まやかしの再雇用 いつわりの年金/公的年金は、事実上破綻しているいつわりの制度

2012-01-15 | 政治

全国民必読 まやかしの再雇用 いつわりの年金 「仕事はない、年金は大幅減額」 60過ぎたら、この世は地獄
現代ビジネス2011年10月11日(火)週刊現代
 ハッピーリタイアメント、定年後は悠々自適など、夢のまた夢。地獄が待っていた。当てにしていた年金は先延ばしにされたうえ、大幅減額。代わりに用意したという職場では邪魔者扱い。この国はおかしい。
■平均年収200万円
 「入社以来、事務部門に勤務していました。退職前は課長職になり、部下も十数人従え、年収は1200万円あった。定年後、再雇用を希望すると、『幸い、北海道の営業所で販売課長の職が残っていますよ』と言われたので、年収は300万円台に下がるけれど、2~3年は働けるだろうとホッとしていたのですが・・・・・・。
  いざ赴任して与えられた仕事は、カバン片手に中小零細企業を回って、新規顧客を開拓する営業職。部下はひとりもいない代わりに、販売課長という肩書を持った再雇用者がすでに4人いて、誰もが毎日必死に走り回っている。営業経験がなかった私は、まったく契約が取れぬまま精神的に参ってしまい、3ヵ月で辞めて東京に戻りました」(大手事務機器メーカー・61歳)
  国民年金はすでに支給開始年齢が順次上がっているが、2013年度から厚生年金の報酬比例部分も現行の60歳から3年ごとに1歳ずつ上げられ(男性の場合)、最終的に65歳が年金支給開始年齢となる。
  だが、大多数の企業の定年は60歳。企業年金が整備されていない会社も多く、無収入・無年金生活が現実のものとして迫ってきた。
  こうした事態を避けるため、65歳までの雇用を確保しようという趣旨で生まれたのが「継続雇用制度」のひとつである「再雇用制度」。政府が'04年に高年齢者雇用安定法を改正してつくった制度で、定年退職者を企業が一度退職させて再び雇用するというものだ。
 「政府は、定年の引き上げか定年の廃止、あるいは継続雇用制度の導入のいずれかの措置をとることを企業に求めました。この中から企業はどれを選択したか。'10年6月1日現在、社員30人以上の規模の会社で、定年を廃止したのは2.8%、定年を引き上げたのは13.9%、対していわゆる再雇用制度を導入した会社は83.3%と、圧倒的に多かったんです」(『よくわかる継続雇用制度導入の実務と手引き』の著書がある、特定社会保険労務士の川端重夫氏)
  現在の日本では、60歳を過ぎて新たな再就職先を探そうにも、高齢がネックになってやりたい仕事はなかなか見つからない。ましてコンビニでレジ打ちをするよりは、それまでお世話になった会社に残ったほうが、働きやすいはず。だから、企業の再雇用制度導入には大賛成と思う人は多いかもしれない。
  しかし、冒頭の告白にもあるように、再雇用制度は多くの〝不幸〟を孕んでいる。
  まず第一に、給与が大幅に下がることを覚悟しなければならない。
  一般に、企業は再雇用者の賃金を定年前の給与の3分の1程度に抑えている。平均的な再雇用者の年収は200万円台で、300万円台だったり、賞与が払われるなら恵まれているほうだ。中にはアルバイト同然の時給制になっている企業もある。
「うちの再雇用システムは契約社員として、1年ごとの更新制をとっています。給与は時給にして900円弱。勤務形態は週4日、1日8時間労働なので、1ヵ月の給与は約14万円。少ないとは思いますが、毎日、ハローワークで職探しをするよりはましだと割り切って働いています」(元大手通信会社管理職・61歳)
  時給制の場合、最低賃金(東京都なら837円)以上なら、再雇用者はその条件を呑まざるを得ない。彼らの中には、年収が定年前の5分の1になったというケースもある。すなわち、会社側は戦力としてはほとんど期待していないということの表れだ。しかも、65歳で再雇用が終了した後は、何の保障もないし、65歳から改めて仕事を探すこともきわめて難しい。
 ■プライドはズタズタに
  第二に、職務内容が現役時代とすっかり変わってしまうケースが多い。企業は必ずしも労働者の希望に沿った職種や労働条件を提供しなくとも良いとされているからだ。
 「定年になったとき、子どもの教育費と住宅ローンにおカネがかかり、まだ働かざるを得ない状況でした。年収が3分の1に下がる条件も呑んで再雇用制度を利用したんですが、いざ働きだしたら戸惑うことばかり。それまでやっていた仕事はすべて後輩たちに引き継がれ、部長待遇の肩書もなくなり、社外秘の資料は見ることさえ許されない。仕事といえば、せいぜい資料整理やお茶出し。『これお願いします』と後輩たちが頼んでくるのはそれ以外の雑用だけです」(大手電機メーカー・62歳)
  清掃会社や警備会社など再雇用されても仕事がほぼ変わらない職種もあるが、ほとんどは現役時代と無関係に決められる。中には再雇用者の仕事を、抽選でランダムに決める企業もあるというのだ。
  第三の不幸には、再雇用されたはいいものの、仕事が回ってこなかったり、企業に都合よく使われてしまうことが挙げられる。
 「再雇用者は、月30万円くらいもらえて、それまでいた会社に65歳まで残れるのはよいのですが、座席だけ決まっていて仕事がないというケースが非常に多いんです。たまに回ってくる仕事といえば、支店のトラブル処理。そのせいか、65歳まで残る人はほとんどいませんね。結局、待遇がよい薬の原材料を仕入れる商社に、コネで再就職する人が多いですよ」(元医薬品メーカー管理職・64歳)
  鉄鋼会社に勤める63歳男性の場合は、再雇用され、逆に仕事が増えたが・・・・・・。
 「20年近く勤め上げた後、年収150万円の条件で再雇用してもらったのですが、大震災で鉄鋼需要が激増したとき、きつい仕事、危ない仕事は全部、『ベテランの人じゃないとダメだから』と再雇用組に回ってきたんです。おかげで、ピンピンしていた仲間も過労で体を壊し、次々と会社を辞めていった。割に合わないので、私もとっとと辞めたい」
  かくして、第四に、再雇用者たちはプライドを傷つけられる。
 「かつての部下が直属の上司になってしまったのは、どうにも困った。タクシーで出掛けるときは、私が運転手の隣に座り、元部下が後ろの席に座る。そして降りるとき、『料金を払っておいて』と言われたりする。そのうえ『おいちょっと、~クン』と呼ばれるのは、仕方ないとわかってはいても、怒りと屈辱で精神的に病んでしまいました」(元食品メーカー勤務・65歳)
 勿論、再雇用者への待遇が十分に整備されている企業もあるが、総じて恵まれているとは言いがたい実情が見えてくる。
 ■再雇用者は「厄介者」
  だが、待遇は悪くても仕事があるだけまだマシかもしれない。実のところ、再雇用制度を導入している企業で「希望する者全員を雇用」しているのは全体の31.5%にすぎない('10年度、産労総合研究所の調査による)。残りの企業は「本人が希望し、会社が必要と認めた者」を選んで雇用している。つまり、企業は再雇用する人の基準を独自に決めることができ、それに適合しない者は雇用しなくともよいのである。
 「会社にしてみれば、必要な人材だけを継続的に雇用して、そうでない人には定年で辞めてもらいたいというのがホンネです。だから一流企業の中にも、その人は再雇用にふさわしくないと判断するために、定年前にわざと人事考課を下げておくところもある。『会社のために自主的に身を引いてください』とこっそり引導を渡しているんです」(大手製造業の人事担当者)
  多くの企業が定年制の廃止などではなく、再雇用制度を導入した、〝本当の理由〟を、人事コンサルタントの荒川大氏が説明する。
 「定年を65歳以上に延長したり、定年制を廃止してしまうと、年功序列が維持され給料が上がり続ける日本企業では、人件費負担が大きくなりすぎてしまうからです。いったん定年退職になった人間を再雇用すれば、全く新たな雇用契約になるため、賃金は新入社員並みに抑えられるでしょう。しかしそれ以上に、会社にとっては、高齢者よりも、会社の将来を担う若い社員を雇ったほうがいい」
  ほとんどの企業が再雇用制度を進んで導入したわけではなかった現実が、どこまでも横たわっている。要するに、会社にとって再雇用者は「厄介者」なのだ。
  前出の川端氏はそれを踏まえたうえで、再雇用される側も意識改革をする必要性を強調する。
 「定年後も会社に残りたいのなら、今の自分が会社に何を提供できるかをはっきり示す必要があります。ある企業の元部長は再雇用を希望する際の面接で『あなたには何ができるか』と聞かれ、『私は一日に何百枚もハンコを押してきました』と真顔で答えたそうです。こんな人、再雇用する側はいりませんよね。退職すれば肩書はなくなるのですから、それでも周りから評価されるだけのスキルやウリを何かひとつでも持っていないと、再雇用されても長続きしない」
  そうしたスキルがない場合、基本的に他人が嫌う仕事をやらされるのは当然だと、覚悟したほうがいいだろう。会社は、「お茶汲みさせやがって」と不満タラタラの老人より、若い女性をアルバイトに雇ったほうが、コスト的にもよほどいいと考えてもいる。
 ■「対策はありません」
  金銭面、環境面での不平不満を訴える再雇用者たちと、制度の拡充にあまり乗り気ではない企業との溝はあまりに深い。無収入・無年金時代のセーフティネットとなるはずの再雇用制度は、どうしてこのような機能不全に陥ったのか?
  社会保険労務士の真山勝義氏が語る。
「そもそも国が年金政策に失敗して、年金支給開始年齢を遅らせざるを得なくなったツケを、再雇用制度という形で企業に押しつけてしまったことが問題なんです。中小企業には希望者全員を65歳まで雇う体力はありませんし、そもそもこの制度を知らない会社もあります。再雇用制度を知っていながら制度化していない会社もあって、それは法律違反になるはずですが、だからといって罰則があるわけでもない」
  要するに、再雇用制度は整備されていない穴だらけの制度なのである。
  それをつくった国はどう考えているのか。本誌が厚生労働省の高齢者雇用対策課に対して、再雇用制度が抱える問題を改善する施策を取ろうとしているかを問うたところ、
 「各企業からは年に1回、再雇用についての報告書を提出してもらっていますが、個々の実態、労働条件の不満などについては、記述するところがないため、細かい実態は把握していません。今すぐに何か対策を、というのもありません」
  との答えが返ってきた。再雇用者の労働条件についてはそもそも俎上に載せようとすらしていないのだ。
  他方、厚労省は今月12日、年金の支給開始年齢引き上げに伴って、65歳までの再雇用を企業に義務付ける制度をもっと厳格に適用する案を議論し始めた。再雇用の制度充実はつねに企業任せのままである。定年後の天下り先に事欠かない官僚には、庶民が再雇用先で直面している深刻な問題など、想像の外なのだろう。
  本誌9月24日・10月1日合併号でも詳述したように、政府は数年前から、年金支給開始年齢のさらなる引き上げと大幅減額を模索している。将来的に、支給開始年齢が65歳よりもっと引き上げられると、再雇用という「地獄の職場」はますます広がってゆく。70歳近くになって、若い上司に怒鳴られながらきつい下請け仕事をする自分を、あなたは想像できるだろうか。
 「日本の人口構成を考えたら、年金支給開始年齢が67~70歳になっても、少しもおかしくありませんし、法改正により『完全65歳定年制』が義務づけられる可能性もあるでしょう。国がもはや年金を支払えない以上、労働者はそれほどきつくない仕事でそこそこ賃金をもらえる程度で折れるべきだし、企業は低い賃金でもいいから再雇用する。ここ数年、『再雇用拒否』に関する民事訴訟が急激に増えていますが、企業と雇用される側が揉めないためには、歩み寄りと我慢が必要なんです」(労働問題に詳しい弁護士の藤田進太郎氏)
  支給開始年齢をなし崩し的に引き上げざるを得ない公的年金は、事実上破綻しているいつわりの制度だ。一方企業は、官僚に強制されて、いやいや付け焼き刃で、まやかしの再雇用制度をつくった。
  現実を知らない官僚たちの「制度いじり」に苦しめられるのは、いつも市井のサラリーマンなのである。
 「週刊現代」2011年10月15日号より


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