンを解析。関係先からはイスラム教の書籍や、世界の危険地帯に関する本、爆発物の取り扱いに触れた本なども押収されている。
「過小評価」に警鐘、五輪に向け高まる警戒感
 「冗談とも本気ともつかない面があった」。捜査関係者は、渡航計画の発端に「面白半分」の意図もあったとみる。ただ、地下鉄サリン事件など前代未聞の無差別テロに及んだオウム真理教の例を引き合いに「過小評価された高学歴のグループが、テロを実行する頭脳、手段を身につけることがある」と、その潜在的な危険性の高さを強調する。
 2020年東京五輪に向け、捜査当局は「テロ予備軍のエスカレート」に神経をとがらせる。テロ組織が介在するケースのほか、国外の過激思想に心酔し、テロを引き起こす「ホームグロウン・テロ」や単独でテロに及ぶ「ローンウルフ」など脅威はさまざまだ。
 北大生は戦闘員に加わる意図が明確で、出国の動きも把握しやすかったが、観光などを装う場合、目的を察知するのは難しい。その後の動向を追うのも、より困難となる。
 国際テロに詳しい公共政策調査会の板橋功氏は、イスラム国を過激組織を超えた「規律正しい軍隊組織」と分析。小銃や爆弾の取り扱いだけでなく、戦車操縦やミサイル発射など、さまざまな戦闘技術にたけていると指摘する。
 「日本人が戦闘員となり戦闘技術や過激思想を学び帰国すれば、極めて危険な事態となる」。捜査関係者は警鐘を鳴らしている。
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