中日新聞 2008年1月23日
清水市(現静岡市清水区)で1966年、みそ製造会社の専務一家4人が殺害された「袴田事件」で、再審請求中の元プロボクサー袴田巌死刑囚(71)に対し、一審・静岡地裁で主任裁判官として死刑判決を起案した熊本典道氏(70)=福岡市=が再審活動を支援するため、弁護士資格の再登録を申請している。近く結論が出る見込み。熊本氏は袴田死刑囚は無罪との心証を明らかにしており「申請が認められれば、一刻も早く身柄を釈放するために働きたい」と話している。
元裁判官が、かつて裁判を担当した死刑囚の再審活動に弁護士として加わったのは、財田川事件で死刑確定後に再審無罪となった故谷口繁義さんの弁護人の故矢野伊吉氏の例があるが、極めて異例だ。
熊本氏によると、昨年末、第2東京弁護士会に入会申請と弁護士登録請求書を提出した。同弁護士会が会員弁護士らでつくる資格審査会で請求を認めれば、日本弁護士連合会に上申し、最終的な登録の可否が決まる。熊本氏は健康面に不安を抱えており、こうした点も審査の対象になる。
熊本氏は袴田事件の一審に左陪席として参加。判決の翌69年に裁判官を辞め、東京や鹿児島で弁護士として活動したが、90年に登録を抹消した。昨年3月、「自白の信用性に疑問を持ち、裁判長らとの合議で無罪を主張したが、退けられた」などと記者会見で告白。6月には再審開始を求める上申書を最高裁に提出した。
弁護士法には、熊本氏のように自ら廃業した弁護士の再登録について制限はなく、申請から3カ月以内をめどに弁護士会が結論を出すよう求めている。
熊本氏は昨年7月以降に計3回、東京拘置所を訪れ、袴田死刑囚との面会を求めているが、いずれも拘置所に拒否されている。面会は原則として弁護人や親族らに限られるためだが、再登録が認められると、静岡地裁で死刑判決を下した68年以来の袴田死刑囚との“再会”も実現しそうだ。
ただ一方で、再審支援者の中には、健康面の問題などから、再審活動への参加に否定的な意見もある。弁護団の西嶋勝彦弁護団長は「協力はありがたいが、死刑判決を出した元裁判官が再審弁護団に加わるというのは適切でないかもしれない。正式に申し出があった時点で検討する」としている。